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一章 ゴミ拾いと冒険者生活

14 弔い

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次の日、ハンターラビットの死体がギルドに持ち込まれた。
胸からお腹にかけて潰れる様な衝撃を受けるも傷らしい傷がつかずに内臓の方にダメージが入ったか、死因は不明とされていた。

ボア達も殺すだけじゃ気が治らず、その身を喰らおうと食いつくが、噛みきれなかったのかいくつか食いついた跡がつく。

されどその頑丈な毛皮を傷付けることは叶わず、綺麗な状態で運ばれた。

ハンターラビットの死体はザムさんを中心に、普段見かけないギルドマスターが出張って大賑わいとなっている。

「兄さん、あの子は弔われることもなく死体を切り刻まれる運命なの?」

兄さんはなんとも答えにくそうに腕を組み、口をへの字に曲げる。そして十分に間を置いて、僕の頭に手をのせた。

「ルーク、あのウサギに自分を重ねたか?」
「うん、群れから追い出されて。そして一人でなんとかしようとしてどうにもならなかったんだよね? もし僕の側に兄さんがいなかったらと思うと……僕もああなっていたんじゃないかと思うと震えが止まらなかった」

もし僕が実家から追放された時、兄さんに出会わなかったら。
人の良さに漬け込んで騙されていないとも限らないわけで。
それをあのウサギの最後と重ねてしまう。

「そうか。確かにあのウサギは精一杯生きたとは言えなかった。あの時はお前を守る一心であのウサギのことまで考えられなかったが、お前はそう考えるか……」
「うん、あの子にも手を引いてくれる兄妹がいたら変わったのかなって思っちゃうんだ」
「なら、あのウサギの墓でも建てるか?」
「お墓?」
「そうだ、俺たち人間はモンスターの死体を切り張りして生きていく。けれどどうしても使えない部分も出てくる。内臓や頭蓋骨なんかはその筆頭だな。そういう部分は穴を掘って埋めるんだ。お前はあいつを弔いたいんだろう? そういう意味でなら交渉の余地はある」

魔核や爪、毛皮など貴重な部位の交渉は難しいが、不要部分の埋め立てなど誰もがやりたがらない仕事だ。
肉に価値がないのは身の少なさから分かるが、どこにでも珍味を食らう美食家と言うのもいるものだ。内臓までは食べないから、なんとかその部位だけを勝ち取った。

穴を掘り、内臓と頭蓋を埋める。
その上から土をかけ、木の杭を打ち込んでお墓とする。
その杭に毛糸で編んだウサギの人形を二体引っ掛けた。
簡易的だが、モンスター一匹にここまで手をかける人は居ないそうだ。数日は変わり者扱いを受けるだろうが、付き合ってくれた兄さんには感謝しても仕切れない。

「一人でどこに行くかわからなかった時、お兄さんに頼って進むんだよ」
「兄貴と一緒なら大丈夫だろ」
「そうだと良いなぁ」

兄さんと一緒にその場でしゃがみ、祈る様に手を合わせる。
あの世では人間に見つからずに幸せに暮らしてほしい。
そんな願いが、僕の『ゴミ拾い』スキルが反応する。

<条件達成:ラビットソウルを抽出できます>

「どうした?」

一人瞠目する僕に、兄さんが心配そうな顔を寄せる。

「うん、なんかこの子の魂を抽出できるって出て……」
「ゴミ拾いのスキルは死者の魂まで拾うのか?」
「わかんない。拾うじゃなくて抽出というのも初めてなんだ」
「最初は誰だって新しい力に戸惑うもんさ。やってみろよ」
「わかった、抽出」

<エラー:Sスコア★が足りません>

<必要Sスコア★5>
 ☆スコアを100.00で★1.00に換算

「あ、スコアが足りないって」
「そんな上手い話もないか」
「でも、通常スコアを500集めればいけるみたい」
「錆で幾つだっけ?」
「使い込んだ武器で30だね」
「何ヶ月かかるかわからないな」
「スライムは5、ゴブリンなら10だよ」
「なら、これからも薬草採取頑張んないとな」
「うん!」

お墓の前で今後の目標を決める。
僕と兄さんを見送る様にお墓代わりの杭に飾られた二つのうさぎ人形が楽しそうに風に揺れていた。
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