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六章 もふもふファミリーと闘技大会(道中)

64 Bランクパーティ『パイロン』との出会い

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出発前はゴタついたけど、出発したらしたで旅を楽しんでる。
知らない土地で、知らない料理を口にする。
知らない風景に一喜一憂したり、なんだかんだと満喫した。

バファリンからパブロンに向かう途中で平原を西に。
パブロンの街を迂回するように馬車は山道へと入った。

東の山脈とは違い、こちらは結構人の手が入っている。
舗装された道、架けられた橋なんかも丈夫な作りだ。

「パブロン東の山とは大違いだね?」
「あそこはモンスターの生息地だろ? 急勾配で移動に適してない。それに飛行系の巣窟だって聞く。おまえ、そっちに行くクエストとか受けたのか?」
「コエンさんから緊急でって一回」
「あのオッサン、ルークをやたら便利に使いすぎだろ。お前もさ、なんでもできちまうからやたらと頼られる事になる。嫌なら嫌ってちゃんと口にした方がいいぞ?」

事前に僕に我儘を通して旅に同行させた兄の口からそんな言葉を聞くとは思わなかった。

「そ・れ・を、リーダーには言われたく無いだろうね」
「なっ!? 俺は弟を思って言ってるのであってな!」
「兄弟だからって散々無理難題を吹っ掛けてきたあなたが言っても多分響かないですよ、リーダー」
「そうなのか、ルーク! 兄ちゃんお前に無理させてたか?」
「あははは……」

僕の言いたいことはミキリーさんやストックさんが言ってくれた。僕は兄さんに乾いた笑いを返すので精一杯だ。

「にしても、山の方は少し寒いな」
「そう? プロフェンのもふもふで気にならないけど」
「くっ、ソニンに哨戒を任せたばかりに俺のもふもふが!」

肌寒いと語るキサムに、トラネが気にならないと語る。
その差はもふもふの有無。
馬車に揺られながらの旅は暇だ、とロキと一緒に外に遊び歩いていた。
哨戒というのが名目上の建前だ。

ロキとソニンが遊び歩く。それを聞いただけで兄さん達は察してくれる。プロフェンはすっかり飼い犬になってしまったのでトラネと一緒にバンとテリンに餌やりをしていた。
旅に行くときに水槽まで同行させていたのである。
バン&テリンにも伸縮自在リングを与えているので、日中は羽トカゲに擬態して水中で生活してもらっていた。

ワイバーンは普通に討伐対象なので、通常サイズで連れ歩けないのだ。それを言ったらプロフェンも同様だけどね。

「こうやって誰かと旅をするのは久しいな」

そう漏らすのはルテインだ。
肩に乗せた真っ赤なひよこ、ピヨちゃんに語りかけるように目を細める。僕と会う前は山の中で極限サバイバルをしてたもんね。
本人曰く、好きでしてたわけじゃないようだけど。

方向音痴を極めて、街に行きたくても行けないまま浅い森で数ヶ月彷徨うのはザラと聞いたとき、この人は一人で行動させちゃいけないと固く誓った。

「あら、場所がひらけたわね」

そこで御者の席で相乗りしていたインフィがルエンザを抱えて馬車の行き先を知らせてくれる。

「他の馬車も止まってるね。みんな帝都に向かうのかな?」

山道から開けた場所にはいくつかのテントが建てられている。
中にはその場で調理なんかして、中継点として使われているようだ。

「分からんが、Bランクで見たことある顔ぶれがあるな。ちょいと挨拶に行ってくるぜ」
「いってらっしゃーい」
「やっぱりお前もついてきてくんねーか、ルーク」
「え、やだよ」

さっき嫌なことは嫌ってはっきり言うべきだって兄さん言ってたじゃない? 
顔見知りならともかく、一方的に知ってる人相手に挨拶しに行くのに子供を連れてく神経がわからない。
そこは先に友達になってから僕を紹介する流れだよ?

「嫌われちまったねぇ?」
「自業自得ですよ。ほらリーダー向こうも気がつきました。行きますよ」
「くそ! もうどうとでもなれだ!」

兄さんはいつだって自信満々だと思っていた。
けど格上相手にはビビってしまうのか、少し遠慮した感じで近づいて声をかけた。

「あの、もしかして皆さんはBランクパーティ“パイロン”の方々ですか?」
「あぁ、確かに俺たちはパイロンだが、お前さんは?」
「俺たちはゼリエースと言います」
「ゼリエース! 聞いたことあるぜ。最近ブイブイ言わしてるそうじゃねーか。これから帝都に行くのか?」

既に闘技大会にエントリーされた事は知ってるようでスルスルと会話は繋がった。

「ええ、先輩方に胸を借りに行く所です。皆さんはクエストですか?」
「ああ、ここらでブラッディベアーが出たって目撃情報があってな。街からは遠いが、この道に出没するのは商人達にとっての懸念案件だってことでルルア・タックから緊急クエストが出たんだ」
「ブラッディベアーですか。単体ならともかく、パイロンさん達が出張るって事は……」
「あぁ小さな個体をそこかしこで目撃したことから群れてやがるな。子供が大きくなる前に駆除したいもんだが……」
「そいつは長丁場になりそうですね」
「お前さん達はブラッディベアーに遭遇した事は?」
「単独で一度だけ」
「成果は?」
「始末してます。ただ、納品で弾かれました」
「ガハハ、針の筵にでもしてやったか?」

冒険者あるある。
討伐しても追加報酬は得られなかったって奴だ。
兄さんと一緒に行動してたとき、僕にチップをねだっていた頃を懐かしむ。

「しかしブラッディベアーの生息地は山林。こんな断崖絶壁の多くある山に住みつきますかね?」
「おおかた食うのに困って下りてきたって所だろ」
「だと良いんですが妙な胸騒ぎがしますね」
「お前さんも感じるかい? 俺もいやーな気配を感じんのよ」

冒険者同士で分かりあうことでもあるのか、パイロンのリーダーさんとすっかり話し込む兄さん。
僕達はそれを他所に休息をすべく馬車を停めさせてもらった。

炊き出しメンバーは手際良く料理の調理を行っている。
基本的に冒険者の食事は質素だ。
パイロンさん達は、大人数なので食費も節約してるのか、野菜くずの浮かぶスープに干し肉を散りばめたもの。他には硬く焼き上げたパンを鉄板の上で焼いてスープに浸すというお馴染みの料理だ。

「この飯でクエスト受けるのはしんどそうだよな」
「仕方ないよ。パーティごとに事情も変わるから」

キサムの言葉に僕はなんとも言い返せない。
パーティ事情によそ者が首を突っ込む訳にはいかないのだ。

今ここで手助けすると、ずっと世話を焼くことになる。
手を差し伸べるっていうのはそういうことだ。
嫌なら嫌って言え。
世話を焼けないなら手を差し伸べるなっていうのは兄さんの教え。

その多くを行動で無かったことにする兄さんに僕は何度もため息を吐いている。

「ルーク、パイロンさん達にめちゃうま熟成肉をご馳走してやれ」

言ってる側からこれである。
ちなみに一度兄さんに食わせたら「店が開けるぞ!」みたいに言われたことがある。
お金を出せる味だとしても、僕にお店を運営するイロハはない。
要はその発言に無責任なのがうちの兄、アスターの悪い癖。
ここに極まれりだ。

「情けは人の為ならずじゃなかったの、兄さん?」
「一度あれ食ったら二度と干し肉なんて食えっかよ!」
「そうならない為に無償の施しはするなって言ったのは兄さんじゃなかった?」
「ゼリエースのリーダーがそうまで押す熟成肉とやらが気になるな。もちろんタダでくれとは言わない。代金は支払う。味によっては倍額出しても良い。頼む、話を聞いてからずっとそのことに意識を割かれて困っているのだ」

パイロンのリーダーさんがあまりにも頼み込むので、最初の一枚はサービスで、以降別途料金を支払う契約を経て提供した。

熟成肉とは肉を腐る一歩手前まで持っていったものを指す。
その上でカビを徹底的に除去。寄生虫の排除。
衛生面を保った状態で、鉄板の上に乗せる。
今回のお肉はワイバーンのものなのでデカい。
バン&テリンを迫害していたおじさんワイバーン達のものだ。
情状酌量の余地なしだったのでお肉は有効活用させてもらってる。

最大限まで高められた旨み。適度に入った脂身サシそれらがインフィの炎魔法で最大限に熱された鉄板の上で極悪なまでの良い匂いを発し、その場にいた全員の腹が鳴る大惨事となった。

サービスだけで腹一杯になる量。
切り分けた一枚肉は両面をしっかり焼いたにも関わらずミディアムレア。十分に蒸らされた赤みの帯びた肉は、口の中で一瞬にして溶けた。
一切の咀嚼もせず、まるでスープでも口にしたかのように口内に旨味だけを置き去りにした。

「これはいくらだ? いくら出せば売ってくれる?」

もう目の前のクエストのことなど忘れてしまったような顔で、パイロンさん達は目を輝かせる。こうなるってわかってたから発表したく無かったのに。

僕の提示した額は、パイロンさん達が引き受けたクエスト報酬を大きく上回った。
明らかに落ち込んだ顔。しかしそこはBランク冒険者。
それが食えるようになるまで稼いでやる、と新たな意気込みを見せて長丁場と思われるクエストを最短で終わらせる意気込みを見せた。

休憩場を後にして、少ししたところでロキと合流。
相変わらずの返り血にブラッディベアーの血の反応があったが、僕は何も見ないことにした。

ソニンと一緒に狩勝負をしたらしい。
パイロンさん達のクエストが早く終わった理由は考えるまでもなかった。
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