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【朗報】下準備はこしたんたん
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「と、言うわけで僕たちは冬の間、少しお出かけします」
お出かけ。とそこら辺を散歩する感覚で上官に当たるフレンダさんに報告した。
「出かける? 冬にか?」
正気か? という顔。
どうもここら一体は盆地で、冬になれば豪雪地帯となるようだ。
めっちゃ雪が積もるという意味で、出歩くのは危険と注意される。
「大丈夫ですよ、フレンダさんにもらった氷結耐性がありますし」
「お前は雪を舐めすぎだ。雨と違い、地面に流れず溜まった雪は家屋をも押し潰す。春がきたら屋根修理で大忙しになるのだぞ?」
ああ、以前屋根そのものを取り替えると言っていたのはそういうことか。
「稼ぎ時ですね。それまでには帰って来れるといいな」
散歩という割に長旅になるかもしれないと溢したがために、フレンダさんは鋭い視線を送ってくる。
「そんなに長い間出かけるつもりなのか?」
「実は、ゼラチナスにお礼参りに行こうと思ってまして」
「もう十分意趣返しはしたろう?」
従業員に抱えた勇者たち。
それはゼラチナスから主力を奪ったに等しい。
あれから進軍らしい進軍も見当たらず、無事に冬を越せそうだと安堵していた矢先に僕たちが打って出ると聞いて眉を顰めている。
無理もない。
「実は新しく抱えた従業員がですね、暇を持て余らせていて」
「カースヴェルトの捕虜だな。最近おとなしくしていると聞いたが、何か問題行動を起こしたか?」
「ああ、そういうんじゃないんですよ。ちょっと新しいデバフを獲得したい旨を話しましたら、実験場が手に入れば問題ないと。そこでフレッツェン領を貸し出すのは快く思われないだろうと」
「当たり前だろう! いったいどれほどの地域が人の住めぬ土地になったと思っているのだ?」
「ええ、ですから今度からゼラチナスの領土で実験をやってもらい、そこで僕は新しいデバフと味覚の開発。ついでに耐性を得て新年を迎えたいなと」
「ふむ。フレッツェンに迷惑をかけないのなら……して、かの捕虜達は我々のいうことを聞いてくれそうか?」
「うちじゃ向こうの思惑通りに動いてくれないと理解してくれましたからね。言うことを聞く、と言うよりは多少会話に耳を向けてくれるって感じでしょうか。もともと耐性を持ってるところにフレンド機能で耐性を得ましたからね。以前より前のめりで研究に没頭すると思いますよ。後ついでにカレーの発展系を計画しています」
「カレーか………ヨシ。都度報告するのなら特別に許可しよう」
「やったぁ」
やはりこの人、食べ物に弱い。
「それとこれは新作です」
「クッキーか。これは美味かったな」
「デバフ効果は無いですが、これ自体が福神漬けのパワーアップ版です。美味しいからって全部食べちゃダメですよ?」
信じられない、という顔。
長い沈黙を破って開かれた口から放たれた言葉は「善処しよう」というなんの信頼も得られない言葉だった。
こりゃ予備は作っておいたほうがよさそうだ。
「中毒患者が現れたら、水を飲ませながらこれを砕いて食べさせてあげてください。呪毒関連の不治療の症状を緩和します。完全に治るわけではありませんが、寝たきりの患者も立って歩くくらいはできると思います」
「カースヴェルトの被害家族にも朗報か。全く、お前はどれほどの恩を我々に与えるつもりだ? いつまで経っても返す目処がつかんではないか」
「何言ってるんです、僕たちのは日々の感謝のお返しですよ。住む場所、住民としての根回し。これのあるなしで生活の安心感はぐっと変わってくる。ゼラチナスとは大違いだ」
「あんな国と比べてくれるな。こちらはアキトをそれほど重用しているということだ。むしろ何か不足はないかと気を揉んでいるくらいだぞ?」
「それこそ、無用な気遣いですよ。これからもいい関係を築けるように、過去の禍根を晴らすというのは今の僕たちにとっても重要案件なのです。しかし直接手を下せば、この国に迷惑を掛ける。なので……」
「カースヴェルトを矢面に立たせるか」
「なんならうちの従業員も僕の任務を終えて帰還したと勘違いしていただきます」
「勇者をすぐに投入すると思うか? 温存して、他国に向かわせられたらどうする?」
「あの国にそれほどの余裕があればいいですね。ゼラチナスとて、冬場は辛いでしょう?」
「こんな時期に攻め込むなんて人のすることではない、と思うだろうな。戦なんてあくまでもビジネスだ。優れた備蓄、優れた兵士。それを用いた盤上ゲームなのだ。兵も備蓄もない時に仕掛けるバカはおらんよ」
金だけあっても、動く兵はいない。
足場も悪く、天候も悪い。兵の消耗が著しいのだ。
冬場はとにかく作物が育たず、奪うにしたって日頃から戦をしているゼラチナスに、候補となる村もないだろう。
そんな状況で攻め込もうと考える馬鹿はいない。
何せ勝てる見込みもないからだ。
何かと効率重視で無駄を嫌うゼラチナスなら、今が一番攻め込んで欲しくない時期である。
「まぁ、だからこそカースヴェルトなら実験場にすると思うんですよね。あの人達、基本自分勝手でしょ?」
「あの国は本当に碌なことしかしないからな。それに、彼の国が滅んだ事実はまだウチ以外知られてないのも事実か」
「ウィンディアも冬季はちょっかいかけてこないことは把握済みです。なので今しかないと」
「わかった。だが無理はするなよ?」
「ええ、土産話を期待しててください」
僕は本当に散歩に行く気軽さで、フレンダさんと別れた。
そして店まで帰ると旅支度を終えた少年勇者達がお出迎え。
「お姫様はなんと?」
「土産話を期待していると」
「クッキーは?」
「食べ尽くしそうな勢いだったな。用法を説明したが、あれは無理だな。羊羹に向ける時と同じ目をしていた」
「予備は作っといた方が良さげ?」
「まぁそこは定期連絡の時にでも作るさ。さて、諸君準備はいいかね?」
「ああ」
「いつでも」
「あたしはいつでもオッケー」
「ならばゼラチナスに向けて出発だ」
「「「おー!」」」
意気揚々と駆け出した僕ら。
しかし早いタイミングで迷った。
僕も彼らも、土地勘がまるでなかったからだ。
「全く貴殿ら。ワシと接触してる場面を誰かに見られていたらどうするつもりなのじゃ?」
そしてオズおじの死霊兵士に道案内をしてもらい(正しくは途中で出会って、バトルしながら後退してたら街まで来てしまった風を装う)無事に辿り着いた。
ミオの清浄魔法で天に帰してことなきを得る様にみせた。
実際は浄化一歩手前で逃げ道を作って逃したのだが、兵士が敵と繋がっている事実を理解できずに「お見事です」と褒め称えてくる。
門番には無事任務を終えて帰還したことを連絡し、なんとか国境の内側に。
僕は助けに行った時にはすでに事切れていた設定だ。
なので今の僕は商人を装い、フレッツェンから帰還する勇者達を乗せて帰ってきた風を装った。
装ってばっかだな。まぁいいか。
重要なのはそこじゃない。
ゼラチナスにとっては勇者が帰ってきたこと、僕が死んだこと。
それだけが伝わればいいのだ。
「こうやってみると、なんか普通の国なんだよねぇ、ゼラチナスって」
人間の住む国。魔法技術の発達で、魔道具なんかがそこかしこで使われている。
武具を纏った傭兵なんかがそこかしこで酒をくらって、この国の行く末を憂いている。
お姫様が戦バカなのは国民に知れ渡っている様だ。
あんなにゴリゴリに隷属化してても、民の口封じに力を割けない時点で無能な感じするよね!
「勇者様、お迎えにあがりました」
酒場で食事中、傭兵とは異なる武装した兵士が三人組を囲む。
「じゃあ、頑張って」
「道中ありがとうな!」
僕はあくまでも途中まで一緒だった風を装いながら三人と別れる。
ここからは別行動だ。
僕は商売道具の小荷物を抱えて、商業ギルドでとある商品を売り込んだ。それはフレンダさんにも手渡した解毒クッキーである。
僕の復讐相手はあくまでもこの国の中枢であり、国民ではないという意思表示だった。
お出かけ。とそこら辺を散歩する感覚で上官に当たるフレンダさんに報告した。
「出かける? 冬にか?」
正気か? という顔。
どうもここら一体は盆地で、冬になれば豪雪地帯となるようだ。
めっちゃ雪が積もるという意味で、出歩くのは危険と注意される。
「大丈夫ですよ、フレンダさんにもらった氷結耐性がありますし」
「お前は雪を舐めすぎだ。雨と違い、地面に流れず溜まった雪は家屋をも押し潰す。春がきたら屋根修理で大忙しになるのだぞ?」
ああ、以前屋根そのものを取り替えると言っていたのはそういうことか。
「稼ぎ時ですね。それまでには帰って来れるといいな」
散歩という割に長旅になるかもしれないと溢したがために、フレンダさんは鋭い視線を送ってくる。
「そんなに長い間出かけるつもりなのか?」
「実は、ゼラチナスにお礼参りに行こうと思ってまして」
「もう十分意趣返しはしたろう?」
従業員に抱えた勇者たち。
それはゼラチナスから主力を奪ったに等しい。
あれから進軍らしい進軍も見当たらず、無事に冬を越せそうだと安堵していた矢先に僕たちが打って出ると聞いて眉を顰めている。
無理もない。
「実は新しく抱えた従業員がですね、暇を持て余らせていて」
「カースヴェルトの捕虜だな。最近おとなしくしていると聞いたが、何か問題行動を起こしたか?」
「ああ、そういうんじゃないんですよ。ちょっと新しいデバフを獲得したい旨を話しましたら、実験場が手に入れば問題ないと。そこでフレッツェン領を貸し出すのは快く思われないだろうと」
「当たり前だろう! いったいどれほどの地域が人の住めぬ土地になったと思っているのだ?」
「ええ、ですから今度からゼラチナスの領土で実験をやってもらい、そこで僕は新しいデバフと味覚の開発。ついでに耐性を得て新年を迎えたいなと」
「ふむ。フレッツェンに迷惑をかけないのなら……して、かの捕虜達は我々のいうことを聞いてくれそうか?」
「うちじゃ向こうの思惑通りに動いてくれないと理解してくれましたからね。言うことを聞く、と言うよりは多少会話に耳を向けてくれるって感じでしょうか。もともと耐性を持ってるところにフレンド機能で耐性を得ましたからね。以前より前のめりで研究に没頭すると思いますよ。後ついでにカレーの発展系を計画しています」
「カレーか………ヨシ。都度報告するのなら特別に許可しよう」
「やったぁ」
やはりこの人、食べ物に弱い。
「それとこれは新作です」
「クッキーか。これは美味かったな」
「デバフ効果は無いですが、これ自体が福神漬けのパワーアップ版です。美味しいからって全部食べちゃダメですよ?」
信じられない、という顔。
長い沈黙を破って開かれた口から放たれた言葉は「善処しよう」というなんの信頼も得られない言葉だった。
こりゃ予備は作っておいたほうがよさそうだ。
「中毒患者が現れたら、水を飲ませながらこれを砕いて食べさせてあげてください。呪毒関連の不治療の症状を緩和します。完全に治るわけではありませんが、寝たきりの患者も立って歩くくらいはできると思います」
「カースヴェルトの被害家族にも朗報か。全く、お前はどれほどの恩を我々に与えるつもりだ? いつまで経っても返す目処がつかんではないか」
「何言ってるんです、僕たちのは日々の感謝のお返しですよ。住む場所、住民としての根回し。これのあるなしで生活の安心感はぐっと変わってくる。ゼラチナスとは大違いだ」
「あんな国と比べてくれるな。こちらはアキトをそれほど重用しているということだ。むしろ何か不足はないかと気を揉んでいるくらいだぞ?」
「それこそ、無用な気遣いですよ。これからもいい関係を築けるように、過去の禍根を晴らすというのは今の僕たちにとっても重要案件なのです。しかし直接手を下せば、この国に迷惑を掛ける。なので……」
「カースヴェルトを矢面に立たせるか」
「なんならうちの従業員も僕の任務を終えて帰還したと勘違いしていただきます」
「勇者をすぐに投入すると思うか? 温存して、他国に向かわせられたらどうする?」
「あの国にそれほどの余裕があればいいですね。ゼラチナスとて、冬場は辛いでしょう?」
「こんな時期に攻め込むなんて人のすることではない、と思うだろうな。戦なんてあくまでもビジネスだ。優れた備蓄、優れた兵士。それを用いた盤上ゲームなのだ。兵も備蓄もない時に仕掛けるバカはおらんよ」
金だけあっても、動く兵はいない。
足場も悪く、天候も悪い。兵の消耗が著しいのだ。
冬場はとにかく作物が育たず、奪うにしたって日頃から戦をしているゼラチナスに、候補となる村もないだろう。
そんな状況で攻め込もうと考える馬鹿はいない。
何せ勝てる見込みもないからだ。
何かと効率重視で無駄を嫌うゼラチナスなら、今が一番攻め込んで欲しくない時期である。
「まぁ、だからこそカースヴェルトなら実験場にすると思うんですよね。あの人達、基本自分勝手でしょ?」
「あの国は本当に碌なことしかしないからな。それに、彼の国が滅んだ事実はまだウチ以外知られてないのも事実か」
「ウィンディアも冬季はちょっかいかけてこないことは把握済みです。なので今しかないと」
「わかった。だが無理はするなよ?」
「ええ、土産話を期待しててください」
僕は本当に散歩に行く気軽さで、フレンダさんと別れた。
そして店まで帰ると旅支度を終えた少年勇者達がお出迎え。
「お姫様はなんと?」
「土産話を期待していると」
「クッキーは?」
「食べ尽くしそうな勢いだったな。用法を説明したが、あれは無理だな。羊羹に向ける時と同じ目をしていた」
「予備は作っといた方が良さげ?」
「まぁそこは定期連絡の時にでも作るさ。さて、諸君準備はいいかね?」
「ああ」
「いつでも」
「あたしはいつでもオッケー」
「ならばゼラチナスに向けて出発だ」
「「「おー!」」」
意気揚々と駆け出した僕ら。
しかし早いタイミングで迷った。
僕も彼らも、土地勘がまるでなかったからだ。
「全く貴殿ら。ワシと接触してる場面を誰かに見られていたらどうするつもりなのじゃ?」
そしてオズおじの死霊兵士に道案内をしてもらい(正しくは途中で出会って、バトルしながら後退してたら街まで来てしまった風を装う)無事に辿り着いた。
ミオの清浄魔法で天に帰してことなきを得る様にみせた。
実際は浄化一歩手前で逃げ道を作って逃したのだが、兵士が敵と繋がっている事実を理解できずに「お見事です」と褒め称えてくる。
門番には無事任務を終えて帰還したことを連絡し、なんとか国境の内側に。
僕は助けに行った時にはすでに事切れていた設定だ。
なので今の僕は商人を装い、フレッツェンから帰還する勇者達を乗せて帰ってきた風を装った。
装ってばっかだな。まぁいいか。
重要なのはそこじゃない。
ゼラチナスにとっては勇者が帰ってきたこと、僕が死んだこと。
それだけが伝わればいいのだ。
「こうやってみると、なんか普通の国なんだよねぇ、ゼラチナスって」
人間の住む国。魔法技術の発達で、魔道具なんかがそこかしこで使われている。
武具を纏った傭兵なんかがそこかしこで酒をくらって、この国の行く末を憂いている。
お姫様が戦バカなのは国民に知れ渡っている様だ。
あんなにゴリゴリに隷属化してても、民の口封じに力を割けない時点で無能な感じするよね!
「勇者様、お迎えにあがりました」
酒場で食事中、傭兵とは異なる武装した兵士が三人組を囲む。
「じゃあ、頑張って」
「道中ありがとうな!」
僕はあくまでも途中まで一緒だった風を装いながら三人と別れる。
ここからは別行動だ。
僕は商売道具の小荷物を抱えて、商業ギルドでとある商品を売り込んだ。それはフレンダさんにも手渡した解毒クッキーである。
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