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10.西王府
しおりを挟む宴からしばらくして。
姚玉は廃妃され、正式に環妃が皇太子妃となった。聞くところによると、環妃と楚洪清の二人は仲睦まじく暮らしているらしい。環妃は姚玉の命の恩人でもあるし、喜ばしいことだ。
女官身分に戻った姚玉といえば、誰にも娘娘と呼ばれることはなくなった。金の簪や耳飾りは全て後宮に返上し、質素な服に身を包んでいる。
楚追明の教育係、実質養母のような役割をこなしながら、侍女たちと同等の扱いを受けていた。
格好のいじめの的だが、それでもいびられていないのは、きっと楚洪清が口を聞かせてくれたおかげだろう。
「西都ってこんなに遠いのか……」
はあ、とため息をつく。
姚玉は馬車から荷物を降ろし、痛む腰をトントンと叩いた。
西都に着き、乾燥気味の空気に喉をさする。
ここは南晋との国境に近く、異民族らが住む山も近い。常に緊張感がありながらも、西都は活気づいていた。
西王府。これから住む屋敷の名だ。侍女や宦官、護衛などが計20名あまり住んでおり、軍営拠点にも近い。軍営の最高指揮権は楚追明にあり、その部下として長年皇帝に仕えている夏南将軍が支えている。要は監視と保険だ。
「姐姐。長旅でしたので、どうか自室でおやすみください」
あどけない口調で「姐姐」と呼ぶ者は一人しかいない。楚追明だ。
「もう義姉ではない」と何度も言っているのだが、頑なに呼び方を改めようとしない。
「それより先に、お湯に浸かりたいです。ここは風呂が一つしかないのですよね? 殿下が先に入りますか」
「……!」
ぼぼぼ、と楚追明の頬が赤くなる。
「姐姐がさきにお入りください! 僕はたんれんをしてから入りますから」
楚追明は踵を返し、稽古場まで走っていった。
「ええ、男同士でそんな慌てることある? ……あ、俺女だと思われてんのか」
(はー、思春期かねえ。そうだ、閨の教育係も必要か。できれば好きな女の子とさせてあげたいけど、この時代それは難しいからなあ……ん、そもそも追明って精通してるのか?)
姚玉は食事の準備もそこそこに、久しぶりのお湯に浮き足立って風呂へと向かった。夜伽はいつか春画を見せながら教えてやろう、と呑気に考えながら。
「あ……姐姐、かえのふくを忘れてる……」
鍛錬を終えた楚追明は一人、自室で棒立ちしていた。
姚玉の服だ。無ければ困るのはわかっているが、今義姉は風呂に入っている。
迷った末、内衣を見ないように目を逸らしながら脱衣所に向かった。
「姐姐! かえのものをお忘れのようなので、おいておきます!」
ついたて越しにも聞こえるよう、普段より声を張り上げる。姚玉の返答もあり、楚追明はそっと服を置いた。
帰ろうとして、ふと振り返る。意識してしまえば、全身が湯のように沸騰した。顔も熱くなる。
(今覗いたら、姐姐のは、はだかが……!)
足音を立てず、ゆっくりとついたてに触れた。そっと耳を寄せれば、水の流れる音が聞こえてくる。
いけないと知りながらも、ついたての隙間を見つけたことに歓喜した。ぼうっとした顔で少しの隙間を覗こうとして────。
バチンッ
「……ッ」
(いやいや、僕はなにを考えてるんだ! まるでけものみたいだ!)
楚追明は思いっきり自身の頬を叩いた。
「うわっ、どうしたのですか!?」
「な、なんでもありません! 失礼します!」
慌てて稽古場に戻り、気をそらすために刀を握る。
「……あぁッ、姐姐へのぼうとくだ……裸がみたいなんて、こんなよこしまな感情……」
嫌な予感がして鼻を抑えれば、血が手を汚した。じわじわと全身から汗が噴き出し、息が荒くなる。
チラリと自身の下を見れば、そこはキツくズボンを押し上げていた。
「どうして、姐姐のことを考えただけでここがいたくなるのだろう……」
(僕が姐姐に邪な感情を持っているのと、ここは関係しているのだろうか……。そういえば、姐姐の夢を見た時は必ず白い液が出ている。どうして……?)
楚追明は不安に苛まれ、その場にずるずると座り込んだ。下半身は勃起し、鼻からはだらだらと鼻血を垂らしている。
腫れたそこをぎゅうっと握ってみれば、ビクビクと震えた。どうすれば良いのか分からず、泣きながらごしごしと鼻を拭く。
「おしっこをだす場所なのに……ふけつだ。ごめんなさい、姐姐……たすけて……」
絶頂に至ることも出来ず、ただ罪悪感で押しつぶされそうになっていた。
楚追明がそれを情欲だと知るには、まだ年数が必要なようだ。
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