もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜

双葉 鳴|◉〻◉)

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七章 もふもふファミリーと闘技大会(本編)

83 闘技大会③暗躍

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「?」

首に手を当てる。今何か衝撃があったような?
振り返ると先ほど僕を案内してくれた人が衝撃を受けていた。

「あの、オーレン様が呼んでいるのではなかったのですか?」
「なんで今ので気絶しないんだ?」
「ふーん、騙したんだ?」

なんてこった。まさか僕は罠に嵌められたと言うことか。
それはそれとしてちょっと許せないので浮遊を使って天井に向かって引き寄せる。
天井に縛り付けられた人は喚きながら僕に何か文句を言ってたけど気にせず席に戻った。

「おかえりなさい、オーレン様はなんて?」
「手違いがあったようですよ。ついでに用を足してきたので、ゆっくり観戦できますね」
「お疲れ様。丁度小腹が空いたので食事をいただいてたんですよ。お食事を一緒にどうですか?」
「ありがとうございます。お弁当持ってきたんですけど、屋台があるなんて知らなかったから」
「ではおひとついただいてよろしいでしょうか?」
「じゃあお裾分けで」

お互いにお昼を交換する。
アセトお嬢様はサックサクのパンとスープ。
後サラダだ。僕は例のロンローンの蒸し煮巻き。
それをカットしてスープに落として提供する。

「ライスですか。あまり食べなれないものですが。すごく美味しいですね、このお魚は初めて食べる味です」
「これはロンローンですね」
「えっそれっとエス=タックの名物料理じゃないですか?ワクティンで食べられるだなんて思いもしませんでした。以前食べたのより味が強くて上品なお味です。脂身もそこまで強くないので、幾つでも食べられてしまいます」
「こちらのパンもサクサクで美味しいです」
「それはクロワッサンと言うのですよ。こうやってナイフで切って、サラダを挟んで食すのです」
「なるほど、こんなリッチなお食事初めてです」
「そうなんですね、食べなれてるのでもっと多くの街で食べられてるのかと思ってました。もしよろしければルークさんが普段食べているものも知りたいですわ。あいにくとわたくしはお友達と呼べる方も多くありませんので」
「僕なんかでよければ」

その後平民食談義に花を咲かせる。
食事中は三組目と四組目の試合をやっていた。
どちらもバランスが取れていて一進一退で攻めあぐねていた。
お互いに顔見知りなのか、苦手意識を持ってる感じを受けた。
あ、クロワッサンとサラダがよく合う。
単品でも美味しいけど、サラダにもよく合うにくいヤツだ。後で作り方教わろう。
兄さん達もきっと食べたいだろうし。

「おーい! ルーク」

言ってる側から兄さんが来た。
そう言えば差し入れに行くのを忘れてた。
勝ち抜いた四人組に注目が浴び、けどそんな視線なんて気にした様子もなく僕からロンローンの蒸し煮セットを受け取るとそのまま控え室に帰っていく。

「お兄様はこれを受け取りに来たんですね」
「差し入れに行くって言っておいて行かなかったから取りに来たんだと思う」
「まぁ、引き留めてしまってましたか?」
「いえ、僕もすっかり忘れてましたので。おかわりいかがですか?」
「でしたら是非、次は単品で頂けますか」
「ええ」

なんだかおっとりしてるアセトお嬢様のおかげで時間がゆっくり進むよね。
キサム達は屋台メニューですっかりお腹いっぱいにしてるし、ロンローンは僕たちで消費した。

「ここに居たか、ルーク」
「あ、ストナさん。ロンローンですか?」
「ああ、だが私以上にご指名している御仁がいてな」

後ろには人目から隠れるように周囲を見回すオーレン様が居た。
僕は看破でかろうじて見えるけど、他の人はそこにオーレン様がいるとは気付いてないようだ。

「分かりました。呼んでるのは僕のみですか?」
「そうだな。私は次の試合に出るからお仲間の護衛はできないが……」
「ならロキ達をつけます」
「本物がいるなら問題はないか。それにしても驚いたぞ、まさか本戦にエントリーしてるなんて。カチ合わないことを祈るばかりだ」
「そのことも合わせて責任を追及したいと思います」
「あまり困らせぬようにな、あの人もあの人でいろんなしがらみに絡まれてるんだ」

だからって僕に迷惑かけて良い事にはなりませんけどね?
僕は言葉には出さずににこやかに微笑んだ。

「さっきはひどいじゃないですか」
「さっき? なんの話だ」
「僕を呼びに来たって言う人に襲われましたよ。返り討ちにしましたが」
「チッ、早速動き出したか」

オーレンさんはそれを予見していたにも関わらず、僕に被害が出ていたことを知って苦虫を噛み潰した顔をした。

「動き出したとは?」
「お前の噂が突然広まった。俺が来る前に誰かと顔を合わせたか?」
「アミノフェン家の当主様と。そこのご令嬢からぬいぐるみのご注文をいただいたんです」
「あいつか! 情報を売って回ってるのは」
「カロナールさんが僕の情報を? 一体どうして」
「きっと自分のものにならないと知って情報を売り渡したんだろう。自分の手に負えずとも、力づくでなんとかできるやつが揃ってるからな。それに、帝都では貴族の権力が強い」
「闘技大会中に仕掛けてくるなんて……皇帝様が怖くないんですか?」
「兄貴は大義のためなら多少の犠牲を見逃すタイプだ。それをよくわかってる相手がバッグに居る」
「やっぱり僕、来なければよかったです」

こんな面倒なことになるなら、バファリンでのんびり暮らしたかった。

「本当にすまん。そもそもゼリーエースを引っ張ったのも、ルークをシードに組み込んだのももとはと言えば親父のせいでな」
「ワシャール様が?」
「ああ、相当にお前を気に入ったそうだ。そして俺のやり方じゃ、お前を守りきれないとした」
「ちゃんと言葉で伝えてください。急には困ります」
「ルークを表舞台に上げるのは俺だって反対だ。親父にだって反発したさ、もしルークが表舞台に上がるんなら、俺も帝都を発つって」
「でもワシャール様側についた理由があるんですね?」
「ああ、落ち着ける場所に行こう。こっちだ」

そこは壁だった。
ドアノブも何もない壁。
しかしオーレンさんが手をかざすと、クルンと一回転した。
ついてこいと顎で促すので、僕も同様に手を当てるとバンドが反応して薄ぼんやりとした通路へ通された。

「ここは皇族の脱出ルートでな、白いバンドを持つもの以外通れない仕掛けが施されている。だが厄介なことに黒いバンドを持ってる奴も通れるんだ」
「高位貴族ですね?」
「ああ、俺の協力者であるサプリ家とは別の家が動いてる。兄貴に協力するという体で人身売買に手をつけてる奴らだ。親父はルークをその囮にしようって腹づもりだったそうだ」
「尚更言ってくださいよ!」
「だが実際は返り討ちだろ?」
「僕にだって心の準備がありますから。でも、どうして僕たちをエントリーさせるって話になるんです?」

それをすることで僕にメリットがまるでない。

「お前が弱いままだと今後の取引が困るんだ。だから強さを見せつけてもらいたい。その上で勇者候補として選定する」
「あの、嫌ですよ?」
「分かってる。狙いは候補に挙げるほどに強く、しかし所詮は候補で勇者にはしない。これは各国がそれぞれ選定しあってトップを決めるものなんだが、基本的に候補に上がったからって生活を縛られることはない。要は首輪だな」
「なんかSランクのような扱いですね」
「概ねその認識で合ってるよ。まぁルークが思ってるより規模は小さいな。勇者に求められる技能はせいぜい災害級をソロ討伐するくらいだ。龍を討伐してるお前が気負うほどの仕事じゃないさ。要は帝国公認Sクラスって奴だ。勇者になるかどうかはルークに任せるよ。飽きたらいつでも返上してくれて良い」
「まぁ、そんなに気負わなくて良いなら受けますけど。でもやると言ってもどれほどやれば良いんです?」
「あぁ、まぁコテンパンにやっつけて良いぞ? 俺も親父もお前を勇者候補にするつもりで動くし」
「でもロキがハンターラビットだとバラすのは流石にやめた方がいいですよね?」
「いや、その方が信憑性が高まるな。相手の貴族が早まった真似しても脅しやすい。それにお前にはピヨちゃんが居たろ? 頼めば死者も蘇生してくれるって話そじゃねーか」
「そんなことしたらもっと面倒なことになりますよ。まぁプロフェンは子犬モードにはしておきます。ソニンも通常モードで。あ、新しく増えた獣魔もいるんですがどうしましょう?」
「また増えたのか?」
「ワイバーンとニャンジャーっていう古代種ですね。浮遊大陸で出会いました」
「待て待て待て」

そんな話聞いてないぞって顔をされる。
そりゃ今言いましたし? してやったという顔で意趣返ししてやった。

「全く、ワイバーンはともかくニャンジャーなんて聞いたことないぞ? どんな種族だ?」
「猫ちゃんですね。ただし僕くらい大きくて、にゃん術という魔法チックなスキルを多用します。500年くらい生きてるみたいなこと言ってました」
「古代文明の頃かぁ……プロフェンに続いてとんでもないのに懐かれたな。分かった、獣魔登録してるんなら出して良い」
「大惨事になりますよ?」
「お前を敵に回して国が滅ぶことに比べりゃ些細なこった」

なんか僕、破壊神みたいな扱いじゃない?

「ここだ。親父、入るぜ!」

ノックもなしに押し入るオーレンさん。
部屋主は驚きつつも、待っていたぞという顔で迎え入れてくれた。そこには懐かしいワシャール様と、オーレンさんを気難しくさせた人が会談していた。

「よく来たね、坊や」
「この子供が、勇者候補?」
「初めまして、ルークといいます」

僕はぺこりと挨拶をして、会談に加わった。
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