異世界デバフライフ〜僕だけ取得できるデバフ耐性スキルで最強の毒カレーが誕生した件〜

双葉 鳴|◉〻◉)

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【朗報】倉庫漁りどもへ報復を

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「アキト、居るか?」

「あ、隊長。カレーの件以来ですね。お久しぶりです」


 あの日から、1週間は経ったか。
 ここ最近顔を見なかった人物が店先に顔を見せた。


「随分世話になった。陛下も満足していられたぞ」

「毒で満足するなんて、難儀な方だ」

「ただの毒ではない。美味く、力になる毒だ。我らは己の力を高めるためなら、多少の不調は飲み込める。そう言う種族だ」

「さいですか」


 僕は話を切り、今から食べようと思っていた冷菓を取り出す。


「そうだ、最近作ってるこのお菓子なんですけど、一緒にどうです?」

「ふむ」


 フレンダさんはそれを一瞥したあと、椅子に腰を下ろした。
 今回用意したのは、がある杏仁豆腐だ。

 ここ最近イタズラ坊主たちの倉庫襲撃が後をたたない。

 自分の武器を持っていても盗みを働く手癖の悪さを自白させる何かが欲しいと思っていたところに、今回の菓子で誘惑作戦を思いついたのだ。

 僕は前の世界で中華料理屋にバイトとしてた時があってね。

 そこで一通り習ったうちの一つがこれだ。
 毒の中には旨み成分の他に凝固成分を高めるものがある。

 今回の自白効果のあるやつがそれだった。

 臭みがなく、杏仁豆腐の程良い食感を引き立てるのにちょうどいい素材に、たまたま自白効果がついていただけにすぎない。


「うまい。口の中がさっぱりするな」

「そりゃよかった」

「つくづく疑問なんだが、お前はなんで追放されたんだ?」


 怪訝な顔つき。
 そんなもん、僕が知りたい。


「能力でしか人を判断しない国だったからでしょうか? ほら、僕の能力って解析とかでしょ? どうも鑑定スキルの下位互換だと思われたようで」


 スルスルと食べ終えて、空になった皿をじっと見つめるフレンダさん。

 しばらく空の皿を見つめた後、やがてその視線は僕の手をつけてない皿に映った。


「よければもう一つ、いただきます?」

「いいのか?」

「在庫はありますので」

「それではいただこう」


 ニコリ。
 鬼教官の笑みは相手を怖がらせる以外の効果があると、その日初めて知った。


「さて、今日はまたなぜわざわざ僕のところへ?」


 王様絡みの依頼なら、兵士を寄越すなりすれば良い。

 僕のカレーは街の住民のみならず、王宮の兵士からメイドに至るまで絶賛をいただいてる。

 それからと言うものの、職権濫用してくる兵士が多く、僕は忙しい日々を送っていた。


「実はな、ゼラチナスからの遣いというのが国境近くの拠点に訪ねてきている」

「遣い? 接敵したと同時に仕掛けてくることで有名なゼラチナスが?」


 何かの冗談か? と返す。
 フレンダさんもよくわからないと首を振った。


「ああ。だからどうにも相手の心うちが掴めぬでな。陛下は街に引き入れるのは極力避け、向こうの要件を聞き入れるための会議の場を設けると告げた。その時の世話人にお前を連れてくように命じられた」

「僕を連れて行く意味がわかりませんが」

「ゼラチナスの遣いを名乗る年若い少年少女の三人組だそうだ」

「ああ、勇者」

「もし相手の要件がお前の保護ならば、お前がついていく意味があると思わないか?」

「まぁ、確かに」

「そして、会議の場でカレーを提供するつもりでいる」


 フレンダさんが真剣に毒殺を図ると言った。


「正気ですか?」

「相手はお前のフレンドなのだろう? ならば平気なはずだ。それが姿を偽った間者ならばその場で息絶えるほどの毒だ。先に我々が食せば、相手方も食べざるを得ないだろう」

「力技で草」

「だが、確実な手だ。そのための準備も頼む」

「まぁ、そういうことなら。それならばいくつか新作も持っていっていいですか?」

「まだ俺の知らないメニューがあるのか?」

「毒で良ければ」

「お前には効かないのだろう? ならばオレも食せる。ぜひ味わいたいものだ。この菓子も美味かった」

「実はそれ、近所の子供の罪の意識をさせるためのもので。僕やフレンダさんには効きませんが」


 ニヤリ。
 僕は今とても悪い顔をしていると思う。
 フレンダさんはギョッとしながらこちらを振り向いた。


「おい、聞き捨てならないフレーズが聞こえたが?」

「あいつら、僕を舐めてるんですよ。猫人は他の獣人に比べて力が劣るのをいいことにやりたい放題で。バレなきゃいいんだよの精神でいます。なので、下手に出たフリをして、こいつを食べさせて自白させる、でうまくやってます。本人が認めさえすれば、親に金を出させるのは容易ですからね」

「人間として貶されることは無くなったが、猫人として侮られるか」

「フレンダさんからビシッと言ってやってくださいよ。僕としてはカレーの供給を止めたっていいんですが、それでもあのクソガキどもは止めないと思うんですよね」

「わかった、今回の件が解決し次第、俺からキツく言っておく」

「やったぁ!」


 僕は小躍りしながら彼女を見送った。
 ちなみになんでこんな小芝居を挟んだかといえば、こちらの様子をじっと見てる複数の視線があったからだ。


「おにーたん、あたちたちを訴えるってほんと?」


 倉庫のある裏口から入ってきて「自分は悪くないよ?」と罪の意識がまるでない態度でやってくる少女が1人。

 ベアードの愛娘のプーネちゃんだ。


「そんなこと言ってないぞー?」

「ほんと?」


 パァアアと表情を明るくさせるが、取り巻きの少年たちの顔色がすぐれない。


「君たちも入ってきなさい。お茶菓子を用意してるんだ。みんなで食べよう」


 無邪気な子供たちは、ワッと集まって自白剤入りのお菓子を美味しい美味しいと食べた。

 それで質問していくと、秘密にしていた内容をスルスルしゃべって行く自分の口を塞ごうと必死に両手で覆っている。


「あれあれー? どうしたのかな? 今の会話に何か不都合なことでもあった?」

「なんでもないよ! なんでもないの! 今言ったことは嘘だから!」

「ふんふん、そうなんだ?」


 僕はテーブルの上に大きな石を出した。


「これはなぁに? キラキラしててキレー」


 プーネちゃんが瞳を輝かせて石を眺めた。
 僕はそのいしをそっと撫でて、さっき録音していた子供達の団欒時の音声を再生した。

 青ざめる子供たち。
 大きな石をそっと懐に収める僕。


「これで証拠は揃ったね。では今日のところはお開きだ。次は法廷の場で会おう。ベアードさんもプーネちゃんがこんな悪事を働いてたんだって知ったら悲しむと思うけど、仕方ないよね。だってプーネちゃんは何一つ悪いと思ってないんでしょ?」


 先ほどの証言で、窃盗の主犯が自分であると自白したプーネちゃん。

 それ以外は取り巻きで、実行犯でしかない。

 プーネちゃんは僕と仲良しだからなんでも許してくれる。

 それを免罪符としてやりたい放題だった。
 親の顔が見てみたいもんだ。

 きっとクマみたいな男の顔が出てくることだろう。
 あぁ、こわいこわい。


「違うの、おにーたん! あたち、おにーたんの事ちゅき! あいちてるの」

「うんうん、そうやって多くの異性をたぶらかしてきたんだね。このグループにプーネちゃん以外の女の子がいないことからそれが伺えるもんね」


 魅了のスキルでも持ってるんじゃないかってくらい、プーネちゃんはオタサーの姫だった。逆ハーというやつだ。

 ベアードのやつは群れのボスとしての素質だとか言ってたが、ただの半グレ集団でしかない。
 僕が笑って済ませているから調子に乗ったのだ。


「ねぇ聞いて! おにーたん!」

「残念だけど、僕は嘘をつく子は苦手なんだ。それじゃあね」


 バタン。
 扉を閉めて子供達を外に締め出した。

 閂を刺し、ロックをかける。
 扉を壊さんばかりに叩く音が聞こえるが、僕はそっと無視した。


 翌日。


「アキト、なんだか今日は随分とご機嫌だな」

「ようやく、倉庫を荒らす犯人が捕まりましたので。おかげで趣味に没頭できる時間が確保できました」

「ん? そうか。ベアードの奴から「今日は仕事をできそうもない」と連絡がきたが、それと関係があるか?」

「なんら関係ありませんね。それよりもさっさと行きましょう。彼らと会うのを楽しみにしてたんですよ」

「そ、そうか? お前がいいのなら俺は気にしないこととする」


 そして、会議の席で、僕は指を刺されるなり笑われた。


「ブッハハハハハ、おじさん、何その格好。ウケるんだけど」

「アキト、この失礼な奴らが勇者か?」


 人を指して大笑いする聖女に対し、フレンダさんが敵意を振り撒いている。
 すっかり懐かれたもんだ。


「ああ、大丈夫ですよ」


 僕は懐から同様の猫耳を取り出し、素早い動きで三人の勇者たちに取り付けた。


「やぁ、君たち。随分とお似合いの格好になったね。似合ってるよ」


 すると、三人がお互いに指を差して笑い合う。
 それを見たフレンダさんは、僕だけではなく、誰に対してもこういうことですぐ笑うのだなと理解した。


「おっさん、久しぶりだな」

「ああ、そっちでの生活はどう? あれからお姫様は?」

「何個か依頼を受けたな。んで、成功報酬の代わりにおっさんの食べてたコロッケを国民食にしてやった」

「正気か? 猛毒だぞ」

「そうみたいだね。向こうはそれが毒だって認めなくて、ただ不味くて自分の口に合わないの一点張りで。僕たちにも食べさせないようにしてたんだ」

「アキト。こいつらは勇者で間違いないか?」

「80%くらいは勇者ですね。残りの20%は例の食事で拭えます」

「なになに、何かあたしたちに食べさせてくれるお食事あるの?」

「君たちが好きかはわからないけど、カレーだ」

「カレー!」


 少年少女は目を輝かせた。
 それが猛毒であるとも知らずに。
 この時点で僕は、彼らが100%勇者であると確信していた。

 なぜわざわざカレーを食べさせようかしたかといえば、フレンダさんが食べたそうにしてたからである。

 その後提供したエビチリ、チャーハン、マンゴープリン、杏仁豆腐は絶賛された。
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