廃校が決まった母校の名前を、高校野球史に刻め!

加藤 佑一

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第三章 道のり

第10話 松井はベンチ

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「どうだった、松井?」

「はい、痛みもないようなら問題ないでしょうとの診断でした」

「よし、じゃあ次の試合は先発で行くぞ準備しておけ」

 了解だ。

 その日僕は練習前にデッドボールを受けた箇所の診断をしてもらってきた。ヨッシーに診断結果を報告すると、次の試合には出してもらえるとのこと。

 よーし、今日から死ぬほど練習するぞー。

 俺は大事な2回戦、優勝候補の高校との試合を途中で棄権せざるを得なかった。デッドボールを受けた箇所がどんどん痛み出してきて、痛みで動作が鈍くなってしまった。

 相手チームはそこにつけ込み盗塁をどんどんしてきていた。俺はどうすることもできないでいた。そして交代が告げられる。

 病院に向かっている車の中で自責の念にかられ涙が止まらなかった。

 この痛みのことを皆んなに早く相談していればどうなっていたのだろうか?

 早めに対処していたらリードしたままの展開で、楽に試合を進めることができたのではないか?

 ヨッシーが気付いてくれなくて、あのまま試合を続けていたらどうなっていたのだろうか?

 あの時はキャッチャーの俺がいなくなったら皆んな困るだろうなと思って言い出せなかった。結局抜ける事になって、急なポジション変更させてしまい本当に迷惑をかけてしまった。

 そしてその後も皆んなに迷惑をかけ続けた。

 キャッチャーが抜けたせいで皆んな、大きくポジションを変更することになってしまい。倍以上の練習を課させてしまった。

 皆んな文句ひとつ言わずに練習していたが辛かったことだろう。

 今まで本当に迷惑かけた。今度は俺が皆んなの倍苦労する番だ。

 待っていろ、俺が皆んなを勝利へ導いてやる!

「よっしゃーーっ!松井貴洋様完全復活だぞー」

 グランドに入ると同時に大声をあげた。それを見たナインは集まってくる。

「何だよお前、もう大丈夫なのかよ?」

「おーよ、医者のお墨付きじゃ、ボケ」

「体は治っても口の悪さは治ってないね」

「!!」

「品の悪るさもね」

「何ー!」

「頭の悪さもだな」

「コラー!病み上がりの人間を労わるという気持ちはないのかー!」

「病み上がりじゃなくて、闇上がりでしょ」

「闇落ちしてたのはお前だろー!アホ良太!」

 くっそー、張り切って練習を再開しようとしたのに、何なんだコイツ等は。

「それで松井先輩、戻ってきてどこのポジションやるんですか?」

 わざとらしい意地悪そうな感じで良太はそう聞いてきた。

「どこって?」

「もう全部埋まってますけど?」

「はー?」

「一つ残ってるよ」

 竜ちゃんはそう言うとこれまた意地悪そうな笑顔を浮かべながら翔真、隼人、晃ちゃんと目を合わせ頷いて、一斉に同じ方向を指差しながら声を上げた。

「ベンチ」

 はぁーっ!
 
 コイツ等のために倍頑張ろうとしていた気持ちが一気に萎えてしまった。

「お前等、今日もそういう態度か!お前等がそういうつもりなら実力でポジション奪ってやるからなー」

「おーよ、奪ってみろや、ボケ」

 そう言ってキャッチング対決、バッティング対決とやったが結果は大惨敗だった。

 ここ数日のブランクは大きかったようだ。初心者の隼人にすら惨敗だった。

「貴ちゃん、ダッサ!そんなもんなの?」

 隼人が勝ち誇ったかのように見下ろしながらそう言ってくる。

「分かったか、今の俺達にはお前なんかもう必要ないんだよ、帰って寝てろ」

 ぐやしーっ!翔真は嬉しそうに憎たらしい笑顔を浮かべていた。

「松井先輩、今度は俺達と勝負してくださいよ」

 そう言って康誠、良太の後輩コンビが生意気にも勝負を挑んできた。

 康誠がマウンドに立ち、良太がキャッチャーのポジションに座る。バットを渡してきたので俺はバッターボックスに立った。

 今度こそ見返してやると意気込んだのだが、、。

 ストレート、カーブ、シンカー全て掠りもしなかった。

「うわっ、マジ?終わってますね、、」

 俺の醜態に良太は露骨に引いている素振りを見せ、見下した視線を向け、ボソッとそう言ってきた。

 マウンド上で康誠も大笑いしている。周りで見ていた奴らも大笑いしている。

 マッジー!?たった数日でこんなに差がついてしまったのだろうか?敗北感に打ちひしがれガックリと項垂れるしかなかった。

「まあ厳しい修羅場をくぐり抜けてきた俺等と、お前ではこんなもんだよ」

 隼人はそう言って高笑いし俺の肩を叩く、何が厳しい修羅場だよ、お前は試合経験まだ3だろ、と思ったが完敗だっただけに言い返す言葉が見つからなかった。

「おーい、お前等、いい加減にしてやれー、練習始めるぞー」

 そこへヨッシーが現れそう声を上げる。

 ヨッシーは皆んなに準備運動を命じると俺をベンチの方へ呼んだ。祐希も後に続いてくる。やっぱり俺はベンチなのだろうか?

「コーチ、俺はベンチなんですか?」

「は?何言ってんだお前?」

「いいか、次の試合はお前にとって厄介な相手だぞ、祐希のレクチャーきちんと受けるんだぞ」

 えっ?どういう意味なのだろうか?

「いい?次の相手は機動力でかき回してくるチームだよ。バントは使わないでどんどん走ってくるチームだからね。盗塁成功率は9割、しかも2盗だけでなく3盗もガンガンしてくるよ」

 祐希は相手のデータを分析したノートをこちらに広げて見せてきて、そして隣にタブレットを用意してきた。
 ノートには相手の特徴、塁間のおおよそのタイムなど事細かに記入されているようだった。

 タブレットの方には円グラフや棒グラフ、線グラフが表示されていた。こうやって相手チームを分析して活路を見出してくれていたのか。祐希の努力には本当に頭が下がる。

「9割ってマジかよ?」

「うんマジ。塁に出られたら走ってくると常に頭に入れておかないとダメなチームだからね」

「打率がそんなにいい訳ではないが、選球眼がいいのだろう、出塁率が高い。フォアボールを出すと厄介なチームなんだ」

 ヨッシーもそう言いながら険しい顔をしながら近くに腰を下ろしてきた。

「ストライクゾーン中心の配球がいいってことですか?」

「うん、幸い向こうに長距離バッターはいないからそれでいいと思う」

「とにかく今日の練習は盗塁阻止中心でやるからな」

「えっ!俺、練習に参加していいんですか?」

「は?治ったんだろ?」

 散々お前の帰る場所はないとかおちょくられたから、挙動不審になってしまった。

 いいんだよな?コーチは先発って言っていたし。


「たっかちょわーーん、アウトにできるもんならしてみろー」

「何をー!」

 そうして始まった盗塁阻止の練習、マウンドにピッチャー3人が交代で立つことになり、ファースト西口、ショートの位置に中村が入り、1塁ランナーとして隼人
が出てきて人を舐めきった態度で挑発してきた。

 一番最初に柳澤がマウンドに上がってきた。ランナーを警戒しクイックモーションで投げ込んでくる。

 タイミングを見計らい隼人はスタートをする。キャッチしセカンドに投げたが、明らかに隼人の方が早いタイミングだった。

「へっ!ちょろいもんだぜ!隼人様に挑もうなど100年早いわ!出直して来い!」

「何ーっ!」

 くっそー!あのヤロー、次は捻り潰してやるから覚悟しとけよー。

「コラー、どこ見てんだー、次は俺だぞー、アウトにしてみろー」

 次は康誠がマウンドに上がり翔真がランナーに出てきた。

 康誠は結構したたかな奴なので翔真の様子を見て、牽制球を送りアウトにしようとしてきた。

「あっぶねーな、このやろー」

「油断してるそっちが悪いんだよ」

 康誠は再三に渡り牽制球を送り翔真の動きを牽制する。そして、、。

「よっしゃー!」

 康誠のしたたかさがあったお陰で、翔真はスタートのタイミングが遅れてしまい、セカンドでアウトにしてやることができた。

 やはり盗塁阻止はピッチャーとの共同作業となることだろう。

「次は覚えてろよー」

 翔真は捨て台詞を吐いて隼人の後ろに並ぶ。

「松井先輩の豚足には負けねーぞー」

「はぁーっ!誰が、豚足だーっ!!」

 続いて出てきた良太はいきなりかましてきた。

 このヤローと思って睨みつけたのだが、「お前が言いたかったのは鈍足じゃねーのか?」と翔真に言われると、顔を真っ赤にしていた。

 本気で豚足が足が遅い意味だと思っていたらしい。アイツの天然ぶりには気が抜けてしまった。

 しかし、しばらくするとあながち豚足でも間違いではないんじゃね?との声が上がる。そして、笑いが広がっていった。

 アイツ等は真面目に練習する気あるのかよ?と思ったが、良太をセカンドで刺すことはできなかった。

「頭の回転は悪いが、足の回転は速いみたいだなー」

「やかましーわ!」

 続いて竜ちゃんが出てきた。やっと真面目に練習できる奴が出てきたと思った。他の奴らはアホばっかりで敵わん。と思っていたのだが、、。

「豚足には負けねーぞー」

 竜ちゃんの奴もカマしてきやがった。

「コラー、変なの流行らすなー!」

 お前もそういうスタンスでくるのか。絶対にアウトにしてやると思ったが出来なかった。

「ヘッタクソー、練習にならねーぞー」

「お前等が真面目に取り組んでねーから、こっちも身が入んねーんだよ!」

「何ー?身が入らないって?出汁でもとるのかー?」

「違うわ!ボケー!」

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