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五章 ゴミ拾いともふもふファミリー

56 やらかしピヨちゃん

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パチクリと、つぶらな瞳を浮かべる赤い産毛を生やすひよこ。
威厳に満ちた声はあまりにも渋く、生まれたてのひよことは思えない口調にちょっと付き合っておく自信がない。

「ええと、君のご主人ならお疲れだから休ませてるよ」
「ぴよよー(なんと、かたじけない)」

口調が硬いな~。
本当にこの子見た目通りの年齢なの?

「こいつら、死んでも復活するから、精神が成熟しすぎてるのよね。ただ、蘇生法が卵からの復活だから見た目通りに取らないほうがいいわ」
「へぇ。物知りだね、インフィ」
「これくらい常識よ。逆にルークが無知すぎるわ」
「ごめんね、色々聞いちゃって」
「別に、あたしはあたしの知ってることを言っただけよ」

ピヨちゃんはヨタヨタしながら左右を見回し、お目目をパチクリしながら首を傾げる。

「ピヨ~?(みたところ仲間とお察しする。しかし同時にそこの女子からはもっと獰猛な気配が感じられる。身の毛もよだつというか)」

初見でインフィの特質を見抜くか。

「見た目ほど乱暴物じゃないから気にしすぎないで。今はゆっくり養生して」
「ピヨ(かたじけない)」

さて、この子達は一旦お店の控え室へと移すとしよう。
流石に翌日も一般客と同じ待遇は少し面倒というか。
数日間は養生させないと無理させちゃうからね。

何かから逃げてるような強迫観念が気にかかる。
なので僕は一旦お店の場所を雑木林から移動することにした。

こういう時、移動できるお店って便利だよね。
店舗移動のビラ撒きはまたミキリーさんにクエスト案内出しておこう。タダでもやってくれそうだけど、こういうのはきちんとお金を出してやらせることで責任感が生まれるって兄さんも言ってたしね。

「店を移すんだって?」

ギルドの受付でクエストを出す時、コエンさんから声がかかった。

「はい。モンスターが寄らないからって外で出し続けるのは問題も多いことに気が付かされました」
「まぁ、安全と危険が紙一重だからなあの場所は。外というのもあって街道に山賊が現れるのも時間の問題だった。英断だと思うぜ?」
「やっぱりそうですよね、最初こそは憩いの場所としてくつろいで欲しいだけだったんですが」
「ぬいぐるみが飛ぶように売れてたもんなぁ。勘の鋭い奴はそこにチャンスがあると身構えるぜ? だからルークが一歩先んじて店を移動させるって聞いて今頃慌ててるかもな」

あはは、と乾いた笑いを浮かべる。
ぬいぐるみを売り出した先にそんなリスクもあるなんて知らなかったよ。

ぬいぐるみについては、うちにもあるぜ、とコエンさん。
見ればクエストボードの横に貸出しコーナーまで設けられてる。

首にドッグタグがかけられておりランクF~Dまで貸出可能とのこと。何に使うのかと思ったら、意外なことにモンスター避けだった。いつぞや僕が編み込んだロキの抜け毛入りお守りのような役割を持ってたみたいだ。

ちなみにランクを縛ってるのは、単純にそのランク帯で買うのがきびいしいからとのこと。僕達がDランクなのに購入に至れたのは、ひとえに衣食住に僕が関わってるからそっちにお金を使わなくなったからだそうだ。
それでも結構備品の買い足しがあるトラネは首が回らなくなってたよね。キサムはまだいいけど、モンスター避け以外の所有欲を持つのは早かったんだと暗に言われてるような気がしたよ。


と、言うわけで土地の事なら不動産。
コエンさんとザイムさんから推薦状をもらって顔を出すと、お話は伺っておりますと老紳士が僕達向けの土地をピックアップしてくれた。

「お噂は予々。ちょうど一番通りに空き地があります」

そんな一等地に空きが?
訝しむ僕に、老紳士は同時に問題もあるとした。

「疑問を持つのはごもっとも。問題があるとすれば夜分遅くにこの土地にかつて暮らしていた方の霊が訪れるらしく、地主が気味悪がってすぐ手放してしまうとのことです」
「霊とはレイスの事ですか?」
「いえ、モンスターとは違い人に恨みはないようです。なぜそこに現れるのかは全くの謎でして……噂ではその土地で亡くなったやんごとなきお方の霊が下界に遊びに来ているとのことです。どうしますか? 君悪がられるのでしたら他の場所をお勧めしますが」

老紳士曰く、この土地は一番安く提供できる場所らしい。
僕達とてお金はあるが、いつ引っ越しするかもわからない。
ずっとそこに建てる前提ならともかく、お値段は安い方が嬉しかった。

「契約する前にいくつかお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「なんでもおっしゃってください」
「ではいくつか」

その幽霊さんは直接的に危害を加えてこないのか?
その質問にはイエス。ただ遠くからこちらを見つめるだけとのこと。
出没時間は決まって夜。日中は現れないと聞いて契約を結んだ。
トラネは霊とか怖がりそうだけど、彼女にはプロフェンぐるみがある。それに抱きつきながら寝ればワンチャンやり過ごせそうだ。

「ではここにサインをお願いします」
「はい」

サラサラっとサインを書き込んで契約成立。
土地代は一括で、と思ったけど老紳士からの願いで入店時にサービスをしてくれたら割引してくれるとのことで引き受けた。
意外なことに僕のお店のファンだったらしい。足が悪くて遠出できないが、街の中なら近くて通えるからとウキウキしながら提案してくれた。
僕としては願ったり叶ったりだ。

けどここにきてピヨちゃんの真の能力が顕になる。

『オートリザレクション』
これはパーティメンバーに死者が出た場合、自動復活するタイプの固有能力だった。
かつて死んだ霊魂すら強制的に復活!
パーティを組んだ覚えもないのに、夜間にうちに遊びにきた幽霊さん達が生前の姿を取り戻していた。

「まぁ、信じられません。これは夢ではありませんの?」
「お嬢様、わたくし共も何が何だか」
「もし、わたくし達を蘇生させてくださったのはあなた方で間違いありませんの?」

全く存じ上げません!
そんなふうに驚く僕の懐から、ぴょこんと顔を出すピヨちゃん。

「ピヨヨヨ(我である。主人以外の迷える声が聞こえた。僭越ながら我が力を振るわせていただいた。礼などいらぬ。これも一宿一飯の恩ゆえ)」

君かぁーー!
あとサラッとルテインさんも何回か死んでるようなこと言った?
まぁあんなもの日常的に食べてたら死んでてもおかしくないけどさ。

取り敢えず生き返ってしまったものは仕方ない。
無理矢理蘇生されてしまった人達はこの土地で領主を務めていた先々代の令嬢で、流行り病によってこの離れで息を引き取ったらしい。お付きのメイドさんも同時期に息を引き取ったらしく、この土地では割とそういった無念の霊が漂ってるとかなんとか。

けど家の外には出て行けないらしく、急遽うちのスタッフさんとして働いてもらうことになった。

「えっと、急遽今日からうちのスタッフになったお二人を紹介するね?」
「ヘキサ=エン=サンドコーサと申します。この子は私のメイドのアリッサ。わたくし共々よろしくお願いいたしますわ」
「は? サンドコーサ家ってここの領主じゃなかったっけ?」
「実はこの方はこの土地に住まう地縛霊だったみたいなんだけど、ピヨちゃんが……」
「ピヨちゃんが?」
「無理矢理蘇生させちゃったみたいで」
「ごめん、ちょっと理解が追いつかない」

トラネの気持ちは痛いほどわかるよ。
僕だってさっきから何回もほっぺつねってるけど痛いもん。

「ピヨヨヨ(我の力は異端に見えるのも仕方あるまい。教会からその存在を忌避されておるからな)」

まさかの教会から禁忌扱いされてる存在だった。
インフィがこいつ呼ばわりする訳である。

「こいつの肉を食えば不老不死になるってデマが人間界で出回ってるのはそう言うことよ」
「普通に狙われてるのこの子かー」
「迷惑をおかけすると思ったから話し出せなかったのよ」

もぐもぐと朝食に参加したルテインさんは心苦しそうに話した。
ある意味で集まるべきところに集まった感じはある。

「まぁ、今更じゃない?」

インフィの言葉に、ルテインさんは首を傾げる。

「今更とはどう言う?」
「その子がどれほどおかしな性能をしてても、ここのメンツでそれを気にする奴はいないって事よ。そうでしょ、みんな?」
「ピヨちゃん以上の問題児がここには居るって言うの?」

ルテインさんもピヨちゃんを問題児って思ってたんだ?

「ピヨ~!?(主人殿~?)」
「うるさい焼き鳥ね。ではご紹介しましょうか。ここにいるうちのリーダーはドラゴンキラーよ。聖龍教会から喧嘩売られて余裕で生き残ってるわ」
「ドラゴン! 疫病の化身を追い払ったのですか!?」
「追い払ったのではなく消滅まで追い込んだのよ。故にドラゴンキラー。そこの焼き鳥の世話にならずとも安全性は確保済みって訳」

自分のことでもないのに自慢げに語るインフィ。
順に年相応のトラネ&キサム。大天才魔法使いと前置きを置いてから自分の紹介をするインフィに僕達は同時にツッコミを入れた。

それを観てルテインさんは吹き出すように笑った。
なっと言うか今までに会ったことのないメンバーだったようで、気が抜けたと話した。
それ以外にもハンターラビットに、ツインヘッドベヒーモス、9尾の狐がテイムモンスターに居るって話しても信じてもらえなかった。

本当なのに……
まぁトラネやキサムも薄々気づいてるけど気づかないふりしてくれてるんだと思う。

というわけで僕達のブリーダーズに新規メンバーが追加された。

コエンさんに申請を出しに行ったら130年前に失踪した公国の皇女様と同じ名前だって驚かれた。
もうとっくに滅んでる国のお姫様だとか。
とんでもない履歴持ってるな、この人。

厄介な身の上なのは、ピヨちゃんに限らずルテインさんもどっこいどっこいだった。
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