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第三章 道のり
第12話 打撃力と守備力
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「何見てんの?」
「プロの選手がどうやって盗塁阻止してるかだよ。何度見てもすげーんだよ。申し分ないスタート決めて、ストライクのボールが来てんのにキャッチしてセカンドに送球してアウトにしてんだよ。なんでこんなプレイできんだろーなー、見惚れちまうよ」
「そりゃー、プロだもん実力が違うよ」
俺が動画を見ていると、バッターボックスに向かう前の中村が話しかけてきた。
「今更見て間に合うのかー?」
翔真は揶揄するような感じで言ってくる。
「貴洋君、取られた分は必ず取り返すから、ゆっくり対策練っていていいよ」
「お、おー」
珍しいな、中村が熱いセリフ吐いてくるなんて。翔真も同じことを思ったのだろう。驚いたような表情を向けてきた。
「君が今日の試合迎えるまでどれだけの事をして、どれだけ練習を重ね迎えたか知っている。君一人でこの試合の勝敗の責任を背負う必要なんてないと思う。僕たち全員で耶麻高校ナインだろ」
「いや、まあそうだけど」
「中村ー、人のことより自分のこと気にしろよ。源工業は4人のピッチャーを擁している。対戦は一度きりになるかもしれないから、ファーストストライクからどんどん振っていけよ」
中村は翔真の言葉にグッドのポーズをしてバッターボックスに向かっていった。
俺が祐希を交えヨッシーと何か打開策はないか、ミーティングを始めようと思ったそのときだった。
快音が響き渡り、球場中からどっと歓声が湧き上がった。
俺は慌ててベンチを飛び出す。既にナインはベンチから身を乗り出し、大きく天に向かって拳を突き上げていた。
グラウンドを見ると中村が拳を突き上げセカンドベースを悠々と回っているところだった。
まさか!?
「中村、ホームラン打ったの?」
「おーよ!!すげーよ、マジ凄かったよ!!バックスクリーン直撃の、ちょー特大アーチだったんだぜ!!」
興奮を抑えられない様子で語ってくると、翔真は飛び上がりながら俺に抱きついてきた。
マジか!?
「うおーーっ!!お前、何してくれてんじゃーー!メチャクチャかっこいいじゃねーかー!!」
信じられない。試合の流れは完全に向こうのムードだった。
ランナーはイケイケで走ってきていて、着実に得点を重ねこのまま押し切られてしまうんじゃないかという雰囲気だった。
だから俺は焦っていた。何とかこの流れを止めたいと必死になっていた。
あの重い雰囲気の中、ホームラン打ったってのか?
何なんだお前は?マジすげー、マジ最高だよ!
「コラー、テメーは物凄い事したんだぞー、スカしてんじゃねーぞー、この唐変木ーー!」
「気取ってんじゃねぇーぞーー、このカッコつけー」
「中村せんぱーい、サイコー、愛してますよー」
仲間の手荒い歓迎を受けながら戻ってきた中村は、俺に向かってグッドのポーズをしながらこう言ってきた。
「ストライクの判定に厳しいってことは、俺達バッターからすると有利ってことなんだぜ」
条件は同じ、得点を許しても俺が打つから、心配するなとでも言いたいのか?
「テメーはこのヤロー、何かっこいい事言ってんだよ!このヤロー、このヤロー」
俺は中村を揉みくちゃにしてやった。チームの悪い流れをひっくり返す、4番の会心の一撃だった。
本当にウチの4番は最高の4番だよ。
くっそー、俺も負けていられない。
中村のホームランに興奮冷めやらぬままのその時だった。また快音が響き渡ったので俺はグラウンドに目を向ける。
続く良太の打球は右中間を転々と転がりフェンスまで到達していた。
「とぅりゃー!耶麻校打線爆発じゃー!」
2塁上で良太は雄叫びを上げる。
「アレは調子乗るから放って、おこー」
「そうだなアレはめんどいから触れないで、おこー」
「アレに触れるとアホが感染るらしいぜ」
「コラー、キャプテン様をアレ扱いすんなー、この罰当たりどもー!」
続く隼人はショートに打球を飛ばしたが飛んだコースがよく、ショートは無理な体勢での捕球となってのファーストへの送球となった。
当然足の速い隼人をアウトにする事はできなかった。
良太は送球を見てから3塁に進塁する。
バッターが足の速い選手だと情報を入れてなかったのだろうか?ああいう場面では無理に送球しないほうが良かっただろう。
送球しなければ良太が3塁に進塁することはなかったはずだ。それに送球が逸れていたらどうしたのだろうか?
つけ入る隙はありそうだなと感じさせるプレイだった。
「とぅりゃー!耶麻校打線爆発じゃー!」
「あっ!アホが感染った」
「アホの真似してんじゃねーよ」
「隼ちゃーん、正気を取り戻してくれー」
「正気だわー!オメー等はテンション上がってくるといっつもそうなるな!もうずっと闇落ちしてろ!」
また始まったよ。
よーし、やるぞー、皆んなが作り上げてくれたいい流れだ。このチャンスを絶対活かしてやる。中村の言う通りだ。止められないものは止められない。ならやれることをやるのみだ。
打つしかない!
「さんしーーん」
打てもしなかった、、。
今日の俺って情けない。しかし続く西口はきっちりスクイズを決め3対2としてくれた。
「よーし、追い上げムードのいい雰囲気だー、打たせていくよー」
俺はキャッチャーのポジションにつくと大声を上げる。
やはりここは切り替え、切り替えだ。止められないものは止められない。なら、ランナーを出さないようにしよう。
今日はまだヒットは打たれていない。打ち取るんじゃなくて、打たせて取るんだ。皆んなを信じてもう少し甘めで勝負してみよう。
『カキーーン』
そう切り替えた瞬間だった、痛烈な打球が三遊間を襲った、、。
やはり俺の考えは間違っていたか?と思ったが、サードの康ちゃんが超反応を見せボールに飛びついた。
キャッチはできなかったが弾いたボールをショートの翔真がバックアップしファースト送球、アウトとなった。
「うおぉー、お前等、ナイスプレイ!」
この回は源工業の攻撃は1番バッターからだった。一番足に警戒しなくてはいけないバッターだった。
イレギュラーにもすぐ対応し、送球ミスする事なく俊足のバッターをアウトにした事に流石だと思った。
ウチは向こうのチームとは守備力が違う。きっとそこに活路があるはずだ。
「オメー等やってくれんじゃねーか!サイコーだったぞー」
「藤井先輩、フォローサンキューっス」
「おー、アホ良太には真似できない早技だったろ!」
「はい、寝坊助良ちゃんには絶対真似できない早技でした」
「コラー、お前等、絶対聞こえるように悪口言ってんだろ!真面目にやれー」
この回はランナーを出す事なく三者凡退に抑えることが出来た。しかし甘めのボールを増やしたためか結構強い打球が飛ぶようになっていた。
まだ序盤なので晃ちゃんのボールに勢いがあるため野手の正面にいっているが、終盤になるにつれ、疲れが出てくると野手の間を抜けるような打球が増えてくるだろう。
この試合の勝利にはやはりどうしても盗塁を封じる手立てが必要となるだろう。
それは避けられそうにない。
やはり俺の出来次第になってくるかもしれない。皆んなに頼ってばかりではいられない。必ず相手の勢いを俺が止めてやる。
負けてたまるか!
「プロの選手がどうやって盗塁阻止してるかだよ。何度見てもすげーんだよ。申し分ないスタート決めて、ストライクのボールが来てんのにキャッチしてセカンドに送球してアウトにしてんだよ。なんでこんなプレイできんだろーなー、見惚れちまうよ」
「そりゃー、プロだもん実力が違うよ」
俺が動画を見ていると、バッターボックスに向かう前の中村が話しかけてきた。
「今更見て間に合うのかー?」
翔真は揶揄するような感じで言ってくる。
「貴洋君、取られた分は必ず取り返すから、ゆっくり対策練っていていいよ」
「お、おー」
珍しいな、中村が熱いセリフ吐いてくるなんて。翔真も同じことを思ったのだろう。驚いたような表情を向けてきた。
「君が今日の試合迎えるまでどれだけの事をして、どれだけ練習を重ね迎えたか知っている。君一人でこの試合の勝敗の責任を背負う必要なんてないと思う。僕たち全員で耶麻高校ナインだろ」
「いや、まあそうだけど」
「中村ー、人のことより自分のこと気にしろよ。源工業は4人のピッチャーを擁している。対戦は一度きりになるかもしれないから、ファーストストライクからどんどん振っていけよ」
中村は翔真の言葉にグッドのポーズをしてバッターボックスに向かっていった。
俺が祐希を交えヨッシーと何か打開策はないか、ミーティングを始めようと思ったそのときだった。
快音が響き渡り、球場中からどっと歓声が湧き上がった。
俺は慌ててベンチを飛び出す。既にナインはベンチから身を乗り出し、大きく天に向かって拳を突き上げていた。
グラウンドを見ると中村が拳を突き上げセカンドベースを悠々と回っているところだった。
まさか!?
「中村、ホームラン打ったの?」
「おーよ!!すげーよ、マジ凄かったよ!!バックスクリーン直撃の、ちょー特大アーチだったんだぜ!!」
興奮を抑えられない様子で語ってくると、翔真は飛び上がりながら俺に抱きついてきた。
マジか!?
「うおーーっ!!お前、何してくれてんじゃーー!メチャクチャかっこいいじゃねーかー!!」
信じられない。試合の流れは完全に向こうのムードだった。
ランナーはイケイケで走ってきていて、着実に得点を重ねこのまま押し切られてしまうんじゃないかという雰囲気だった。
だから俺は焦っていた。何とかこの流れを止めたいと必死になっていた。
あの重い雰囲気の中、ホームラン打ったってのか?
何なんだお前は?マジすげー、マジ最高だよ!
「コラー、テメーは物凄い事したんだぞー、スカしてんじゃねーぞー、この唐変木ーー!」
「気取ってんじゃねぇーぞーー、このカッコつけー」
「中村せんぱーい、サイコー、愛してますよー」
仲間の手荒い歓迎を受けながら戻ってきた中村は、俺に向かってグッドのポーズをしながらこう言ってきた。
「ストライクの判定に厳しいってことは、俺達バッターからすると有利ってことなんだぜ」
条件は同じ、得点を許しても俺が打つから、心配するなとでも言いたいのか?
「テメーはこのヤロー、何かっこいい事言ってんだよ!このヤロー、このヤロー」
俺は中村を揉みくちゃにしてやった。チームの悪い流れをひっくり返す、4番の会心の一撃だった。
本当にウチの4番は最高の4番だよ。
くっそー、俺も負けていられない。
中村のホームランに興奮冷めやらぬままのその時だった。また快音が響き渡ったので俺はグラウンドに目を向ける。
続く良太の打球は右中間を転々と転がりフェンスまで到達していた。
「とぅりゃー!耶麻校打線爆発じゃー!」
2塁上で良太は雄叫びを上げる。
「アレは調子乗るから放って、おこー」
「そうだなアレはめんどいから触れないで、おこー」
「アレに触れるとアホが感染るらしいぜ」
「コラー、キャプテン様をアレ扱いすんなー、この罰当たりどもー!」
続く隼人はショートに打球を飛ばしたが飛んだコースがよく、ショートは無理な体勢での捕球となってのファーストへの送球となった。
当然足の速い隼人をアウトにする事はできなかった。
良太は送球を見てから3塁に進塁する。
バッターが足の速い選手だと情報を入れてなかったのだろうか?ああいう場面では無理に送球しないほうが良かっただろう。
送球しなければ良太が3塁に進塁することはなかったはずだ。それに送球が逸れていたらどうしたのだろうか?
つけ入る隙はありそうだなと感じさせるプレイだった。
「とぅりゃー!耶麻校打線爆発じゃー!」
「あっ!アホが感染った」
「アホの真似してんじゃねーよ」
「隼ちゃーん、正気を取り戻してくれー」
「正気だわー!オメー等はテンション上がってくるといっつもそうなるな!もうずっと闇落ちしてろ!」
また始まったよ。
よーし、やるぞー、皆んなが作り上げてくれたいい流れだ。このチャンスを絶対活かしてやる。中村の言う通りだ。止められないものは止められない。ならやれることをやるのみだ。
打つしかない!
「さんしーーん」
打てもしなかった、、。
今日の俺って情けない。しかし続く西口はきっちりスクイズを決め3対2としてくれた。
「よーし、追い上げムードのいい雰囲気だー、打たせていくよー」
俺はキャッチャーのポジションにつくと大声を上げる。
やはりここは切り替え、切り替えだ。止められないものは止められない。なら、ランナーを出さないようにしよう。
今日はまだヒットは打たれていない。打ち取るんじゃなくて、打たせて取るんだ。皆んなを信じてもう少し甘めで勝負してみよう。
『カキーーン』
そう切り替えた瞬間だった、痛烈な打球が三遊間を襲った、、。
やはり俺の考えは間違っていたか?と思ったが、サードの康ちゃんが超反応を見せボールに飛びついた。
キャッチはできなかったが弾いたボールをショートの翔真がバックアップしファースト送球、アウトとなった。
「うおぉー、お前等、ナイスプレイ!」
この回は源工業の攻撃は1番バッターからだった。一番足に警戒しなくてはいけないバッターだった。
イレギュラーにもすぐ対応し、送球ミスする事なく俊足のバッターをアウトにした事に流石だと思った。
ウチは向こうのチームとは守備力が違う。きっとそこに活路があるはずだ。
「オメー等やってくれんじゃねーか!サイコーだったぞー」
「藤井先輩、フォローサンキューっス」
「おー、アホ良太には真似できない早技だったろ!」
「はい、寝坊助良ちゃんには絶対真似できない早技でした」
「コラー、お前等、絶対聞こえるように悪口言ってんだろ!真面目にやれー」
この回はランナーを出す事なく三者凡退に抑えることが出来た。しかし甘めのボールを増やしたためか結構強い打球が飛ぶようになっていた。
まだ序盤なので晃ちゃんのボールに勢いがあるため野手の正面にいっているが、終盤になるにつれ、疲れが出てくると野手の間を抜けるような打球が増えてくるだろう。
この試合の勝利にはやはりどうしても盗塁を封じる手立てが必要となるだろう。
それは避けられそうにない。
やはり俺の出来次第になってくるかもしれない。皆んなに頼ってばかりではいられない。必ず相手の勢いを俺が止めてやる。
負けてたまるか!
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