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【悲報】ライム姫の誤算④
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「姫様、勇者様が御帰還されました!」
「本当? 今の今までいったい何処へ? いえ、今はどちらに?」
「休憩室にてお寛ぎいただいております。会われますか?」
「もちろんよ。今まで仕事しなかった分、きっちり働かせるんだから!」
ライムは今まで何処にいたのかをはっきりさせた後、再度隷属化を施して傀儡するつもりで動いていた。
表情にはすっかり疲れが出ている。
それらを化粧で誤魔化して、久しぶりの勇者の再会を喜んだ。
無論それは勇者との再会にではなく、戦力の確保という言葉通りの意味合いであった。
「お久しぶりでございます、勇者様。お疲れのところ申し訳ありません、ぜひ冒険譚などをお聞かせいただければと思いまして」
バッチリメイクを決め、今まで接してきた優しいお姫様の雰囲気でダイゴたちに接するライム。
もちろん既に思考誘導の香を炊いてある。
お決まりの隷属化コンボだ。
こうやって幾人も異世界人を戦力として扱ってきた。
隷属化Ⅳ、自白Ⅳ、思考誘導Ⅲ、魅了Ⅴの合わせ技だ。
これで落ちない異世界人はいなかった
(※全て対策済みであることをライム姫は知りません)
「悪いな、おっさんと合流したまでは良かったんだが、フレッツェンの兵士に見つかっちまってな。隠れながら過ごしてて連絡をできずにいた」
「そうですか。しかし彼の方はフレッツェンの戦士に狙われておりましたか?」
狙われて、勝手に死んでくれたのなら本望だ。
できるだけ向こうの領地で死んで欲しい。そして自滅しろ。
多くの民を巻き込み、無血開城が望ましい。
その場合、人の住めなくなる土地になるだろうが、頭痛の種がなくなってくれるなら万々歳だ。
(※むしろ手を組んで盤石の体制を築いてることをライム姫は知りません)
「ああ、ゼラチナスからの間者だ、と顔を覚えられていた。見つかれば即座に戦闘。あいつらに会話は通用しない。身なりこそ人間に近しいが、切り結んでわかった。あれは脳筋だな?」
「ええ、フレッツェンの兵士は名目上国を名乗っていますが、蛮族という括りで見てもらって構いません。それで、何匹ほど討ち取りましたか?」
「0だ」
「は?」
ダイゴの言葉を聞き、ライムは間の抜けた声を上げた。
いくら洗脳が甘いとはいえ、勇者の力は絶大だ。
訓練での成果も出ている。
そしてゼラチナス以外の国は倒すべき蛮族の国だと洗脳済みだった。
手元に置いて武器として扱えなくとも、自由意志を持ってその暴力を解き放てば数匹打ち取れる計算でいた。
なまじあの男を守る前提であっても、数匹殺して勇者の意向を知らしめていればヨシと思っていたが、蓋を開けたら戦果0。
相手にとってなんの脅威も与えてないと知ってライムは歯痒い思いをした。
「戦闘より生存を選んだというわけですね!」
「いや、あのおっさん。フレッツェンで協力者を得ていてな。そこに匿ってもらってたんだ。そこで世話になったカレーというのがあってな。懐かしい味にすっかり惚れ込んじまっていた」
「すいません、今なんと?」
「カレー?」
「そこではありません。そう、彼の方の協力者について詳しく」
「ベアードっていうおっさんだ。知ってるか?」
「いえ、獣人どもは獣の特色で見分けることはできますが、個体名まで理解がお呼びせんから。しかし協力者ですか」
「何か面倒ごとだったか?」
「いいえ、なんでもありませんわ。それで、助けに行ったお方の姿が見えませんが」
わざとらしく振る舞う。
部下から既にあの男が死んだという報告を受けていながらも、勇者の口からはっきりさせてほしくもあるライムだった。
はっきりさせて、安心して寝たい。
そういう算段だ。
「死んだよ。つい先日だ。これでフレッツェンとの縁も切れちまった」
ダイゴはなるべくなら剣を向けたくなかったが、おっさんが死んだらやむを得ないという顔をする。もちろん演技だ。
「そうでございましたか。しかしフレッツェンに協力者がいるにもかかわらず、どうしてそのような結果に?」
「カースヴェルトだ。実際にその姿をこの目で見るのは初めてだったが、そいつと出会った。ゼラチナスにほど近い場所で」
「それは、本当ですか?」
ライムは焦りを感じる。
あの男が死んでくれてせいせいしたが、逆にフレッツェンよりも相手にしたくない国が領地の近くで目撃したという報告を聞いてしまったからだ。
カースヴェルトとフレッツェン。
相手をするならばまだフレッツェンの方が御し易い。
何せ状態異常の類が効くからだ。
しかしカースヴェルトはこちらの状態異常にある程度の耐性をもつ。
呪術への媒介がこれらのデバフを介してのものである研究結果は出ていた。
そしてカースヴェルトとゼラチナスは浅からぬ縁があった。
元ゼラチナスの勇者。
それが国を離反して建国したのがあの国なのだ。
たった一人の落ちこぼれが、死の間際に覚醒。
戦力を根こそぎ隷属化されて国を出ていった。
その時から、ゼラチナスでは落ちこぼれを放置せずに殺すようにしている。
裏切られないように。
念入りにデバフを重ね続けた。
最初は浅く、それを気づかない程度に毎日散布しながら。
相手に気づかせずにこちらの術中にはめていく。そんな算段だ。
(※全ての策は見抜かれた上で完全な耐性を持たれてることをライム姫はまだ知りません)
「カースヴェルト、厄介な国ってくらいしか知らなかったが、あれは直接やり合いたくないな」
「もーダイゴってば潔癖症なんだから。あたしの浄化魔法であんなゾンビどもイチコロだって」
「美桜の聖女の力がここにきて回ってきたよな? ヒール? にゃ一度の世話にもなっちゃいないけどな」
「うるさいわね、なまじ頑丈なあんたらの肉体に怒りさえ覚えるほどよ、こっちは!」
相変わらず、顔を合わせれば喧嘩ばかりするような勇者たちだ。
いや、そう仕向けたのはライムである。
薄めた隷属化魔法は対象の精神を歪める効果があるので、荒れやすい。
一度解除されてしまったのであればなおさらだ。
それを懐かしくも思いながら、憎らしくも思った。
浄化魔法。
それはゼラチナスのデバフすら消しかねない超強力な力。
カースヴェルトのゾンビと遭遇したことがきっかけで勇者たちがその光を浴びてしまった。
完全に洗脳がかかってない状態でかけられたのだ。
本当に、面倒なことをする。
ただのヒーラー風情が!
ライム姫は歯軋りをしながら笑顔を保った。
(※ライム姫はデバフ解除の要因はそこではないとは知りません)
「でも流石に今の時期にゃ攻め込んでこねーだろ。あっちもこっちも今の時期やり合うのは利がなさすぎる。フレッツェンは冬眠に入り、動植物が一斉に活動停止状態。カースヴェルトにとって他人の庭は実験場には格好の場所。けど動植物がいないんじゃ、どうすることもできない。呪術ってのは対象の存在を媒介にしてなんぼだ」
「お詳しいですわね」
「おっさんの受け売りさ。能力が低い割に博識でさ。俺たちは可能ならおっさんを生かして帰したかった」
しかしその命は失われてしまった。
ダイゴはここぞとばかりに自分は悲しんでいますアピールをする。
「でも、最後に残してくれたのがこのカレーなんだよね。俺たちはこのカレーをここの国民食にすることでなんとかおっさんを思い出せるようにしたいと思ってさ」
そう言って取り出されたのは香ばしい香りのする一つの茶色いかけらだった。
「これ、めちゃくちゃ美味しいんだよね! おじさんも死ぬ前にあたしたちの故郷の味を再現してくれてありがたーって思ったよね?」
「それwww でさぁ、俺らこれを定期的に食いたいんだよね。お姫様、なんとかしてくれない?」
ミオの言葉を嘲笑うように上から目線でダイゴが被せる。
それは過剰な演技だったが、ライムには隷属化が効いていると判断した。
「こちらで解析してみましょう。お預かりさせていただいても?」
「頼むな? なんなら今日の晩飯でもいいな。ヒャハハ!」
「いーねー! お姫様、絶対だよ?」
「俺たちの労いだと思ってさ。お姫様なら約束は守ってくれるよね? 約束守ってくれなきゃ暴れちゃうかも」
それぞれが威圧するように、歪めた精神性をライムにぶつけた。
外ではまるで戦果もあげないくせに、自国で威張りたい放題だ。
今は我慢の時。
そう思ってライムは魔導士たちにそのカレーの解析を急がせた。
その結果、解析に臨んだ魔法士たちがこぞって首を掻きむしって死ぬという事件が相次いだ。
相次ぐ不審死。
これはあの男の最後っ屁ではないかとこの時になってライムが訝しむ。
「勇者様、残念なお知らせがあります」
「良い知らせから聞きたいな」
「あいにくと、情報を選んでいる余裕もありません」
「じゃ、仕方ないか。適当によろしく」
「簡潔にね?」
「三行でよろー」
相変わらず、こちらの言うことは聞かないくせにやりたい放題。
その上でこの報告をするのはライムにとって苦渋の決断であった。
「カレーの再現は難しそうです」
「「「はぁ?」」」
思った通り、勇者たちの怒りがライムに向く。
「突然持ち込まれて、すぐに再現しろは難しいのです。ご理解ください」
「チッ、使えねーな」
「いつも困ったことがあれば「私に頼ってくださいね?」なんて言っておきながら早速これ?」
「キッショ、まじ使えなーい」
ああ言えばこう言う。本当にこの勇者たちは口だけの子供だ。
なまじ能力が自国にとって扱いやすい分、厄介で仕方がなかった。
「ですが、解析する分のカレー無くしてはこれ以上の研究は無理です」
「ない? さっき渡したのは?」
「解析中に死者が出ています。あれは一体なんですか? 王宮内への毒物の持ち込みはご遠慮いただきたいのですが!」
ライムの言葉に、三人の子供勇者は顔を見合わせた。
「毒物? なにそれ、知らない」
「軽微の毒でしたら私どもでも対処できます。しかし純度の高い毒となると、解析するのに時間もかかるのです。その上で調べる対象がなければ」
「姫様、ご報告いたします! 市井にてこのようなものが出回っておりました! すぐに回収しましたがどのようにいたしましょうか!」
兵士からの報告にて、持ち上がったカレールウのサンプル。
それは今、ライムがもっとも見たくなかった茶色いかけらだった。
謎の不審死を発端に、サンプルの消滅。
それで勇者を諦めさせる算段が早くも瓦解したからだ。
(どうして見たくない時にたくさん持ってくるのよ! あーーーーーーー、こいつら全然使えないんだから! 死ね! 今すぐ自害して死ね!)
表情には一切出さず、ライムは笑顔をひくつかせながら苛立ちを押さえつけるのだった。
「本当? 今の今までいったい何処へ? いえ、今はどちらに?」
「休憩室にてお寛ぎいただいております。会われますか?」
「もちろんよ。今まで仕事しなかった分、きっちり働かせるんだから!」
ライムは今まで何処にいたのかをはっきりさせた後、再度隷属化を施して傀儡するつもりで動いていた。
表情にはすっかり疲れが出ている。
それらを化粧で誤魔化して、久しぶりの勇者の再会を喜んだ。
無論それは勇者との再会にではなく、戦力の確保という言葉通りの意味合いであった。
「お久しぶりでございます、勇者様。お疲れのところ申し訳ありません、ぜひ冒険譚などをお聞かせいただければと思いまして」
バッチリメイクを決め、今まで接してきた優しいお姫様の雰囲気でダイゴたちに接するライム。
もちろん既に思考誘導の香を炊いてある。
お決まりの隷属化コンボだ。
こうやって幾人も異世界人を戦力として扱ってきた。
隷属化Ⅳ、自白Ⅳ、思考誘導Ⅲ、魅了Ⅴの合わせ技だ。
これで落ちない異世界人はいなかった
(※全て対策済みであることをライム姫は知りません)
「悪いな、おっさんと合流したまでは良かったんだが、フレッツェンの兵士に見つかっちまってな。隠れながら過ごしてて連絡をできずにいた」
「そうですか。しかし彼の方はフレッツェンの戦士に狙われておりましたか?」
狙われて、勝手に死んでくれたのなら本望だ。
できるだけ向こうの領地で死んで欲しい。そして自滅しろ。
多くの民を巻き込み、無血開城が望ましい。
その場合、人の住めなくなる土地になるだろうが、頭痛の種がなくなってくれるなら万々歳だ。
(※むしろ手を組んで盤石の体制を築いてることをライム姫は知りません)
「ああ、ゼラチナスからの間者だ、と顔を覚えられていた。見つかれば即座に戦闘。あいつらに会話は通用しない。身なりこそ人間に近しいが、切り結んでわかった。あれは脳筋だな?」
「ええ、フレッツェンの兵士は名目上国を名乗っていますが、蛮族という括りで見てもらって構いません。それで、何匹ほど討ち取りましたか?」
「0だ」
「は?」
ダイゴの言葉を聞き、ライムは間の抜けた声を上げた。
いくら洗脳が甘いとはいえ、勇者の力は絶大だ。
訓練での成果も出ている。
そしてゼラチナス以外の国は倒すべき蛮族の国だと洗脳済みだった。
手元に置いて武器として扱えなくとも、自由意志を持ってその暴力を解き放てば数匹打ち取れる計算でいた。
なまじあの男を守る前提であっても、数匹殺して勇者の意向を知らしめていればヨシと思っていたが、蓋を開けたら戦果0。
相手にとってなんの脅威も与えてないと知ってライムは歯痒い思いをした。
「戦闘より生存を選んだというわけですね!」
「いや、あのおっさん。フレッツェンで協力者を得ていてな。そこに匿ってもらってたんだ。そこで世話になったカレーというのがあってな。懐かしい味にすっかり惚れ込んじまっていた」
「すいません、今なんと?」
「カレー?」
「そこではありません。そう、彼の方の協力者について詳しく」
「ベアードっていうおっさんだ。知ってるか?」
「いえ、獣人どもは獣の特色で見分けることはできますが、個体名まで理解がお呼びせんから。しかし協力者ですか」
「何か面倒ごとだったか?」
「いいえ、なんでもありませんわ。それで、助けに行ったお方の姿が見えませんが」
わざとらしく振る舞う。
部下から既にあの男が死んだという報告を受けていながらも、勇者の口からはっきりさせてほしくもあるライムだった。
はっきりさせて、安心して寝たい。
そういう算段だ。
「死んだよ。つい先日だ。これでフレッツェンとの縁も切れちまった」
ダイゴはなるべくなら剣を向けたくなかったが、おっさんが死んだらやむを得ないという顔をする。もちろん演技だ。
「そうでございましたか。しかしフレッツェンに協力者がいるにもかかわらず、どうしてそのような結果に?」
「カースヴェルトだ。実際にその姿をこの目で見るのは初めてだったが、そいつと出会った。ゼラチナスにほど近い場所で」
「それは、本当ですか?」
ライムは焦りを感じる。
あの男が死んでくれてせいせいしたが、逆にフレッツェンよりも相手にしたくない国が領地の近くで目撃したという報告を聞いてしまったからだ。
カースヴェルトとフレッツェン。
相手をするならばまだフレッツェンの方が御し易い。
何せ状態異常の類が効くからだ。
しかしカースヴェルトはこちらの状態異常にある程度の耐性をもつ。
呪術への媒介がこれらのデバフを介してのものである研究結果は出ていた。
そしてカースヴェルトとゼラチナスは浅からぬ縁があった。
元ゼラチナスの勇者。
それが国を離反して建国したのがあの国なのだ。
たった一人の落ちこぼれが、死の間際に覚醒。
戦力を根こそぎ隷属化されて国を出ていった。
その時から、ゼラチナスでは落ちこぼれを放置せずに殺すようにしている。
裏切られないように。
念入りにデバフを重ね続けた。
最初は浅く、それを気づかない程度に毎日散布しながら。
相手に気づかせずにこちらの術中にはめていく。そんな算段だ。
(※全ての策は見抜かれた上で完全な耐性を持たれてることをライム姫はまだ知りません)
「カースヴェルト、厄介な国ってくらいしか知らなかったが、あれは直接やり合いたくないな」
「もーダイゴってば潔癖症なんだから。あたしの浄化魔法であんなゾンビどもイチコロだって」
「美桜の聖女の力がここにきて回ってきたよな? ヒール? にゃ一度の世話にもなっちゃいないけどな」
「うるさいわね、なまじ頑丈なあんたらの肉体に怒りさえ覚えるほどよ、こっちは!」
相変わらず、顔を合わせれば喧嘩ばかりするような勇者たちだ。
いや、そう仕向けたのはライムである。
薄めた隷属化魔法は対象の精神を歪める効果があるので、荒れやすい。
一度解除されてしまったのであればなおさらだ。
それを懐かしくも思いながら、憎らしくも思った。
浄化魔法。
それはゼラチナスのデバフすら消しかねない超強力な力。
カースヴェルトのゾンビと遭遇したことがきっかけで勇者たちがその光を浴びてしまった。
完全に洗脳がかかってない状態でかけられたのだ。
本当に、面倒なことをする。
ただのヒーラー風情が!
ライム姫は歯軋りをしながら笑顔を保った。
(※ライム姫はデバフ解除の要因はそこではないとは知りません)
「でも流石に今の時期にゃ攻め込んでこねーだろ。あっちもこっちも今の時期やり合うのは利がなさすぎる。フレッツェンは冬眠に入り、動植物が一斉に活動停止状態。カースヴェルトにとって他人の庭は実験場には格好の場所。けど動植物がいないんじゃ、どうすることもできない。呪術ってのは対象の存在を媒介にしてなんぼだ」
「お詳しいですわね」
「おっさんの受け売りさ。能力が低い割に博識でさ。俺たちは可能ならおっさんを生かして帰したかった」
しかしその命は失われてしまった。
ダイゴはここぞとばかりに自分は悲しんでいますアピールをする。
「でも、最後に残してくれたのがこのカレーなんだよね。俺たちはこのカレーをここの国民食にすることでなんとかおっさんを思い出せるようにしたいと思ってさ」
そう言って取り出されたのは香ばしい香りのする一つの茶色いかけらだった。
「これ、めちゃくちゃ美味しいんだよね! おじさんも死ぬ前にあたしたちの故郷の味を再現してくれてありがたーって思ったよね?」
「それwww でさぁ、俺らこれを定期的に食いたいんだよね。お姫様、なんとかしてくれない?」
ミオの言葉を嘲笑うように上から目線でダイゴが被せる。
それは過剰な演技だったが、ライムには隷属化が効いていると判断した。
「こちらで解析してみましょう。お預かりさせていただいても?」
「頼むな? なんなら今日の晩飯でもいいな。ヒャハハ!」
「いーねー! お姫様、絶対だよ?」
「俺たちの労いだと思ってさ。お姫様なら約束は守ってくれるよね? 約束守ってくれなきゃ暴れちゃうかも」
それぞれが威圧するように、歪めた精神性をライムにぶつけた。
外ではまるで戦果もあげないくせに、自国で威張りたい放題だ。
今は我慢の時。
そう思ってライムは魔導士たちにそのカレーの解析を急がせた。
その結果、解析に臨んだ魔法士たちがこぞって首を掻きむしって死ぬという事件が相次いだ。
相次ぐ不審死。
これはあの男の最後っ屁ではないかとこの時になってライムが訝しむ。
「勇者様、残念なお知らせがあります」
「良い知らせから聞きたいな」
「あいにくと、情報を選んでいる余裕もありません」
「じゃ、仕方ないか。適当によろしく」
「簡潔にね?」
「三行でよろー」
相変わらず、こちらの言うことは聞かないくせにやりたい放題。
その上でこの報告をするのはライムにとって苦渋の決断であった。
「カレーの再現は難しそうです」
「「「はぁ?」」」
思った通り、勇者たちの怒りがライムに向く。
「突然持ち込まれて、すぐに再現しろは難しいのです。ご理解ください」
「チッ、使えねーな」
「いつも困ったことがあれば「私に頼ってくださいね?」なんて言っておきながら早速これ?」
「キッショ、まじ使えなーい」
ああ言えばこう言う。本当にこの勇者たちは口だけの子供だ。
なまじ能力が自国にとって扱いやすい分、厄介で仕方がなかった。
「ですが、解析する分のカレー無くしてはこれ以上の研究は無理です」
「ない? さっき渡したのは?」
「解析中に死者が出ています。あれは一体なんですか? 王宮内への毒物の持ち込みはご遠慮いただきたいのですが!」
ライムの言葉に、三人の子供勇者は顔を見合わせた。
「毒物? なにそれ、知らない」
「軽微の毒でしたら私どもでも対処できます。しかし純度の高い毒となると、解析するのに時間もかかるのです。その上で調べる対象がなければ」
「姫様、ご報告いたします! 市井にてこのようなものが出回っておりました! すぐに回収しましたがどのようにいたしましょうか!」
兵士からの報告にて、持ち上がったカレールウのサンプル。
それは今、ライムがもっとも見たくなかった茶色いかけらだった。
謎の不審死を発端に、サンプルの消滅。
それで勇者を諦めさせる算段が早くも瓦解したからだ。
(どうして見たくない時にたくさん持ってくるのよ! あーーーーーーー、こいつら全然使えないんだから! 死ね! 今すぐ自害して死ね!)
表情には一切出さず、ライムは笑顔をひくつかせながら苛立ちを押さえつけるのだった。
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