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七章 もふもふファミリーと闘技大会(本編)

82 闘技大会②大逆転

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主催者側の挨拶が終われば早速第一試合が始まる。
会場内に二つのステージがあり、一組目と二組目の試合が同時進行で始まった。

一組目はハイゼリーエースVSベアーズ。
BET形式の下馬評は0:100で兄さん達は当て馬扱いを受けていた。
それもその筈、相手は前回の闘技大会で3位に残った英傑パーティー。ポッと出の兄さん達が勝てる相手ではない。

「〝あーっと、ハイゼリーエースのアスター選手! 防戦一方! これは早速攻撃の手を封じられてしまったかー!?〟」
「〝ベアーズは相変わらずの順調な滑り出し。見た目と違って手先の器用さに初対戦の相手はさぞ戸惑うことでしょう〟」

アナウンサーが早速ベアーズヨイショを唱える。
恒例行事なのか、会場はベアーズの応援一色だ。
僕たちの応援の声はすっかりかき消されてしまう。

「まずいぜアスターさん、防いでばかりじゃこのままタイムアウトだ」
「さすがに相手は上位ランカーだね。対人戦の心得をわかってるね。悔しいが、強いよベアーズは」

キサムやトラネは試合をすっかり楽しみながら観戦してる。
数試合後に自分たちが出るなんてまるで考えちゃいないんだよねぇ。君たち、後でその舞台に行くんだよ。串焼き頬張ってる場合じゃないって。僕は今から胃が痛いってのに。

『ニャンゾウさん、居る?』
『どうされました、若』

いつのまにか僕の呼び名が主人から若になってた。
キッカ姫の契約者だからかな?
忠臣としては姫か若かと言ったところか。

ちなみに意味合いは皇子様と同じらしい。恐れ多いよ。

『ロキ達に帰ってくるように通達、影の中で待機してもらって良い?』
『……はて、我らに活躍する出番があるのですか?』

そんなの聞いてない、みたいな間。
僕だって知らないんだよ。後出しで言われたんだから。

『インフィにも人化して出てきてもらう必要が出てきたから、それも含めて伝えておいて』
『御意にございます』

念話でお願いすると、すぐにロキから念話が来る。
もう通達が終わったのか、早い。

『どうしたんだ、あるじ? 俺たちの出番はないって話だったはずだ。だからニャンジャーの里で遊んでたんだが』

遊ぶ……の内容は敢えて聞かない。
ロキは割とニャンゾウさんに恐れられてるところがあるから、組み手をしたら組み手では済まなそうな気配がある。

『それがさー、試合が始まっていきなり知らされたんだよね。急に抜擢されたから、詳しくは知らないけど戦う準備だけしといて』
『ふぅん。それってどこまでやって良いんだ?』

意外なことにロキは乗り気だ。
ずっと影の中にいて運動の一つでもしたいのかもしれないね。

『多分本気はNG、通常冒険者スタイルで分体に憑依する形で』
『そこは全然問題ない。スキルがありかなしかで聞いてるんだ』
『まぁスキルくらいはいいんじゃない? 僕も使わせてもらうし』
『よし! その時になったら教えろ! ちょっとニャンジャー達と組み手してくる!』

すごく乗り気で帰っていった。ニャンジャー達、いじめられてないと良いけど。

「ルークさん、難しい顔をされてますけど大丈夫ですか?」

横からアセトお嬢様の心配そうな声がかけられる。

「ええ、いまだになんで僕たちがエントリーされてるのか皆目見当もつかず、気ばかり焦ってしまって」
「そう、ですよね。わたくしも切羽詰まると頭が真っ白になってしまって、慌ててしまうんですよ」

それで出来上がったクエスト用紙を思い出し、確かにあれは正気で発注できるクエストじゃないなと思い返す。

「意外です」
「ふふ、気を遣って頂いてありがとうございます。本当にルークさんは年齢の割にしっかりしていて。わたくしはお姉さんなのに全然ダメダメで恥ずかしくなってしまうほどですよ」
「実は僕も一人じゃダメダメで。特に最初なんて兄さんにお世話になりっぱなしなんですよ」
「そのお兄様が今、戦っていらしてるんですよね? あいにくとわたくしは戦うことは詳しくないのですが、ルークさんから見たらどのような試合運びをすれば勝てるかなど教えてくださいますか?」
「ええ、それくらいでしたら」

どちらが気を遣ってくれているのやら。
すっかりアセトお嬢様のペースで、僕は兄さん達とベアーズの実力差を数値化して教える。
そうやって教えながら、緊張することなく試合を見ることができた。

「まぁ、では実力的にそこまで差はないと?」
「ええ、兄さん達との違いは体格と、この舞台での場慣れ具合だと思います。兄さん達は完全にアウェイで、何か動くたびにヤジまで飛んできます。これじゃあ実力は出せません」

なんにせよ、観客は対戦相手に勝負を賭けてお金をかけられるシステムだ。商人以上、または貴族に許された特権かどうかが知らないけど、そこかしこで熱のこもった応援が飛んでいる。
この中で活躍しろっていう方が無理だ。
何せ兄さん達が活躍すれば破産、もしくは大損するのだ。
負けて欲しいと祈る気持ちもわかる。

「もしわたくしがその場に立ったらきっと何もできないかもしれませんね」

貴族や商人から目をつけられるという意味じゃ、冒険者にとっては良いことづくめなんだけどね。
子飼いの冒険者に釣りをつけられた貴族は、切り替えどきを考えるかもしれない。
Cランクなら商人に名前を覚えてもらえる。

「僕もきっと萎縮しちゃいます」
「ならエントリーは不服だったんですか?」
「今日は本当に応援以外の目的もなかったので、不服というより予想外、アクシデントくらいのものですね。何せ今日に向けてコンディションも何も合わせてません。ダラダラする気で来てます」
「まぁ。それは確かに運営の手腕を疑いますわ」
「裏を返せばそれだけ期待されてるのかもしれません」

すごいのですね、こんなに小さいのにと頭を撫でられた。
普段ロキはこんな気分なんだろうか?
僕は満更でもなさげに受け止めた。

試合は中盤に差し掛かり、ブーイングの飛び交う中でルテインさんが切り掛かる。

「〝あーっと、ここでルテインせんしゅがうごきだしたー! コング選手、これは流石の剛体も切り崩されるかーー!!〟」

その隙を見逃す兄さん達ではない。前衛が三人という状況で防戦一方なのだ。守るのは得意ではないのに守りきれていたというのはすなわち、ストックさんが裏でバフを重ねがけしていたという事。

ルテインさんが切り開いた隙を鬱屈した感情を撒き散らすようにミキリーさんが大男の隙間を縫うように駆け抜ける。
一瞬にして血だらけになってうめく大男達。ブーイングがさらに高まり、そこへ兄さんの抜刀。
元いた場所から大男をすり抜けて、納刀すると、退治した大男が脇腹を大きく切られて膝から崩れ落ちた。

勝負あり。一人、また一人と仕留められて兄さん達は中盤からひっくり返して圧勝した。

「〝これは大番狂せが起きてしまいました! 一組目はの勝者はハイゼリーエースだ~~!!〟」
「〝これは誰も予想できなかったんじゃないでしょうか? ベアーズにBETしてた方はご愁傷様です〟」
「〝実際私もベアーズに欠けていましたが、流石に中途エントリーされただけはあります。ハイゼリーエース、今日は彼らの戦いに注目していきたいところです〟」
「〝ええ、負け分を回収できるかどうかも見ものです。二組目も勝負がついたようですね〟」

アナウンサーの気になるところは終始BETの負け分の回収の有無だけだったのがこの闘技大会の全貌を表しているよね。

冒険者側は名前を売れて、商人や貴族は小銭を稼げて、国はそれを見てAランクを決める。
良くも悪くもこの闘技大会でいろんな思惑が見れるよね。
そこに来て“龍”の気配。

きな臭くなってきた。
そんな場所に僕たちが入り込んで良いのだろうか?

「失礼します、ルーク様でよろしかったですか? オーレン様がお呼びです」

席までバレてるのか、なんとも言えない顔でオーレン様の元へ。
文句の一つでも言ってやらなければ気が済まない。
そう思っている矢先、僕の背後から何か強い衝撃が走った。
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