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四章 ゴミ拾いと流行り病

49 VS厄災級

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『アハハハハハハハ! ようこそ私達の餌場へ!』

まるでこの展開を期待してたかのような歓迎っぷり。
けれど。

『集え、私のかわい子ちゃん達ぃ♡』

少女が高らかに錫杖を天に掲げ。
しかし何も起こることはなく首を傾げている。
もし僕たちが何も手を施さなかったら、なすすべもなくやられていただろう。
けど、間一髪で間に合っていた。

でも、相手は厄災級……かもしれない相手だ。
そんな相手にどうやって勝てというのか。

『アレ~なんで集まらないの?』

僕のコストはガンガン増えていく。
各所に設置した分体が病原菌を駆逐する勢いで吸収していってくれたおかげだ。

さらに僕は吸収する以外にも新しいやり方で病原菌を駆逐しようと試みた。
相手がばら撒いた病原菌を魔力に変換するのなら、僕だって魔力に変換できる術を持つ。

全魔力を消費して【毛糸変換】
各所に置いた分体から毛糸を伸ばして直接【養分抽出】を行った。
増えた魔力はもちろん僕のゴミ拾いスキルのレベルアップに使っていく。
相手の力で逆にレベルアップしちゃおうって作戦だ。

30から35、40、50。
まだまだ増える。同時に雨に混ざった病原菌だって僕の体に触れる前に吸収だ。
何せ今の僕は、50人分手を繋いだ上下左右の範囲にゴミを拾う能力を得たのだから。

もちろんそれだけじゃ終わらない。
敵がパワーアップする機会を失っただけ。まだまだ余力を残してる。
あまりの魔力は全部スキル使用回数へと回した。

『良いや、じゃあいっくよ~』

錫杖を持つ少女、コルドは首を傾げたまま考えるが、解決しないことを悟って開き直る。
別に今のままでも十分勝てると踏んだからだ。
まだ僕達を侮っている。
大きく息を吸い込んで、ブレスの姿勢。

「ロキ!」

僕は即座に分体を作り出し、後方へ下げる。
すかさず変身! 本体のロキが現れた。
伸縮を使用中なのでサイズはミニマムだが、パワーは分体と段違いだ。

『分かってる! 行くぞプロフェン! 必殺パンチだ!』
『えー、アレやるの?』

変身中のロキの影からこれまたミニマムなプロフェンが現れる。
更に小さくなってロキの手のひらサイズだ。
プロフェンがものすごく嫌がってるのが特徴的だな。
一回酷い目にあってるもんね。
ルエンザには勝てたけど、あれからトラウマになって夢に見るようになったんだって。
前はもっと勇敢だったってロキが嘆いてたよ?
甘やかした僕のせいみたいに言われてちょっとショックを受けたけど、今はそれどころじゃない!
使える力は全力で。
だからプロフェンには後でいっぱい甘えさせてあげるから、今は協力してと頼み込む。

『死に晒せ! メガトンブレイク!』
『それ、僕死んじゃうやつ!』
『イッケェエエエエエエエ!!』
『うわぁあああん、ベヒーモス差別だぁ~~!!』

流れるような右ストレート。
【浮遊+引き寄せ】で目標に吸い込まれるようにして真っ直ぐに飛んでいくプロフェン。
上空でブレスの姿勢をしていたコルドにとって、別に気にすることはないかと思わせたら勝ち確定だ。

そのまま吸い込んだブレスが吐き出される。
が、
僕のゴミ拾いの範囲外から抜け出たプロフェンが元のサイズに戻った。
もともと雑木林からしゃがんでも身を隠せない体格だ。
更にプロフェンが命乞いをしながら手足をバタバタさせれば、更に巨体が大きく見えた。

『へぶぅ!?』

上空でゴシャ、と嫌な音がした。
巨体と巨体がぶつかる音だ。
見た目が華奢な少女の姿してるから勘違いしていたのかもしれない。
あのプロフェンの巨体と同格、若しくはそれ以上の巨体。
それが正面衝突をし、勢いに負けて遠くに飛ばされた。

少女はブレスを吐くという最大の攻撃と同時に無防備な肉体に、最大質量の巨体のプレスアタックを受けたのだ。
無事で済むはずがない。

それと同時にバファリンの街にも異変が起きる。
突然夜がやってきたと錯覚するほどの巨体が太陽を閉ざしたのだ。まぁプロフェンなんだけどね?

『うわぁあああああああん』

上空で散々ジタバタしたプロフェン。あんな巨体が街に落ちたらそれこそ一大事だ。目撃した住民が騒ぎ出す前に、プロフェンに【浮遊+引き寄せ】を使う。
戻ってくる頃にはロキの手元にスポッとおさまっていた。
おかえり、プロフェン。

「あたしの出番なかったわね。バッチリ準備してたのに」

インフィが肩透かし、とばかりにぼやいた。

『私を引き潰したやつ! ちょっと思い出しちゃったじゃない』

だが傍のルエンザは恐怖に体を引き攣らせる。
何せ死因がアレだ。初見では絶対に塞ぎようのない攻撃だけに、そこに重量と速度が加わり凶悪になる。
今の相手は空の彼方に飛んでいったけど、ルエンザは背中に山を抱え込んでたから。
悲しい事故だったよね。

『でも空を飛ぶやつだから、吹っ飛ばしてもすぐに戻ってくるんじゃ?』
『そうしたら何発でもぶちこんでやるよ』
『僕じゃないパターンも考えてよね!』

ソニンの疑問に、ロキは一回で懲りなきゃ二回、三回と回数を増やすだけだと威勢よく答える。
プロフェンはすっかりご立腹だ。
浮遊状態はただでさえ自分の力で踏ん張れない。そこに特定方向から相当な負荷を与えられるのだ。

「あ、そういえば浮遊で一つ思いついた」
「何か案があるの?」

インフィが僕のぼやきに疑問を覚える。
僕は答えとばかりに普通の対象を病原菌を含む雨に固定して街の上に留めた。浮遊した雨の下なら安全が確保されるよね? と答えると、呆れたような顔をされる。

「ルーク、あんた結構出鱈目なことしてるって自覚ある?」

インフィの目が細められる。瞳が向けられた先にあるのは僕のゴミ拾いレベルに応じた効果範囲だ。
僕を中心に、街の中心街をすっぽり覆っている。
さすがLV50だ。凄いね! とはしゃぐ僕に、インフィは大きなため息をついた。

ちなみに浮かせた雨粒は僕の魔力として余すことなくいただいた。ごちそうさまでした。レベルアップ美味しいです。

「頭の上に止まる水の範囲が今の坊やのゴミ拾いレベルだってぇのか?」

僕達はひとまず原因を退けただろうことを早速ギルド側に報告した。表に出てきたコエンさんがまた問題ごとを抱えたように眉間を揉み込んだ。

「あの、疲労回復ドリンク入ります?」
「いただこう」

ゴッゴッと一気に飲み干し、再度上空に展開された薄い水のベールを見据えてうーん、と唸る。
これでこの周りだけなら安全ですよ、というとコエンさんの号令で安全圏外の住民を集めようということになった。

でも自分の家を捨てるということは、生活が難しくなることだ。
謎の流行り病の原因は不明としたまま、身を寄せ合って暮らす人々のために僕達ができることといったら何があるだろう?

「ねぇルーク。アレの出番が来たんじゃない?」

トラネが思わせぶりな態度で提案する。
アレってどれ?

「ああ、お前がやっと食べられる水準にまで上げた野宿飯な。流石にレストランレベルにゃ至らないが、腹を膨らませるのにゃ十分事足りる」

キサムがトラネの言葉を引き継ぎ、ようやく言葉の意味を理解した。なるほどね、僕の【熟成調理】、モンスター肉を食そうと。そういうわけか。

「炊き出しをやりまーす。お腹を空かせた人は一列に並んでお待ちくださーい」

僕達はすぐにギルドに自分たちの成長を見せるべく掛け合い、職員総出で炊き出しの配布を行った。
それが住民達の笑顔の源になり、住民達が笑顔を取り戻すきっかけとなった。
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