もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜

双葉 鳴|◉〻◉)

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六章 もふもふファミリーと闘技大会(道中)

63 兄からの頼み

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「おう、ルーク。あの話聞いたか?」

クエストの帰り。僕に向けてコエンさんが上機嫌に話しかけてくる。
この人はまず主語を抜いて語るのをやめることから始めるべきだ。
ザイムさんがいつも疲れたような顔をしてる気持ちがなんとなくわかった。

「なんのお話です?」

クエスト終了サインをもらい、アイテムの納品を終えてからさっきの話題へと食いつく。トラネやキサム、インフィは僕のお話にまるで興味なさげにそれぞれの相棒のトリミングを始めてる。
僕はロキを抱き抱えて、ブラッシングしながら適当に相槌を打って切り抜ける予定だ。

「これだよ」

僕の前へ一枚のチラシ。そこには帝国選定冒険者、俗に言うAランク選定闘技大会の開催が告知されていた。

「これが何か?」

バファリンに住み始めてから一年半。それくらいの情報は掴んでいる。ただ僕に勧めてくるくらいだから、僕が興味を抱く内容があるんだろうな。

冒険者になる人達の最終目標はAランクだってトラネやキサムが言っていた。バックに国がつくから知名度が段違いなんだって。
でも国がバックにつく以上、国外での活動は限定されると聞いて、それは面倒だなと思う僕がいた。

だからBランクで止まる冒険者が多いとも聞く。
兄さんもその類だ。
だからコエンさんが指し示した出場エントリーパーティに『ゼリーエース』の名前が上がっていた事に驚いたものだ。

「え、これ兄さんのパーティ名ですか? 別のギルドの登録パーティじゃなく?」
『闘技大会ってなんだ?』
『パーティ同士で上下格差を決めるやつだね』
『ふーん』

脳内で適当に会話を交わす。ロキは人間同士の相手はつまらなそうだと早々に話題を打ち切った。
僕は僕で、あの兄さんが自由を捨てるなんて信じられない! と瞠目すると。事実だよと返してくるコエンさん。
登録先がサンドコーサとなっている。
サンドコーサ伯爵領出身の時点でアスター兄さんに間違いない。
あのお金に汚く、自由を謳歌することを望む兄さんが……

「まぁ、当人たちは不本意だろうがな」
「兄さんが自分からエントリーした訳ではないと?」
「出来るわきゃねぇだろ。Bランクになって一ヶ月やそこらだぞ? Bランクだけで1000組以上いるんだ。下から数えたほうが早いだろ。だから抜擢には何か裏がある」

冒険者としてギルドで選定できるのはBまで。
Aになるのは国規定。

それ以上も150年前では選定されてたけど、ドラゴン系統(not‘龍)への単独撃破という無茶をやらかす冒険者を監視すると言う名目で付け加えられた“L(Lunatic)クラス”──狂気的のお題目通り、人類から逸脱した国の手に余る超人たちを指し示す。まぁ国際指名手配班の別名なところもあった。
優遇してやるから大人しくしてねって言う首輪みたいなものだよね。

そんな話題を貰った一週間後。
パブロンに滞在していたはずの兄さんが、まるでもうAランクになったような気分でバファリンに凱旋してきた。
開幕からニヤけ顔である。
これは相当浮かれてるな、って顔を見てれば分かる。

「おうルーク、元気してたか?」
「うん、僕は変わらずだけど。兄さんはどう?」
「元気も元気、大元気だ!」

そんな言葉聞いた事ないよ?
兄さんはたまにおかしな言葉を使う時がある。

「アスター、すっかり浮かれてるが、こいつは受けるのかい?」

コエンさんがこれ見よがしに闘技大会のチラシを手元で揺らす。

「ああ、いい機会だろうと思ってな。俺達なんかが選抜されたのは何かの夢だと思うが……このチャンス、乗る事に意義があると思うんだ」
「脚がけで帝都に顔を売れると思ってんならやめときな。田舎のバファリンと帝都じゃそれこそレベルが違う。生粋の戦闘狂が軒並み揃ってる。金を稼ぐのに特化したおまえさん達じゃ到底太刀打ちできねーよ。笑い物にされるのがオチだ」

あまりにも無慈悲!
コエンさんの言葉には応援してやろうと言う気持ちがこれっぽっちも乗ってなかった。

「ギルマス~、ちょっとは応援してくれよー。国に錦を飾りたいんだよ~」

実家、の事ではない。第二の故郷としてバファリンに家を持っている。僕たちのようなお屋敷程ではないが、宿と違って持ち家だ。ローンを組んでの支払いとなっている。
今は物理的な採取クエストの消滅によってパブロンに遠征してるけど、拠点としてバファリンでやっていくことを決めてるみたい。

それに実家へはロキやインフィの毛皮を持っていって以降、兄さんは実家への仕送りをストップさせていた。
当てにされても成長を止める。むしろ成長を止める機会を作っていたと気づいたんだって。

あの父さんの事だから、兄さんからの一方的な融資打ち切りの方が困ると思うよ。残してきた妹達が酷い目にあってなけりゃいいけど。

「そもそもおまえは自由を謳歌したくて冒険者になったんだろうが」
「あれ? 俺ギルマスに冒険者の志望動機語ったっけ?」
「オレノーと同じ目をしてるから大体察したよ」

それって元貴族だってバレてる感じ?
まぁ兄さんは素行の悪さの横でマナーの良さみたいなのはあるし。肉を手づかみで食べない。ナイフとフォークでお行儀よく食べる。こう言うことって平民はしないみたいなんだよ。
学園に通うのにある程度の礼儀作法は必要だからね。
まぁ王族からはかけ離れた男爵家です、はい。

あまりにも歓迎されてない兄さんに助け舟。
まぁ僕から見ても話を聞いてる限り無謀だと思うけど、身内の僕くらいしか助けられないからヨイショしておく。

「まぁまぁコエンさん。やらせるだけやらせてみたらどうですか? 実力差を見せれば現実を知りますって」
「おまえ、一番残酷なこと言ってるって自覚あるか?」

えー、波風立たないように庇ってあげたのにそんなこと言うの?

「そうだ、ルーク。おまえも一緒に来い」
「え? 嫌だけど」

僕はこっちでクエストがあるし、自分の気持ちを即答した。
お店だってあるし。
オーナーが出払っていたらピヨちゃんのやらかしの責任は誰が取ると思ってるのやら。
普通はルテインさんが取るんだけど、あの人死亡者扱いだから戸籍ないんだよね。戸籍の方が先に消滅したって言うか。
なので冒険者ランクも信用に値せず、僕のパーティで雇う事にしてる。

けど一緒に行動して分かったのはこの人に責任ある仕事を任せられないって言うダメな部分ばかり浮き彫りになってくる事実。
不死身な所くらいしかメリットないんだよね。
元Aランク冒険者が聞いて呆れるよ。
それもコネで入手したんじゃないかって気もしてくる。
とっくに滅亡した国の王女様だってお話だし。

「たーのーむーよー! もふもふに癒されながら大会当日まで過ごすんだ。もう俺の心の傷を癒せるのはもふもふしかない!」
「ロキなら貸すよ?」
「いや、おまえとセットがいい!」
「我儘だなぁ」

そんなこんなで僕は兄さん達の心のケアをすべくもふもふ部隊を動員させた。
お店は僕の分体を厨房に一人、ロキやソニン、プロフェン、ルエンザの分体を複数置いて、後はヘキサさんに店の管理を任せた。

「それじゃあ、帝国まで楽しいピクニックの始まりだぁ」

音頭を取る兄さんの声に続く声は上がらなかった。
ミキリーさんのジト目が兄さんに突き刺さり、ひたすら申し訳なさそうに平謝りするストックさんに僕も兄さんがいつもご迷惑をおかけして申し訳ありません、といたたまれない気持ちになる。

うちのメンツはマイペースに旅を堪能してる。
せっかくの遠出を全力で楽しむつもりらしい。
僕もそう言う所、真似したいよね。
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