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四章 ゴミ拾いと流行り病

46 怪しい新人冒険者

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ブリーダーズとして活動を始めてから二年目。
おおよそ一年たった。
地図上から消滅した雑木林は緩やかに成長中。
草原から少し木が生えてあと五年もしないうちに元の姿を取り戻すように思う。
問題はそこら辺に住んでたモンスターが寄り付かなくなったことくらいかな?

今でも九尾の残滓が強く残ってるので雑木林が復活してもクエストには困りそうだった。

それはそれとして僕達のことだ。

「ブリーダーズさん、ギルドマスターからお話が来てます」
「またランクアップの話ですか?」
「ええ。その気になったらいつでも来てくれと」
「残念ですがまだ僕達はその域にいないと思うんです」
「そうですか……」

一年も経てば達成したクエストに相まってDランクからCランクになりませんかって勧誘が多くなる。
しかし僕達はこれを受けてなお取り下げていた。

DランクとCランクの違いは大きい。
冒険者としてCランクになれたら一丁前だなんて言われるくらいには目標とする地点であり、同時に受け取る責任も大きくなる。

冒険者を通さずに直接クエストを扱えるようになる為だ。
けどギルドが間に入らない事で騙されることも多くなる。
ギルドの手数料は、あくまで悪質なクエストを間引くためのもの。
それを知った時、まだ僕達にCランクは早いなと思った。
兄さん達がDランク隊で信頼稼ぎをしてる理由もそこだ。

一足跳びでランクを上げて、Dランクの時より稼ぎが悪くなった人たちを多く見てきているからだという。

ギルドを通さないと商人から直接クエストを発注されるんだけど、普段ギルドで商業ギルドからの発注がない時点でお察しだよね。

上手い話には必ず裏があると言うことだね。

そんな時に眩しく感じるのはいつだって自分より若い世代の冒険者だ。

「バウンティさん! ランクアップ可能です。していきますか?」
「わぁ、良いんですか?」

みんなフレッシュで社会のいい面しか信じてない感じは、昔の自分の姿を重ねて見えちゃう。
僕も汚れちゃったなぁ。でも仕方ないよね、守るものが増えたもん。

「なんだか懐かしいね、あたし達も結成した時あんなだったよ」

まだたった一年しか経ってないのに、すっかり熟年冒険者みたいな気持ちで呟くトラネ。

「アホ、俺たちだってまだまだ成長途中だぞ、おかわり!」
「なにおー、こっちだって負けないもんね! こっちも大皿で持ってきて!」

新人の頃と違って食事に回せるお金ができたのが何よりも大きい。昔は食事を節約して消耗品に回してたもんね?
僕はそんな二人を見守りながらインフのブラッシングをする。
ここ最近は人型中であろうがこうやって変化してブラッシングを催促してくるようになった。
周りからしてみたらルエンザが世話してもらいたがってるように思うが、これはインフだってわかる。

だってトイレ行くって言ってから随分経ってるもん。
だいたい満喫したらルエンザとチェンジしてトイレから出てくる。

「満足した?」
「なんのことかしら?」

聞いてもこんな返しでそっけないが、尻尾が見えるくらい気分は良い。
そこへ、先ほどGランクからFランクに昇進してた3人組がチェンジしたルエンザが気持ちよさそうにブラッシングされているのをみて目を輝かせていた。

「わぁ、すごいね。気持ちよさそうだね?」
「ちょっと、コローナ。失礼でしょ?」

活発そうな女の子が近くで見ていた子に注意する。

「大丈夫だよ。やってみる?」
「良いんですかぁ!」

パッと花開いたような笑顔だ。昔の僕もこんなだったのかな?
兄さんが別の席であんな頃もあったなと頷いている。

「僕が抱っこしてるからブラシで優しく梳いてみて」
「はい……うわぁ、感動です」
「あんまり同じところばかり擦らないであげて」

首の下をこしょこしょしながら嫌がるルエンザをあやし、なんとか機嫌を取り戻す。
その目からは実験台ならロキやソニンにでもやらせろと言わんばかりに不満気だ。
この九尾姉妹、僕以外からのお世話を受けたがらない気難しさを持つ。

「あ、ごめんなさい。機嫌悪くしちゃいましたか?」
「この子は気難しい子だからね。まだ人間になれてないのもあるんだ。だから君が思い込む必要はないよ」
「またブラッシングさせてもらって良いですか?」
「うん、またおいで」

少年が、二人の少女に手を引かれてギルドを後にする。
ルエンザに嫉妬しちゃったかな?
それにしても人懐っこい子だったね。

僕がそんなふうに思ってると、今まで黙り込んでいたルエンザが口を開く。

『あー気持ち悪い。あんたはよくあいつの覇気に耐えられたわね?』

なんの話?

「あの三人、人間と獣の混ざり物ね」
「いやいやいや、すごい良い子だったよ?」
「そう言えばあなたも鈍感だったわね。あたし、一言も発せず汗びっしょりになったわよ?」

インフィがおそろしいものでも見たかのように震えている。
傾国級のモンスターが怯えるなんて。
厄災級?
そんなまさかね。



◇◇◇



冒険者ギルドを去った三人組は、コローナと呼ばれた少年を路地裏に連れ込むなり詰問していた。

「ちょっと、いきなり接触するなんてどう言うつもり? あたし達の存在がバレたら事よ?」
「流石にもうバレてると思うよ?」

少女はコローナの言葉を受けて肌を隠し、変化が解けていたかと確認をした。

「別に、人化は解けてないわよ?」
「気配でバレてる。あの中に九尾がいた」
「! それは本当?」
「噂じゃどこかに潜伏してると言う話じゃなかったんですか?」

錫杖を持つ少女が神妙そうな顔をする。

「隠れる場所が森の中か人里かは九尾には関係ないよ。ただ、珍しいことに随分と人に懐いていたみたいだ」
「他にはハンターラビットともう一体、よくわからないものが混ざってました」
「なら間違いない、ギルド絡みで秘匿してるね」
「モンスターが人間と契約をしている?」
「契約か、はたまた信頼かは僕にはわからないけど。今回の仕事は僕も楽しめそうだよ」

コローナは薄く笑った。
そこには先ほどまでの天真爛漫さはない。
今までの全てが演技であるかのように、その幼い顔立ちに大きなしわが刻まれる。

「あんまり暴れて大司教様に怒られても知らないわよ?」
「それは怖いなぁ。でも興奮したら誰も僕を止められないよ? 止められたら大したものだ」
「出た、コローナの悪い癖」
「コルドには言われたくないな」
「二人とも、相手が強いとすぐに楽しそうにするんですから」
「ヒーティだって、内心喜んでるの僕知ってるよ?」
「まぁ、最近はすぐに終わってしまう戦いばかりでしたからね」

錫杖の少女はローブから爬虫類を思わせる大きめな尻尾を出して揺らしている。
興奮すると人化が解けてしまうのはヒーティが一番顕著だ。
そう笑うコローナに、同意するコルド。

「これから楽しくなりそうですね」

ヒーティの影は、人から大きく逸脱したもっと強大な存在を示していた。

ドラゴン。
かつて人類を支配していた種族は、再び地上にやってきたのだった。


◇◇◇


裏でそんなことが起きてることだなんてまるで知らずに、僕達は翌日から違う街に遠征に出かけた。単純にクエストの達成条件が近隣で満たせないから旅行を兼ねての事である。

それと、僕達の仕事は採取も多い。新人の活躍の機会を邪魔するのは避けたいと言う配慮だ。

なぜか帰ってくるなり「ブラッシングさせてもらう約束してましたよね?」だなんて憤慨されたけど、そんなこと言われたって僕達そんなに暇じゃないし。翌日もギルドにいるなんてわからないのに変なの。

なお、遠征中にびっくりするくらいスコア☆が貯まったのでSスコア★に変換しておいた。
分体もゴミ拾いのスキル使えるけど、ゴミを拾うだけ。
スコア変換は本体の僕しか使えないからそう言うところだけ不便なんだよねぇ。


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