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七章 もふもふファミリーと闘技大会(本編)

85 因縁の敵

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執務室に踏み込む前、僕たちはある程度作戦を耳にしていた。
ワレワ皇帝に僕の事情を話し、そこから今回の誘導作戦を聞いた。

「まずは敵の封じ込め作戦だ。昨日ルークに頼んだ分体設置作業。これの示す所は相手の行動範囲を絞ることにあった」

室内のテーブルには帝都の全貌が描かれたマップを広げ、ペンで印をつけた場所がクエストの設置位置。

「広くて大変でした」
「悪かったな。報酬ははずむから」
「だからってエントリーされるとは思いませんでした。恩を仇で返された気分です」
「それが親父に言え。俺は無関係だ」
「ワシャール様のこと嫌いになりそうです」
「嫌われてしまったかのう?」

茶番を挟みつつ、オーレンさんの説明は続く。
要点を掻い摘めば、敢えて全ての行動を封じるのではなく、相手に先手を打たせる。そのために追い詰めるのだそう。
つまりある程度の被害者を出す前提と聞いて僕は顔を顰める。

「どうしてそんな手間な事をするんですか?」
「弔い合戦も兼ねておる。ある日を境に私の右腕がよそよそしくなった」

ワシャール様の語り出し。
それは8年前まで遡る。コロニア王国から離反した貴族達で建国した帝国の歴史を知っていれば、王国と手を組むのは反逆の証。

もちろん表向きは有効的にしつつも、内心では距離を置く。
そうやって過ごしてきたのに、ワシャール様を裏切って取引をしていた事を知った。
その手引きをしていた相手がソル=マック将軍だった。

「8年前と言うと、俺が家出する前だよな。入れ替わってたなんて知らなかったぜ」
「私も気になりませんでした」
「それもそうだろう。やたらと周囲を警戒する様になったからな。お前達にとっては物静かな従者なのかもしれんが、私にとっては気さくに語れる友でもあった」

そんな相手が他人みたいに冷たくなった。
帝国の皇帝とその従者。
仲良くなりすぎても他国に示しがつかないとも見えるので、ワシャール様の気にしすぎと誰もが思っていたそうだ。

「しかしワシャール様は違和感が拭えなかったと?」
「ああ、私の枕元で啜り泣く声が聞こえてくるのよ」
「じゃあ蘇生させてみましょうか?」
「何!?」

ピヨちゃんの力を見せつけると共に、生き返ったことに驚いたのはワシャール様よりも8年前に殺されたソル将軍さんの方だった。
普通驚くよね、わかるよ。

「お前なのか、ソル?」
「お久しぶりでございます、陛下」
「お前ほどの物が討ち取られるなんて、8年前に何があった?」
「それが……」

ソル将軍が当時の出来事を昨日の様に語り出す。
長らく疎遠になっていた弟から連絡があり、一目見ようと向かった先で病気にかかった。
それは死に至る病で、病床に伏している間に弟がソル将軍になり変わって帰国、好き勝手やり始めたそうだ。

弟のクーロさんは帝国貴族にしては正々堂々を嫌う卑怯な性格の子供だったそうだ。勝つためならあらゆる手段を使い、場外戦術の方が得意という騎士になるにはあまりにも小根が腐っていたそうだ。

マック家から追放された後、帝国内を彷徨うが定住できる場所が見つからず、コロニア王国で世話になり。そこで帝国の領土を手土産に高待遇を約束してきたのだそうだ。

その話を聞いた時、ワシャール様の静かな怒りが室内にヒビを入れた。プレッシャーで壁の砕いたのだ。
僕やオーレンさんは耐えられたけど、ワレワ皇帝は失神しちゃってたよ。

で、大元の作戦は。
僕のゴミ拾いを封印した上で強力な傭兵として引きつれる。
要はロキに変身した状態で相手の会議室に乗り込むと言う物だった。

ワシャール様やワレワ皇帝に自分のスキルを説明した時に発覚した、僕にも使えたシャドウストレージ。
ニャンゾウさんの固有スキルと思ったが、キッカも普通に使えたんだよね。

その固有スキルを引用しながら影の中にオーレンさんとソル将軍を隠して突入。
変身中でも固有スキルも使えるのが嬉しいよね。

そこにいた相手の方が僕にとってはショックが大きかった。
と言うのも、オーレンさんに聞いた所、ゴトーというAランク冒険者なんて知らないと言われた事から始まる。

Aランクは国によって決められる最高位。
帝国のAランクじゃなければどこの?
そう考えてる矢先に答えを教えてくれた。
相手はコロニア王国のAランクなのだそうだ。
相棒に聖龍教会の神官を引き連れ、帝国を奪いにきたとそう聞いた時、僕は悲しくなったのと同時にキッカの怒りが僕に伝わってくるのを感じている。

絆レベルは低く、融合にまでは至れない。
けど。ここで鬱憤を晴らす機会を与えなければ信頼そのものを失いそうな危惧があった。


『ニャンゾウ、僕の体をキッカに任せる。制御は任せる』
『相手はコローニャの残党であるか。我々で始末してしまってよろしいのか?』
『被害は気にしなくて良い。僕の方でなんとかする』
『何から何までかたじけない。このニャンゾウ、若の元で遣えられて感激の極み!』
『感謝は後。確実に仕留めて』
『御意に御座います』

分体に意識をやり、本体をキッカに任せる。

『ニャゴォオオオオオオオウ!!!!』

巨大化した四尾のニャンジャーが、手の甲に四本のかぎ爪を生やして残像を残しながら縦横無尽にゴトーさんへ飛びかかる。

『おっと、こっちにもいるでござるよ』
「チィ、分身か!? 厄介な! グゥルゥオオオオオオオオ!!」

ゴトーさんがさらに肥大化させ、ブレスを吐き出す。
これじゃあ龍だ。
いや、半分龍なのだろう、当時バファリンを襲った相手も人の形をしていた。龍が一体なんなのかわからなくなる。

ブレスが会場に撒き散らされると、その場に這いつくばっていた人々が、その場で分解されてヘドロになった。
そのヘドロがゴトーさんの元へ集まると増えていく。

知らない菌だ。
本体じゃないと菌の取得ができないのが痛い。
あとで生き返らせてあげるから。だから今はごめんなさいとその死体を影に隠す。

分体にも固有スキルを使うことが出来る。
無事な人も、無事じゃない人も目につく人から影に沈めた。
ヘドロの回収が出来ないと、ゴトーさんも困るみたいだ。
だからそっちを一生懸命集めた。

「なーんか、あたし達の邪魔してる奴がいるわね?」

そこへ、影に隠れてる僕を射抜く様な視線が投げかけられる。
それはかつての聖龍教会の神官の様な出立をした少女だった。


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