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三章 ゴミ拾いともふもふ融合

36 新規パーティ『ブリーダーズ』

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トラネ、キサムと行動を共にして数週間。
友達として行動してたら、すっかりギルド内では新パーティとして名が売れてきてしまった。

本来はスポット参加。クエスト発注者と受注者の関係だったけど、僕のサポートなしの生活には戻れないと言われてしまって、そこにクエストの発生が生じても一緒に行動するようになる。

その頃には同年代でさん付けはおかしいと呼び捨てする仲になっていた。

「ルークもいよいよオレから旅立つか」

兄さんにそんな風に言われた時、僕としてはまだそんなつもりは全然なかったけど。
立派になった。子供の成長は早いと褒められて満更でもなかった。

「あぁ、もちろん何かわからない時は全然頼りにしてくれていいぞ? 問題があったら大人に頼るもんだ。子供だけで解決できることとできないことがあるからな」

子供だと押さえつけられてる時よりは全然良い。
そう言う点では、トラネやキサムには感謝かな?
でも、本当の意味で真の仲間である兄さんを切り捨てることも出来ない。

ソニン、プロフェン。そしてロキの真相を知る人物は少ない方がいい。子供の口は軽いから、どこで広まるか怖いと言うのもあった。

せっかくギルドで受け入れられたのに、それが破綻してしまったら意味がない。
それに、ロキを恐れずにブラッシングしてくれるのは兄さんしか居ないのだ。
そんな兄さんを切る選択肢は僕の中にはない。

文字通り一蓮托生。死ぬ時まで秘密を守り通す関係だ。
特に冒険者というのは常にお金に困ってるからね。
可愛いと受け入れられてるうちはいいけど、それが金になるとわかったら誘拐されるデメリット、返り討ちにした際に人類の敵として認識されるデメリットが露わとなる。

普段兄さんが口を酸っぱくしてまで言うのはここら辺だ。
どちらも表に出せない。
ギルドマスターさんがギルド内で情報を食い止めてくれてるのもパニックを恐れてのことだった。

「うん、ロキの事は兄さんにしか頼めないからね。クエストとして受注できないものも特別料金でお願いね?」
「本当はお金のやり取りなんてしたくないんだが、お前がそこまで言うんなら受け取らないのは失礼に当たるよな」

まるでお金なんて欲しくないと前振りを入れてから、しっかり懐に入れるのは兄さんらしい。
僕の兄さんはお金の大切さを理解してる人だ。

物理的に養ってくれた。お金を積んで情報を止めてくれている。
表向き以外のお金の使い方以外のこともして情報を堰き止めてくれてるんだ。

だから僕は兄さんに正当な報酬を払う。
本当は僕に構う余裕すらないのも知っていた。
でも兄弟だからと今まで助けてくれている。





兄さんの援助を受けつつ、僕は新しくパーティを設立する事にした。まだ本来の力は明かせない。でも一緒にやっていく以上全力で事にあたるつもり。

せっかく冒険者をやってるんだもん、冒険をしなくちゃ。

「本当に俺たちのパーティに入ってくれるのか?」
「うん、すっかりスポット参加じゃ収まり切れない程の活躍しちゃってるからね」

この数週間で思い出せるイベントは両手を使って指を折っても折り返すほどだ。ほとんどがソニンとプロフェンのやらかしだけど、対象を殲滅してるので討伐部位は残らず、僕たちだけの秘密という事になっていた。
そんな秘密を持ってる相手を放っておいたらどこで噂が広がるかわからないからね。一緒に行動する事で牽制しようってワケ。

「あたしはありがたいよー」
「でも宿は別だよ。拠点もここから出るつもりはないのでそこら辺は理解して欲しいな」
「流石に俺たちもそこまで自惚れてない。ここは地元だし、冒険者ってそんなに甘い仕事じゃないからな」

キサムは意外としっかり物事を考える頭を持っている。
トラネがこんな感じだから苦労が絶えないって顔に書いてあった。

「仕事ができる人と、命をかけられる人は別って事。まずは日常生活を安定させる稼ぎを出さなきゃだよ!」
「それもそうか。僕はてっきりすごく強くなったから、次! 次! って行っちゃうものかと思ってた」
「ないない」
「そこまで自信過剰じゃないって。強いやつはごまんといる世界だぜ?」

俺たちは臆病なくらいでちょうどいい、身の丈にあった生活できてりゃ満足だ。と語るキサムに、そう言うものなのかと改めて勉強させてもらう。

「っし、じゃあ今日のクエスト選定だ。いい加減ソニン達に頼らない活動をしていきたいもんだぜ」
「はいはーい、プロフェンちゃんの抱っこはお任せあれー」
「トラネはお世話したいだけだろう?」
「ふへへ、バレてしまったかー」

普段はツン、とどこか冷たい表情を見せるトラネだが、プロフェンを抱っこしてる時だけだらしなくなる。

兄さんがソニンをお世話してる時もこんな顔だ。
何だろう? 人を堕落させる何かがあるのかな?
僕は近いところで本性見ちゃってるからそこまでのめり込めないんだよね。

「全く、遠距離武器持ちがテイムモンスターの世話にかまけてどうする」
「だって、この子放って置けなくて」

放っておくと危なっかしいというのは本当。
ゴミ拾いレベルをいくら上げても、生来の危険度は計り知れない。ロキやソニンがスキルを使って初めて仕留めきれなかった相手というのもある。

今じゃすっかり子犬面をしてるが、本来は古代遺跡のガーディアンというだけあって非常に理不尽な強さを持っている。

僕の中ではそういう心配が勝るのだ。
それはそれとして子犬生活が気に入ったのか自由奔放になってしまったのもあった。

甘やかしすぎたかな?
暴れられても困ると魔力付与付きミルクと魔力付与付きブラッシングで丁寧にお世話してたらその生活が忘れられなくなったみたいだ。

誰も帰ってこない場所でずっと一人で待ちぼうけしていた寂しさもあったのかもしれないね。顔が二つあるから喜んでくれてるか判別はつかないけど、トラネの腕の中で満更でもなさそうな顔つきだった。

「じゃあ、プロフェンはトラネに任せようかな?」
「あいあい!」
「で、俺だけが哨戒すると?」
「僕が関わるとソニンを扱っちゃうから」
「それはダメだな。俺の活躍する場面が全部塗り替えられそうだ」
「そういうことー」

ちくしょう、と捨て台詞を吐き雑木林の奥に向かうキサム。
僕とトラネは周辺の哨戒に向かうキサムを見送って拠点作りを開始した。

サポートができることと言ったら帰ってこれる場所を作る事。
安全面の確保は何よりも重要な仕事である。

「兄さん、あまり早く帰ってこないといいなー。ねープロフェン?」
「キャウン?」
「わからないかー」
「くぅん」

プロフェンの両手を掴んでワンツーと虚空にパンチを繰り出しながらトラネがそんなことを呟く。

自由時間を謳歌したいのはわかるけど、クエスト中はもっと緊張感持とうよ?
と、言ってる側からキサムが帰ってきた。
周辺にモンスターの影なし。採取をするにはうってつけだそうだ。

ようし、今度は僕の番だと腕をまくった。
すっかりミニマムサイズでも暴れたおかげで日中のモンスターからも恐れられてるソニンとプロフェン。
一緒にいるだけで採取中は楽だけど、ハプニングが一切起こらないというのはそれはそれで退屈だった。

新規パーティ『ブリーダーズ』の滑り出しはある意味で順調とも言えた。ある意味で採取以外のクエストの成功率は絶望的なまでに下がったことだけは確かだ。
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