もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜

双葉 鳴|◉〻◉)

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六章 もふもふファミリーと闘技大会(道中)

73 継承される意思

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ルテインさんによって案内された場所は、大陸に端にある雲の海原がどこまでも続く水平線であった。
高く設置された丘の上。
眼下には雲の隙間から僕たちの生まれ育った世界が見える。

その丘の先に、誰かのお墓があった。

「ようやくこの場に辿り着いた。ありがとう、ピヨちゃん。もう思い残すことはない」
「ピヨヨヨ~(契約は果たされた)」

ピヨちゃんが一声感高く鳴く。
すると何かのつきものが抜けた様にルテインさんから悲壮感が抜け落ちた。
理由を聞くと、この場所はキッカ姫が埋葬された場所だと言う。
この場所に戻ってくるまでの道のりを、ピヨちゃんに守ってもらったそうだ。それと同時に契約は果たされた。
契約者としての期限も消え去り、今は殺されたら普通に死ぬ人間となってしまったそうだ。
もう長生きもできないので、あとは年老いていくばかりだそうだ。

「ピヨちゃんはどうなってしまうんですか?」

僕の質問に、ただ微笑みながらルテインさんはピヨちゃんが羽ばたいた後に残された卵を僕に押し付ける。
え、僕が世話しろって? 別に良いけど。

「この子は、キッカは私と共に生まれたもう一人の私だったんだ。生まれこそ違ったが、その天真爛漫さから私も学ぶことは多かった」

ルテインさんはしゃがみ込んで冥福を祈る様に手を合わせた。
僕もそれに倣って手を合わせる。すると……


<条件を達成しました>

<キャットソウルを獲得しました>

<獣神化:ニャンジャーを獲得しました>


うーん、予定調和。
僕がモンスターの冥福を祈ると高確率で魂を拾っちゃうんだよね。ほんと、何なんだろうこのゴミ拾いってスキルは。僕は彼らの魂をゴミだと思ってないのに。

取り敢えず、毛を一本引き抜いて分体を作る。
早速キッカ姫を現地に召喚してみた。

「ここは一体……わたくしは何故ここに?」
「姫ー!!」
「ニャンゾウですか? 随分と久しぶりですね」
「どうやってその肉体に?」
「わたくしもよくわからぬのですが、声が聞こえて……そうしたらこの地に舞い降りていたのです」
「それはきっとルーク君のスキルだよ」

困惑する二匹のニャンジャーへ、ルテインさんが声をかける。

「にゃんと、我らのお世話をしてくれるだけではなかったのか!?」

ニャンゾウさんは驚愕に目を見開く。

「これからは共に歩めますね、ニャンゾウ?」
「次こそは御身をお守りいたしますぞ!」
「ふふ、期待していますよ?」

ルテインさんと共に暮らしていた割に、お上品な感じのキッカ姫。何でルテインさんを通すとお転婆になるんだろう?
そこが最大の謎だ。

「それよりもこの場所に案内した理由をそろそろお聞かせ願いましょうか」

地上に戻るための手段がここにあると聞いていたのに余計な茶番を見せられたとため息を吐くストックさんが、少し失礼な物言いを通す。こっちは時間がないんです、とその顔に書いてある。

「そうでした、案内はわたくしが引き受けますわ、#下層の猿共__みさなま__#。こちらへ」
「姫! 客人に対してお言葉が過ぎますぞ!」
「もう、これぐらいの悪口ぐらい許してほしいですわ。それにわたくしは幾度も人間に裏切られてきてるのです。ルテインやルーク様には気を許しても、それ以外を同等に扱うだなんてとてもではないですが、感情が揺れ動いてしまいますのよ?」

あ、だめだこのお姫様。人間に対する怨念が強すぎる。
そりゃ自身の死因と仲間を人体実験されたらそう思っちゃうのも仕方ない。あやした程度でその怒りの矛先を収められるか心配になってきたぞ?

見た目癒し系なのに予想を上回る脳筋だよ、この子。
ルテインさんが言った通りのわんぱく具合で先が思いやられる。

「いや、それぐらいの悪事を働いたんだ。そういわれたって仕方ねぇ」

兄さんだけは打たれ強いのか、事実を事実と認めて受け止めた。

「あら、あなたは随分と物分かりのいい猿ね。特別にご奉仕させてあげてもよくってよ?」
「ひーめー!!」

ニャンゾウさんの絶叫かと思うほどの鳴き声が周囲にこだまする。

「ふふふ、キッカのそう言う一面、始めてみるわ」
「ルテインと一緒の時は猫を被ってたの」

猫が猫をかぶるって言葉使うんだ?
それともニャンジャーは猫じゃない?
どうみても二足歩行する猫ちゃんなんだけどね。

そんな感じで僕たちはどつき漫才さながらの掛け合いをしながら格納庫と呼ばれる場所へとついた。
それは僕たちがバンから乗り移った小さな船が格納されてる場所でもあった。

それよりも大きな、全員が乗れる船だ。
これは空を滑る様に走る古代文明の遺産だとか。
これを僕たちに授けるのだそうだ。
それともう一つ、やたらでかい扉を貰った。

「これは?」
「転送ゲートですにゃ。これでいつでも我らニャンジャーの里につながりますにゃ。我々に会いたくなったらいつでも訪ねてきてくださいにゃ!」
「ニャンゾウはついてきてくれないの?」
「姫は共に旅立つと言うのでござるのかにゃ?」

せっかく帰ってきたのに、すぐに旅立つといわれてニャンゾウさんが考え込む。

「キッカ、無理に僕たちについてこなくたって良いんだよ? ニャンゾウさんとここに残る選択だってあるはずだ」

僕の質問に、キッカは首を横に振った。

「なぜ、復讐の道をお止めになるのですか? ご主人様と共に歩めば、我々ニャンジャーに災いをもたらした相手にいっし報いることができるのですよね? なのにその場にわたくしをつてて行ってくださらないと、そうおっしゃるのですか?」

僕は口を噤んだ。
キッカの恨みは僕が思っている以上に強い。
ルテインさんはそんな恨みを背負ったキッカの魂を安息の地に送ることだけに執着した。
その執着によって目覚めたピヨちゃん。

キッカの強い復讐、執着によって、僕の手元の卵が揺れた。

ピキ、パキパキ、ぱりん!

僕の手の中でピヨちゃんが再びその羽を広げる。

「ピヨヨヨ~(契約は成された)」

あ、はい。
これは僕がその相手をぶん殴るまで死ねないって、そう言うサインでもあった。

「ピヨちゃん、新しいご主人様が出来てよかったね!」

家族が増えるよ! と喜ぶルテインさん。
押し付けといてよくもまあそんなことが言えるよね。
まぁピヨちゃんの契約者が僕になった事で、僕の分体にも不死性がついて回ることになるんだけど。
いいのかなぁ?

まぁいいか。深く考えたら負けかなって。
ぼくは考えるのをやめた。

結局ニャンゾウさんはぼくの新しい獣魔として契約する事となった。コエンさんは驚くだろうなぁ。まぁいつものことだ。

「姫共々世話になりますにゃ」
「うん、よろしくね」
「ではその扉は某が預かりますにゃ」

その扉を出した時と同様に、足元の影へと仕舞い込むニャンゾウ。
シャドウストレージというスキルらしい。
ニャンジャーは陰に潜み、影と共に歩むニンジャと呼ばれる存在の技術を集めたプロフェッショナル集団なんだって。

普段はただの猫ちゃんなのに、有事にも役に立つなんて!
そんなニャンジャーに喧嘩を売るなんて古代人はきっと頭が悪かったに違いない。
まぁ、その愛くるしい姿にすっかり騙された僕たちが言っても何の説得力もないけど。

お世話中の彼ら、すっごいだらけてるし隙だらけなんだよね。だからきっと無防備に見えるから……簡単に騙せそうと思っちゃったんだろうなぁ。


そんなこんなで僕たちは方舟と呼ばれる中型ボートで元のルートへと辿り着く。
馬車も無事だ。今からなら次の街まで夜までには辿り着けそうである。

馬車に揺られながら、ルテインさんが申し訳なさそうに名乗り出るまでは。

「悪いが、私は次の街で降ろしてもらえないだろうか?」
「うん?」

もうピヨちゃんの世話人でなくなったこと。
それはブリーダーズの規約に反することを長々と説明する。
別に僕たちは気にしないのに、自分の中からキッカが消えたことが彼女の中に大きな空洞を作っていたのだそうだ。

これからの人生を今まで通りに過ごすことはできない。
だから冒険者は辞めるんだと、そう口にした。

キッカのされた怒りに共感していても、不死身で亡くなった彼女はその冒険についていけないと、無力感を感じながら、戦線から身を引く覚悟を吐露した。

誰も彼女を責められない中、兄さんの能天気な声がかけられた。

「じゃあ、ウチ来るか? 前衛しかいないウチだが? 戦力は多いに越したことはねぇ。それにルークの所にいると自分の強さを見失っちまうだろ?」

それは確かにそう。
僕たちが何かする前にロキ達が全て片付けちゃうからね。
僕たちブリーダーズはロキ達に自由にやらせた上でお世話するのにも熱心なもの達の集い。本人達がそれほど強さにこだわりを持ってないのが特徴といえば特徴だ。

今回ルテインさんが自分の実力不足を痛感したのはそういう所。
ピヨちゃんがいて初めて僕たちについていけるだなんて錯覚してしまうのも全てロキ達が強すぎるのが原因。
ルテインさんは何も悪くない。

「いいのか? 戦い始めたら前しか見えない女だぞ、私は」
「そんなのはうちのミキリーで見慣れてる」
「おい、リーダー? アタシが一体なんだって?」
「お嬢様、落ち着いて。今はお嬢様のお話じゃありません」
「お前は黙ってな、ストック。でもねぇ、男所帯のうちでお嬢様がやっていけんのか見ものだねぇ?」
「山籠りなら慣れている。食べられるキノコの見分けならまかせておけ!」

息巻いてる所悪いけど、それ死亡フラグだからね?
ピヨちゃんがいたから死ななかっただけだから、それ!

そんなこんなで兄さんのパーティにルテインさんが合流した。
元僕たちのメンバーとして応援したい所だ。
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