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妖編
11.仲直り♡
しおりを挟む発情期が終わり、顔を真っ青にさせた藍狐が謝りに来たが、朱鷹は嫋に引き合せることはなかった。
適当に追い払い、さっさと屋敷の中へと戻る。
「嫋、嫋……」
「はぁっ……んぅ……しゅよう、さま……」
嫋は朱鷹に後ろから抱きつかれ、初めての恋に浮つきながら舌を絡ませていた。
朱鷹は嫋を傷つけてしまった一件から、とにかく嫋に触る時は細心の注意を心がけていた。
頬をなぞる朱鷹の手のひらはくすぐったいくらいで、嫋はクスクスと笑いながら朱鷹の手のひらに自らの顔を押し付ける。
朱鷹から見れば柔いとしか言いようのない手のひらで、相公の筋張った手をそっと握る。
朱鷹は毎日せっせと仙薬を塗り込んで包帯を替えてやった。そのおかげで、しばらくすれば嫋はいつも通り体を動かすこどができるようになった。
「嫋、かわいい……俺の娘子、俺の番」
「朱鷹さま、好き……好きです……んむっ、ん~♡」
ぴちゃぴちゃと舌を絡ませる。体はだいぶ良くなったものの、朱鷹はキス以上のことをしようとしなかった。
嫋は朱鷹の耳たぶを舐めながら、ふと気になっていたことを聞く。
「そういえば、朱鷹が取りに行っていたという薬とは何という薬なのですか?」
「……し、」
「し?」
「子宮を作る、薬……」
「……!」
嫋は驚いた顔で朱鷹を見る。
朱鷹は「子供がいれば屋敷にずっといてくれると思って……」と上目遣いで嫋の顔色を窺う。
「それ、は……嫋との、赤ちゃんが欲しいのですか? そんな薬があるなど、知りませんでした……」
「いろんなとこに妖たちの住処があるんだ。そこに住んでた妖に頼んで、借りてきた。娘子がいいなら、いつだって子作りしたい……」
朱鷹は嫋の柔い尻肉を堪能して左右に掻き分け、慎ましやかな穴をくぱりと開く。
嫋がそんな朱鷹に応えるように肉棒を下からなぞりあげ、袍の上から扱いた。
「嫋……」
「んっ……はぁ……」
(朱鷹様はいろんな妖鳥たちをこの屋敷に住まわせているし、その子たちの丁度いい遊び相手になるかも)
お互いの体を愛撫していると、ぽてぽてと幼児の足音が聞こえてきた。
「まーま?」
「あ? ああ、お前か」
嫋が逃げ出した時、じっと2人の交尾を見ていた妖である。この子は声帯を作れるようになり、少しの単語なら話せるようになっていた。
「赤ちゃんって聞いて来たのかも。ふふ、可愛いですね」
「嫋、作る気になったか?」
「ううん、どうしよっかなぁ……」
2人はちゅっちゅっと触れるだけの口付けを交わす。朱鷹はそっと後ろから腹に腕を回し、スリスリと下腹部を撫でた。
トン、トン、とへその辺りを叩かれ、嫋は頬を紅潮させて湿った吐息を漏らす。
「あかちゃ!」
妖はキラキラと目輝かせ、嫋の平らなお腹に耳をつける。しかしなんの音もしないため、こてりと首を傾げた。
「はは、お腹の音聞いてら」
「んっ……ごめんね、まだいないの。ねえ朱鷹様、あまりこの子を待たせてはいけませんね」
「嫋、それって!」
「今日の夜、娘子と仲直りの交尾をしてくださいませ……相公……♡」
「……!」
看病の間触れられなかったのだから、幾日ぶりだろうか。朱鷹は袍を脱がそうと手をかけたが、嫋にそっと止められた。
「もう、夜にと言っているでしょう? 堪え性のない相公は娘子に嫌われますよ」
「う……ごめん」
─────
その日の夜、朱鷹は嫋に言われ、夫婦の部屋の外で待っていた。
部屋の中から朱鷹を呼ぶ声が聞こえ、やっとか、と扉を掴む。
「───!」
「……」
部屋に入ると、寝台に腰かけた嫋が待っていた。朱鷹が驚いたのはその衣裳だ。伝統的な赤い花嫁衣裳を着て、顔を紅蓋頭で隠している。
紅蓋頭は花嫁が頭から被る厚いベールのようなもので、夫となる人間がベールを上げるまで顔を隠す役割をしている。
赤い花嫁衣裳は初めてここに来た時にも着ていたものの、紅蓋頭までは被っていなかった。自力で屋敷まで登る必要があったからだ。
お互いの気持ちを通わせることが出来たのだから、夫婦としてやり直したい、と考えた嫋が準備したのだ。
座っている嫋に近づき、緊張に震える手でゆっくりと布を持ち上げた。嫋が瞼を上げ、朱鷹と視線が合う。
スっと細い顎、ぽってりとした唇、桃のようなまろい頬、優しげな目尻が姿を現し、朱鷹は思わず息を吐いた。
自分の娘子がこんなに美しいものだったのかと、初めて嫋を見た時のように朱鷹の胸は高鳴る。
朱鷹が寝台に乗り上げ、木の軋む音が部屋に響く。嫋の顎をすくい上げ、触れるだけの口付けをした。
ベールを下に敷いて押し倒され、嫋は恥ずかしげに朱鷹の胸に抱きつく。
「朱鷹様……あな、た……」
「娘子、娘子……」
今までにないくらい丁寧に前戯を行い、全身に鬱血痕を付けていく。
嫋はいつになく優しいその愛撫に戸惑い、何度も早く入れてと涙をこぼす。朱鷹はやっとそれを聞き入れ、正常位で向き合ったまま、ゆっくりと嫋の中に入った。
ちゅぷ……ずぷぷっ♡
「好きだ、愛してる……嫋……」
「はぁ、んっ♡ 嫋も、あなたをお慕いしております……♡」
嫋のヒダが朱鷹の肉棒を愛撫し、粘液を絡めながらもっと奥へと誘う。朱鷹は腰をガツガツと穿ちたいのを我慢して、ゆっくりと深いストロークを何度も繰り返す。
「はあぁ……♡ 気持ちいいっ、ですね……んぅ、ふふっ♡ あなた、相公……♡ 」
「ッ夢みたいだ、嫋……」
恋人繋ぎをして、額をコツンと合わせたまま腰を揺らす。
嫋が朱鷹の唇をべろりと舐め、犬のように舌を差し出した。朱鷹が舌を絡め、くちゅくちゅと絡み合った唾液を嫋が飲み込む。
深いキスをしたままグッと結腸口を押しつぶすように腰を進めれば、嫋は愛らしく腰を跳ねさせた。
腹がビクビクと震え、ヒダがぬりゅぬりゅと肉棒を抱きしめて蠕動する。
「ん゛っ♡ んふふ、んむぅ……ッ♡♡」
「ぐ、んっ……!」
ぐ……ぐぽんッ♡ びゅーっ、びゅるるッ♡
「んぎゅッ♡、ッ~~~────♡♡」
嫋が足を朱鷹の後ろにまわし、太ももを震わせながら朱鷹の腰をぎゅっと抱き締めた。もっと奥へ、と結合部分に隙間がないほど引き寄せる。
嫋の結腸内で射精され、朱鷹の白濁が蠢くヒダを汚す。
情けなく眉を下げながら嫋のナカに種を撒く夫が愛おしく、揶揄うように上顎をちろちろと舐める。
繋がれた手の力が強くなり、ゴツンッと奥を殴られた。目の前の雄に支配される感覚に、胸がきゅんと鳴く。
嫋は口元に笑みを浮かべながら、汗の湿った喉を仰け反らせて絶頂した。
それからというものの、二人は妲己も裸足で逃げ出すほど淫猥に浸り、屋敷の中でまぐわっていない場所はないだろうというほど交尾に夢中になっていた。
食事中も、風呂に入る時も、髪を梳かす少しの間でさえ互いの体を愛撫し、爛れた性生活を享受している。
以前と違ったのは、嫋が体だけでなく心の奥底で朱鷹を愛していることだ。乙女のようにその恋に胸を高鳴らせ、朱鷹の全てを求めている。
ある日、嫋は縁側で朱鷹の肉棒をさわさわと撫でさすりながら、耳元で囁いた。
「娘子にあなたの子供を産ませてくださいませ……♡」
数週間後、嫋の腹はぽっこりと膨れていた。無事妊娠したのだ。
(朱鷹様との赤ちゃんが、嫋のお腹の中に……)
さす、と腹をさする。お腹の子供は卵で生まれるため、胎動はない。それでも卵が大きくなっていく感覚はわかる。
母体にさわるから、と朱鷹にあらゆる家事を禁止されている間、嫋は本を読み、鷲の生態を勉強した。
いわく、交尾を経て数週間から1ヶ月半で産卵するのだという。
人間より遥かに短いため、嫋は親になるのだ、という自覚を持つより早く腹が膨れていた。男である自分が子供を産むなんて、と不思議な気持ちもある。
洗濯物を干すことすらさせてもらえなくなって、嫋は退屈そうに揺れる袍を眺める。
(もう、少しくらいなら大丈夫って言ったのに……)
朱鷹は今日の分の狩りに出ている。嫋の出産が近いのもあって、獲物の状態にもより気を配るようになった。
「あっ!」
ひら、と袍が風に飛ばされる。
嫋は腹を抱えるように立ち上がり、屋敷の木に引っかかった袍を拾う。土を軽くはたいて、急いで屋敷の中へと戻った。
あまり朱鷹を心配させたくないのだ。
「……」
袍を干し直している嫋を見つめている男が1人。その男は嫋の膨れた腹を見て、怪訝な顔をする。
男はやがて馬に乗り、その山を去った。男の行く先は、この広大な帝国の帝都・長安。
皇帝───名を呂 苑の住まう皇城である。
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