廃校が決まった母校の名前を、高校野球史に刻め!

加藤 佑一

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第二章 試合開始 第二シード校

第13話 コズルさの天才

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 今度はストレート狙いに変えたのだろうか?

 この回の耶麻高校の攻撃が始まる前に監督は、「もしかして初回スライダーを振ってきたのはストレート打ちをするための布石だったのもしれない」そんな事を言っていた。

 だとしたら監督の言う通り本当に強豪校と対戦しているかのようだぞ。

 佐々木のスライダーはそうそう打てない。ならば初回は捨て、スライダーを狙い撃ちしてるかのように装うためスライダーにだけ手を出してくる。

 そして投球がストレート中心になったところでストレートを痛打する。

 戦略家でもいるのかよ!

 でも大丈夫だ佐々木を信じろ、分かっていても打てないから好投手と呼ばれているんだ。基本を押さえて配球すれば打てないはずだ。

 ノーアウトランナー1、2塁で次は3番か。前回はスライダーを痛打された嫌なバッターだ。コイツもストレート狙いに変えてきているのだろうか?

 塁はもう一つ空いている。3番、4番はフォアボールで出してしまっても良いくらいの気持ちでいくのが無難だろう。

「あれ!インコース?」

 初球、内角ボール気味のボールを投げさせると、驚いている様が手に取るように分かった。

 よし!インコースのスライダーは完全に頭に無かったようだ。

 打者は想定外のボールだっただけに、大きくのけぞるような感じでバッターボックスから離れていっていた。

 してやったりと思い、心の中でガッツポーズをする。

「ファール」

「!!」

 次は外角ボール気味にストレートを投げ込ませた。前回の打席のイメージがあるなら振ってくるだろうと思った。予想は的中しこちらの思惑通りファールにしてくれた。

 ただ外角のスライダーを待っていたのに、ストレートに当ててきたのかと思うと3番のセンスの良さが分かる。バットコントロールが相当上手いと容易に想像できる。

 が、2ストライクを取ることができた。ここまでは狙い通りだ。

 ノーボール、ツーストライク。こっちが有利なカウントとなった。もうストライクは必要ない。完全に主導権を握ることが出来た。

 佐々木のスライダーはストレートと同じ軌道できて、打者の手前で変化する。今の外角ストレートを見た後のスライダーには対処出来るかな?

「ボール」

 チッ!振らなかったのか!それとも手が出なかったのか?

 ただ、次の高めボール球、単純な釣り球のストレートに手を出しあっさり三振になっていた。

 コイツ?難しく考えないで単調に攻めたほうがいいのか?なんかいまいち掴みどころのない奴だな。

 でも第一難関クリアだ。

 次は4番、インコース打ちが得意だったんだよな。コイツのせいで監督にめっちゃ怒られたし、今度は慎重にいかないと。

 1球目はストライクゾーンを避け、ボール気味のボールを投げさせた。しかし審判はストライクと判定していた。

 ラッキー!心の中でガッツポーズをし2球目を投じさせる。

 そのボールを引っ掛けボテボテのボールをファーストに飛ばす。

 ファーストは前進してボールを処理しカバーに入った、佐々木にトスしアウトとした。

 その間にランナーは進塁しツーアウト、二、三塁となる。

 ボール球と思ったボールをストライクと言われてしまったため、思わず次のボール球にも手が出てしまったのだろう。今の対決は運も味方してくれたようだ。


『ノーアウト一塁、二塁でクリーンナップを迎えなければならない、絶体絶命のピンチでしたが、三番、四番を上手い投球で打ち取り、さあツーアウトまで来ました。佐々木投手、5番の松井選手と相対します』





 3、4番との対戦を終え、気が抜けてしまったのか。僕にはすっぽ抜けたボールが飛んできた。

 避け切ることができず、デッドボールとなってしまった。

「スプレー、スプレー」

 コールドスプレーをボールが直撃した場所に噴霧する。メントールの匂いが広がり白い煙を上げる。

「すいません」

「大丈夫、大丈夫」

 謝罪してきた相手投手にグットのポーズをすると1塁に走った。


『どうやら松井選手大丈夫のようです。起き上がり一塁に走り出しました』


 パチ、パチ、パチ、パチ。球場内から拍手が沸き起こる。

「すいませんでしたー」

 ファーストに到着すると、一塁手が帽子を取り大きな声で謝罪してきた。

「いや。ぜんぜん大丈夫なんで気にしないで下さい」

 軽く手を上げそう答える。

 友崎高校はうちと違って紳士な方が多いようだ。


「さすが先輩!だてにぶ厚い脂肪してないですねー」

 良太のその言葉にズッコケてしまった。本当にうちは品性の欠片もない。

「なんだとー!このやろー!」

「よっ、貴ちゃん、顔も広ければ、心も広い!」

「誰が顔でかだーっ!」

「そこまで言ってねーだろー!」

 翔真のヤロー、ここぞとばかりに言ってきやがってー!


『さあハプニングはありましたがプレイ再開です』

『ツーアウト満塁となり6番山下選手を迎えます。先程はチームを同点に導くきっかけとなる見事なセーフティバントを見せました。ここはどう出るか?』





「は、はぇーー!!」

 皆んなこんなのよく打てるな!

 さっきは初球からバントしたからバッターボックスで小次郎のボールじっくり見るの初めてなんだけど、こんなに速かったのー?

 なんかセーフティバントも警戒されているっぽいからバント出来そうにないし、せっかくのチャンスなんだからなんとかしたいんだが。

 そう思ってバットを握る手に力が入る。

「山下ー、力み過ぎだぞー」

「ヤバっ、忘れてた!」


 初心者3人が集められバッティング練習している時だった。ボールをバットに当てるのに四苦八苦していると、、。

「グリップ強く握りすぎ」

 ヨッシーが指摘してきた。

「グリップってなんですか?」

「あー、そうか、ごめん、ごめん、グリップってのは、バットを握るところだよ」

「強く握りすぎないで、両手の小指、薬指、中指はやや強く握るような感じにして全体としては力を抜くような感じにしてみて」

 は?

 ヨッシーに手取り足取り教えてもらい、言われた通りにやってみる。

 自己流で握ってバットを振っていたときより、何だかバットをコントロールしやすくなったような気がした。

 ヨッシーに教えてもらった言葉を思い出し、握り直す。


『カキーーン』


 当たった!
 
 でもボテボテだった。が、一塁に向かって全力疾走した。


『打ち取った当たりだがー、バウンドした打球が高く上がったぞー。ショート待って捕ったー。一塁、間に合うかー。セーフ、セーフです。流石の快速を見せ1塁を駆け抜けましたーー。その間に三塁ランナー返ってきて耶麻高校逆転、逆転でーす』

 快速を見せての内野安打のお陰で三塁ランナーがホームインし耶麻高校ベンチは逆転に沸き立つ。

「よっしゃー。ナイスラン山下せんぱーーい、よっ!新幹線男!」

「よっ!チーター男!」

「我がチームの韋駄天小僧ー」

「手だけじゃなく足も速いなーー」

「なんか変な言葉、聞こえたぞーっ!誰だ言ったのー!」


『いやー。ショート待って捕ってしまいましたねー』

『そうですねー。山下選手の足を考えると難しいとこでしたねー。しかし無理に突っ込んで抜けていたらもう1点ってところでしたから。私はナイス判断だったと思いますよー』

『リスクは避けたところでしょうか』

『さあなおもツーアウトながら満塁です。友崎高校、太田投手が立ち直って来ていることから考えても、もう追加点は避けたいところです』





「良ちゃーん、期待してないけど、頑張れよー」

「期待しろよっ!」

 山下先輩の打席の間、守備体形を見てセーフティーバントを警戒して前のめりになっているサードを見ていた僕は『なんか良いこと思い付いちゃったかも』と、意気揚々とバッターボックスに向かっていった。


『耶麻高校3対2と逆転に成功し、なおも満塁です。続くバッターは7番、キャプテンの伊藤選手です』


 僕はバントする体勢になりバットを寝かした。

 それに反応したサードは前進してくる。予想通り一度セーフティーバントを決められているだけに過剰な反応を示してきた。

 前進してくるのを見て、狙い澄ましたように器用にサードとピッチャーの間を抜けるような勢いの死んでないボールを転がした。


『あ、ああっとー。これはプッシュバントだー。いいところに転がりサード、ピッチャーともどうすることも出来ないー。伊藤選手頭脳プレイ!その間に三塁ランナー、ホームを駆け抜けさらに1点を加えましたーー』


「良ちゃんサイコー。コズルさの天才ー、よっ、卑怯もん」

 康ちゃんの言葉に一瞬、誉められたと思って喜びかけたが、皮肉だったのでズッコケてしまった。

「それ絶対誉めてねーだろ!」

「褒めてるだろーが、さすが性格の悪さは天下一品」

「よっ!人が嫌がるようなことをする天才!」

「ルール上問題ないプレイだろーが!」

 だが、試合後しばらくの間、僕のあだ名はプッシュバントだった。


『八番西口選手は三振に倒れスリーアウトチェンジです。しかしこの回2点加え4対2で見事、耶麻高校逆転に成功しましたー」


 3回裏2対4

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