もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜

双葉 鳴|◉〻◉)

文字の大きさ
上 下
74 / 88
七章 もふもふファミリーと闘技大会(本編)

74 凄腕テイマーの噂

しおりを挟む
夜までになんとかエス=タックの街に到着。
ロキ達は(珍しいという意味でも)とにかく目立つ。
一旦ニャンゾウの影の中に入れてもらって、僕の影に潜んでもらった。

手が寂しいと訴えるトラネとキサムには特別にぬいぐるみを出してあげた。インフィはどこ吹く風でニャンジャーの感触を思い出してニコニコしてる。
この子もすっかり丸くなったよね。

「じゃあルーク、宿で一旦休憩だ。この日程なら一日くらいは余裕があるけど、あんまり長居はできねーな。俺はルテインの登録を先に済ませてきちまうから、お前達は先に宿取ってきちまえよ」

馬車を街の厩舎に預けるなり兄さんはそう言う。
ルルア=タックでは結局ゆっくりできなかったからね。
思いっきり羽を伸ばせるとそれぞれがようやく落ち着けるとホッとした。

エス=タックはルルア=タックと比べてさらに大きい。
侯爵家以上の貴族、または同等の貴族が関わっているのだろうか?

「おじさん、串6本ちょうだい」
「あいよ! 坊や達、見ない顔だね。これから帝都に行くのかい?」

串焼き屋のおじさんは汗を肌に張り付けながらそんな世間話を交える。ロンローン肉の串焼きと書かれているがロンローンが何かを僕はよく知らない。
ただ一つだけわかることがあるとすれば、それは非常に食欲をそそられる肉ということだけだ。
網の上でジュワッと僕たちにお腹を空かせる煙を吐き出す。

「そんな所です」
「あいよ、6本だ。今包むから待ってな」

一人二本ずつなのにわざわざ包んでくれるなんてありがたいなって思ったら、そういえばトラネとキサムは今両手が塞がっているんだった。ハタと思い出し、しっかり僕たちを見ているおじさんに感謝する。

「ありがとうございます」
「おう、美味かったらまたきてくれよな!」

ぬいぐるみを抱っこしての食事は厳しい。
そう思った僕たちは公園に置かれてる長椅子に腰掛け、三人並んでその間にぬいぐるみをギュムと挟んだ。
とにかく油が乗ってて美味しい反面、肉汁が溢れやすい。
こぼした時にぬいぐるみが汚れてしまう恐れがあった。

「うまっ」
「これアタリだね」
「うん、帰りにまた買おうか」
「賛成!」

三人でうまさの秘密を追求するように、何が上手いのかを原因を探っているうちにあっという間に串だけが残った。
謎の肉のあと引くうまさ。

見やれば結構な割合でこの肉の購入者が居る。
気に入った人が多い証明だ。

「すいません二泊、3人でお願いします」
「はいはい……って坊や達だけかい?」
「こう見えて冒険者なんです。お金だって持ってますよ」

一泊1000ゼニスと割高な宿代でも、三人分、二泊する金額をきっちり出せば、宿の女将さんもニッコリする。
お金さえ出してくればお客さんの事情を聞かないのはどこの宿も同じようだ。

「と、ウチは動物は持ち込めないんだよ。悪いね、裏に厩舎があるからそこに預けておいで」

部屋に行く時、そんな声がかけられる。
ぬいぐるみが本物に見えちゃったようだ。

「あ、これは精巧に作られたぬいぐるみなんです。抱っこしてみますか?」
「え、あたしゃてっきり本物かと思ったよ。ずっしりしてるけど、確かに動かないね。じゃあ、余計に餌代は掛からないんだね?」
「はい。肌寂しい時のお供に重宝してます」
「悪かったね、引き留めて。ウチは安宿だからって結構な確率で客以外の生き物の持ち込みが多いんだ。坊や達もてっきりその類と思ってさ」
「そんな事情があったのなら、疑ってしまっても仕方ありませんね」

ペットを飼うというのは人間をもう一人養う覚悟が必要だ。
その上で会話ができないとなればストレスは計り知れない。
それにつけても一泊1000ゼニスって安いのか?
僕はその価値観に頭がついていかないよ。

「わぁ、窓からの景色が最高ね!」

トラネが窓を開くと、肌に吹き付ける心地よい風と絶景に心を躍らせる。プロフェンぐるみをぎゅっと握って。そのまま踊り出しそうだ。

「一泊1000ゼニスと聞いた時は正気か? と疑ったけど、この間取りなら問題ないな」

キサムが言うように、僕たちの宿泊する宿は三人で泊まるには広すぎた。
この街は首都ワクティンへの直通の玄関口。
その為商業や工業が発展して今があるみたい。
宿の本棚に置かれた自伝にそう記してあった。
全ての部屋にそんなサービスがあるのだろうか?

「ここの宿、朝と夕の食事がもらえるんだって!」
「じゃあ1000ゼニスは納得だな」
「だね」

バファリンでは食事がついてこない。
お湯も食事も別料金だ。だから宿代は500ゼニスと破格だった。

「これ、ロンローン肉かな?」
「切り分けられてないとこんな形なんだー」
「おいひい」

夕食に出たのはロンローンの姿焼き。
長くてにょろっとしてる水棲系の生物のようだ。
他にも、ロンローンを左右に開いてライスの上に乗せる蒲焼というのもあった。
旨味の効いたタレがライスとよくあって美味しい。
パン食の僕達でもペロっと食べられてしまうほどに美味だった。

ここのライスは粒がしっかり立ってて、味が強い。
以前バファリンで食べたのはネチョっとしてて口の中が不快だったけど、こっちは食べやすそうな工夫がされていた。

「はぁ、食った食った」
「こんなにお腹に入れたの初めて」

それだけ気に入ったと言うのもあるけど、ライスおかわり自由というのが大元の原因だ。
それ以前にロンローンが美味すぎるからライスがあっという間に尽きるんだ。
ロキ達にも食べさせてあげたいな、だなんて思うほど僕達はロンローンに虜になった。

「おう、ルーク。お前ここの名物食べたか?」
「翌朝、集合場所で待ち合わせていると、兄さんがすっかりロンローン肉の虜になったような顔で言う」
「美味しいわよね、このお肉」
「お嬢様ったら大量に買い占めようとしてたんですよ。足が速いから、日持ちしないのにも関わらずです。この町でしか食べられないとも知らずに……大量に在庫を抱えて、私達はその消費に追われてる」

ミキリーさんの身の上話を嘆かわしいと告げ口するストックさんは相変わらずだ。
「なんだと!」と憤るミキリーさんを羽交締めにして引き留めるルテインさんが代わりになってくれるのも大きいか。
もう一人ツッコミ役が増えてストックさんもようやく腰が落ち着けるといった感じでニコニコだ。
いつもご苦労様です。

「ルテインさんは無事加入出来たの?」
「おう、新生ゼリーエース。いや、これからはハイゼリーエースって呼んでくれ!」
「早速早朝にクエスト終わらせてきたのよ? 試運転も兼ねてね!」
「へぇ、もうクエストこなしてきちゃったんだ。僕たちすっかりロンローン肉に夢中で、他のことまで考えられなかったなぁ」

僕の言葉に頷くトラネ&キサム。
「それはしょうがねぇよ」と兄さんが大口でロンローン肉を頬張った。兄さんもすっかり夢中だね。

「それとここが地元の冒険者もエントリーされてるって話だ。ギルド中がざわついてたぜ? 前回もいいところまで行ってたって話だからな」
「どんなパーティなの?」
「なんでもお前と同じテイマーが獣魔と共に参戦してるんだってよ。本人も超つえーって話だ。ロキ達程ではないにせよ、お前は比べられちゃうかもな」

ツン、とおでこを突かれる。

「僕達は本戦に出ないよ?」
「ある意味では先輩テイマーだ。自分たちに足りない戦い方を覚えられるいい機会だぜ?」
「まぁ、僕がロキ頼りなのは事実だけどねー」

ロキが強すぎるのがいけないんだ。

「まぁ、参考にならないって言うのは俺たちの挑戦相手にも言えることだな」
「頑張って! ロンローン肉を消費しながら応援してる!」
「テメェ、俺の分も残しとけよ?」
「それは兄さん達次第だよ? 一回戦を勝ち抜けなかったら食べる機会は増えるかもねー?」
「ぬぐぅ!」
「リーダー、ロンローン肉欲しさに手を抜くのはやめてくださいよ?」
「そうだよリーダー、なんのための参加かわからなくなる」
「Aランクへの道のりは遠く厳しいものです、リーダー。お覚悟を」
「わかったよ! 食い物で妥協しねぇ!」

でも道中でも食うんだからな! と息巻く兄さん。
僕のゴミ拾いでカビないように管理しておけって魂胆は見え見えだよ?
まぁ美味しいから仕方ないよね。
僕達の方でもロンローン肉を調達できるクエストでも探してみようかな?

こんなに町中で食べてるんだもん。
きっとクエストの一つや二つ、転がってるはずだよ。

これから修行してくる、と討伐系クエストを片っ端から片付ける兄さん達とギルド前で別れ、僕達も何かクエストしていこうかと受付で手続きをする。

「Dランク冒険者『ブリーダーズ』ですね、確認しました。おや、メンバーが一人足りないようですが?」
「一身上の都合でパーティを脱退しました。今後は三人で活動するつもりです。そこで獣魔契約に追加加入させたい子達がいまして」
「了解しました。こちらへ」

受付でのやり取りで済むものが、なぜか奥の個室へと案内された。

「あの? どうしてこんな秘密のやりとりみたいな?」
「既に兄さん唐事情は聞き入れています。なんでも珍しいタイプの獣魔契約しているとか」
「兄さん?」
「バファリンのギルドマスターのコエンは私の兄となります」
「わ、すごい偶然!」
「偶然と言うか、まぁあなたの噂は私の一族がしっかり管理してますのでそうそう公にはならないのでご安心ください」

一族?
何はともあれロキ達の正体はその一族がしっかり守ってくれてるようだ。ここにもぬいぐるみあげた方がいいのかなぁ?
だなんて思いながらキッカとニャンゾウの登録を済ませた。

友好の証としてロキぐるみをあげたら大層喜ばれた。
普段はキリッとしてるのに、ロキぐるみをもふもふしてる時の顔が表に出せない領域に達している。

僕達は何もみなかったとして、個室に受付の女性を一人残してクエストを受注した。
しおりを挟む
感想 51

あなたにおすすめの小説

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

異世界召喚されたら無能と言われ追い出されました。~この世界は俺にとってイージーモードでした~

WING/空埼 裕@書籍発売中
ファンタジー
 1~8巻好評発売中です!  ※2022年7月12日に本編は完結しました。  ◇ ◇ ◇  ある日突然、クラスまるごと異世界に勇者召喚された高校生、結城晴人。  ステータスを確認したところ、勇者に与えられる特典のギフトどころか、勇者の称号すらも無いことが判明する。  晴人たちを召喚した王女は「無能がいては足手纏いになる」と、彼のことを追い出してしまった。  しかも街を出て早々、王女が差し向けた騎士によって、晴人は殺されかける。  胸を刺され意識を失った彼は、気がつくと神様の前にいた。  そしてギフトを与え忘れたお詫びとして、望むスキルを作れるスキルをはじめとしたチート能力を手に入れるのであった──  ハードモードな異世界生活も、やりすぎなくらいスキルを作って一発逆転イージーモード!?  前代未聞の難易度激甘ファンタジー、開幕!

俺を凡の生産職だからと追放したS級パーティ、魔王が滅んで需要激減したけど大丈夫そ?〜誰でもダンジョン時代にクラフトスキルがバカ売れしてます~

風見 源一郎
ファンタジー
勇者が魔王を倒したことにより、強力な魔物が消滅。ダンジョン踏破の難易度が下がり、強力な武具さえあれば、誰でも魔石集めをしながら最奥のアイテムを取りに行けるようになった。かつてのS級パーティたちも護衛としての需要はあるもの、単価が高すぎて雇ってもらえず、値下げ合戦をせざるを得ない。そんな中、特殊能力や強い魔力を帯びた武具を作り出せる主人公のクラフトスキルは、誰からも求められるようになった。その後勇者がどうなったのかって? さぁ…

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

滅びる異世界に転生したけど、幼女は楽しく旅をする!

白夢
ファンタジー
 何もしないでいいから、世界の終わりを見届けてほしい。  そう言われて、異世界に転生することになった。  でも、どうせ転生したなら、この異世界が滅びる前に観光しよう。  どうせ滅びる世界なら、思いっきり楽しもう。  だからわたしは旅に出た。  これは一人の幼女と小さな幻獣の、  世界なんて救わないつもりの放浪記。 〜〜〜  ご訪問ありがとうございます。    可愛い女の子が頼れる相棒と美しい世界で旅をする、幸せなファンタジーを目指しました。    ファンタジー小説大賞エントリー作品です。気に入っていただけましたら、ぜひご投票をお願いします。  お気に入り、ご感想、応援などいただければ、とても喜びます。よろしくお願いします! 23/01/08 表紙画像を変更しました

コストカットだ!と追放された王宮道化師は、無数のスキルで冒険者として成り上がる。

あけちともあき
ファンタジー
「宮廷道化師オーギュスト、お前はクビだ」  長い間、マールイ王国に仕え、平和を維持するために尽力してきた道化師オーギュスト。  だが、彼はその活躍を妬んだ大臣ガルフスの陰謀によって職を解かれ、追放されてしまう。  困ったオーギュストは、手っ取り早く金を手に入れて生活を安定させるべく、冒険者になろうとする。  長い道化師生活で身につけた、数々の技術系スキル、知識系スキル、そしてコネクション。  それはどんな難関も突破し、どんな謎も明らかにする。  その活躍は、まさに万能!  死神と呼ばれた凄腕の女戦士を相棒に、オーギュストはあっという間に、冒険者たちの中から頭角を現し、成り上がっていく。  一方、国の要であったオーギュストを失ったマールイ王国。  大臣一派は次々と問題を起こし、あるいは起こる事態に対応ができない。  その方法も、人脈も、全てオーギュストが担当していたのだ。  かくしてマールイ王国は傾き、転げ落ちていく。 目次 連載中 全21話 2021年2月17日 23:39 更新

生活魔法は万能です

浜柔
ファンタジー
 生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。  それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。  ――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

処理中です...