もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜

双葉 鳴|◉〻◉)

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五章 ゴミ拾いともふもふファミリー

62 元帝王ワシャールの狙い

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帝都ワークティン。
その闘技場の最高責任者は恐縮しながら面会相手に首を垂れる。

「そう緊張せずとも良い」
「ですが皇帝様」
「元、な。今は息子に丸投げした。今となってはタダの隠居ジジイよ。ワシャール爺さんじゃ。くかかか」

そう口を開くのは18歳から実に35年もの間帝国を盤石なものとして采配してきた皇帝の口から出てきたもの。
親の代から世話になってる皇帝を前に子爵の立場であるロビン=ヘモグ子爵は萎縮するばかりであった。

「まだお若いでしょうに」
「いつまでも若いつもりでいたら来る年波に勝てなくなるぞ? 私はそれを先の遠征で実感したAランクに一番近い男と呼ばれた私も耄碌したもんだ」
「何勝手に出歩いてるんですか!」

闘技場の最高責任者でもあるロビンは皇帝ワシャールのあまりの放蕩ぶりに思わず感情が言葉に乗った。

不敬だと罰せられると気がついてすぐに口を手で隠すが、くかかか、と笑って返されるばかりだ。
今の皇帝様は当時のような覇気は持たれてない。
いや、単純に使う場面を考えているだけか。

「所用でな。少し会いたい人物がいた」
「皇帝様が気にかけるほどの相手ですか?」
「そりゃ国に蔓延る病魔を払ってくれた大恩人だ。放っておけるわけもあるまいよ。息子から聞いた時はまだ小さな子供だって聞いてさらに驚いた。実際にあったら本当に小さくてな。ドヒャーってなった話でも聞くか?」
「それで、わざわざここにはそのお話をされに来たので?」
「もちろん違う」
「はぁ……」

ワシャール様は前置きが長いからな、とロビンは内心でぼやいた。

「まずはそうだな、そろそろ冒険者のAランク選抜闘技大会の期日が近づいている。そうだったな?」
「はい、ワシャール様のお声がけで私の興行は実現致しました」
「そうだ。散々世話してやったよな? そこで一つ頼みを聞いちゃくれんか」
「なんでしょうか、無理なお願い以外なら何なりとお申し付けくださいませ」
「なら挑戦者に特別シード枠を一つ設けておいてくれないか?」
「元Aランクならお呼びしてますが?」
「いや、そうではない。その場所には例の子供を出場させようと思ってな」
「いやいやいやいや!」

ロビンは大仰に顔の前で手を左右に振った。

「確かに病魔を払ったのかも知れませんが、所詮は薬師でしょう? 冒険者に混ざって戦うのは違うでしょう」
「実はな、私の威圧を受けてもケロッとしていた」

え? それは威圧のレベルにもよるな。
他国の来賓に向けるものと、敵国の将に向けるものでは段階が四つくらい違う。
四段階なら全員がその場に縫い付けられるほどの威圧だが、いや……まさかな。

「それはそれは……でも病魔だって同じくらいの威圧を放つとかで慣れたのではないですか?」
「まだ信じぬか。仕方ない、これは内緒じゃが、ゴニョゴニョゴニョ」
「は!? いや……それは確かに。それが事実ならとんでもない偉業ですよ?」

まさかここで伝説上の厄災、『龍』の名を聞こうとは思わなかった。
それが現れた時、街を一つや二つ手放す覚悟をしなくてはならない。それを一つの町を犠牲にせず追い払った?
その上で帝国からの褒賞も全部断ったと言うのだ、その子供は。

今回の言い出しもきっと国としての威信に関わるとの介入か。
それは断れない。断ったら国家反逆罪の烙印すら押されそうだ。
何せこれはお忍びの相談ではなく、帝国のこれからの担うものだ。だが、どうしてもそれ以上に引っかかる事がある。それが、

「でもここまでお膳立てして、本人がやる気を出さなかったらどうするんです?」

聞けば名誉ある授賞式もキャンセルしたと聞く。
闘技大会にやってくる可能性も低いだろうに。
なぜか確信ありげに囁くワシャール。これに乗っていいものかと渋るロビンだが、反ると言う選択肢は用意されちゃいない。
初めから選択肢は一つであった。
その上でせっかく用意したシード席が空いたままで進行する方が問題だと疑問を呈する。

「そこでとあるパーティを参加者にねじ込んで欲しい」
「そのパーティ名は?」
「ゼリーエース」
「聞かない名ですね……いや、最近すごい勢いでBランクを最下位から駆け上がってますか。そのパーティとその子供はどういう関係なので?」

ロビンはBランク冒険者のランキングリストをパラパラめくり、ようやくその名前を見つけてワシャールへと顔を向ける。

「兄弟だな」
「ああ、お兄さんを出場させて闘技場に来させる作戦ですか? 応援目的ならやむを得ない感じで」
「そうだな。それ以前に本人は自分のことをサポーターくらいにしか思っとらんが、あれは強いぞ。噂が本当なら『龍』に真っ向から立ち向かって滅ぼしておる。見た目で騙されないことだな」

それが事実だったらやばい事になる。
『龍』は出会ったら死ぬぐらいの脅威。なすすべもなく、支配されて死を待つだけの存在。
それに抗い逆に打ち滅ぼすなど、冒険者の誰にも真似できない。
それは他国の英雄や勇者でもだ。
過去200年以上にわたって封印以外の処置ができない存在を称して『龍』と呼んでいるのだから。どこかのアホが崇拝してその力を手に入れたがってるが、紛い物でしか無い。
それでも厄介なのだ。紛い物ですら放っておけば国が滅ぶのだからな。

「皇帝様がそこまで推奨されますか……」
「まぁな」

口には出さずにいたが、もう一つ。
看破魔法で見抜いたペットの詳細がどれも傾国級だった。
あれがタダのテイマーであるはずが無い。
本人に国を害する気がなくとも、その戦力を他国に渡したく無いと言う気持ちだけは強い皇帝ワシャールだった。

それに、と内心でさらに付け加える。
魔導具師としての才能。
それを引っ提げて参加したらきっと面白い事になる。

今になっても真剣に話を聞き、乾いた砂が水を吸収する速度で技術を飲み込んだ才能が皆から認められる未来がワシャールには見えるようだった。

「全く、オーレンめ。そんな面白い話に私を混ぜないとはとんだ親不孝者だな」

闘技場を去る際、ワシャールはそんな言葉を溢してその場から掻き消える。
魔道具『テレポートポータル』
それが単身であらゆる街に行き来するための手段であった。
特定の場所に出口を用意し、あとはその場所に念じるだけで空間が捩れてたどり着く。

そんな技術の集大成を、ワシャールはルークに余す事なく教えていた。
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