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【朗報】熊人親子との仲直り
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あれから僕達は、いろんなモノを作った。
工具屋の息子だった猫人勇者ダイゴ。
貴金属屋で細かい仕事が好きな猫人剣聖マサキ。
そして意外にもポップな絵をかけた猫人聖女ミオ。
そこで僕は商品に文字が読めない獣人にもわかりやすい説明書をつけることにした。
用途はダイゴとマサキに任せ、その絵はミオに任せる。
僕は何もしてないんじゃないかって?
一応僕がこの店のオーナーなんだよね?
そして彼らは居候だ。
猫人として置いてやってるので、基本僕には逆らえないのである。
というか、人間だってバレたら普通に攻撃されるからね。
安全にここから出るには、フレッツェンの後見者である僕を隠れ蓑にするしかないのだ。
無論、それはゼラチナスに帰る場合だ。
すっかりあの国に対して信用を失ってる三人の若者は、ここでの暮らしを何だかんだ気に入っている。
そしてその仕事に対して、フレッツェンの獣人たちからも一定の評価を受けていた。
ゼラチナスにいたときは、戦力としてしか期待されていなかったのに、ここでは戦力がそもそも必要とされていない。
国によっては求められるものが違うと知って、相当がっくりきていた三人だが、こうやって僕が仕事を分け与えることによって、彼らは日常を取り戻すことに成功していたわけである。
まずは外に出ても不審がられないように顔を売らないとね。
接客対応をしているうちに、すっかりこの店の従業員としての立場を確立していった。
「かー、労働の後のこの飯を食べたくて俺たちは頑張ってる!」
「大袈裟だなぁ」
新作の毒エビチリを食べて歓喜の産声をあげるダイゴ。
なぜか揚げるとエビのようなプリッとした食感と甘さを得られる新種のキノコ(もちろん猛毒)にチリソースをかけただけの料理をこんなにありがたがってくれるのは現代の味覚を知る彼らくらいだ。
「当たり前のようにご飯がある時点で、僕にはここにきた甲斐がありますよ」
「そこまで言う?」
「おじさんはそれだけの価値があるってこと!」
「なんだ? ほめたっておかわりくらいしか出せないぞ?」
「「「ゴチになりまーす」」」
結局僕はノリのいい彼らの飯当番になっていた。
いや、僕しか味わえない猛毒クッキングに、食べてくれる若者が増えただけの話か。持つべきものはフレンドというわけである。
そんな夜食時、最近目にする人物がもう1人。
「アキト、また新作か? 食べる時は呼べと言っているであろう?」
「フレンダさん、騎士の仕事はもういいんです?」
「後の仕事は部下に任せた」
「ダメな大人だ」
「ダメな大人がいる」
「ああはなりたくないよね」
子供達からダメな大人判定されてるフレンダさんが参戦。
すっかりテーブルの一つを独占するもんだから、新たに椅子を用意することになった。
ダイゴが木材をバッサリ切り、マサキが加工し組み立てる。
簡易的だが、軽鎧を着ている獣人女子1人乗せるくらいなら割と頑丈な作りであった。
子供達が椅子作りに夢中になってる隙に、僕はあらかじめ下拵えをした。
エビじゃないから、殻を剥いたり、背腸を抜いたりする手間こそないが、揚げるのが普通に手間だったりする。
「上手なもんだな。ゼラチナスの勇者というから、もう少し頭でっかちな脳筋かと思ったぞ?」
「あの国は、本来の持ち味を殺して戦闘バカにするしか脳のない国だということです。フレンダさんは辛いの得意ですか?」
「好きか嫌いかで言えば、得意ではないな」
「では少し甘めにしますね」
事前に作って置いたケチャップどばー。
チリペッパーは少なめに、代わりに砂糖を足した。
揚げたキノコは粗熱を取り、甘めのソースに混ぜ合わせる。
とろみのついたソースに合わせて、さらに盛れば出来上がりだ。
「こっちはこっちでうまそうなのがずるいよな」
「おじさんは本当にコックの能力持ってないの?」
「解析はコックよりすごいってことさ。なんせ見ただけで植物や生物の特徴がわかるんだから」
「それはそうなんだけどさ。あ、これも美味しい」
「おい、これは俺のために作られたものだぞ。お前たちはお前たち様に盛られた皿があるじゃないか」
「おじさんの作るご飯に限っては味変一つとっても芸術点高いから、食べてみたくもあるんだよ。ほら、こっちの辛いのあげるから」
辛いの苦手というフレンダさんに無茶振りをする男、ダイゴ。
最近の高校生というのは怖いもの無しか?
「おい、貴様無礼だろう?」
「やめておけ、ダイゴ。この方はフレッツェンでは結構やんごとなきお方なんだぞ?」
「職務中に部下に仕事任せておじさんの食事にありつこうとしてるダメなお方なのに?」
「だとしてもだよ。この国で唯一の魔法騎士団の団長で、お姫様だ」
「おい」
ギロン、と殺意の込められた視線が僕に刺さる。
どうやらお姫様であることは内緒にして欲しかったらしい。
「お姫様なの?」
「見えねー」
「貴様ら。アキトの客人だからと下手に出ておれば、いい加減にせぬか。俺としては今すぐお前らを自慢の爪で引き裂いてやってもいいんだぞ?」
「この人、普通に強いからな。多分お前たちよりもずっと」
僕の解析は、相手のステータスすら盗み見ることができる。
何が得意で、何が不得意か。
そういうデータが見えるのだ。
面倒だから書き記さないだけで。
「すいません、調子に乗りました」
「ゼラチナスのお姫様とあんまりにも違うから」
「ごめんなさい、もう言いません」
地面に額を擦り付けて謝り倒す三人。
ゼラチナスの王女様と比べる時点で失礼だろうよ。
あんな初手で洗脳してくるお姫様と比べられたくもないだろう。
「うちの新人がご迷惑をおかけしました。あとで言って聞かせますので、どうぞ怒りをお納めください」
「本当にな。それでもお前の作る飯は美味い。おかわりはあるか? 今はそれで溜飲を下すとしよう」
「そんなのでいいんですか? もっとこう、僕の力を使ってなんとかしろーとか」
色々あるのに。
「そんなことをしてなんになる。別に俺は姫という立場が自分に不釣り合いなのは知っているよ。女だてらに剣の道に走り、魔法まで取得して兄の仇を取ろうとした。けどやはり俺は女なのだ。男より筋肉はつかず、男より背丈は低い。それでも慕ってくれる部下がいる。俺は果報者だ。それ以上を望めばバチが当たる」
意外と色々考えているフレンダさんに、ダイゴたちは自分たちの軽率な発言を恥じた。
ゼラチナスのライム姫みたいに、もっと勇者を扱き使ってやろうと考える姫と同様に思っていたのだが、それが今の発言ですっかり払拭されたようだ。
国によってありかたが違う。
それを今回の会話で理解し、納得する学生たち。
あまりオレに姫らしさを求めるな。
それだけ言ってフレンダさんは持ち場に帰った。
エビチリって香り強いから、周囲にそれだけでバレると思うけどね。
こうやって思えば、お互いにお互いのことを知ろうとせずに今までやってきた様に思う。
どこかで一度決着をつけないとな。
あのクマ親子とも一度、腹を割って話し合うチャンスくらいはくれてやってもいいのかもしれない。
翌日。
開店準備をしてる時、ダイゴが来客があるという話を持ってきた。
どうやら子連れの親子だそうで、僕に用事があるそうだ。
どうもこの集落を離れるそうだ。
ここで暮らす上で僕の店に出禁を言い渡されているベアード一家は良くも悪くも浮いていて、そのせいで地方に自ら望んでいくという話だ。
本当にあいつらと来たら、とことんコミュニケーションを取ろうとしない奴らだ。
最初は頭を下げに来たのかと思ったが、それすらせずに身を引くことを選んだと聞いて、僕の方の腸が煮え繰り返る程だった。
僕は久しぶりにベアードの顔を見た。
文句の一つでも言ってやろうかと思ったが、そのやつれ切った顔を見た後では先程まで頭の中を埋めていた言葉は出せなかった。
なんとか絞り出せた言葉は「何があった?」という労いの言葉である。
「こんな所で立ち話もなんだろう。中に入れ」
「いや、俺はここには出禁だから」
「いいから入れ! そんな死にそうな顔されたやつを見殺しにしたとあったら僕の信頼が地に落ちるわ!」
親が親なら子も子で、プーネもひどく落ち込んだ表情をしていた。
訳を聞けば、僕の店を出禁になった事をきっかけに、避難民グループから村八分にあった様だ。
最初こそはそのパワフルな仕事で注目され、頼られていたが。
僕の店で購入した商品で皆がベアードの様な逞しさを手に入れたとかなんとか。
周囲の成長に置いていかれ、今じゃ雑用ぐらいしかさせてもらえず、怪我をしても治しようがない。
疲労の蓄積させすぎで、奥さんが倒れたそうだ。
「馬鹿野郎。なんでもっと早く相談しに来なかった」
「俺も、自分のルールを押し付けた。だからこれくらいの非を受ける理由があった。きっとこれは今まで傲慢に振る舞ってきた罰なんだと、受け入れている」
「お前の罰に、家族を巻き込む気か? 頭一つ下げれば済む話だろうが! 僕だって鬼じゃない。反省してると認めたら、すぐに撤回してやった。意固地になっていつまでも頭を下げにこなかったお前もお前だ」
「そうだな、普通ならそうだ。だが俺は親である前に村の長。群れを率いる長が、おいそれと他人に頭は下げられん。それをしたら、俺はリーダーの資格を失う。育ててきた仲間に、嘘を並べ立てていたことになる」
「面倒なやつだな、お前は」
「よく言われるよ。だが、変えられん。きっと墓に入るまで、このままだろう」
「ならばこちらがお前に合わせるしかないな」
「何をするつもりだ?」
「何、簡単なことだ。今日よりお前達家族にかけていた出禁を解く」
「いいのか? 詫びもせず、頭も下げない大うつけだぞ?」
「そりゃ勿論、良い訳がない。今まで通りに物を盗んだら再び出禁をくれてやる」
「ああ、それでいい」
「しかし僕たちも今じゃフレッツェンで共に暮らす獣人だ。強者であるお前らのサポートに関しては譲歩してやっていい。盗む前にちゃんと相談しに来い。そうしたらそれに合わせた装備なりなんなり誂えてやるよ」
「弱者の定めを誰から聞いた?」
「風の噂で」
「感謝する」
ここでフレンダさんの名前を出せば、それこそベアードは腹を切りかねない。
忠義の男なのだ。
面倒臭いやつでもある。
「と、いうわけでカレーと福神漬けのセットをくれてやる。奥さんと一緒に食らうといい。家からカレーの匂いをさせる。これだけで僕の店の出禁が解除されたと触れ渡るようなもんだろ?」
「まったくだ」
ベアードは下げられないと啖呵を切ったはずの頭を何度か下げながら帰路に着いた。
遠くからならいいのか?
基準がわからん。
よくわからないが、これにて一件落着だな!
工具屋の息子だった猫人勇者ダイゴ。
貴金属屋で細かい仕事が好きな猫人剣聖マサキ。
そして意外にもポップな絵をかけた猫人聖女ミオ。
そこで僕は商品に文字が読めない獣人にもわかりやすい説明書をつけることにした。
用途はダイゴとマサキに任せ、その絵はミオに任せる。
僕は何もしてないんじゃないかって?
一応僕がこの店のオーナーなんだよね?
そして彼らは居候だ。
猫人として置いてやってるので、基本僕には逆らえないのである。
というか、人間だってバレたら普通に攻撃されるからね。
安全にここから出るには、フレッツェンの後見者である僕を隠れ蓑にするしかないのだ。
無論、それはゼラチナスに帰る場合だ。
すっかりあの国に対して信用を失ってる三人の若者は、ここでの暮らしを何だかんだ気に入っている。
そしてその仕事に対して、フレッツェンの獣人たちからも一定の評価を受けていた。
ゼラチナスにいたときは、戦力としてしか期待されていなかったのに、ここでは戦力がそもそも必要とされていない。
国によっては求められるものが違うと知って、相当がっくりきていた三人だが、こうやって僕が仕事を分け与えることによって、彼らは日常を取り戻すことに成功していたわけである。
まずは外に出ても不審がられないように顔を売らないとね。
接客対応をしているうちに、すっかりこの店の従業員としての立場を確立していった。
「かー、労働の後のこの飯を食べたくて俺たちは頑張ってる!」
「大袈裟だなぁ」
新作の毒エビチリを食べて歓喜の産声をあげるダイゴ。
なぜか揚げるとエビのようなプリッとした食感と甘さを得られる新種のキノコ(もちろん猛毒)にチリソースをかけただけの料理をこんなにありがたがってくれるのは現代の味覚を知る彼らくらいだ。
「当たり前のようにご飯がある時点で、僕にはここにきた甲斐がありますよ」
「そこまで言う?」
「おじさんはそれだけの価値があるってこと!」
「なんだ? ほめたっておかわりくらいしか出せないぞ?」
「「「ゴチになりまーす」」」
結局僕はノリのいい彼らの飯当番になっていた。
いや、僕しか味わえない猛毒クッキングに、食べてくれる若者が増えただけの話か。持つべきものはフレンドというわけである。
そんな夜食時、最近目にする人物がもう1人。
「アキト、また新作か? 食べる時は呼べと言っているであろう?」
「フレンダさん、騎士の仕事はもういいんです?」
「後の仕事は部下に任せた」
「ダメな大人だ」
「ダメな大人がいる」
「ああはなりたくないよね」
子供達からダメな大人判定されてるフレンダさんが参戦。
すっかりテーブルの一つを独占するもんだから、新たに椅子を用意することになった。
ダイゴが木材をバッサリ切り、マサキが加工し組み立てる。
簡易的だが、軽鎧を着ている獣人女子1人乗せるくらいなら割と頑丈な作りであった。
子供達が椅子作りに夢中になってる隙に、僕はあらかじめ下拵えをした。
エビじゃないから、殻を剥いたり、背腸を抜いたりする手間こそないが、揚げるのが普通に手間だったりする。
「上手なもんだな。ゼラチナスの勇者というから、もう少し頭でっかちな脳筋かと思ったぞ?」
「あの国は、本来の持ち味を殺して戦闘バカにするしか脳のない国だということです。フレンダさんは辛いの得意ですか?」
「好きか嫌いかで言えば、得意ではないな」
「では少し甘めにしますね」
事前に作って置いたケチャップどばー。
チリペッパーは少なめに、代わりに砂糖を足した。
揚げたキノコは粗熱を取り、甘めのソースに混ぜ合わせる。
とろみのついたソースに合わせて、さらに盛れば出来上がりだ。
「こっちはこっちでうまそうなのがずるいよな」
「おじさんは本当にコックの能力持ってないの?」
「解析はコックよりすごいってことさ。なんせ見ただけで植物や生物の特徴がわかるんだから」
「それはそうなんだけどさ。あ、これも美味しい」
「おい、これは俺のために作られたものだぞ。お前たちはお前たち様に盛られた皿があるじゃないか」
「おじさんの作るご飯に限っては味変一つとっても芸術点高いから、食べてみたくもあるんだよ。ほら、こっちの辛いのあげるから」
辛いの苦手というフレンダさんに無茶振りをする男、ダイゴ。
最近の高校生というのは怖いもの無しか?
「おい、貴様無礼だろう?」
「やめておけ、ダイゴ。この方はフレッツェンでは結構やんごとなきお方なんだぞ?」
「職務中に部下に仕事任せておじさんの食事にありつこうとしてるダメなお方なのに?」
「だとしてもだよ。この国で唯一の魔法騎士団の団長で、お姫様だ」
「おい」
ギロン、と殺意の込められた視線が僕に刺さる。
どうやらお姫様であることは内緒にして欲しかったらしい。
「お姫様なの?」
「見えねー」
「貴様ら。アキトの客人だからと下手に出ておれば、いい加減にせぬか。俺としては今すぐお前らを自慢の爪で引き裂いてやってもいいんだぞ?」
「この人、普通に強いからな。多分お前たちよりもずっと」
僕の解析は、相手のステータスすら盗み見ることができる。
何が得意で、何が不得意か。
そういうデータが見えるのだ。
面倒だから書き記さないだけで。
「すいません、調子に乗りました」
「ゼラチナスのお姫様とあんまりにも違うから」
「ごめんなさい、もう言いません」
地面に額を擦り付けて謝り倒す三人。
ゼラチナスの王女様と比べる時点で失礼だろうよ。
あんな初手で洗脳してくるお姫様と比べられたくもないだろう。
「うちの新人がご迷惑をおかけしました。あとで言って聞かせますので、どうぞ怒りをお納めください」
「本当にな。それでもお前の作る飯は美味い。おかわりはあるか? 今はそれで溜飲を下すとしよう」
「そんなのでいいんですか? もっとこう、僕の力を使ってなんとかしろーとか」
色々あるのに。
「そんなことをしてなんになる。別に俺は姫という立場が自分に不釣り合いなのは知っているよ。女だてらに剣の道に走り、魔法まで取得して兄の仇を取ろうとした。けどやはり俺は女なのだ。男より筋肉はつかず、男より背丈は低い。それでも慕ってくれる部下がいる。俺は果報者だ。それ以上を望めばバチが当たる」
意外と色々考えているフレンダさんに、ダイゴたちは自分たちの軽率な発言を恥じた。
ゼラチナスのライム姫みたいに、もっと勇者を扱き使ってやろうと考える姫と同様に思っていたのだが、それが今の発言ですっかり払拭されたようだ。
国によってありかたが違う。
それを今回の会話で理解し、納得する学生たち。
あまりオレに姫らしさを求めるな。
それだけ言ってフレンダさんは持ち場に帰った。
エビチリって香り強いから、周囲にそれだけでバレると思うけどね。
こうやって思えば、お互いにお互いのことを知ろうとせずに今までやってきた様に思う。
どこかで一度決着をつけないとな。
あのクマ親子とも一度、腹を割って話し合うチャンスくらいはくれてやってもいいのかもしれない。
翌日。
開店準備をしてる時、ダイゴが来客があるという話を持ってきた。
どうやら子連れの親子だそうで、僕に用事があるそうだ。
どうもこの集落を離れるそうだ。
ここで暮らす上で僕の店に出禁を言い渡されているベアード一家は良くも悪くも浮いていて、そのせいで地方に自ら望んでいくという話だ。
本当にあいつらと来たら、とことんコミュニケーションを取ろうとしない奴らだ。
最初は頭を下げに来たのかと思ったが、それすらせずに身を引くことを選んだと聞いて、僕の方の腸が煮え繰り返る程だった。
僕は久しぶりにベアードの顔を見た。
文句の一つでも言ってやろうかと思ったが、そのやつれ切った顔を見た後では先程まで頭の中を埋めていた言葉は出せなかった。
なんとか絞り出せた言葉は「何があった?」という労いの言葉である。
「こんな所で立ち話もなんだろう。中に入れ」
「いや、俺はここには出禁だから」
「いいから入れ! そんな死にそうな顔されたやつを見殺しにしたとあったら僕の信頼が地に落ちるわ!」
親が親なら子も子で、プーネもひどく落ち込んだ表情をしていた。
訳を聞けば、僕の店を出禁になった事をきっかけに、避難民グループから村八分にあった様だ。
最初こそはそのパワフルな仕事で注目され、頼られていたが。
僕の店で購入した商品で皆がベアードの様な逞しさを手に入れたとかなんとか。
周囲の成長に置いていかれ、今じゃ雑用ぐらいしかさせてもらえず、怪我をしても治しようがない。
疲労の蓄積させすぎで、奥さんが倒れたそうだ。
「馬鹿野郎。なんでもっと早く相談しに来なかった」
「俺も、自分のルールを押し付けた。だからこれくらいの非を受ける理由があった。きっとこれは今まで傲慢に振る舞ってきた罰なんだと、受け入れている」
「お前の罰に、家族を巻き込む気か? 頭一つ下げれば済む話だろうが! 僕だって鬼じゃない。反省してると認めたら、すぐに撤回してやった。意固地になっていつまでも頭を下げにこなかったお前もお前だ」
「そうだな、普通ならそうだ。だが俺は親である前に村の長。群れを率いる長が、おいそれと他人に頭は下げられん。それをしたら、俺はリーダーの資格を失う。育ててきた仲間に、嘘を並べ立てていたことになる」
「面倒なやつだな、お前は」
「よく言われるよ。だが、変えられん。きっと墓に入るまで、このままだろう」
「ならばこちらがお前に合わせるしかないな」
「何をするつもりだ?」
「何、簡単なことだ。今日よりお前達家族にかけていた出禁を解く」
「いいのか? 詫びもせず、頭も下げない大うつけだぞ?」
「そりゃ勿論、良い訳がない。今まで通りに物を盗んだら再び出禁をくれてやる」
「ああ、それでいい」
「しかし僕たちも今じゃフレッツェンで共に暮らす獣人だ。強者であるお前らのサポートに関しては譲歩してやっていい。盗む前にちゃんと相談しに来い。そうしたらそれに合わせた装備なりなんなり誂えてやるよ」
「弱者の定めを誰から聞いた?」
「風の噂で」
「感謝する」
ここでフレンダさんの名前を出せば、それこそベアードは腹を切りかねない。
忠義の男なのだ。
面倒臭いやつでもある。
「と、いうわけでカレーと福神漬けのセットをくれてやる。奥さんと一緒に食らうといい。家からカレーの匂いをさせる。これだけで僕の店の出禁が解除されたと触れ渡るようなもんだろ?」
「まったくだ」
ベアードは下げられないと啖呵を切ったはずの頭を何度か下げながら帰路に着いた。
遠くからならいいのか?
基準がわからん。
よくわからないが、これにて一件落着だな!
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