もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜

双葉 鳴|◉〻◉)

文字の大きさ
上 下
76 / 88
七章 もふもふファミリーと闘技大会(本編)

76 結成! 熟成調理同盟

しおりを挟む
指さされた先、僕達はキョトンとする。

「こら、ベン。私のお客様に失礼だろ!」
「だってこいつら! うちの縄張りで密猟してたんですぜ!」

密猟と聞いて周囲がざわつく。
ロンローンの密猟は違法、暗黙のルールを破る奴は敵だ、とざわついた。

「あの、密猟ってなんの話ですか?」

野生の川魚を釣るだけのクエストなのに密猟の疑いをかけられた。はっきり言って酷い言いがかりだと思う。

「そう言えばルーク氏はこの街に初めてきたのだったね。ここ、エス=タックではロンローンを釣る場所に規定があるんだ。我々冒険者には専門の釣り場がある。もちろん市民や商人にも釣って良い場所と悪い場所があるんだ」

面倒臭いなぁ。なんでそんなことになっちゃってるの?

「あの、そもそも野生の川魚を釣るだけなのにどうしてそんな規定が付くんですか?」

小さく挙手して質問した。

「奪い合いが起きてるのよ」

僕の質問に答えてくれたのはいつのまにか受付から出てきたキューテンさんだった。ロキぐるみを定位置に起き、僕の疑いを晴らそうとしてくる。この場での心強い味方だ。

「奪い合い?」
「ええ。ロンローンはこの街の名物だと言っても過言ではないほどの売り上げを出してるの。しかし足が早いから日持ちがせず、街の中でしか扱われない。それに憤りを覚える方達がいる」
「それが帝国貴族だ。別に全部が全部というわけじゃないが、一握りが秘密裏に密猟して街の供給を著しく下げる要因になって、この規定が出来たんだ」
「なるほど、知らなかった事とはいえごめんなさい。良ければ何匹かお返ししましょうか?」
「いや、大丈夫だ。ルーク氏はロンローンを気に入ってこのクエストを受けたんだろう? それは地元を愛する私としても光栄な事だ。もしそれよりも前に出会っていたら私がその縄張りに招待していたほどだ。順番は変わってしまったが、あんな急勾配の場所で釣り上げた実力は買わせて貰うよ」

急勾配って何のこと?

「ストナさんの縄張りでの釣りですか。確かに常人には真似できませんね。その上で本人のご許可は頂きました。ギルドとしてはこの件は不問とします!」

ギルド側からの声明によって僕達の疑いは晴らされた。
それとは別に改めて自己紹介をしてもらう。

僕たちと同様に、奥の部屋でのやり取りになったのは、周囲に知らされたくない事情があるからみたいだ。

「改めて紹介する、私の契約獣魔のベン、ザブロックだ」

そこに現れたのはリカント姿のベンさんではなく、僕たちに襲いかかってきた青い瞳と毛並みのブルーウルフだった。

「あの時の!」
「こっちの姿の時は私のテリトリーから外れてしまうからね。弱体化してしまうんだ。ザブロックの方はまだ適応してないのでそこまででもないが」
「それって……」
「ああ、私は契約獣魔を二足歩行させる『擬人化』スキル持ちだ。全く別の種族にさせることはできないが、適応化できたら凄まじい戦力になる」

そういう事か!

「ストナさんもルーク君同様にユニークスキル持ちなんですよ」

キューテンさんの説明に納得した。

「ルーク氏も、私以外のユニークスキルを持っていると?」
「ええ、ご紹介しますね、ニャンゾウさん」

僕の影が横に伸びて、その中からシュバッと飛び上がる。
ニャンジャーの姿を見たのは初めてなのか、ストナさんは目を丸くした。

さらにニャンゾウさんの影が伸びてそこから現れるロキ、ソニン、プロフェン、インフィ、ルエンザ、ピヨちゃん。
今回インフィも潜んでもらってるのは、モンスターのスペシャリストには看破されてしまうという恐れがあったから、九尾形態で待機してもらった。

「尻尾が九本! 九尾の狐?」
「そんなに警戒しないでください。この通りおとなしい子です。インフィ、もう人化して良いよ」

ボワンと煙が上がり、魔女っ子姿のインフィが現れる。

「あら? もう良いの。影の中って時間経過がないから一瞬だったわね」
「しゃべった!?」
「そりゃ喋るわよ。あたしを何だと思ってるわけ?」

いつも以上にツンツンインフィだ。
九尾の姿を見られてるので警戒してるのかもね。

「大丈夫、この人は味方だよ。襲ってこないから安心して」
「あんたがそういうなら、まぁ信用してあげても良いわ」
「いや、済まない。傾国級のモンスターを見るのは初めてでな。少し動揺した」
「まぁそうでしょうね。でもうちのメンツに比べたら、あたしは弱い方よ?」
「いやいやいやいや!」

顔の前で両手をブンブン振るストナさん。

「まぁこの子達は普段、僕のスキル『伸縮』で抱っこできるサイズになってますので。本当の姿に戻したらギルドハウスは崩壊しちゃいますからね」

あはは、と乾いた笑みを浮かべるとストナさんどころか、キューテンさんまでも目を丸くしていた。
あれ? ここら辺はコエンさん辺りから通達済みだと思ったけど。

「わかった、もうこれ以上聞くまい。もしかして毛皮の入手先って?」
「そこら辺は守秘義務なので。もうこの時点でお察しでしょうが」
「わかった。君は今回の闘技大会にエントリーしてないのだけ分かれば大丈夫だ」

額から汗をダラダラ流しながらストナさんが何度もその場で頷いた。やだなぁ、僕達はまだDランクですよ?
前提条件を満たしてませんよ。
それにAランクなんて面倒臭い事はごめんです。

「僕も兄さん達を応援しにきただけなので。あ、よかったら僕のスキル『熟成調理』で作ったロンローンの蒸し焼きでも食べますか? うちの子用に少し多めに拾っておいたんです」
「良いのですか? そちらの取り分でしょうに」
「知らずとはいえ、本来の狩場を横取りしてしまったようなので。それに美味しいものは皆さんで共有すべきですよ」

そう締めくくると、ストナさんは嬉しそうに笑った。
喧嘩両成敗でもないけど、同じテイマーとしての協力者は多い方がいい。

飼い主同士が仲直りしても、獣魔側はもやもやすることは実際多い。
一度矛を収めたが、ベンのモヤモヤも分かるんだ。
うちの子達も大概血の気の多い子が多いから。

「うわ、こう来たか。人間用の味付けは濃すぎると思ってたが、獣魔用のは美味いな。これは食が進む!」

リカント形態になったベンさんがロンローン蒸しにガツガツ食いついた。

「ピヨヨー!」
「くわー!」

ザブロックとピヨちゃんが皿の上のロンローンの蒸し焼きを仲良く啄んでいる。

そこに浮遊させた水飲み場を設けたらあとはトークが弾んで仕方ないという感じ。
内容は主人の獣魔使いが荒いという愚痴だったのでストナさんには伝えないでおく。

ロキ達もこれは食べたことのない味だと夢中になった。

「で、こちらが人間用です。宿で食べたのに比べたら調味料が不足してるので心許ないと思いますが」
「頂きます」
「ふわっ、こんなに柔らかいロンローンは初めてよ。でも皮身の脂が程よくて、これはライスが欲しくなるわね!」
「私はこいつでエールをグッと呷りたくなるな。塩味でこうまで化けるか。だがそれ以上に……」
「ええ、いつも以上に味に深みがあります。これがルーク君のスキルなのね」
「これは余計に貴族が食いつくぞ?」
「ええ、絶対に明るみに出しちゃダメね!」

何やら二人で結託してるご様子。
悪い企をしてる時の兄さんみたいな顔だ。

「ライスは美味いんだが、持ち運びに不便だよな」
「ああ、それはあるよね。スープ皿に平らに置いてあったけど、あれも食べづらかったよね」
「いっそ専用のお皿とか作っちゃえばいいのに」
「それだ!」

僕たちは僕たちで盛り上がる。
インフィはいつの間にか九尾に戻ってルエンザと一緒に蒸し煮を奪い合っていた。人間形態での食事法は飽きたのか、それともこの状態の方がお世話してもらえるからなのか、そこはわからないが本狐は楽しそうなのでよしとする。

僕達は午後はお店を回ってそれらしい深皿を探す旅に出る。
他には新しいロンローン食の追求だ。
観戦に向く、日持ちを重視した包装を吟味して作り上げたのは……

「へぇ、ライスを薄く伸ばして蒸し煮を包んだのか。面白いね」
「はい。しかもロンローンが直接空気に触れないので、カビもすぐにつきません。冷めても美味しく、こうやって切りつけてスープに落としても……」

深皿に浸した熱々のスープにロンローン巻きを落とすと、花が開いたようにライスが開き、そこからロンローンの蒸し煮が広がった。

「ああ、これはいいね。外に持っていくのにちょうどいい。ウチの獣魔たちもロンローンは好きだが、人間形態でないと食べにくいことからどうにかして持ち歩けないかと模索してたんだが」
「実際にこの商品はルークしかできない発想とスキルの応用だしな。辿り着けなくたって仕方ないっていうか」
「そうなのかい?」

僕の説明に仕切りに感心するストナさんに、キサムが余計な一言を付け加える。

「ええ、まあスキルを応用しまくって作ったものですから。まず炊いたライスを浮遊で浮かせて平らにします。この時ライスは炊き立てであるのがベストです。手で触ると菌がつくので御法度です。続いてそこに僕のスキルで作った蒸し煮をダイブ。あとは端から巻いていけば完成です」
「ほら、真似できないって顔してる」

どうせ僕達が外で食べたいから良いんだよ。

「わかった。つまり欲しかったらルーク氏にロンローンを直接持ち込むか交渉すれば入手が可能という事だな?」

それで決着がついた。僕は別に設けたいわけでもないからね。
串は串で美味しいけど、蒸し煮のロンローンはライスが合う。ただ、それだけのことだった。

交渉成立だね、と僕たちと同じタイミングでエス=タックを旅立つ。というかなぜかウチの馬車に世話になる気満々でついてきた。道中の警戒は任せてくれ! だなんて言ってるが、その瞳の先にあるのはロンローンの蒸し煮であるのは誰の目にも明らかだった。
しおりを挟む
感想 51

あなたにおすすめの小説

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

異世界遺跡巡り ~ロマンを求めて異世界冒険~

小狸日
ファンタジー
交通事故に巻き込まれて、異世界に転移した拓(タク)と浩司(コウジ) そこは、剣と魔法の世界だった。 2千年以上昔の勇者の物語、そこに出てくる勇者の遺産。 新しい世界で遺跡探検と異世界料理を楽しもうと思っていたのだが・・・ 気に入らない異世界の常識に小さな喧嘩を売ることにした。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

子爵家の長男ですが魔法適性が皆無だったので孤児院に預けられました。変化魔法があれば魔法適性なんて無くても無問題!

八神
ファンタジー
主人公『リデック・ゼルハイト』は子爵家の長男として産まれたが、検査によって『魔法適性が一切無い』と判明したため父親である当主の判断で孤児院に預けられた。 『魔法適性』とは読んで字のごとく魔法を扱う適性である。 魔力を持つ人間には差はあれど基本的にみんな生まれつき様々な属性の魔法適性が備わっている。 しかし例外というのはどの世界にも存在し、魔力を持つ人間の中にもごく稀に魔法適性が全くない状態で産まれてくる人も… そんな主人公、リデックが5歳になったある日…ふと前世の記憶を思い出し、魔法適性に関係の無い変化魔法に目をつける。 しかしその魔法は『魔物に変身する』というもので人々からはあまり好意的に思われていない魔法だった。 …はたして主人公の運命やいかに…

異世界召喚されたら無能と言われ追い出されました。~この世界は俺にとってイージーモードでした~

WING/空埼 裕@書籍発売中
ファンタジー
 1~8巻好評発売中です!  ※2022年7月12日に本編は完結しました。  ◇ ◇ ◇  ある日突然、クラスまるごと異世界に勇者召喚された高校生、結城晴人。  ステータスを確認したところ、勇者に与えられる特典のギフトどころか、勇者の称号すらも無いことが判明する。  晴人たちを召喚した王女は「無能がいては足手纏いになる」と、彼のことを追い出してしまった。  しかも街を出て早々、王女が差し向けた騎士によって、晴人は殺されかける。  胸を刺され意識を失った彼は、気がつくと神様の前にいた。  そしてギフトを与え忘れたお詫びとして、望むスキルを作れるスキルをはじめとしたチート能力を手に入れるのであった──  ハードモードな異世界生活も、やりすぎなくらいスキルを作って一発逆転イージーモード!?  前代未聞の難易度激甘ファンタジー、開幕!

野草から始まる異世界スローライフ

深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。 私ーーエルバはスクスク育ち。 ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。 (このスキル使える)   エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。 エブリスタ様にて掲載中です。 表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。 プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。 物語は変わっておりません。 一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。 よろしくお願いします。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...