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後宮編
19.入宮2日目
しおりを挟む嫋が後宮に入り、2日目の朝。
嫋は襦裙を寛げ、胸だけを出す。
呂苑はぽってりと腫れた乳首に吸い付き、こくこくと母乳を飲んだ。
嫋は慈しむように呂苑の髪を撫で、飲みやすいようにと後頭部を支える。これはお前のものではない、と怒鳴りつけたいのをグッと堪え、穏やかに微笑んだ。
「ぁん、もう出ません、淵様……宦官が待ちくたびれておりますよ」
「お前と共にいたい……」
「んぅっ……♡」
べろり、と乳首を舐められ、嫋は肩を震わせて男の頭を抱きしめた。
呂苑は昨日、夜遅くまで嫋の体を抱き、日が出てもなお嫋の宮へと留まり続けている。
嫋が仕事へと急かすが、全く聞く耳を持たない。宦官も困り果てているが、部屋の外でじっと陛下を待つことしか出来ない。
「淵様……」
「ん?」
「今日、宮殿の外へ出てもいいですか?」
「駄目だ」
「そんな……淵様を喜ばせたいのです」
「私を……? 何をする気だ」
「今日の夜のお楽しみです……♡ ね、何も後宮から出る訳では無いのです。あなたの嫋のお願いですよ? いいでしょう?」
手を呂苑の下半身に滑らせ、手のひらで揉むように熱をさする。呂苑は肩をビクつかせ、顔を真っ赤にして小さく呟いた。
「わかった……楽しみに、している」
「はい♡」
嫋は愛らしく微笑むと、テキパキと呂苑に服を着せ、チュッと頬にキスをしてから送り出す。
呂苑はぼうっと頬に手を当て、夢心地のまま後宮を後にした。
昼、嫋は侍女に後宮内を案内させ、妃たちのためにあるという医局に向かった。
「医局、ですか。普通妃たちが足を踏み入れるような場所では無いのですが、なにか御用ですか?」
「はい。陛下のために、少し……」
首を傾げる侍女に曖昧に返し、それとなく周りの建物や人の雰囲気を見てみる。
位によって髪飾りや服飾の支給品は決められており、身を飾っているものによってすれ違う妃たちの位は簡単に知れる。
下級の妃がじっと嫋の髪飾りを見る。それは呂苑が特別に作らせたものであり、ほかの妃達からすれば、なぜ位の低い妃が、となるのは当然だろう。
庭を出たところ、一際強い視線を感じ、嫋は顔を背けた。
(皇后……)
チラと見えた美しい女。その目は優しげに垂れているはずだが、氷のような視線で妃を見下している。
まろい桃のような頬や、ぷっくりと艶かな唇が嫋を彷彿とさせる。ほかの妃たちがコソコソと噂話をするほど、皇后と嫋はどことなく顔の造りが似ていた。
呂苑が出来るだけ嫋に似た貴族の女を探して皇后に冊立したのだから、当たり前と言えば当たり前だろう。
サッと皇后に一礼し、ようやく着いた医局の扉を開ける。
外の配置を見るのが本来の目的だったのだが、夜をお楽しみに、と呂苑に言ってしまった以上、きちんと目的を果たさなくては彼に怪しまれてしまう。
中にいた医者は驚いたように嫋を見て、なにか欲しい薬があるのかと尋ねる。
「その…… 催淫効果を持つ薬などはございますか?」
「催淫、ですか」
(堕胎薬は……ううん、やっぱりわかりやすいところには置いてないな)
ちら、と奥の棚を見る。
皇帝の後継ぎを作ることが役目である後宮にとって、堕胎薬は良い意味でも悪い意味でも使えてしまうもの。
後宮に詳しいものでないと薬を取り出すことは出来ないか、と落胆した。
「鹿角や地黄を調合したものはお出し出来ますが……お香でも良いものがありますよ。医局には普通ないのですが、よく来られる方がこの甘い香りが好きだそうで、いつも医局に予備を置いておくのです」
「よく来られる方……」
「さ、出来ましたよ」
侍女が薬を持ち、嫋は自分の宮へと戻る。
部屋の中にずっといるのも息が詰まってしまいそうで、嫋は縁側に座って眠るように目を瞑った。
ギシ、と床が軋む。嫋は瞼をあけ、ゆっくりとそちらを向いた。
また来たのですか、と言おうとして、口を閉じる。
見慣れない青年が立っていた。
窺うように体の半分を柱に隠し、嫋のことをまじまじと見つめている。
後宮にいる男は皇帝だけのはず。嫋は首を傾げ、青年に話しかける。にこりと微笑み、嫋の横をポンポンと手で叩く。意図を汲み取った青年は嫋の横に縮こまって座り、嫋を見上げている。
「あなたは?」
「呂楼……」
聞けば、呂楼は呂苑と皇后の間にできた子供、皇太子だという。
呂苑とそれほど年が離れているようには感じないが、おそらく彼が齢15以下の時に作った子供だろう。
皇帝もしくは皇太子であれば、精通後すぐ跡継ぎをつくることを求められる。
寿命が短く病が蔓延るこの時代では、皇帝であっても急逝することがある。その際に、できるだけ幼齢の皇帝を立てないようにするためだ。
淵が20代後半だから、楼のおおよその年齢は14、15程度。既に妃を宛てがわれ、早ければ子供もいる年齢だ。
「父上も母上も、私に興味が無いのです……」
「そんな! 殿下は立派な君子です。陛下も皇后様も、本当はそう思っておられるのですよ。少しお話したばかりの私でも殿下は逞しく聡明なお方だと思うのですから、間違いありません」
「嫋妃……ありがとうございます」
呂楼は恥ずかしげに微笑み、自信なさげに指先をモジモジといじる。
「妻も、私にはもういるのですが……父上や母上のような家庭を私も作ってしまうか思うと気が重く、足が向かないのです」
「殿下はお優しい方です。きっとそのお方とも良い関係が築けますよ」
「あはは、ありがとうございます。なぜ嫋妃にこんなことまで話してしまったのでしょう……不思議ですね……」
呂楼は苦笑し、そっと立ち上がった。
「ぁ……!」
上から嫋を見下ろすと、なぜか呂楼の腹の奥が熱くなった。思わずその艶やかな唇をなぞっていた視線に驚き、かぶりを振る。
「……その、またお話しに来てもいいですか?」
「はい、もちろん。嫋はここで殿下を待っております」
嫋はゆっくりと呂楼の手を握り、また明日、と微笑んだ。
嫋が包んだ手のひらを人差し指でさすってやると、呂楼は顔を赤くして手をビクつかせる。
足をもたつかせて去っていく呂楼を見送り、ふと考える。先程の一瞬、ほんの一瞬呂楼が見せた視線に気づかぬ訳が無い。
嫋は溜息をつき、部屋の中へと戻った。
「嫋……」
「んっ……」
ちゅっちゅっと触れるだけのキスをして、互いの体を愛撫する。
「ふふ、媚薬など、可愛いことを考えるものだ」
「お香も、ですよ?」
「ああ、そうだったな。このような心地よい香り、初めて嗅いだ」
呂苑は嫋を組み敷き、愛おしげに長い黒髪を撫でた。
嫋だけでなく呂苑も催淫薬を飲み、昂った熱をグイグイと嫋の股に押し付ける。
薬で体が暑くなり、ぽた、と嫋の鎖骨に呂苑の汗が落ちた。
嫋はイタズラが成功した子供のようにきゃらきゃらと笑い、呂苑の首を腕を回した。
呂苑は熱い息を漏らしながら、ゴソゴソと袖の中をいじり、1つの包みを取りだす。
「嫋、例の仙薬について調べていたが、その途中これを見つけたのだ」
「ん、なぁに……?」
「1滴でも垂らせば生娘も身悶えるという仙薬だ。ふふ、清廉潔白が尊い仙人の薬でも、こんなものがあるのだな」
「なっ……!」
嫋が息を飲む。まさか、今夜使おうなどと───と睨みつけたい気持ちを抑える。
「道士がよく働いてくれたのだ。嫋、どうだ?」
嫋はひくり、と頬を引き攣らせ、男の手にあるものを遠ざける。
「でも、ね、もうこれ以上は……」
「大丈夫、これは希釈されたものだ。私の母である嫋は、このような薬で気をやらぬよな?」
呂苑は仙薬の封を開け、足をばたつかせて抵抗する嫋にそれを飲ませた。
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