廃校が決まった母校の名前を、高校野球史に刻め!

加藤 佑一

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第三章 道のり

第3話 猛攻止まらず

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「竜二、今日もキャッチャーなの?」

「うん」

「母さんキャッチャーって嫌いなのよねー、キャッチャーってマスク被っちゃうでしょ。折角の息子の晴れ舞台が台無しよ。ずっとキャッチャーなの?」

「次の試合からは貴ちゃん復帰できると思うよ」

 母さんはああ言っていたけど、多分今日も来てくれているはずだ。

 キャッチャーでプレイするのは今日で最後になるかも知れない。いいとこ見せれるように、キャッチャーも好きだと言ってもらえるように頑張ろう。

 僕は典型的なママっ子男子だ。

 翔ちゃんがいなかったら、ずっと母さんにべったりだっただろう。

 僕がキャッチャーをやることになったと聞いた時、キャッチャーというものがどういうものなのか、僕以上に勉強していた。

 打者の特徴、癖を掴んでの配球、守備体系の指示。僕以上に研究しアドバイスしてきてくれた。

 そしてここ最近は祐希君を家に招いて、配球のイロハのレクチャーを受けるのが日課になっていた。

 二人には本当に感謝している。僕のためにわざわざ時間を割いてくれて本当に感謝している。

 今日は打つことよりキャッチャーに集中して欲しい、とコーチに言われていた。

 僕はキャッチャーとしての試合経験は浅い。ここ数日はキャッチャーとしての練習に主体を置いていた。

 チェンジアップ対策はほぼしてきてない。

 でもせっかくの良い流れだ。この流れに乗って僕も打ちたい。塁に出て少しでも長くキャッチャーマスクをしていない姿見せないとね。

 3球連続でチェンジアップが来たら諦めるしかない。ストレート一本に照準を定め、来た時に打ち損じないように集中してバッターボックスに向かった。


『打ったー、、鋭い打球がセンターを襲うーー、抜けた、抜けたー、センターオーバーのヒットーー、打った久保選手、悠々と2塁ベースに到達しましたー、耶麻高校、初回から猛攻止まりませーん」


 2塁ベース上でベンチに向かい軽くガッツポーズし、祐希君の姿を見付けるとそこに向かってガッツポーズし、応援席に向かって高々と拳を突き上げた。

「久保せんぱーい、ナイバッチィ」

「竜ちゃんサイコー」

「コラー、俺より目立つなー!」

 なんか?最後変なの聞こえたぞ?





「久保くーん、ナイスバッティングー」

 前の試合で9回勝ち越しのホームランを浴びた後に、久保君に掛けられた言葉はおそらく生涯忘れないだろう。

 あの瞬間僕は絶望し、皆んなの顔を見ることが出来なかった。

 なんてことをしてしまったんだ。自分のせいでとんでもないことになってしまった。

 そんな失意のどん底に沈んでいた時にかけられた言葉だった。

『大丈夫、大丈夫、今のは忘れよ。まだ試合が終わった訳じゃないし、このイニングも終わってない。次の打者に集中ね。このイニング終わってから次のこと考えよ。まだ負けた訳ではないから切り替えよう』

 久保君の言葉が、皆んなの言葉がどれだけ僕の心を救ってくれたことか。

 バレーの試合では僕がダメだった時、そんな言葉をかけてくれるチームメイトはいなかった。

 僕がダメだったら諦めるしかないな。そんな雰囲気になっていた。

 僕は2点は取られるし、ヒットを打つことも出来なかった。前の試合、僕はハッキリ言ってダメだった。でもここのチームメイトは逆転し勝利に導いてくれた。

 本当に興奮した。本当に凄いと思った。

 ここでは皆んな同じ方向を向いている。勝利に向かって出来ることをやろうと努力している。

 あの時、下を向いてしまっていた僕に、マウンドを守っているのは君なんだからと励ましてきてくれた。

 僕が全力でプレイできるような空間を作ってくれた。

 僕にとって本当に居心地がいい場所だ。

 前の試合は投打共々散々だったので、今後も皆んなに迷惑をかける訳にはいかないと思い、迷惑かけたくないと思い、嫌いだったロードワーク、筋力トレーニングを倍に増やした。

 仲間に守られているばかりではダメだ。自分のせいで負けるなんて、真っ平ご免だ。だから頑張った。

 筋力トレーニングのお陰で体幹が鍛え上げられ重心が安定し、投球フォームもバッティングフォームもバランスが取りやすくなった気がする。

 今日のピッチャーは前回のピッチャーほどプレッシャーは感じない、打てる気がする。


『打ったーー、これは大きいぞー、レフトバック、レフトバッーーク、入ったー、入った、ホーームラン、耶麻高校、初回から猛打爆発です。2ランホームランが飛び出しましたーー、初回から大量5得点です」


「うおぉーー、マジか!柳澤せんぱーーい、サイコーー!」

「うおぉーー、ナイスホームラン」

「バッキャロー、カッコイイぞー」

 大飛球が上がった瞬間キャプテンをはじめ、全員がベンチから身を乗り出していた。

 打球の行方を追い、ホームランと分かると興奮を抑える事ができず、抱き合ったりハイタッチを交わしたりする。

「えーーっ!ホームラン!こりゃ、もう貴洋必要ないんじゃね!」

「そうだな、もう俺の出番ないかも!ってコラー」

 松井君は興奮し、ついつい藤井君の言葉にノリツッコミをしてしまっていた。


「完璧だったよー」

「うん凄かった。狙い通りのカウント悪くなってからのカーブだったね」

 祐希君は僕のホームランに感極まっているようだった。

 自分の調べたデータ、攻略法が見事にハマり嬉しかったのだろう。


『ファーストー、おっと、ファーストこぼしてしまいましたがすぐに拾い上げベースを踏んでアウトー、スリーアウトチェンジです。しかし初回から猛打爆発で5点を先取しましたーー』

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