もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜

双葉 鳴|◉〻◉)

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七章 もふもふファミリーと闘技大会(本編)

74 凄腕テイマーの噂

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夜までになんとかエス=タックの街に到着。
ロキ達は(珍しいという意味でも)とにかく目立つ。
一旦ニャンゾウの影の中に入れてもらって、僕の影に潜んでもらった。

手が寂しいと訴えるトラネとキサムには特別にぬいぐるみを出してあげた。インフィはどこ吹く風でニャンジャーの感触を思い出してニコニコしてる。
この子もすっかり丸くなったよね。

「じゃあルーク、宿で一旦休憩だ。この日程なら一日くらいは余裕があるけど、あんまり長居はできねーな。俺はルテインの登録を先に済ませてきちまうから、お前達は先に宿取ってきちまえよ」

馬車を街の厩舎に預けるなり兄さんはそう言う。
ルルア=タックでは結局ゆっくりできなかったからね。
思いっきり羽を伸ばせるとそれぞれがようやく落ち着けるとホッとした。

エス=タックはルルア=タックと比べてさらに大きい。
侯爵家以上の貴族、または同等の貴族が関わっているのだろうか?

「おじさん、串6本ちょうだい」
「あいよ! 坊や達、見ない顔だね。これから帝都に行くのかい?」

串焼き屋のおじさんは汗を肌に張り付けながらそんな世間話を交える。ロンローン肉の串焼きと書かれているがロンローンが何かを僕はよく知らない。
ただ一つだけわかることがあるとすれば、それは非常に食欲をそそられる肉ということだけだ。
網の上でジュワッと僕たちにお腹を空かせる煙を吐き出す。

「そんな所です」
「あいよ、6本だ。今包むから待ってな」

一人二本ずつなのにわざわざ包んでくれるなんてありがたいなって思ったら、そういえばトラネとキサムは今両手が塞がっているんだった。ハタと思い出し、しっかり僕たちを見ているおじさんに感謝する。

「ありがとうございます」
「おう、美味かったらまたきてくれよな!」

ぬいぐるみを抱っこしての食事は厳しい。
そう思った僕たちは公園に置かれてる長椅子に腰掛け、三人並んでその間にぬいぐるみをギュムと挟んだ。
とにかく油が乗ってて美味しい反面、肉汁が溢れやすい。
こぼした時にぬいぐるみが汚れてしまう恐れがあった。

「うまっ」
「これアタリだね」
「うん、帰りにまた買おうか」
「賛成!」

三人でうまさの秘密を追求するように、何が上手いのかを原因を探っているうちにあっという間に串だけが残った。
謎の肉のあと引くうまさ。

見やれば結構な割合でこの肉の購入者が居る。
気に入った人が多い証明だ。

「すいません二泊、3人でお願いします」
「はいはい……って坊や達だけかい?」
「こう見えて冒険者なんです。お金だって持ってますよ」

一泊1000ゼニスと割高な宿代でも、三人分、二泊する金額をきっちり出せば、宿の女将さんもニッコリする。
お金さえ出してくればお客さんの事情を聞かないのはどこの宿も同じようだ。

「と、ウチは動物は持ち込めないんだよ。悪いね、裏に厩舎があるからそこに預けておいで」

部屋に行く時、そんな声がかけられる。
ぬいぐるみが本物に見えちゃったようだ。

「あ、これは精巧に作られたぬいぐるみなんです。抱っこしてみますか?」
「え、あたしゃてっきり本物かと思ったよ。ずっしりしてるけど、確かに動かないね。じゃあ、余計に餌代は掛からないんだね?」
「はい。肌寂しい時のお供に重宝してます」
「悪かったね、引き留めて。ウチは安宿だからって結構な確率で客以外の生き物の持ち込みが多いんだ。坊や達もてっきりその類と思ってさ」
「そんな事情があったのなら、疑ってしまっても仕方ありませんね」

ペットを飼うというのは人間をもう一人養う覚悟が必要だ。
その上で会話ができないとなればストレスは計り知れない。
それにつけても一泊1000ゼニスって安いのか?
僕はその価値観に頭がついていかないよ。

「わぁ、窓からの景色が最高ね!」

トラネが窓を開くと、肌に吹き付ける心地よい風と絶景に心を躍らせる。プロフェンぐるみをぎゅっと握って。そのまま踊り出しそうだ。

「一泊1000ゼニスと聞いた時は正気か? と疑ったけど、この間取りなら問題ないな」

キサムが言うように、僕たちの宿泊する宿は三人で泊まるには広すぎた。
この街は首都ワクティンへの直通の玄関口。
その為商業や工業が発展して今があるみたい。
宿の本棚に置かれた自伝にそう記してあった。
全ての部屋にそんなサービスがあるのだろうか?

「ここの宿、朝と夕の食事がもらえるんだって!」
「じゃあ1000ゼニスは納得だな」
「だね」

バファリンでは食事がついてこない。
お湯も食事も別料金だ。だから宿代は500ゼニスと破格だった。

「これ、ロンローン肉かな?」
「切り分けられてないとこんな形なんだー」
「おいひい」

夕食に出たのはロンローンの姿焼き。
長くてにょろっとしてる水棲系の生物のようだ。
他にも、ロンローンを左右に開いてライスの上に乗せる蒲焼というのもあった。
旨味の効いたタレがライスとよくあって美味しい。
パン食の僕達でもペロっと食べられてしまうほどに美味だった。

ここのライスは粒がしっかり立ってて、味が強い。
以前バファリンで食べたのはネチョっとしてて口の中が不快だったけど、こっちは食べやすそうな工夫がされていた。

「はぁ、食った食った」
「こんなにお腹に入れたの初めて」

それだけ気に入ったと言うのもあるけど、ライスおかわり自由というのが大元の原因だ。
それ以前にロンローンが美味すぎるからライスがあっという間に尽きるんだ。
ロキ達にも食べさせてあげたいな、だなんて思うほど僕達はロンローンに虜になった。

「おう、ルーク。お前ここの名物食べたか?」
「翌朝、集合場所で待ち合わせていると、兄さんがすっかりロンローン肉の虜になったような顔で言う」
「美味しいわよね、このお肉」
「お嬢様ったら大量に買い占めようとしてたんですよ。足が速いから、日持ちしないのにも関わらずです。この町でしか食べられないとも知らずに……大量に在庫を抱えて、私達はその消費に追われてる」

ミキリーさんの身の上話を嘆かわしいと告げ口するストックさんは相変わらずだ。
「なんだと!」と憤るミキリーさんを羽交締めにして引き留めるルテインさんが代わりになってくれるのも大きいか。
もう一人ツッコミ役が増えてストックさんもようやく腰が落ち着けるといった感じでニコニコだ。
いつもご苦労様です。

「ルテインさんは無事加入出来たの?」
「おう、新生ゼリーエース。いや、これからはハイゼリーエースって呼んでくれ!」
「早速早朝にクエスト終わらせてきたのよ? 試運転も兼ねてね!」
「へぇ、もうクエストこなしてきちゃったんだ。僕たちすっかりロンローン肉に夢中で、他のことまで考えられなかったなぁ」

僕の言葉に頷くトラネ&キサム。
「それはしょうがねぇよ」と兄さんが大口でロンローン肉を頬張った。兄さんもすっかり夢中だね。

「それとここが地元の冒険者もエントリーされてるって話だ。ギルド中がざわついてたぜ? 前回もいいところまで行ってたって話だからな」
「どんなパーティなの?」
「なんでもお前と同じテイマーが獣魔と共に参戦してるんだってよ。本人も超つえーって話だ。ロキ達程ではないにせよ、お前は比べられちゃうかもな」

ツン、とおでこを突かれる。

「僕達は本戦に出ないよ?」
「ある意味では先輩テイマーだ。自分たちに足りない戦い方を覚えられるいい機会だぜ?」
「まぁ、僕がロキ頼りなのは事実だけどねー」

ロキが強すぎるのがいけないんだ。

「まぁ、参考にならないって言うのは俺たちの挑戦相手にも言えることだな」
「頑張って! ロンローン肉を消費しながら応援してる!」
「テメェ、俺の分も残しとけよ?」
「それは兄さん達次第だよ? 一回戦を勝ち抜けなかったら食べる機会は増えるかもねー?」
「ぬぐぅ!」
「リーダー、ロンローン肉欲しさに手を抜くのはやめてくださいよ?」
「そうだよリーダー、なんのための参加かわからなくなる」
「Aランクへの道のりは遠く厳しいものです、リーダー。お覚悟を」
「わかったよ! 食い物で妥協しねぇ!」

でも道中でも食うんだからな! と息巻く兄さん。
僕のゴミ拾いでカビないように管理しておけって魂胆は見え見えだよ?
まぁ美味しいから仕方ないよね。
僕達の方でもロンローン肉を調達できるクエストでも探してみようかな?

こんなに町中で食べてるんだもん。
きっとクエストの一つや二つ、転がってるはずだよ。

これから修行してくる、と討伐系クエストを片っ端から片付ける兄さん達とギルド前で別れ、僕達も何かクエストしていこうかと受付で手続きをする。

「Dランク冒険者『ブリーダーズ』ですね、確認しました。おや、メンバーが一人足りないようですが?」
「一身上の都合でパーティを脱退しました。今後は三人で活動するつもりです。そこで獣魔契約に追加加入させたい子達がいまして」
「了解しました。こちらへ」

受付でのやり取りで済むものが、なぜか奥の個室へと案内された。

「あの? どうしてこんな秘密のやりとりみたいな?」
「既に兄さん唐事情は聞き入れています。なんでも珍しいタイプの獣魔契約しているとか」
「兄さん?」
「バファリンのギルドマスターのコエンは私の兄となります」
「わ、すごい偶然!」
「偶然と言うか、まぁあなたの噂は私の一族がしっかり管理してますのでそうそう公にはならないのでご安心ください」

一族?
何はともあれロキ達の正体はその一族がしっかり守ってくれてるようだ。ここにもぬいぐるみあげた方がいいのかなぁ?
だなんて思いながらキッカとニャンゾウの登録を済ませた。

友好の証としてロキぐるみをあげたら大層喜ばれた。
普段はキリッとしてるのに、ロキぐるみをもふもふしてる時の顔が表に出せない領域に達している。

僕達は何もみなかったとして、個室に受付の女性を一人残してクエストを受注した。
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