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七章 もふもふファミリーと闘技大会(本編)

77 首都ワクティンの歩き方

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「それじゃあ、このまま宿まで案内しよう。この街はほぼ顔パスなところもあるからな。私は街の住民に顔が利く。今回同行したのはそんな一面もあるんだ」

首都ワクティン。
それは開けた平原の中にあった。
だが一目見てそこが本丸ではないとわかる。

「あはは、最初見た時はびっくりするよね。ここは位相技術が発展してて入り口で見える街と中身はまるで違うんだよ。一般人はこの街を攻めやすそうだなって勘違いするが、もちろんこんな場所に皇帝様は住んでない」

そう言って真上を指し示す。

「上空?」
「上を見上げても見えないかな? ルーク氏はダンジョンって知ってる?」
「聞いたことはあります」

兄さん達が先の進み、僕たちも街の中に進むと。

「あん? 表と中で雰囲気違くね?」

最初に違和感を感じたのはキサムだった。

「ほんとだー! 街に入る前までは小さな街ーって思ってたのに、中は全然違うー」

まるで田舎からやってきたお上りさんみたいに、僕達は周囲から浮いていた。ロキ達はニャンゾウさんの影にイン。

そのニャンゾウさんも僕の影にインしてるので抱っこしてるぬいぐるみ以外は表に出してない状態だ。
今回は別に戦うつもりできてないからね。
観光さえできれば良いのだ。

「二人とも、みんな見てるよ?」
「ルークだってソワソワしてるじゃん!」
「そりゃするなっていう方が無理あるよ」

そんな僕達をふふふ、と優しく見守るストナさん。

「この町では権限がものを言う。門番から渡された革のバンドを覚えているかい?」
「あ、はい」

人数分手渡されたので門を通った人は誰もがそのバンドをはめている。色は茶色だ。

「これの色によってランクが変わる。私は赤いバンドだ。これは一般人から三つ上。基本は茶色。少しずつランクが上がっていき、最終的には白と黒に分けられる」
「色が濃くなるのに白と黒があるんですか?」
「ああ、皇族が白、貴族が黒だ。他にも色分けされてるが、黒をつけてる相手には気をつけると良い」

絶対上位と、その配下で色分けされているんだそうだ。
どれだけ偉くなっても皇族には届かない。それが絶対のルール。
オレノーさん、そんな場所から逃げてきたの?
ダメだよ。

「赤はどのランクになるんですか?」
「Bランク冒険者の上位10名に配られるな」
「俺、茶色なんだが?」

兄さんが嘘だろ……みたいに真実を知って青ざめている。
冒険者にとってBランクと言えばそれなりに誇れる地位を持つけど、この街においては一般人とそう変わらないと聞けば気持ちもわからなくはない。

「ならば予選を抜ける事だ。茶色をつけてるうちは観光客と変わらないぞ?」
「認められるにはどれくらいの色を目指せば良いんだ?」
「予選突破の黄色、本戦参加の青。ここまでくれば一目置かれるようになる。この町ではこのバンドの色がその人物に与えられる権限だ。ちなみにランクを上げるメリットは、宿代にも影響する」
「くそ、せめて黄色にしてやる!」

ランクB以上になっても、バンドの色で差別されるのが帝国だと言われてハッとする。
そういえば出会った時にオレノーさん言ってたな、帝国ではどんなに過去で貢献しても今貢献してなければ威張れないと。

それは帝都でも一緒だと言われてる気がする。
まぁ、別にここで暮らすわけじゃないから良いけど。

僕達は一泊3000ゼニスもする場所にストナさんのサポーター権限で一人1000ゼニスで泊まれてしまった。まさかの1/3だ。

ちなみに兄さんはエントリーされた挑戦者なのできっちり3000ゼニス払ってた。初日から散財してる。

「俺達は安くしてもらえて助かったな!」
「ストナさん、ありがとうございます!」
「なんのなんの。これぐらいさせてくれ。その代わり、控え室では頼むよ?」

ロンローンの蒸し煮巻き。これの差し入れを約束に宿代を負けて貰ってるのだ。こればかりはどれだけ大金を積んでも僕しか作れないからね。

ちなみに兄さん達にも食べさせたが涙を流して喜んでた。
差し入れに行かなかったら怒られそうだ。
サポーターの権限を持つ場合、そこにカラーに応じたラインが入る。
ストナさんのサポーターに入るならば、茶色バンドに赤のラインが入る。本当はここにもう一本入るもんだが、あいにくと兄さんは茶色ランクなのでサポーターは出入り自由となっていた。

元気だしなよ。差し入れサービスするからさ。
そんなわけで僕は控え室への出入り権限が与えられていた。
トラネやキサムの分はない。
僕一人いれば十分だしね。

大会本戦まであと二日。それまでは街を回ろうと言うことになる。

「くわー」
「ならばザブロックをお供につけよう。これでバックに誰がついてるか見せしめにもなるだろう」
「良いんですか?」

ザブロックはそれなりに大きいサイズの獣魔だ。
ピヨちゃんと比べるまでもない。

「ああ、私とハイゼリーエースはエントリー手続きがあるからな。こっちだ。案内しよう」
「助かるぜ、ストナの姐さん」
「本戦では手を抜かんぞ?」
「その舞台に上がれるまでが俺たちの目標だ。胸を借りるつもりでの挑戦だしな」
「負けても失うものもないって?」
「まだまだ伸び代があるってことだろ? そもそも俺たちには早すぎる舞台だ。ここでいろんな技術を吸収して、次は実力でエントリーしてやるぜ!」
「ふふ、その時を楽しみにしているぞ」

まだ始まってもないのに、もう終わった時の話をしてるよ。
それぐらいAランクへの道は長く険しいんだろうね。

夕方まで時間があるのでそこら辺を歩こうと言うことになった。
しかしお店によってはバンドの色で出入りできない仕様が僕達を悩ませる。

なぜそれが利き腕についているか、その時になってわかる。

「このバンド、扉に連動してないか?」
「あ、やっぱり?」

まるで権限のないものには踏み込めない暗黙のルールがあるみたいに、店ごとに適したグレードが求められるようだった。

「やっぱり、この足元のカラーも連動してるのかな?」

お店の敷地には水色のライン。
青でも黄色でもない。全く知らない色合いだった。

「あのー、そこのお店には入りたんでしょうか?」

どうしようか、と迷っている時横合いから声をかけられた。

「え、ええ。あなたは?」

振り返った先にいたのは大柄な男。聞こえてきた声に比べて随分とがっしりした印象を受ける。
大男は大きくため息をつくと、後ろに隠れてた少女を引き摺り出した。

「お嬢、隠れてたらいかんでしょう。お友達から始めるんじゃなかったんですかい?」
「ちょ、やめなさい! 不敬ですよ!」
「不敬で結構。俺もさっさとお嬢の護衛を終わらせたいんでさぁ」
「もう、どうして冒険者の方というのはこう乱暴ものなのでしょうか!」
「へいへい、俺らはどうせ乱暴者ですよ。っつーことで坊や、このお嬢さんと仲良くしてやっちゃくれないか?」
「突然そう言われましても……」
「まぁ、そりゃそうだよな。ほらお嬢、この坊や達に自分の優位性を示すチャンスだぞ? 水色バンド持ちのお嬢様?」
「ゴトー! その紹介の仕方はないでしょう?」
「どーも俺は堅っ苦しいやり取りが苦手なもんで」

突然現れた親子には見えない凸凹コンビ。
僕達は変なのに絡まれちゃったな、と思いつつここで仲良くしておけば水色のお店に入れるならアリかな、と考えを改めるのだった。

どうせ暇だし。
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