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六章 もふもふファミリーと闘技大会(道中)

68 追憶(ルテイン)

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私には生まれながらにして前世の記憶があった。
それはこの世界のどこにもなくて、夢の様な景色を思い出させてくれる。

「ルテイン様、またお漏らしですか?」
「うぅ、なんかこの服慣れない」

前世の記憶があるからだ。それに引っ張られて、私は人並みのことが出来ずにいた。

6歳の頃。剣の道に強い興味をそそられた。
夢の中での私は、武器を持てば一騎当千。
いや、そばにいてくれた男の子が守ってくれたのだ。
私は夢の中でお姫様で、男の子は私のお付きだった。

『姫、あまり敵前に出られませぬよう!』
『なによ、大将が前に出なくてどうするというの?』

私が前に出ると、その男の子が困りながら後についてくる。
それが楽しくて、私は天性の武芸の技を磨いた。

楽しかった当時を思い出し、人間としてもその道へと至った。
夢の中では困られながらも慕われたが、現実はそうも行かない。
女が剣の道に行くなどもっての他と両親から泣かれたのを覚えてる。

適齢期になると嫁ぎ先を決められた。
夢の中の様に、自分で選べない。
カゴの中の鳥だ。
そう思う様になった。

だから私は逃げ出した。
そして行き倒れた先でピヨちゃんに出会った。
最初に沸いたのは食欲。

夢の中での姿は猫。
鳥とか魚とか好んで食べた。
人間で過ごして食べられる種類は増えた。
その中には毒のあるものも多かった。
私はそういうのを好んで食べた。
きっと死にたかったのかもしれない。

私は、ただ夢の中の私に戻りたかったんだ。
だからそのひよこを口に入れた後、その場に倒れる様に眠った。

『契約は成された』

何かの言葉が聞こえた。口が燃え上がる様に痛かった。
次に目を覚ました時、身体中の痛みが消えていた。
喉の渇きを訴える感情を押し除けて、水を求めて探し歩く。
結局私はただのわがままだ。

国の道具として扱われるのが嫌いで、ただ前世の記憶に逃げてただけ。
私の肩にたべたはずの真っ赤なひよこが飛び乗った。

「ピヨヨヨ~ピヨ~」

能天気だな、と思った。
でも一人じゃないと思えば気も楽だった。
いつしか私はその子と一緒にいるのが当たり前になり、気付けばピヨちゃんと名付けていた。


◇◇◇


「どこから語れば良いかな……」
「姫が今までどう生きてきたかなど、聞きたいにゃん」
「そうだなぁ、どうも私は生まれた時よりこの肉体に違和感を感じていた。キッカ姫の時の記憶のままでいたからだろうな。正直人間の女としてはすこぶる出来が悪かった」
「フハハハ。我々の体に引っ張られていたとにゃれば、随分と戦闘狂でござったか?」

ニャンゾウさんは細長いレイピアを腰から抜いた。
ルテインさんもニッ笑みを浮かべる。

「フハハハ、やはり貴女様はキッカ姫様であらせられるにゃ」
「三傑の証を読まずとも良いのか?」
「する必要もありませぬとも。どの道この大陸は忘れ去られた大陸。多くの同胞は夢半ばで倒れ、某達もあとは死を待つのみですにゃ」

なんか覚悟完了してる猫ちゃん達。
そろそろもふもふ欲が限界寸前なんです。
後生ですからモフらせてくださいませんか?
ニコッとしながら揉み手でにじり寄る僕とトラネ。

『あるじ、俺では代わりにならんか』

居てもたってもいられず、ロキが自分の身を差し出してくる。
プロフェンも同様だ。
触りなれたモフりごこち。
これはこれで良いんだけど、にゃんこへの魅力には抗えないものがあった。

「疑って済まなかった、客人よ。ただしこちらか先に進むにあたっていくつかのルールは設けさせていただくにゃん」
「それくらいならばいくらでも」

武器の解除。そしてアイテムの持ち込み禁止を言い渡される。
まぁこのくらいは仕方ないよね。

「このブラシだけは持って行っても構いませんか?」
「用途を聞こうかにゃん」
「うちの子達は日に一回ブラッシングしてやらないと機嫌が悪くなるんです。ですのでこれは何卒!」
「ふ、む。許可するにゃ」

そして僕たちは、お客としてにゃんこパラダイスへと辿り着いた。

「うわー、猫ちゃんだー」
「なんにゃー」
「知らない子達が居るのにゃ!」

僕たちが近づくと、蜘蛛の子が散る様に逃げていく猫ちゃん達。
いや、ニャンジャー。そういう種族だってルテインさんが教えてくれた。
ニャンゾウさん曰く誇り高き血統種らしく、長生きすればするほど尻尾が増えていくんだって。
ニャンゾウさんは500年生きてるから6本。
こういうところは九尾とは違うみたいだ。

「皆の者、落ち着くにゃ。このもの達は某の客人にゃ。今日から数日間世話することになったにゃ。皆、失礼のない様にするにゃー?」
「ニャーんだ。てっきり悪い人間が攻めてきたのかと思ったにゃ」

逃げ出したにゃんこは総じて一尾。
二尾以上は見定める様にこちらがどう出るか伺っている。
強者の貫禄さえ浮かんでいる。若い個体が多く、守り手が少ないのだろう。

そんな折、一尾の猫ちゃんが背中じゅうをむしる様に引っ掻いている光景が映った。

「どうしたの?」
「実は数日前から身体中が痒いんニャー。掻いても掻いても痒みがなくなんなくてニャー」
「これは我々ニャンジャーにとって抗い難い苦痛にゃ。同時に何の対処法もなくて、困ってるんにゃー」

猫ちゃん達は一様に頷く。多分ノミとかだろうね。
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