異世界デバフライフ〜僕だけ取得できるデバフ耐性スキルで最強の毒カレーが誕生した件〜

双葉 鳴|◉〻◉)

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【悲報】先輩勇者は変態不審者

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 一週間雇った結果、結局猫人メイド達はてんで使えなかった。
 なんてこった。

 そして手に入れたデバフは以下の通り。
 遠隔操作Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ
 重圧Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ
 霊魂掌握Ⅰ、Ⅱ
 死霊憑依Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ
 合計11個だ。

 外に出てもいないのに11個獲得できてうまいと取るか、逆にまだ諦めてないのかと呆れるか、判断に困る状態だった。

 残機1個増えたから僕としては役得だったけどね。


「なぜじゃ! なぜこうもうまくいかん!」


 自室で一人頭を掻きむしるメイドにお茶菓子を持って訪問する。
 残機獲得の謝礼みたいなものだ。


「オズ、少しは仕事覚えたかー?」

「店長! お前が何かしているんじゃろう!」


 突然詰め寄られて、鋭い視線を差し向けられる。


「どう、どう。一体何事だ?」


 とりあえず落ち着け。
 僕は彼女に椅子を座らせるように促し、お茶菓子とお茶の用意をした。


「実はの……ワシらはカースヴェルト再興を目論んでおるのじゃ」

「それはまた大層なご計画だな。そういうのを僕の耳に入れていいものなのか? 羊羹うまー」

「同じ日本人じゃから話すが、ワシはこの世界の在り方を快く思っておらん」

「まぁ、僕も人を操ってどうこうしようとする奴は苦手だよ。反吐が出る」

「じゃろう? だからワシは同じ志を持つものを集めて国を興した。それがカースヴェルトの成り立ちじゃ。うむ、この水饅頭は美味いの」

「だろ? 僕の最高傑作だ。この抹茶もうまいぞ」

「心がホッとするの」

「で、話の続き。国を興したはいいけど、どうなったんだ?」

「そうそう、最初は他国を見返してやろうと集まったのじゃが、守るものを得た途端に手のひらを返すようになっての」

「あー、一枚岩じゃなかったんだ」

「陰キャ同士で集まったのじゃが、隷属させて家族を持ち始めたもの達からやっぱりこういうのは良くないと。どの口が言ってるんじゃか」

「爺さんは奥さん作らなかったの? その、隷属魔法で」

「ワシの嫁は生涯二次元じゃよ」

「そりゃ御愁傷様」

「誰が可哀想な老人じゃって? 待て、それよりも今なんと?」

「爺さん」


 見た目ロリだが、こちとらプーネという年齢イコールクソガキを間近で見ているのもあり、目は肥えている。

 見た目をロリに寄せたところで、中身が男、または年寄りだと女性特有のあざとさはなかなか出せない。

 二次元嫁。
 それが彼の理想なのだろう。
 そして実際にはそんな人物は存在しない。

 二次元というのは作者の性癖を詰め込んだものだからだ。
 実際にいないからこそ、それが受ける。刺さる。

 彼はそれを他者に委ねず、自分の中に置いた。
 実際に自分が愛でられなくてもいい。

 逆にその嫁が他者に刺さり、動詞を増やす作戦に出たのだ。
 どんだけ歪んでいるんだか。


「どうしてワシが男じゃと」

「単純に口調。そして女性らしからぬ行動に発言。もう一人もネカマですか?」

「わかるか?」

「やたらと胸部を自慢してますから。元々ついてない人の特徴ですね。うちの従業員は持ってる人ですが、ああまで見せつけるような事はしません。むしろ男子の目から隠そうとする」

「ネカマの業か。してやられたわ」

「ま、答え合わせするならば。僕の能力がデバフに対して強い耐性と獲得をするものだからな。フレンドになるというのは、僕のデバフ耐性を受け継ぐこと」

「まさかフレンドにそのような意味合いがあったとは……つまりワシらからのちょっかいは?」

「ありがたくいただいたよ。ご馳走様、おじいちゃん」

「このクソガキめ。まさかのデバフ耐性とはな。ならばワシらの術が効かんのは道理か」

「まぁ、僕はここに世話になってる都合上、爺さん達にこの国をどうこうさせるつもりはない」

「恩義を感じるか」

「そういうのじゃないよ。単純に帰る場所がここにしかないんだ。元の世界に帰れる手段があるんなら、そうしてる」

「ふむ、この場所はワシにとって難攻不落となったか。しかしそれ以外はどうでもいいと?」

「ゼラチナスに侵攻する分なら、協力してやってもいい」

「何故だ?」

「僕とその従業員は、元々そこの国に召喚された勇者だ。しかし僕は能無し認定されて放逐された」

「定番のやつじゃな」


 どうやらここら辺は世界共通みたいだ。
 日本人、と言っても同じ時間軸とは限らないし。

 二次元嫁とか言ってる時点でそう離れてないのは察したけど。


「あんたの世界ではどうか知らないが、いまだにその設定は生きてるのか?」

「ワシの世界では鉄板じゃったな」

「ならいうほど僕たちの世界と時間軸はぶれてないのかもな。爺さん呼びは訂正するよ、おじさん」

「店長はいくつなんじゃ?」

「23」

「若っか、死にたくなってきた」


 23を若いって言える時点で、相当にお年を召していることを確認。
 おじさんで良さそうだ。


「僕なんて5歳下の学生からおじさん呼ばわり受けてますよ」

「23とかガキだろう。学生とそう変わらん」

「ですよねー。僕もそう言ってるんですが、聞く耳持たずで。20超えたらおじさんだって」

「子供から見ると大人に見えるんじゃろうな」

「ですねー」


 なんか、話してみたらこの人いい人っぽいぞ。
 無論僕基準のいい人で、この世界にとっての癌細胞みたいなもんだけど。


「で、ですね。召喚国にそろそろお礼参りをしたいと思ってまして。何かいい策とかあります?」

「その国に店長のフレンドなどは?」

「今んとこいませんね。一緒にやってきた勇者はフレンドですけど、うちで従業員してもらってます」

「同時召喚された勇者のスペックは?」

「それいう必要あります?」

「どの規模の勇者を手に入れたかで、失った時の落胆を知ることができるじゃろ?」


 まぁ、言われてみればそうかもしれないけど。
 この人の場合、僕の知らないデバフで操ってくることまで感情に入れて動かなきゃいけないので、個人情報の漏洩をしていいか気になるところだ。

 まぁ僕も彼に言ってないことたくさんあるし、能力情報くらいはいいか。
 今や肩書きすら怪しいもんな、あいつら。


「勇者、剣聖、聖女」

「役満じゃな。落胆も激しかろう」

「あと僕?」

「店長のスペックは知っておる。デバフの獲得じゃろ?」

「まぁね。あとはぱっと見で物事を解析することができる。能力的にこっちが本命で、デバフ獲得はおまけみたいなもんだよ」


 獲得したデバフで残機も獲得。
 死んだ時に獲得したデバフを周囲に拡散するカウンター能力もあるけど、これは別に言わなくていいか。


「嘘じゃろ? ワシはおまけ要素に完封負けしたのか?」

「僕からしたらおじさんは救世主みたいなもんだね。もっとデバフくれてもいいよ?」

「もうネタ切れじゃ。本国に戻ればないこともないがの。今やあのザマじゃし」

「僕は実際に見たことないんだよね。どんな状態なの?」

「この世の地獄じゃ。呪毒Ⅲがそこかしこで花開いて、生物に取り憑いては悪霊を生み出しておる。ワシらの故郷ではあるが、もう人が住めない場所になってしまったの」

「呪毒Ⅲくらいなら、僕耐性ありますよ?」

「本当か? ならば少し反撃の手は出てきたかもしれん」

「フレッツェンにきたら反撃しますよ?」

「世話になってる場所に攻め入るバカがどこにいる?」


 僕はおじさんに向かって指を差した。
 小さなおててが乱暴に僕の指を払う。


「一時の過ちをしつこくいうでない。ワシは同じ轍は踏まぬ女じゃ!」


 さっき自分のことをおじさんって認めたくせに。


「設定ですか?」

「設定いうな! ワシのロッティはそんなこと言わん! 1000年生きてる魔女じゃぞ?」

「設定じゃないですか。僕にも詳しく教えてくださいよ、もしかしたらお手伝いできるかもしれません」

「ぐぬぬ」


 こうして僕はおじさんと仲良くなった。
 おじさん、以降オズおじと呼ぶ。は、カースヴェルトに舞い戻ると、自分の領地からそれなりの兵力をかき集めてゼラチナスの国境ギリギリに待機させていた。

 僕がフレッツェン内には入れるなよ、と再三注意したおかげである。
 フレンダさんも自国内に入れてないならば文句は言わないだろうし。


「店主よ、礼を言うぞ! みよ、我らの死霊兵団を!」

「なんというか、趣味が結構入ってますねー」


 そこにいたのは結構ゴテゴテの武装を纏った小さな少女部隊だった。
 フレッツェンの戦士に見つかったら、余裕で返り討ちにされそうだな。

 それぐらいにロマンを詰め込んでいる。
 確かに小さい女の子がゴツい武器を扱うのはロマンがあるが、実践向きか? と言われたらそうでもない。

 本職の戦士はその隙を見逃さないぞ?

 まぁ、それをカバーするように無尽蔵の体力、疲れを知らない体、そして常に鍛冶場の馬鹿力を発揮できる肉体なのが強みと思っているんだろうね。

 魔法を使われたら一網打尽なのに目を瞑っちゃってるのがなんともお粗末な欠点だけど。

 剣と魔法のある世界で、近接だけでなんとかなるわけないだろうに。
 倒せないって気づいたら距離をとるし、それ以上の力で押し潰すとか普通にあるし。


「でもあれだね、死霊兵士って言うけど意外と見た目は普通だよね。素材は死体とかじゃないの?」

「良い着眼点を持っておるの! ワシは見てくれにこだわる女よ! ワシ自身が可愛いのに、グロテスクでゴツい部下を側に置くと思うか?」

「おじさん……」


 僕は可哀想な人を見る目でオズおじを哀れんだ。
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