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【悲報】ライム姫の誤算③
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「勇者たちがまだ帰ってこないというのは本当ですか?」
「ライム様、お気を確かに」
「これからという時にいなくなられたら困ると言っておきました! 護衛の騎士は何をしていたというのですか!」
「それが、誰一人帰らず」
「防毒の護符は渡しておきましたよね? フレッツェンにはカースヴェルトからの介入以降、呪毒の影響があるからと。よもやそれにやられて体調を悪くしたということはありませんよね?」
「あり得ません。でしたら勇者たちも危ないはず」
「それなのですのよね。勇者たちはどうして平気なのでしょう」
ライムはここ最近の勇者たちの反抗をあまり良く思っていなかった。
自由意志など人形には不要。
強さこそは必要だが、勝手にされては困るのだ。
壊れたら直し、動かなくなったら次、というやり方で今までやってきた。
今回は運良く蘇生担当まで揃って、あと30年は戦えると思っていた矢先だった。
「なんでこうもうまくいかないのです!」
「やはりあの男が関係しているのでしょうか?」
追い出した男は百害あって一利なし。
だからこそライムの頭にはとっくに抹消されていた存在だった。
「あり得ません! なんとしてでも奪い返してきなさい! もう勇者をどこに配置しようか考えているんですからね!」
ライムはそれだけ言って、全てを部下に押し付けた。
しかしフレッツェンに辿り着いた騎士や暗殺者は……
「侵入者3名、近接2、うち一名は弓持ち」
「ならば俺が前衛の2人を足止めする」
「あたちは弓持ちをやるわ。パーシーとグリンクは援護。ヘイト取りはサラヴァンに任せるわ」
木の上にて、侵入者を見守る大きな影。
そこには戦闘を前にやる気満々のベアードとプーネとその取り巻きの姿があった。
「プーネ、あまり手柄を優先しようとするなよ? もうアキトからのサポートはないんだ」
「パパ、わかってるよ」
つい最近、アキトによって訴えられたばかりである。
サポートという名の窃盗を繰り返した挙句、信頼を地の底まで落とした結果だった。
「あいつも、俺たちのやってることを理解すれば、少しは気を良くしてくれると思ったんだがなぁ」
ベアードの仕事。
それはよそ者の始末、それに尽きる。
「プーネちゃんは女王様気質だからね。統率者としての資質を勘違いされてる気はするよね」
「言ったところで狩人じゃないお兄ちゃんに伝わるとは思わないけど」
「そこなのよねぇ」
「ほら、無駄話する前に手柄が逃げちまうぞ」
「あたちの獲物!」
プーネは6歳にて父親譲りの戦闘民族だった。
父親がそれで稼いでいる姿を見て、自分もそうなろうと思っていた。
今では女親分だ。
けれど多種族のアキトにその成り立ちは理解されずにいる。
その食い違いで、普通ならサポートは栄誉と取られるところを犯罪と受け取られてしまったのだ。
今は手柄を挙げて、見返してやろうと躍起になっている。
今回の獲物はそれなりに手練れ。
「シッ! 獣王双神脚」
「何者! ぐわっ」
前に出るベアード。
その巨体で三人一組で入って来た侵入者を分断させるのに成功。
しかし相手もそれなりの手練。
即座に距離を取り、毒を塗った短刀に持ち替えた。
「おねんねしな、デカブツ!」
放られた短刀に手刀を合わせて刃の面を弾くベアード。
相当に戦闘慣れしている。
しかし受けずに弾いたということは効果が高いことを意味すると理解した暗殺者が腰ダメのナイフをタックルと同時に突き出した。
ナイフが脇腹に突き刺さる。
これで相手は死んだ!
距離を取り、様子を見守る暗殺者。
しかしベアードはカバンに詰め込んでいた壺から福神漬けをつかんで口に放り込む。
これにて解毒は完璧だった。
実際に塗り込んでも効果はあるが、傷口がベタベタになるので二度と同じ轍は踏まないと誓ったのだ。
両腕を顔を挟むようにしてガードし、タックル。
その距離の詰め方に暗殺者はバックステップ。
しかしそこに詰めていたプーネが鋭く伸ばした爪で暗殺者の背中を切り裂いた。
「後ろ!」
「アグっ!」
「隙を見せたな、馬鹿者め」
ベアードによる追い討ちの右ストレート。
完全に伸び切ったのだろう暗殺者をあと詰めしていたグリンクがリュックからロープを出してぐるぐる巻きにした。
「弓使いの方はどうだった?」
「弱っちかった。あたちの敵じゃないね」
「そうか。これは単純に相手の攻撃を無効化できてるこいつのおかげだな」
「福神漬けだっけ?」
「ああ、カレーのお供な。こいつ単体で本来なら金塊5つ以上の価値があると父ちゃんは思ってる」
「でも、おにいたんはカレーのお供でつけてるよ? ただじゃないの?」
「父ちゃんがカレーを無毒化できないかってお願いしたからな。あいつとしてはカレーや福神漬けより、店の商品を買って欲しそうだったな。俺たちにとっての救いの神でも、あいつにとっちゃ大したことがないのさ」
「わかんない」
「価値観の違い、でしょうね」
うさ耳をつけた子供、グリンクがメガネの位置をずらして述べる。
本来なら力がない兎人であるグリンクだったが、俊敏さで虎人のパーシーを超え、動体視力では山羊人のサラヴァンを超える。
その上で手先が器用なので弓矢なんかも得意だった。
特にアキトの作りかけのスリングショットがお気に入りだ。
店に置いてるのはやたらと殺傷力が高すぎて、殺しすぎるのが玉に瑕。
グリンクにとって、必要以上の殺しをしないのは美学であった。
本当なら窃盗は美学に反するのだが、真っ向から言っても「気が向かいない」で一向に取り合わないアキトのせいで盗みを働くしかないのであった。
「人間はむずかちいわ」
「プーネちゃんは勘違いされやすい性格してるからね」
「サラヴァン、うるちゃい」
「まぁお姫様気質なのは間違いないか。それじゃあ今日も報告に行くぞ。報告は義務だからな」
「「「「はーい」」」
拠点にしている街イーストファングに戻るなり、上級戦士に敬礼しながら引き渡す。
「お疲れ様、今日は三名だけか? 最近減ってきたな。いいことだが」
「普通に毒物を持っててな。こいつがなかったら危なかった」
ベアードは戦士仲間に福神漬けの瓶を見せる。
上級戦士はニコリと微笑んだ。
「ああ、最近は当たり前のように食ってるが、これ単体でも普通に特効薬以上の効果があるんだよなぁ」
「多分毒物のほとんどは無効化できると思ってる。あの猫人には気づかないところで助けてもらってるのさ」
「確かにな。隊長が気にいるわけだ。それよりもお前、まだ隊長に復隊届出してないのか? お前ほどの戦力、抜けられると困ると言っていたぞ?」
「娘が一人前になるまでは目が離せないのさ。見ての通りお、俺にそっくりに育っちまったもんで」
「噂は聞いてるぜ。なんでも窃盗を繰り返しすぎて、例の猫人から出禁食らったって」
「おかげでカレーにありつけなくなってさ、パワーダウンだわ」
「窃盗なんかするからいけないんだろ?」
「いや、あの店に並んでるアイテムは便利なんだが、日常遣いするのに不向きすぎるんだ。その上に異様に高い」
「だからって盗むほどか?」
「質はいいんだよ。顧客の要望に応える気がさらさらなくてな」
「お互いに頭が硬いってことか」
「まぁな。猫人と熊人で考え方の違いを知らしめされたものさ」
「早く誤解が解けるといいな」
「俺もそれを願っているよ。娘にもそうだが、カーチャンにも頭が上がらねぇんだ」
大人たちの会話を聞き流しながら、子供たちは各家からカレーのいい匂いが漂って着てるのを嗅ぎつけ、お腹を鳴らす。
「パパ、帰ろ?」
「そうだな。今日は何を食べようか?」
「あたち、カレーがいい!」
「父ちゃんもできればカレーがいいが、当分は無理そうだ」
「あたちがお兄たんの倉庫に勝手に入ったから?」
「そうだなぁ」
「謝ってもダメ?」
「プーネは悪くない。父ちゃんはそう思ってるんだが、熊人の考え方を猫人に押し付けるのもまた違うからな。アキトがプーネを理解してくれるまで、当分はお預けだ」
「ぶー」
「それまではお母さんにカレーに負けない料理を作ってもらうしかないさ。何が食べたい?」
「おにくー!」
「じゃあ、ビッグボアのお肉を買って帰ろうか」
「わーい」
アキトの店を出禁になった親子は、それでもいつも通りの日常を送ろうとした。
他の子達も、どうにかしてアキトとの和解を目指す。
今まで通りの弱肉強食理論は、その日よりフレッツェンで通用しなくなった瞬間だった。
その頃、ライム姫は。
「なんで、調査に出した兵士が戻ってこないのですか! 次を出しなさい! 次を!」
「おいたわしや、姫様」
「私を労る暇があるのなら、三人の勇者を今すぐここに連れ戻しなさいな!」
「直ちに兵士を向かわせます!」
しかしそれから数日経っても、兵士は減るばかりでいい知らせは何一つ帰ってこなかった。
「ライム様、お気を確かに」
「これからという時にいなくなられたら困ると言っておきました! 護衛の騎士は何をしていたというのですか!」
「それが、誰一人帰らず」
「防毒の護符は渡しておきましたよね? フレッツェンにはカースヴェルトからの介入以降、呪毒の影響があるからと。よもやそれにやられて体調を悪くしたということはありませんよね?」
「あり得ません。でしたら勇者たちも危ないはず」
「それなのですのよね。勇者たちはどうして平気なのでしょう」
ライムはここ最近の勇者たちの反抗をあまり良く思っていなかった。
自由意志など人形には不要。
強さこそは必要だが、勝手にされては困るのだ。
壊れたら直し、動かなくなったら次、というやり方で今までやってきた。
今回は運良く蘇生担当まで揃って、あと30年は戦えると思っていた矢先だった。
「なんでこうもうまくいかないのです!」
「やはりあの男が関係しているのでしょうか?」
追い出した男は百害あって一利なし。
だからこそライムの頭にはとっくに抹消されていた存在だった。
「あり得ません! なんとしてでも奪い返してきなさい! もう勇者をどこに配置しようか考えているんですからね!」
ライムはそれだけ言って、全てを部下に押し付けた。
しかしフレッツェンに辿り着いた騎士や暗殺者は……
「侵入者3名、近接2、うち一名は弓持ち」
「ならば俺が前衛の2人を足止めする」
「あたちは弓持ちをやるわ。パーシーとグリンクは援護。ヘイト取りはサラヴァンに任せるわ」
木の上にて、侵入者を見守る大きな影。
そこには戦闘を前にやる気満々のベアードとプーネとその取り巻きの姿があった。
「プーネ、あまり手柄を優先しようとするなよ? もうアキトからのサポートはないんだ」
「パパ、わかってるよ」
つい最近、アキトによって訴えられたばかりである。
サポートという名の窃盗を繰り返した挙句、信頼を地の底まで落とした結果だった。
「あいつも、俺たちのやってることを理解すれば、少しは気を良くしてくれると思ったんだがなぁ」
ベアードの仕事。
それはよそ者の始末、それに尽きる。
「プーネちゃんは女王様気質だからね。統率者としての資質を勘違いされてる気はするよね」
「言ったところで狩人じゃないお兄ちゃんに伝わるとは思わないけど」
「そこなのよねぇ」
「ほら、無駄話する前に手柄が逃げちまうぞ」
「あたちの獲物!」
プーネは6歳にて父親譲りの戦闘民族だった。
父親がそれで稼いでいる姿を見て、自分もそうなろうと思っていた。
今では女親分だ。
けれど多種族のアキトにその成り立ちは理解されずにいる。
その食い違いで、普通ならサポートは栄誉と取られるところを犯罪と受け取られてしまったのだ。
今は手柄を挙げて、見返してやろうと躍起になっている。
今回の獲物はそれなりに手練れ。
「シッ! 獣王双神脚」
「何者! ぐわっ」
前に出るベアード。
その巨体で三人一組で入って来た侵入者を分断させるのに成功。
しかし相手もそれなりの手練。
即座に距離を取り、毒を塗った短刀に持ち替えた。
「おねんねしな、デカブツ!」
放られた短刀に手刀を合わせて刃の面を弾くベアード。
相当に戦闘慣れしている。
しかし受けずに弾いたということは効果が高いことを意味すると理解した暗殺者が腰ダメのナイフをタックルと同時に突き出した。
ナイフが脇腹に突き刺さる。
これで相手は死んだ!
距離を取り、様子を見守る暗殺者。
しかしベアードはカバンに詰め込んでいた壺から福神漬けをつかんで口に放り込む。
これにて解毒は完璧だった。
実際に塗り込んでも効果はあるが、傷口がベタベタになるので二度と同じ轍は踏まないと誓ったのだ。
両腕を顔を挟むようにしてガードし、タックル。
その距離の詰め方に暗殺者はバックステップ。
しかしそこに詰めていたプーネが鋭く伸ばした爪で暗殺者の背中を切り裂いた。
「後ろ!」
「アグっ!」
「隙を見せたな、馬鹿者め」
ベアードによる追い討ちの右ストレート。
完全に伸び切ったのだろう暗殺者をあと詰めしていたグリンクがリュックからロープを出してぐるぐる巻きにした。
「弓使いの方はどうだった?」
「弱っちかった。あたちの敵じゃないね」
「そうか。これは単純に相手の攻撃を無効化できてるこいつのおかげだな」
「福神漬けだっけ?」
「ああ、カレーのお供な。こいつ単体で本来なら金塊5つ以上の価値があると父ちゃんは思ってる」
「でも、おにいたんはカレーのお供でつけてるよ? ただじゃないの?」
「父ちゃんがカレーを無毒化できないかってお願いしたからな。あいつとしてはカレーや福神漬けより、店の商品を買って欲しそうだったな。俺たちにとっての救いの神でも、あいつにとっちゃ大したことがないのさ」
「わかんない」
「価値観の違い、でしょうね」
うさ耳をつけた子供、グリンクがメガネの位置をずらして述べる。
本来なら力がない兎人であるグリンクだったが、俊敏さで虎人のパーシーを超え、動体視力では山羊人のサラヴァンを超える。
その上で手先が器用なので弓矢なんかも得意だった。
特にアキトの作りかけのスリングショットがお気に入りだ。
店に置いてるのはやたらと殺傷力が高すぎて、殺しすぎるのが玉に瑕。
グリンクにとって、必要以上の殺しをしないのは美学であった。
本当なら窃盗は美学に反するのだが、真っ向から言っても「気が向かいない」で一向に取り合わないアキトのせいで盗みを働くしかないのであった。
「人間はむずかちいわ」
「プーネちゃんは勘違いされやすい性格してるからね」
「サラヴァン、うるちゃい」
「まぁお姫様気質なのは間違いないか。それじゃあ今日も報告に行くぞ。報告は義務だからな」
「「「「はーい」」」
拠点にしている街イーストファングに戻るなり、上級戦士に敬礼しながら引き渡す。
「お疲れ様、今日は三名だけか? 最近減ってきたな。いいことだが」
「普通に毒物を持っててな。こいつがなかったら危なかった」
ベアードは戦士仲間に福神漬けの瓶を見せる。
上級戦士はニコリと微笑んだ。
「ああ、最近は当たり前のように食ってるが、これ単体でも普通に特効薬以上の効果があるんだよなぁ」
「多分毒物のほとんどは無効化できると思ってる。あの猫人には気づかないところで助けてもらってるのさ」
「確かにな。隊長が気にいるわけだ。それよりもお前、まだ隊長に復隊届出してないのか? お前ほどの戦力、抜けられると困ると言っていたぞ?」
「娘が一人前になるまでは目が離せないのさ。見ての通りお、俺にそっくりに育っちまったもんで」
「噂は聞いてるぜ。なんでも窃盗を繰り返しすぎて、例の猫人から出禁食らったって」
「おかげでカレーにありつけなくなってさ、パワーダウンだわ」
「窃盗なんかするからいけないんだろ?」
「いや、あの店に並んでるアイテムは便利なんだが、日常遣いするのに不向きすぎるんだ。その上に異様に高い」
「だからって盗むほどか?」
「質はいいんだよ。顧客の要望に応える気がさらさらなくてな」
「お互いに頭が硬いってことか」
「まぁな。猫人と熊人で考え方の違いを知らしめされたものさ」
「早く誤解が解けるといいな」
「俺もそれを願っているよ。娘にもそうだが、カーチャンにも頭が上がらねぇんだ」
大人たちの会話を聞き流しながら、子供たちは各家からカレーのいい匂いが漂って着てるのを嗅ぎつけ、お腹を鳴らす。
「パパ、帰ろ?」
「そうだな。今日は何を食べようか?」
「あたち、カレーがいい!」
「父ちゃんもできればカレーがいいが、当分は無理そうだ」
「あたちがお兄たんの倉庫に勝手に入ったから?」
「そうだなぁ」
「謝ってもダメ?」
「プーネは悪くない。父ちゃんはそう思ってるんだが、熊人の考え方を猫人に押し付けるのもまた違うからな。アキトがプーネを理解してくれるまで、当分はお預けだ」
「ぶー」
「それまではお母さんにカレーに負けない料理を作ってもらうしかないさ。何が食べたい?」
「おにくー!」
「じゃあ、ビッグボアのお肉を買って帰ろうか」
「わーい」
アキトの店を出禁になった親子は、それでもいつも通りの日常を送ろうとした。
他の子達も、どうにかしてアキトとの和解を目指す。
今まで通りの弱肉強食理論は、その日よりフレッツェンで通用しなくなった瞬間だった。
その頃、ライム姫は。
「なんで、調査に出した兵士が戻ってこないのですか! 次を出しなさい! 次を!」
「おいたわしや、姫様」
「私を労る暇があるのなら、三人の勇者を今すぐここに連れ戻しなさいな!」
「直ちに兵士を向かわせます!」
しかしそれから数日経っても、兵士は減るばかりでいい知らせは何一つ帰ってこなかった。
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