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第一章 スカウトそして挑戦
第2話 登校が一番遅い良ちゃん
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「あの頃はこの辺も活気に溢れててね。スポーツも盛んで特にこの年は甲子園で野球部が優勝してしまったもんだから町は大盛り上がり。一晩中人々はその興奮に酔いしれたもんさ」
僕、石橋康誠は良ちゃんと共にマジマジと盾を眺めていると、校長先生はそんな話を聞かせてくれた。
「へぇー!」
とても素敵な思い出なのだろう。校長先生の表情は優しく穏やかで、言葉もいつもとは違う柔らかさが感じられた。まあいつも刺々しいのは良ちゃんの遅刻癖が直らないせいなのだろうが。
「昔ってそんなに人住んでいたんですか?」
「そうだよ。昔はねここに炭鉱があったんだ」
「たんこう?」
聞き慣れない言葉だったので思わず良ちゃんの顔を覗き込んでしまった。良ちゃんも目が点になっていたので、分かっていないのだろうと容易に想像ができた。
「そう、炭鉱。炭を採掘する場所のことね。燃料が石油に変わる前は炭を燃料にしていたんだよ」
「炭ってあのSL機関車を走らせるやつですか?」
「そうそれ。石油が使われるようになってからは炭の需要がどんどん落ちていってね。人々は職を失ってしまい、また一人また一人と人工が減っていってしまって、、」
校長先生はそこで言葉を詰まらせてしまった。何か込み上げてくるものがあったのだろうか?
「君たちにも迷惑掛けてしまったね。来年からは学校遠くなってしまうけど、頑張ってくれたまえよ」
炭鉱の話から何か飛んでいるような気がするが?
「今日はありがとう。掃除はもういいよ」
校長先生は取り出したハンカチで涙を拭いながらそう言った。泣いてる姿を見られるのが恥ずかしいのか、背を向けてそれ以上は何も語ろうとはしなかった。
「は、はい。お邪魔しました」
そう言ってお辞儀をし、校長室を後にする。
当初の予定では僕達の世代が卒業するまでは学校を継続するはずだったのだが、校舎の老朽化が思いのほか著しいので、今年度いっぱいでの廃校が決定してしまったのだ。
なぜ新しい世代を入学させる前に、『老朽化が著しいと分からなかったのか?』と、方々から問いただされ、校長先生はその責任を感じていたのだった。
それが急に話が飛んでしまった原因だろうか?
「校長先生、元気なかったなー」
良ちゃんも同じ事を感じ取っていたようで、そうボソっと言ってきた。
僕達は勉強は好きじゃないがこの学校は好きだった。状況が状況だけに地元唯一の学校が無くなってしまうのは仕方がないが、無くなってしまうこの学校の為に何か出来ることは無いかと常に模索していた。
何かしてあげられることはないのだろうか?そんな気持ちが湧き上がってくる。
「なぁ康ちゃん。また野球やらないか?」
湿っぽい気分になっているというのに、良ちゃんはいきなり何を言っているのだろうか?
「えっ!?だってうちの学校、野球部無いじゃん!」
「無いなら作れば良いじゃん」
「そうだけどさー。部員はどうすんだよ!人数いなかったら野球はできないぜ?」
「そんなの知ってるよ!昔、少年野球やってたときの先輩達って今何やってんだろー?」
「えっ!?何言ってんだよ?太田先輩ならうちの学校にいるじゃん!!」
「えっ!?見かけたこと無いけど?」
何言ってるんだ?と思ったが、思い当たった事があったので言葉は発せず、一旦頭の中で整理してみることにした。
あれは今朝の出来事だった。ホームルームの時間になっても教室に良ちゃんが現れなかったので、『今日も遅刻かよ!あのバカ!』と思いながらボーっと窓の外を眺めている時だった。
学校前の道路を猛スピードでチャリを飛ばしてくる人影が見えてくる。体格は小柄ではないので、良ちゃんではないということだけは分かった。
「やっばーーい。また遅刻ーー!」
窓を開け覗き込むとそんな声が聞こえてきた。
「あはは。太田先輩も遅刻多いなー」
僕はちょくちょく遅れて登校して来る姿を見かけていたのだ。
ベルが鳴り響くと立ち上がり、ペダルを漕ぐスピードをさらに上げ全速力で校門内に飛び込んでくる。
太田先輩は悪びれた感じで大急ぎで入ってくるのに対して、良ちゃんはベルなどとうに鳴り終わっているのにも関わらず、悠々と自転車で入ってくるのだった。
「ったくー、もう少し申し訳なさそうに入って来いよー!まーた怒られるぞーっ!」
良ちゃんの登校は決まっていつも最後だ。遅刻しているのに悪びれる様子もなく、大企業の重役の様に悠々と登校して来る。毎日毎日遅刻して来るため、太田先輩を見かけていないようだった。
「そうか!良ちゃんは毎日来るのが一番遅いから、太田先輩に会ったこと無いんだ!」
そう言って笑いが止まらなくなってしまった僕の様子を見て、良ちゃんは頬を膨らませ不機嫌そうな顔になり、そんなことはどうでもいいからというような感じで元の話に戻すように質問してきた。
「うっさいなー。それで太田先輩、今何やってんだよ?」
「確か、槍投げをしてるって聞いたような、、?」
自信がないので顎に手を当て、記憶を探るように顔をしかめながら答えた。
「じゃあ、行ってみようぜ!」
「えっ!?行くって、どこに?」
「槍投げなら陸上部のグラウンドだろ!」
そう言って良ちゃんは走り出してしまった。今からグラウンドに行くというのだろうか?
「あっ!ちょ、ちょっと、待ってよー」
「早く来いよ!ウスノロ康誠ー」
「はぁー、なんだとー!」
おぼろげな記憶だから『確実ではない』と、言いたかったのだが、こちらの気持ちなど気にもせず、陸上部のグラウンドに向け一目散に駆け出して行ってしまった。
僕、石橋康誠は良ちゃんと共にマジマジと盾を眺めていると、校長先生はそんな話を聞かせてくれた。
「へぇー!」
とても素敵な思い出なのだろう。校長先生の表情は優しく穏やかで、言葉もいつもとは違う柔らかさが感じられた。まあいつも刺々しいのは良ちゃんの遅刻癖が直らないせいなのだろうが。
「昔ってそんなに人住んでいたんですか?」
「そうだよ。昔はねここに炭鉱があったんだ」
「たんこう?」
聞き慣れない言葉だったので思わず良ちゃんの顔を覗き込んでしまった。良ちゃんも目が点になっていたので、分かっていないのだろうと容易に想像ができた。
「そう、炭鉱。炭を採掘する場所のことね。燃料が石油に変わる前は炭を燃料にしていたんだよ」
「炭ってあのSL機関車を走らせるやつですか?」
「そうそれ。石油が使われるようになってからは炭の需要がどんどん落ちていってね。人々は職を失ってしまい、また一人また一人と人工が減っていってしまって、、」
校長先生はそこで言葉を詰まらせてしまった。何か込み上げてくるものがあったのだろうか?
「君たちにも迷惑掛けてしまったね。来年からは学校遠くなってしまうけど、頑張ってくれたまえよ」
炭鉱の話から何か飛んでいるような気がするが?
「今日はありがとう。掃除はもういいよ」
校長先生は取り出したハンカチで涙を拭いながらそう言った。泣いてる姿を見られるのが恥ずかしいのか、背を向けてそれ以上は何も語ろうとはしなかった。
「は、はい。お邪魔しました」
そう言ってお辞儀をし、校長室を後にする。
当初の予定では僕達の世代が卒業するまでは学校を継続するはずだったのだが、校舎の老朽化が思いのほか著しいので、今年度いっぱいでの廃校が決定してしまったのだ。
なぜ新しい世代を入学させる前に、『老朽化が著しいと分からなかったのか?』と、方々から問いただされ、校長先生はその責任を感じていたのだった。
それが急に話が飛んでしまった原因だろうか?
「校長先生、元気なかったなー」
良ちゃんも同じ事を感じ取っていたようで、そうボソっと言ってきた。
僕達は勉強は好きじゃないがこの学校は好きだった。状況が状況だけに地元唯一の学校が無くなってしまうのは仕方がないが、無くなってしまうこの学校の為に何か出来ることは無いかと常に模索していた。
何かしてあげられることはないのだろうか?そんな気持ちが湧き上がってくる。
「なぁ康ちゃん。また野球やらないか?」
湿っぽい気分になっているというのに、良ちゃんはいきなり何を言っているのだろうか?
「えっ!?だってうちの学校、野球部無いじゃん!」
「無いなら作れば良いじゃん」
「そうだけどさー。部員はどうすんだよ!人数いなかったら野球はできないぜ?」
「そんなの知ってるよ!昔、少年野球やってたときの先輩達って今何やってんだろー?」
「えっ!?何言ってんだよ?太田先輩ならうちの学校にいるじゃん!!」
「えっ!?見かけたこと無いけど?」
何言ってるんだ?と思ったが、思い当たった事があったので言葉は発せず、一旦頭の中で整理してみることにした。
あれは今朝の出来事だった。ホームルームの時間になっても教室に良ちゃんが現れなかったので、『今日も遅刻かよ!あのバカ!』と思いながらボーっと窓の外を眺めている時だった。
学校前の道路を猛スピードでチャリを飛ばしてくる人影が見えてくる。体格は小柄ではないので、良ちゃんではないということだけは分かった。
「やっばーーい。また遅刻ーー!」
窓を開け覗き込むとそんな声が聞こえてきた。
「あはは。太田先輩も遅刻多いなー」
僕はちょくちょく遅れて登校して来る姿を見かけていたのだ。
ベルが鳴り響くと立ち上がり、ペダルを漕ぐスピードをさらに上げ全速力で校門内に飛び込んでくる。
太田先輩は悪びれた感じで大急ぎで入ってくるのに対して、良ちゃんはベルなどとうに鳴り終わっているのにも関わらず、悠々と自転車で入ってくるのだった。
「ったくー、もう少し申し訳なさそうに入って来いよー!まーた怒られるぞーっ!」
良ちゃんの登校は決まっていつも最後だ。遅刻しているのに悪びれる様子もなく、大企業の重役の様に悠々と登校して来る。毎日毎日遅刻して来るため、太田先輩を見かけていないようだった。
「そうか!良ちゃんは毎日来るのが一番遅いから、太田先輩に会ったこと無いんだ!」
そう言って笑いが止まらなくなってしまった僕の様子を見て、良ちゃんは頬を膨らませ不機嫌そうな顔になり、そんなことはどうでもいいからというような感じで元の話に戻すように質問してきた。
「うっさいなー。それで太田先輩、今何やってんだよ?」
「確か、槍投げをしてるって聞いたような、、?」
自信がないので顎に手を当て、記憶を探るように顔をしかめながら答えた。
「じゃあ、行ってみようぜ!」
「えっ!?行くって、どこに?」
「槍投げなら陸上部のグラウンドだろ!」
そう言って良ちゃんは走り出してしまった。今からグラウンドに行くというのだろうか?
「あっ!ちょ、ちょっと、待ってよー」
「早く来いよ!ウスノロ康誠ー」
「はぁー、なんだとー!」
おぼろげな記憶だから『確実ではない』と、言いたかったのだが、こちらの気持ちなど気にもせず、陸上部のグラウンドに向け一目散に駆け出して行ってしまった。
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