81 / 88
七章 もふもふファミリーと闘技大会(本編)
81 闘技大会①エントリー
しおりを挟む
いよいよ待ちに待った闘技大会当日。
事前にチケットを買っておいたので慌てずに席まで辿り着ける。
「さすが帝都だな。客席のすぐ近くに屋台を置いて購買欲を誘ってきやがる」
お弁当を持ってきてるのに、誘惑に負けたと降参するキサム。
トラネはプロフェンぐるみを抱っこしながら試合開始を待っていた。
「キサム。始まるよ!」
「あの串肉うまそうだな。ちょっと買ってくる」
「あ、もう」
行っちゃった。
こんな開けた空間で肉の焼ける匂いを蔓延させたらキサムみたいな食いしん坊は食いついて当たり前。それなりに行列ができていた。
「あら、ルークさん。偶然ですね」
「アセトお嬢様?」
「プライベートできてますのでアセト、で構いませんわ」
隣の席にはアセトさんが座る。貴族なら貴族専用の席があるんじゃないだろうか? 護衛の人はゴトーさんではなくなっていた。
「噂は聞いてるよ、妹が世話になったそうだね」
ニコニコと笑う人は、アセトお嬢様のお兄さんだったみたいだ。
「本日はご観戦ですか。平民の僕たちと同じ席で大丈夫なんですかね?」
「君は面白いことを言うなぁ。ここは貴族席だよ? 平民の席はあっち」
「え、僕たち席間違えてる?」
慌てて席番号を確認するが、東側-230と言う数字は一緒だった。ならばなぜこんなことが起こったのかと言えば、それは手配した人が貴族だからである。
「いや、間違えてないよ。キミ、英傑の一人であるビーストテイマーストナのサポーターなんでしょ?」
「ストナさんとは仲良くさせていただいてますが、英傑というのは初耳です」
そんなすごい人だったんだ、あの人。
兄さんと同じ匂いがしてたのでダメ人間認定してたけど、今度からはもっと敬わなくちゃ。
そういえば赤いバンドしてたもんね。
「ストナ=アイビー。彼女は英傑でありながら侯爵家のご令嬢でもある。そんな彼女からのチケットを手配したのなら、君たちも貴族の身分を与えられるのさ。喜ばしいことだよ?」
貴族じゃないかとは思っていたけど、予想よりだいぶ高い位置にいたね、ストナさん。
「そんなすごい席だったんですね、ここ」
「どのように取り入ったのか、是非お話を聞きたいものだね。彼女は貴族に対してどこか距離を置きたがる。どうやって心を開かせたのか、すごく興味があるんだ」
グイグイ来るなぁ、この人。アセトお嬢様はどこか距離を置きたがるイメージだったけど真逆だ。
「お兄様! ダメですよ! ルークさんが困ってます」
「と、妹に怒られてしまった。観戦しながらでもゆっくり語ろうじゃないか。申し遅れたね、私はカロナール。カロナール=アミノフェン子爵だ。父上から正式に子爵の名を引き継いで、今日はこの席で将来抱えるだろうAランク冒険者を見定めにきた。キミのお名前を聞かせてくれるかい?」
さっきお嬢様から僕の名前を聞いておきながら聞くってことは、聞きたいのは名前だけじゃないんだろうな。
お貴族様だしなぁ、こうやって近づいてくるってことは既に裏を取ってる可能性も高いか。なら、ある程度は話しちゃってていいかな。どうせ遅かれ早かれバレるし。
トラネは他人のフリしながらプロフェンぐるみをモフってる。
この……! キサムもキサムで帰ってこないし。
はぁ、しょうがない。自分一人で乗り切るか。
どうもお兄さんは僕に興味がおありのようだ。
「ルークと言います。バファリンの街でDランク冒険者と、商業ギルドの方で毛皮修復師を名乗らせていただいてます。そのほかに『うさぎのお宿』と言うテイムモンスターのカフェを経営しています。どうぞよろしくお願いします、カロナール様」
これでどうだ?
魔導具師の方は敢えて隠した。
元皇帝陛下の師事を受けたなんて現役貴族に聞かせたら大目玉だもんね。
「へぇ、まだ子供なのに店舗経営者だったとは。それにテイムモンスターのカフェ? なるほど、共通点はそこか。今日はテイムモンスターは?」
「観客席にまで連れ込むのはマナー違反かと思いまして(ニャンジャーの里)に預けてます」
「(厩舎に)預けてる? 成る程。確かに、闘技大会に出るのでもないのに観客席にテイムモンスターを持ち込むのを嫌う貴族も多い」
「ええ(貴族席だなんて知らなかったけど)マナーですから」
「そうだね、マナーだ」
はっはっはと笑い合いながら席に着く。
もう終わった? と言う顔でトラネが顔を覗かせた。
そのほっぺを両側で掴み取ってやりたくなったけど我慢した。
「はいよー。出前一丁上がりだ!」
肝を冷やすやりとりの後、キサムの能天気な声が真上からかかった。
お弁当持参なのにやたら買い込んできてる。
この子、自分が無駄遣いしてるって感覚がないのだろうか?
帰りに報酬をもらえるからって、手持ちを使い切らなくてもいいだろうに。
「いやー、なんかこのバンドに店主さんがびびっちまってさ。なんかいっぱい奢ってくれたぜ?」
掲げるバンドは白。皇族、またはそれに連なるものに贈呈される身分証だった。
それに興味を示すカロナールさん。人が悪いなぁ、といつの間にか席をアセトお嬢様と変えて肘を突いてくる。
「まさか皇族関係者だったとは」
「オーレン皇子とバファリンでよくしていただいたので」
「だからってその全員がそれをつけられるわけではない。だが君たちはつけてるね?」
なんか面倒なこと嗅ぎつけてないかな、この人。
悪巧みを思いついた兄さんみたいな顔してる。
こんな人が子爵について大丈夫なのかな?
ロキぐるみをギュッと握る。
「おや、それは妹が言っていたぬいぐるみだね。少し貸してもらえるかい?」
むんず、と頭を掴んで持ち上げた。
ちょっと、勝手に取らないで!
まだ貸すって言ってないのに取り上げられる。
「おぉ、きちんと重さがある。それに独特の匂いとこの毛並み……出回ってるハンターラビットの毛皮と同質と見るが、どうだい?」
なんて言うか失礼な人だなって印象が拭えない。
さっきからアセトお嬢様はソワソワしてるし。
「僕は毛皮修復師です。その技術をどこに活かすかは僕の勝手に思いますが?」
「全くもってその通りだ。ちなみに買いつけるならこれはいくらになるんだ? 私も一つ欲しいな」
「まずはお作りするのにそれなりの期間を頂きます。そしてアセトお嬢様より平民と同じ価格はあまりにも安いとおっしゃられたので、お嬢様のつけた値段を貴族基準とするようにクエストを受けさせてもらいました」
「つまりうちの妹の一声で基準が変わるのだな?」
「はい。ただ大量生産はしてませんので、大量に発注されても製作期間を問わずにお待ちいただくことになります」
「ふぅむ。友好の印に貴族達に配ろうとしたがダメか」
「あまり大量に受注はしない約束でコーエンさんやザイムさんにお願いしてますから」
「待て待て待て。どうしてここでサプリ家の財務大臣のご子息の名が上がる?」
はて? サプリ家とは一体?
「これは知らないって顔だな? 全くどんな人脈を築いてるんだ。皇族にサプリ家、更にはアイビー家だと? 私なんかの出る幕はないではないか! 急用を思い出した、私は実家に戻る。アセトはここで観戦してなさい」
言うだけ言ってうるさい人は出ていった。
良かった観戦中も質問攻めだったら気苦労でロキぬぐるみが禿げるところだったよ。リアルと違ってぬいぐるみだから抜け毛がすごいんだ。
「お兄様もお忙しそうですね」
「きっとルークさんを囲うつもりで来たのだと思う。ゆくゆくはアイビー家と仲良くしたいって魂胆が丸見えね」
「でもそれどころじゃなくなった?」
「ルーク君の人脈が手に負えないってわかって急遽対策を考えにいったのでしょうけど、気にしなくていいわ」
「お貴族様って大変なんですね」
「お兄様は何かと予定通りに行かないと気分を損ねる方なので」
ああ、わかるよ。次男のタイレノール兄様も似たような感じだった。当たり散らしはしないけど、重積に押し負けちゃうタイプ。
アスター兄さんみたいにお気楽でもないからひつよういじょうにかんがえりゃうんだ。
「それとさっきはごめんなさいね?」
「いや、それだけ僕の存在を貴族間で扱いかねてるってことでしょ?」
「え、ええ」
「正直に言って僕達がランクをDから上に上げない理由もそこに起因するんだよね。Cになるとギルドを通さずにクエストを受けられるようになる。Bになれば直接貴族から。Aに至れば皇族から。冒険者ってそう言うふうにできてるんですよ」
「だからルークさんはDにいるんですね。でも皇族から直接クエストが回ってきてませんか? それってつまり……」
そこから先は内緒です、と唇の前で人差し指を伸ばす。
「そもそも他者にどうこうできる存在ではなかったのね」
「強いのは僕たちではなく、テイムモンスターの方なんですが。そのテイムモンスターのお世話を僕たちが好き好んでしてます。故に『ブリーダーズ』僕たちのパーティー名です」
「なるほど、じゃあトーナメントの一番端にあるブリーダーズというのはルークさん達の事なんですね」
「はい?」
アセトお嬢様からの指摘に、僕は初めて会場に目をやった。
予選を抜けた後にはシードを含む何も記されていない箇所があった。
最初は空欄だったその場所に、なぜか僕たちのパーティー名が記されている。
「あ、ほんとだ。ねぇルーク聞いてた?」
「知らないよ。ロキ達おいてきちゃったよ?」
「こりゃ主催側の悪ふざけか?」
串肉を頬張りながらキサムが咎める。
食べるのやめなさい。出番はだいぶ後だけど、優勝者と直接戦うことになるみたいだ。
主催者から闘技大会に大量の欠員が出たため、予選は行わずこのまま本戦に出場する旨が出された。
第一試合の一組目は兄さんのところの『ハイゼリーエース』。対戦相手は全員が筋骨隆々の大男である『ベアーズ』というパーティ。全大会Bランク3位についた凄腕だ。
二組目~四組目は知らない人たち。
五組目にストナさんBランク5位VSBランク2位の『スピアーズ』
六組目~十組目は知らない人となった。
こう考えると知らない人ばかりだ。普段から如何にBランクの人達に興味ないのかバレてしまったね。
第一試合で20人を10人に絞り、第二試合で10人を五人。
第三試合で僕たちは端数の人と戦う。
そして優勝者とも戦い、前大会Aランクとも戦う流れだ。
なぁにこれぇ。
何がダメかって勝っても負けても出番が回ってくるところ。
何この理不尽。エントリーではなく、順番制なのは勝ち抜く自信があるって信じられてるってことなの?
それが前日にクエストを終えた人達に割り振る試合かって怒りたくなる。
事前にチケットを買っておいたので慌てずに席まで辿り着ける。
「さすが帝都だな。客席のすぐ近くに屋台を置いて購買欲を誘ってきやがる」
お弁当を持ってきてるのに、誘惑に負けたと降参するキサム。
トラネはプロフェンぐるみを抱っこしながら試合開始を待っていた。
「キサム。始まるよ!」
「あの串肉うまそうだな。ちょっと買ってくる」
「あ、もう」
行っちゃった。
こんな開けた空間で肉の焼ける匂いを蔓延させたらキサムみたいな食いしん坊は食いついて当たり前。それなりに行列ができていた。
「あら、ルークさん。偶然ですね」
「アセトお嬢様?」
「プライベートできてますのでアセト、で構いませんわ」
隣の席にはアセトさんが座る。貴族なら貴族専用の席があるんじゃないだろうか? 護衛の人はゴトーさんではなくなっていた。
「噂は聞いてるよ、妹が世話になったそうだね」
ニコニコと笑う人は、アセトお嬢様のお兄さんだったみたいだ。
「本日はご観戦ですか。平民の僕たちと同じ席で大丈夫なんですかね?」
「君は面白いことを言うなぁ。ここは貴族席だよ? 平民の席はあっち」
「え、僕たち席間違えてる?」
慌てて席番号を確認するが、東側-230と言う数字は一緒だった。ならばなぜこんなことが起こったのかと言えば、それは手配した人が貴族だからである。
「いや、間違えてないよ。キミ、英傑の一人であるビーストテイマーストナのサポーターなんでしょ?」
「ストナさんとは仲良くさせていただいてますが、英傑というのは初耳です」
そんなすごい人だったんだ、あの人。
兄さんと同じ匂いがしてたのでダメ人間認定してたけど、今度からはもっと敬わなくちゃ。
そういえば赤いバンドしてたもんね。
「ストナ=アイビー。彼女は英傑でありながら侯爵家のご令嬢でもある。そんな彼女からのチケットを手配したのなら、君たちも貴族の身分を与えられるのさ。喜ばしいことだよ?」
貴族じゃないかとは思っていたけど、予想よりだいぶ高い位置にいたね、ストナさん。
「そんなすごい席だったんですね、ここ」
「どのように取り入ったのか、是非お話を聞きたいものだね。彼女は貴族に対してどこか距離を置きたがる。どうやって心を開かせたのか、すごく興味があるんだ」
グイグイ来るなぁ、この人。アセトお嬢様はどこか距離を置きたがるイメージだったけど真逆だ。
「お兄様! ダメですよ! ルークさんが困ってます」
「と、妹に怒られてしまった。観戦しながらでもゆっくり語ろうじゃないか。申し遅れたね、私はカロナール。カロナール=アミノフェン子爵だ。父上から正式に子爵の名を引き継いで、今日はこの席で将来抱えるだろうAランク冒険者を見定めにきた。キミのお名前を聞かせてくれるかい?」
さっきお嬢様から僕の名前を聞いておきながら聞くってことは、聞きたいのは名前だけじゃないんだろうな。
お貴族様だしなぁ、こうやって近づいてくるってことは既に裏を取ってる可能性も高いか。なら、ある程度は話しちゃってていいかな。どうせ遅かれ早かれバレるし。
トラネは他人のフリしながらプロフェンぐるみをモフってる。
この……! キサムもキサムで帰ってこないし。
はぁ、しょうがない。自分一人で乗り切るか。
どうもお兄さんは僕に興味がおありのようだ。
「ルークと言います。バファリンの街でDランク冒険者と、商業ギルドの方で毛皮修復師を名乗らせていただいてます。そのほかに『うさぎのお宿』と言うテイムモンスターのカフェを経営しています。どうぞよろしくお願いします、カロナール様」
これでどうだ?
魔導具師の方は敢えて隠した。
元皇帝陛下の師事を受けたなんて現役貴族に聞かせたら大目玉だもんね。
「へぇ、まだ子供なのに店舗経営者だったとは。それにテイムモンスターのカフェ? なるほど、共通点はそこか。今日はテイムモンスターは?」
「観客席にまで連れ込むのはマナー違反かと思いまして(ニャンジャーの里)に預けてます」
「(厩舎に)預けてる? 成る程。確かに、闘技大会に出るのでもないのに観客席にテイムモンスターを持ち込むのを嫌う貴族も多い」
「ええ(貴族席だなんて知らなかったけど)マナーですから」
「そうだね、マナーだ」
はっはっはと笑い合いながら席に着く。
もう終わった? と言う顔でトラネが顔を覗かせた。
そのほっぺを両側で掴み取ってやりたくなったけど我慢した。
「はいよー。出前一丁上がりだ!」
肝を冷やすやりとりの後、キサムの能天気な声が真上からかかった。
お弁当持参なのにやたら買い込んできてる。
この子、自分が無駄遣いしてるって感覚がないのだろうか?
帰りに報酬をもらえるからって、手持ちを使い切らなくてもいいだろうに。
「いやー、なんかこのバンドに店主さんがびびっちまってさ。なんかいっぱい奢ってくれたぜ?」
掲げるバンドは白。皇族、またはそれに連なるものに贈呈される身分証だった。
それに興味を示すカロナールさん。人が悪いなぁ、といつの間にか席をアセトお嬢様と変えて肘を突いてくる。
「まさか皇族関係者だったとは」
「オーレン皇子とバファリンでよくしていただいたので」
「だからってその全員がそれをつけられるわけではない。だが君たちはつけてるね?」
なんか面倒なこと嗅ぎつけてないかな、この人。
悪巧みを思いついた兄さんみたいな顔してる。
こんな人が子爵について大丈夫なのかな?
ロキぐるみをギュッと握る。
「おや、それは妹が言っていたぬいぐるみだね。少し貸してもらえるかい?」
むんず、と頭を掴んで持ち上げた。
ちょっと、勝手に取らないで!
まだ貸すって言ってないのに取り上げられる。
「おぉ、きちんと重さがある。それに独特の匂いとこの毛並み……出回ってるハンターラビットの毛皮と同質と見るが、どうだい?」
なんて言うか失礼な人だなって印象が拭えない。
さっきからアセトお嬢様はソワソワしてるし。
「僕は毛皮修復師です。その技術をどこに活かすかは僕の勝手に思いますが?」
「全くもってその通りだ。ちなみに買いつけるならこれはいくらになるんだ? 私も一つ欲しいな」
「まずはお作りするのにそれなりの期間を頂きます。そしてアセトお嬢様より平民と同じ価格はあまりにも安いとおっしゃられたので、お嬢様のつけた値段を貴族基準とするようにクエストを受けさせてもらいました」
「つまりうちの妹の一声で基準が変わるのだな?」
「はい。ただ大量生産はしてませんので、大量に発注されても製作期間を問わずにお待ちいただくことになります」
「ふぅむ。友好の印に貴族達に配ろうとしたがダメか」
「あまり大量に受注はしない約束でコーエンさんやザイムさんにお願いしてますから」
「待て待て待て。どうしてここでサプリ家の財務大臣のご子息の名が上がる?」
はて? サプリ家とは一体?
「これは知らないって顔だな? 全くどんな人脈を築いてるんだ。皇族にサプリ家、更にはアイビー家だと? 私なんかの出る幕はないではないか! 急用を思い出した、私は実家に戻る。アセトはここで観戦してなさい」
言うだけ言ってうるさい人は出ていった。
良かった観戦中も質問攻めだったら気苦労でロキぬぐるみが禿げるところだったよ。リアルと違ってぬいぐるみだから抜け毛がすごいんだ。
「お兄様もお忙しそうですね」
「きっとルークさんを囲うつもりで来たのだと思う。ゆくゆくはアイビー家と仲良くしたいって魂胆が丸見えね」
「でもそれどころじゃなくなった?」
「ルーク君の人脈が手に負えないってわかって急遽対策を考えにいったのでしょうけど、気にしなくていいわ」
「お貴族様って大変なんですね」
「お兄様は何かと予定通りに行かないと気分を損ねる方なので」
ああ、わかるよ。次男のタイレノール兄様も似たような感じだった。当たり散らしはしないけど、重積に押し負けちゃうタイプ。
アスター兄さんみたいにお気楽でもないからひつよういじょうにかんがえりゃうんだ。
「それとさっきはごめんなさいね?」
「いや、それだけ僕の存在を貴族間で扱いかねてるってことでしょ?」
「え、ええ」
「正直に言って僕達がランクをDから上に上げない理由もそこに起因するんだよね。Cになるとギルドを通さずにクエストを受けられるようになる。Bになれば直接貴族から。Aに至れば皇族から。冒険者ってそう言うふうにできてるんですよ」
「だからルークさんはDにいるんですね。でも皇族から直接クエストが回ってきてませんか? それってつまり……」
そこから先は内緒です、と唇の前で人差し指を伸ばす。
「そもそも他者にどうこうできる存在ではなかったのね」
「強いのは僕たちではなく、テイムモンスターの方なんですが。そのテイムモンスターのお世話を僕たちが好き好んでしてます。故に『ブリーダーズ』僕たちのパーティー名です」
「なるほど、じゃあトーナメントの一番端にあるブリーダーズというのはルークさん達の事なんですね」
「はい?」
アセトお嬢様からの指摘に、僕は初めて会場に目をやった。
予選を抜けた後にはシードを含む何も記されていない箇所があった。
最初は空欄だったその場所に、なぜか僕たちのパーティー名が記されている。
「あ、ほんとだ。ねぇルーク聞いてた?」
「知らないよ。ロキ達おいてきちゃったよ?」
「こりゃ主催側の悪ふざけか?」
串肉を頬張りながらキサムが咎める。
食べるのやめなさい。出番はだいぶ後だけど、優勝者と直接戦うことになるみたいだ。
主催者から闘技大会に大量の欠員が出たため、予選は行わずこのまま本戦に出場する旨が出された。
第一試合の一組目は兄さんのところの『ハイゼリーエース』。対戦相手は全員が筋骨隆々の大男である『ベアーズ』というパーティ。全大会Bランク3位についた凄腕だ。
二組目~四組目は知らない人たち。
五組目にストナさんBランク5位VSBランク2位の『スピアーズ』
六組目~十組目は知らない人となった。
こう考えると知らない人ばかりだ。普段から如何にBランクの人達に興味ないのかバレてしまったね。
第一試合で20人を10人に絞り、第二試合で10人を五人。
第三試合で僕たちは端数の人と戦う。
そして優勝者とも戦い、前大会Aランクとも戦う流れだ。
なぁにこれぇ。
何がダメかって勝っても負けても出番が回ってくるところ。
何この理不尽。エントリーではなく、順番制なのは勝ち抜く自信があるって信じられてるってことなの?
それが前日にクエストを終えた人達に割り振る試合かって怒りたくなる。
47
お気に入りに追加
2,446
あなたにおすすめの小説
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!
父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
その他、多数投稿しています!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

異世界遺跡巡り ~ロマンを求めて異世界冒険~
小狸日
ファンタジー
交通事故に巻き込まれて、異世界に転移した拓(タク)と浩司(コウジ)
そこは、剣と魔法の世界だった。
2千年以上昔の勇者の物語、そこに出てくる勇者の遺産。
新しい世界で遺跡探検と異世界料理を楽しもうと思っていたのだが・・・
気に入らない異世界の常識に小さな喧嘩を売ることにした。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)

子爵家の長男ですが魔法適性が皆無だったので孤児院に預けられました。変化魔法があれば魔法適性なんて無くても無問題!
八神
ファンタジー
主人公『リデック・ゼルハイト』は子爵家の長男として産まれたが、検査によって『魔法適性が一切無い』と判明したため父親である当主の判断で孤児院に預けられた。
『魔法適性』とは読んで字のごとく魔法を扱う適性である。
魔力を持つ人間には差はあれど基本的にみんな生まれつき様々な属性の魔法適性が備わっている。
しかし例外というのはどの世界にも存在し、魔力を持つ人間の中にもごく稀に魔法適性が全くない状態で産まれてくる人も…
そんな主人公、リデックが5歳になったある日…ふと前世の記憶を思い出し、魔法適性に関係の無い変化魔法に目をつける。
しかしその魔法は『魔物に変身する』というもので人々からはあまり好意的に思われていない魔法だった。
…はたして主人公の運命やいかに…
異世界召喚されたら無能と言われ追い出されました。~この世界は俺にとってイージーモードでした~
WING/空埼 裕@書籍発売中
ファンタジー
1~8巻好評発売中です!
※2022年7月12日に本編は完結しました。
◇ ◇ ◇
ある日突然、クラスまるごと異世界に勇者召喚された高校生、結城晴人。
ステータスを確認したところ、勇者に与えられる特典のギフトどころか、勇者の称号すらも無いことが判明する。
晴人たちを召喚した王女は「無能がいては足手纏いになる」と、彼のことを追い出してしまった。
しかも街を出て早々、王女が差し向けた騎士によって、晴人は殺されかける。
胸を刺され意識を失った彼は、気がつくと神様の前にいた。
そしてギフトを与え忘れたお詫びとして、望むスキルを作れるスキルをはじめとしたチート能力を手に入れるのであった──
ハードモードな異世界生活も、やりすぎなくらいスキルを作って一発逆転イージーモード!?
前代未聞の難易度激甘ファンタジー、開幕!

野草から始まる異世界スローライフ
深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。
私ーーエルバはスクスク育ち。
ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。
(このスキル使える)
エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。
エブリスタ様にて掲載中です。
表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。
プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。
物語は変わっておりません。
一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。
よろしくお願いします。
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる