異世界デバフライフ〜僕だけ取得できるデバフ耐性スキルで最強の毒カレーが誕生した件〜

双葉 鳴|◉〻◉)

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【朗報】収穫の秋、デバフの秋

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 北の方が騒がしくなる。
 そんな噂は特に街中に広がることもなく、フレンダさんは上機嫌で甘味を食べにくる。

 あの人僕と味覚が似てるので、僕が好きな料理はだいたい好きなんだよね。


「今日はなんだ?」

「普通に焼き芋ですね。毒焼き芋です」

「お前は毒以外に興味をそそられることはないのか?」

「そりゃ、僕にとってデバフの摂取は生命線ですからね。ここに来て半年近く経ちますが、残機増えてないんですよ。それだけ耐性が増えた証でもあるんですが」

「いい事ではないか」


 パチパチと燃え盛る焚き火の中、アルミホイルに包まれたさつまいもによく似た毒芋がほっかほかに熱を蓄えている。

 そいつを小枝で火を誘導しながら、新たな枯葉を投下してやる。

 なんで異世界にアルミホイルがって思うだろ?

 これはダイゴが発見したんだよ。
 何をどうしたか僕にはさっぱりわからなかったが、奴曰く偶然の産物だという。

 アルミホイルを皮切りに、アルミの鉄板などを精製。

 あいつらは活動の幅を広げてイキイキし出した。
 なんなら勇者してた時よりイキイキしてる。
 本来のフィールドに戻って来れたからだろう。

 僕よりイキイキてるんだよな。


「正直、商売もどん詰まりでしてね」

「そうは見えぬが?」


 先ほど店を通ってきたのだろう、そこでは店番のミオが忙しそうに商品を捌いていた姿があった。
 それを見たからだろう。忙しい=商売がうまく行っていると。


「いいえ、どん詰まりですよ。商売ってね、アイディアが枯れたらそこで生命線が立たれるんです」

「お前のデバフがそうであると?」

「さてね。ただ僕の興味はデバフを自ら摂取することです。知ってました? 毒って美味しいんですよ。知ってる知識を総動員して元の世界の味を再現しようとすると、毒抜きでは到達し得ないくらいには難解な味わいが多いのです」

「そうか。ならば此度の遠征についてくるか? 人員は多い方がいい。お前の知識は役に立つことが多いからな」

「どこか行かれるんです?」

「どこかというほどでもない。自国内で拠点を張って、カースヴェルトのやらかしの尻拭いをするんだよ。お前を拾った時みたいなのをな」

「また何かやらかしたんですか、あいつら?」

「俺が生まれる前からあいつらは自由さ。どうせなら自国内でやって欲しいもんだが、どうもうちの庭先で粗相することに味を占めたようだ」

「世の中には嫌がらせに人生を捧げる奴が本当に多くて困りますね」

「本当にな」


 そろそろ焼けた頃合いかな?
 枝でホイルの塊をツンツンする。

 グニっとした感触が枝を通して伝わった。
 ホイルを一部はぎ、マサキの作った爪楊枝で中の焼け具合を調べた。

 中心部に固さを感じず、すんなりと入った。
 やや柔らかめ。
 これはネットリ系だな。

 直感し、手折るのはよして包丁で切り込みを入れた。


「ふむ」


 中は紫色。毒を思わせる色合いだが、紫芋は日本にもある。
 よくこれを食べようと思ったなと思うが、僕は食べてるうちに好きになったよね。

 香ばしさというか、鼻腔をくすぐるふうわりとした香りがたまらない。

 フレンダさんは僕の反応からそれが食べられるものだと理解はしていたようだ。

 食欲は上がって来ないようだが。

 皮をむき、一口齧る。


「あちち」

「お前も猫舌だったとはな。猫舌仲間だな」


 ニンマリと笑われる。フレンダさんの微笑みは滅多に見られない。
 役得である。


「味は想像通り。ただ面白いのは火入れすることで新しい状態異常を獲得しました」

「どんなのだ?」

「夢中Ⅰというものでした。思考誘導に少し似てるのかな? ちょっと違うのはそこにしか注意が向かなくなるというものです。これはヘイト取りとかに使えそうですね。タンクがこのアイテムを使うと、その人にしか攻撃が向かなくなるという奴です」

「そんな便利な状態もデバフなのか?」

「扱い方次第では有用というだけで、四六時中狙われるというのは精神的にキツいでしょ?」

「それもそうか。一時的に狙われるというわけではないのだからな」

「だがこれは相手が死ぬまで、使用した相手から狙われる。魔物用のヘイトアイテムとして有用そうだ。食事としても美味い。アイディアがむくむく湧いてきたぞー」

「味はどうなのだ?」

「こいつは色味は悪いが、味が濃厚だ。ただそのまま食べるより、加工した方が食べやすい。芋羊羹とかどうです?」

「楽しみだ」


 では早速、加工開始。

 店番中だったミオが僕の加工に興味を示した。
 おい、店番は?


「休憩中! おじさんはもう少しバイトに労いを図ってくれてもいいと思うの!」

「いつも再現日本食を食わしてやってるだろうが」

「そういうのじゃなくて、お休みとか!」

「異世界で福利厚生を求めるんじゃない!」

「ぶー」

「全く、ここでは自分の命すら誰も守ってくれないというのに」


 ぼやきたくもなる。
 ここでの安全圏は僕の全面強力で保たれているというのに、少しなれたからと危機意識が無さすぎるんだよな、この子ときたら。


「なんというか、仲良しだな。同郷というだけではそこまで仲良くなれんぞ?」

「こいつが甘えん坊なだけだ」

「女の子なんですけどー。もっと優遇されてもいいんですけどー?」

「メスであることを当然の権利として振る舞える世界か。一度は行ってみたいものだな」


 フレンダさんは弱肉強食のこの世界とは全く異なる世界に興味を示す。

 今のこの国の在り方に疑念を抱いている、というわけでもない。
 ミオに付き合ってくれているのだろう。

 中間管理職はどこの世界も世知辛いね。


「隊長さん、興味あります?」

「少しな。ここよりも食が豊かなのだろう?」

「そうそう! 毒とかもないしね!」


 悪かったなぁ、猛毒にしか興味のない作り手で。

 元の世界の話談義に花を咲かせてる好きに、毒寒天と毒紫芋を練ったものを合わせて型に流し込む。

 この世界には冷蔵庫とかないので、流水の掛け流しが冷却スタイルだ。


 氷を置くタイプの冷暗所なんかもあるが、夏場に撤廃した。
 春先はよかったんだが、フレッツェンの夏場と秋場の湿度の高さが裏目に出た。
 湿気ることでカビが生えやすくなったのだ。

 甘味なんかも日持ちしないのだが、毒素がカビを駆逐するのか、意外と日持ちした。これは僕のような毒ジャンキーには嬉しい誤算だった。

 なので最近は氷よりも流水冷却だ。
 
 本当は井戸を引いて、その中に漬け込むのもよかったんだが、ダイゴとマサキの悪巧みコンビがいつの間にか「流しそうめんやろうぜ!」と家のあちこちに水路を作ったのだ。

 そもそもそうめんがないだろうがと思ったのだが、作ろうと思えば作れる。
 肝心のつゆの素材がないので早々に諦めたが。

 冷却しつつ、他の作業に打ち込む。
 いもは焼く以外にも薄く切って乾燥させ、あげることでチップスにできる。
 紫芋のポテチは日持ちも良いだろう。

 ただこのデバフは湿気には弱そうだなと思いつつ、布で水気を拭き取ってから、一枚一枚油に放り込んだ。

 ジュワーッ パチパチッ


「あ、いい匂いする! ないなに?」

「ポテチ。紫芋のな」

「へー珍しいね」

「なくはないが、色がな」

「あー、食べ物の色じゃないもんね」

「失礼な物言いだな。モンブランは好きなくせして」

「あれは別だよー。そういうものだと思えば食べられなくもないっていうか?」

「その、モンブランというのはなんだ?」


 未知なる食に興味津々なフレンダさん。

 これは作るしかなくなったね? という顔のミオ。
 僕は専門外なので、本当に人に食べさせるものじゃないんだが。

 そもそもこの世界のものでケーキに向く素材が無さすぎるんだよなー。
 作ってと言われてすぐに物を出せないのだ。

 
「該当素材が少なすぎるから無理。あれは冷蔵庫とか冷凍庫とか揃ってようやくものになるものだ」

「和菓子は?」

「寒天は常温で固まる、これが答えだ。ゼラチンはなめらかな食感を生み出すが、その分冷却に時間をかける。今の設備で堪能できると思うか?」

「難しい?」

「無理だと思うな」

「だってー、食べたいもん!」

「もん! って言って食べれるもんなら僕も食べたいもん! コーヒーも飲みたいもん!」

「もんもん言っててキモいー! そういうのは女の子の特権だから!」

「あー出た出た、女性優遇社会。何かにつけて女性は弱い立場だから守るべきっていうよな、お前ら」

「弱きものは助けるべきだろ?」

「そうなんですよー。隊長は話が分かりますね!」

「今、この中で一番弱いのはアキトだろ? ミオ、お前はこの中じゃ強い括りだ。なぜ強者のお前が弱者であるはずのアキトを蔑ろにしているんだ?」

「えっ」

「そうだぞ、聖女様。僕は無能すぎて国を追放されたダメダメ弱者なんだぞ。もっと丁重に扱うんだな」

「じゃなくって、私は女で!」


 守られるべきってか?


「元の世界ではどうだったか知らんが、この世界の強弱はステータスに顕著に現れる。性別では推しはかれぬよ」

「ほらみろミオ。ここじゃステータス格差社会なんだ。女性の権利は、異世界じゃ通用しないんだ。残念だったな」

「ぐぬぬ……」

「とはいえ、弱者は守ってくれる強者に心ばかりの謝礼を送るもんだ。何でもかんでも要望は叶えてやれないがな」


 ちょうど今固まったようだ。
 流水冷却の中から芋羊羹を密封したタッパーを取り出し、切り分けた。


「まだ僕がデバフ獲得してないジャンルだから、食ったら一直線でこれのことしか考えられなくなるけど、食いたいなら止めない」

「え、おじさんのデバフ耐性がない食材?」

「無論、俺はいただくぞ? 強者として弱者を守るためにな!」


 フレンダさんはこういうところ、本当にブレないよな。
 物は言いようだ。
 食い意地を理由に強者の権利をかざすのはどうかと思うけどさ。


「ぐぬぬ。あたしも食べるけどさー」

「うむ、美味だ!」


 まずは芋羊羹をパクリ。
 甘いものの次は甘しょっぱいものが欲しくなる。
 ポテチの味付けは気持ち塩の風味を強めた。


「こちらも美味しいな!」

「ポテチの方はお土産に包めますよ?」

「いただこう」

「羊羹の方は美味しいけど、ポテチはイマイチかな?」

「かーっこれだから舌が肥えてるやつはダメだ。もっと食事に感謝しなさい」

「本当にな。アキトの来る前のフレッツェンの食事を知らないから言えるのだな」

「えっ、えっ?」

「ちなみに、アキトがこの国に調味料の扱い方を持ち込んでくれたんだぞ?」

「その前は……」

「肉を茹でたり、なんなら生でいただいてたな」

「わお」


 ミオは今この場でポテチが食べられることのありがたさを噛みしめながら、残りを全部いただいた。

 羊羹の方と違い、ポテチの方は食べれば食べるほどデバフが蓄積するタイプのようだ。
 あっという間に平げ、僕はおかわりを催促されるのだった。
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