もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜

双葉 鳴|◉〻◉)

文字の大きさ
上 下
71 / 88
六章 もふもふファミリーと闘技大会(道中)

71 追憶(プロフェン)

しおりを挟む
ずっとここにきてからソワソワした気持ちが勝る。
ここの風景にどこか見覚えがある。

僕には信頼をおける兄が居た。
今はこうやって一つの体に押し込められてしまったけど、一つになる前は泣き虫な僕をよくあやしてくれたっけ。

『ああ、ダメだ。また失敗だ』

誰かの声が煩わしく耳に残る。

『博士、実験の方はどうですか?』
『企画は良かったが、この個体はあまりにも気弱すぎる。せっかく素晴らしいボディに連結しても、気が弱すぎて運用できない。これでは門番にもならんよ』
『見掛け倒しという奴ですか?』
『もう一匹仕入れてくることはできるか?』
『最近警戒されてまして、実験そのものを疑ってる様です』
『クソ猫め! 誰のおかげで人と同じ様に生きながらえてると思ってるのだ! 今がその恩を返す時だろうに!』
『そうは言いましてもそれは数百年も前の話。今は第二の人類、隣人ニャンジャーとして存在を認められてます』

心の中で何度も懺悔する。
ごめんなさい、ごめんなさい。弱くってごめんなさい。
僕は弱いから上手い話に乗ってよくわからない実験に乗った。
まさかそれが自分の体を大きく変質させる実験だなんて思わなじゃった。

尻尾の根元の痒みがとれる革新的な商品の治験だというから乗った。ニャンスケ兄さんはいつもそこが痒いと嘆いていたから。
僕が代わりに受けて、良かったらお薦めしようとして。

僕は……何で人間を信じてしまったんだろう。
仲間の言葉を耳に入れなかったんだろう。

悔しくて涙を流したいけど、この体はそれすらもさせてもらえない。もうニャンジャーだった頃とは違う、立派な体。
建物よりも大きくて、自分が寝返りをするだけで壊れてしまうんじゃないかと思うほどに強化されたボディ。

でも僕の気弱な精神ではおっかなびっくりしてしまってダメだった。

『ここに居るのか、ニャンジロウは』
『ああ、お前の名前を連呼してたよ。ニャンスケ兄さんと』
『あいつは俺が居ないとダメダメだからな。で、どこに居るんだ?』

兄さんだ。でもどうして人間と仲良くしてるの?
ダメだよ兄さん、こっちきちゃ。
悪い人間に捕まっちゃうよ?

『そこに居るだろう?』
『この化け物が?』

今の僕から見たらニャンジロウ兄さんは豆粒みたいに小さくて、兄さんから見たら化け物に見えちゃうんだ。

「グゥルルル……」
『俺を見てビビってんのか? ハハッ』

瞬時に察したのだろう。僕のビビりっぷりを。
化け物が僕だってことを。
だから僕を連れ出そうとして繋いでいた鎖を解こうとしてる背後から人間から何かを撃ち込まれた。

『テメェら、何しやがる』
『実験を見られてしまった以上、逃すと思うかね?』
『は? そっちがニャンジロウに合わせて一緒に生活させてやるって条件出したんだろうが。俺はこいつを引き取りに来たんだぜ?』

兄さんがいつもの様に威勢よく吠える。

『同じ場所で暮らすとは言ったが、連れ出されちゃ困るんだ。おい、拘束しろ』
『何するんだ! 放せ! おい、ニャンジロウ! 俺の声が聞こえるだろう? 今すぐ暴れてこの研究所をぶっ壊せ!』
「グゥル……」

無理だよ。僕は弱虫ニャンジロウだもん。
いつも果敢に獲物に爪を立てるニャンスケ兄さんとは違うもん。

『フハハハ、無駄だよ。その個体は図体だけデカくても子猫のままなのさ』
『テメェ……ニャンジロウの優しさにつけ込んだな?』
『何も心配いらん。ちょっと眠れば、すぐそこの化け物と文字通り一つになれる。これからは私達の実験成果として飼ってやるから恩に着ろよ?』
『クソ、くそ、クソッタレめ!』

兄さんは拘束され、何か細い針から液体を注がれた。
あれは僕が意識を失った奴だ。
兄さんもそれを打ち込まれてぐったりした。

僕の体が動けてれば、兄さんまで犠牲にしなくて済んだのに。

僕が臆病でなければ、兄さんは助かったのに。

僕はなんて愚かなんだろう。
あの細い針を差し込まれて意識を失うまで自分のことを責め続けた。

『フハハハ! どうだ! 実験は成功したぞ!』
『おめでとう御座います、博士』

僕は兄さんと一緒になった。
文字通り一つのボディに入れられた。
僕が一人で寂しくない様に、僕にそっくりな顔がすぐ横にある。
僕は涙が込み上がるのを堪えきれない。
でも、涙はどうやっても出てこなかった。

肉体の優先度はニャンスケ兄さん任せ。
ずっと人間を恨んで、僕の声さえ耳に入らない暴走モード。
何かにつけて反骨精神を見せつける暴れん坊が災いした。

『お前たちはこの実験室の入場者を蹴散らす様に』

僕たちは忌々しい研究室の門番を務めることになった。
いろんな思惑を持つ人間を屠り、仲間であるはずのニャンジャーまで。
何が良いことで、何が悪いことなのかもわからなくなっていた。

もう、誰かに懲らしめられたい気持ちでいっぱいだった。
でも、僕たちのボディは強靭で、強大だった。

『クソ、ニャンジャーたちにこの研究所を嗅ぎつけられた。一旦離脱する。街の連中を囮に、この研究所だけは何としても死守しろ!』
『博士、よくもやってくれたな? 盟友ニャンジャーに喧嘩をふっかけるとは。悪いが今日限りでお前は首だ。我が王国に無能は要らんのだ』

部下からの連絡と、上司からの連絡が同時に来ると、博士は僕に当たる様に鞭で叩いた。
痛くも痒くもないこの肉体。

僕たちは研究室ごと大陸を分断し、魔物の蔓延る地上へと降り立つ。そこは人類が住まうには劣悪な環境で、生体兵器となった僕たちには物足りない場所。

それでも人類は懲りるという事を知らなかった。

何百年も前、研究室の博士の子孫と名乗る男が現れた。
怪しい薬で昏倒させられた僕は心臓を抜き取られ、文字通り生物としての死を感じた。

ようやくこれで眠れる。兄さんも疲れ切って眠りたがってたもんね。

でも僕たちの望みは違う形で裏切られた。

「今日からここがお前たちの庭だ。好きに暴れて良いからな?」

意味がわからなかった。寝返りひとつ打てない穴倉で、好きに過ごして良いとは?
人間は相変わらず訳のわからないことを言う。
兄さんはご立腹だ。
僕だって怒ってる。

そんな時、真っ白なウサギが現れた。
本当の意味で、僕たちを救ってくれる存在。
僕達が、元の姿に戻れる唯一の存在が、強烈な存在感のもとに現れた。

『お前、強ぇだろ?』

後にボスと慕うロキとは本気で戦ってもなかなか決着はつかなかった。兄さんを持ってしても、僕のブレスでも仕留めきれない。
そしてとうとう僕たちは負けた。

そこから先のことは薄ぼんやりとだけ覚えてる。

僕の体は泣き虫ニャンジロウの頃と変わらないサイズまで縮み、ニャンスケ兄さんはせっかく手に入れた力を手放したのが悔しくて何かにつけて吠えた。

でも僕は昔の自分のサイズが嬉しくていっぱい甘えた。
それを兄さんは疎ましく思ってたみたい。

『今日から君はプロフェンだ』

人間が、僕に美味しい餌や毛繕いまでしてくれる。
あの人間がだ。これは何かの間違いじゃないか。
夢ではないのか? また僕を騙して実験とかするのではないか?
そんな不安が押し寄せたが、杞憂に終わった。

何日、何年経とうと待遇が一向に変わらなかったのだ。
おっかない僕は消え去り、可愛い、愛される僕が存在した。
ニャンジャーだった頃の僕だ。

兄さんも安堵してようやく警戒をといた。
僕と一緒にお世話されてることを喜んでいた。


そして現在。
お世話人のトラネお姉ちゃんが僕じゃないニャンジャーに夢中になっている。

(これはダメだろう。トラネは俺たちの世話人なのに。横取りはダメだよなぁ?)

いつになく兄さんの感情が乱れてた。
そうだよね、お世話権を勝ち取るなら僕たちを倒してからだよね?

僕と兄さんは一致団結し、子孫のニャンジャーたちに勝負を挑んだ。
しおりを挟む
感想 51

あなたにおすすめの小説

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

異世界遺跡巡り ~ロマンを求めて異世界冒険~

小狸日
ファンタジー
交通事故に巻き込まれて、異世界に転移した拓(タク)と浩司(コウジ) そこは、剣と魔法の世界だった。 2千年以上昔の勇者の物語、そこに出てくる勇者の遺産。 新しい世界で遺跡探検と異世界料理を楽しもうと思っていたのだが・・・ 気に入らない異世界の常識に小さな喧嘩を売ることにした。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

子爵家の長男ですが魔法適性が皆無だったので孤児院に預けられました。変化魔法があれば魔法適性なんて無くても無問題!

八神
ファンタジー
主人公『リデック・ゼルハイト』は子爵家の長男として産まれたが、検査によって『魔法適性が一切無い』と判明したため父親である当主の判断で孤児院に預けられた。 『魔法適性』とは読んで字のごとく魔法を扱う適性である。 魔力を持つ人間には差はあれど基本的にみんな生まれつき様々な属性の魔法適性が備わっている。 しかし例外というのはどの世界にも存在し、魔力を持つ人間の中にもごく稀に魔法適性が全くない状態で産まれてくる人も… そんな主人公、リデックが5歳になったある日…ふと前世の記憶を思い出し、魔法適性に関係の無い変化魔法に目をつける。 しかしその魔法は『魔物に変身する』というもので人々からはあまり好意的に思われていない魔法だった。 …はたして主人公の運命やいかに…

異世界召喚されたら無能と言われ追い出されました。~この世界は俺にとってイージーモードでした~

WING/空埼 裕@書籍発売中
ファンタジー
 1~8巻好評発売中です!  ※2022年7月12日に本編は完結しました。  ◇ ◇ ◇  ある日突然、クラスまるごと異世界に勇者召喚された高校生、結城晴人。  ステータスを確認したところ、勇者に与えられる特典のギフトどころか、勇者の称号すらも無いことが判明する。  晴人たちを召喚した王女は「無能がいては足手纏いになる」と、彼のことを追い出してしまった。  しかも街を出て早々、王女が差し向けた騎士によって、晴人は殺されかける。  胸を刺され意識を失った彼は、気がつくと神様の前にいた。  そしてギフトを与え忘れたお詫びとして、望むスキルを作れるスキルをはじめとしたチート能力を手に入れるのであった──  ハードモードな異世界生活も、やりすぎなくらいスキルを作って一発逆転イージーモード!?  前代未聞の難易度激甘ファンタジー、開幕!

野草から始まる異世界スローライフ

深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。 私ーーエルバはスクスク育ち。 ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。 (このスキル使える)   エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。 エブリスタ様にて掲載中です。 表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。 プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。 物語は変わっておりません。 一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。 よろしくお願いします。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...