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【悲報】魔大将オズワルドの敗走
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我々呪術兵団は快進撃を遂げていた。
敵国ゼラチナス、そして最高の餌場となっているフレッツェン。
しかしそんな快進撃はここ数日妙に空回りしている。
それと言うのも魔道兵器が謎の突然死を繰り返すからだ。
怨霊に肉体を慣らしている間に、突然死する。
魔道兵器は生きている動物、人間、獣人、有翼人、そしてモンスターが重要だ。
まだ完璧なゾンビの創造にまでは至ってない欠陥品である。
しかしそれでも成果は出ていた。
愚鈍な獣人共の村や街を何件も壊してきた。
着実に効果は出てきている。
だと言うのに、どうしてこうも失敗するのか。
「直ちに原因の特定を追求せよ」
「それが全くわからんのです。突然何かの匂いを嗅ぎ取り、穴をほじくり返してはもがき苦しみ、息絶える。こちらが術を仕込むまもなく、です」
魔道兵器には触れるだけで爆発的に周囲に怨念を撒き散らす特殊効果がある。
我々カースヴェルト兵でも呪具がなければ退けないほどの強力な呪い。
それが奴らに術式としてかけられている。
一度発動すれば、周囲一帯を呪いが拡散し、周囲をじわじわと遜色する。
ここは死んだ大地と化すはずなのに、ある日ひっそりとし死体と共に消えるのだという。
「一体何が起きていると言うのか」
「わかりません」
「ご報告いたします!」
「軍法会議中であるぞ!」
「それが、死霊兵団のオズワルド伯が戦死なされた様子で」
なぁにぃ!?
我が部隊最強のオズワルドが戦死?
「相手は誰だ!」
「それが獣人のようで」
「どこの誰だ、その獣人は!」
「それが、わからないのです」
「わからないとは?」
相手は嗅覚や聴覚がずば抜けている以外は呪いに対して何の抵抗も持たない愚物。
格好の餌。
それ以上になることはないのに。
我々がなす術もなく負けるだと?
あり得ん!
断じてあってはならぬことだ!
「周囲の魔導士たちは何をしていた! 獣人ならば独特の匂いを持つだろう? それを察知する仕掛けも用意していたはずだ!」
「それが、一斉に反応しなくなったのです。おかしいと思ったオズワルド伯が様子を調べに行ったら、突然現れた屈強な獣人に敗れたと、そう聞いております」
「誰にだ」
『ワシじゃよ』
それは一つの杖だった。
杖の先端に、核が埋め込まれており、そこにオズワルド伯の魂が込められていた。
カースヴェノムの上級魔導士は、このように肉体を入れ替えることが可能。
人間を超えた魂魄人間へと変貌しているのである。
「ご無事でありましたか、殿下」
『この状態を無事であると表するならば、貴殿の目は節穴であろうな。ぬかったわ、我が今更獣人相手に遅れをとるとはな』
今やただのフヨフヨと浮き上がる杖でしかないが、そこから発せられる威圧は生前のままだ。
新しい体に馴染むまでは時間がかかると言うもの。
しかしこの状態でもまだ戦えると言うのだから、上級魔導士は何とも恐ろしい存在だと認識している。
「相手は複数で攻めてきたので?」
『いいや、一体だけだった。普通であればデバフを撒いて、それで魔導兵器に食わせる。それで終わるはずだったのだが……あやつ、弾きおったのじゃ』
「それは殿下の呪術をですか? それともデバフ魔法をですか?」
『あり得んことだが、どちらも弾いたと見える。あんな使い手がまだおるとはの。これだから戦はやめられん! 世界とは広いものじゃ。そして、一気にこの国を攻め落とすのが難しくなった。何せあれは噂の魔法騎士ではなく、ただの雑兵であろうからな。あやつら、我にメタを張ってきおったんじゃ』
「メタとは一体なんですか?」
殿下はカースヴェノムが召喚した勇者だ。
たまにこちらのわからぬ言葉を扱う。
『対抗策のようなものよ。我々は対策されておるぞ。今までのやり方は通用せんと思っていいじゃろ』
「今までカモだと思っていた相手が、こちらと同等の戦術を練ってきたと言うことですか?」
『それはあり得ん。じゃが、勇者の存在がそこにあれば話は変わってくる』
「勇者! 勇者嫌いのフレッツェンが勇者を召喚しましょうものか? あれには贄が必要にございます。人畜無害な火の王にそれがなせるとは思えません」
『左様。なので拾い物かもしれん。ちょうど隣国に勇者を召喚しては選り好みしている国があるからの。ワシが一手で交代させられた。これは本国に持ち帰らねばもろとも全滅じゃぞ? 祖国に何の成果も得られず帰還してみよ。それこそ笑い物じゃ』
「逃げ帰る方が笑いものにされますよ」
『今は逃げよ。命令じゃ。あれは我々の天敵かもしれん。ただの獣が知恵をつけた。これほどの脅威はまずない。弁明はワシがしてやる。肉体を失うほどの損失を与えた。それだけで十分な土産になるじゃろう?』
「そこまで言われるのでしたら引き上げます。撒いたタネはどうされますか? 回収しようにも、距離があります」
『捨ておけ。次来る時までに芽吹いておらねばそれはそれで良い。次の侵略の足がかりとするか、逃走の時間稼ぎとなってくれるかどちらにせよ、今を逃せば逃げきれずに全滅じゃ。そら、追っ手がきおったぞ』
オズワルドの言葉に耳を傾けると、周囲には一切の反応がなかった。
「ぐわっ」
「ぎゃっ」
「ウグゥ」
音もなく、部下たちが倒れ伏す。
詠唱すらさせてくれない。
獣人や獣が近づいた時に知らせてくれる魔除けの汽笛も一切発動しなかった。
『これじゃ、ワシらはこれに襲われた』
目に見えない斬撃。
周囲と一体化するカモフラージュの魔法でも使っているのだろうか?
肉体を持つ身はこう言う時に辛い。
『ワシが防御魔法を張る! 貴様は逃げに徹せよ』
「かしこまりました! ウインドブースター」
周囲に防御バリアが張られたのを察してから体を持ち上げて地面を滑るスケート魔法を起動する。
「兵の回収は?」
『無理じゃ、使い物にならん』
仕方ないか。
まさかこれほどまでに気色の悪い攻撃を仕掛けてくるとは思わなかった。
追撃してくる泥団子。
命中率はとても悪い。
ただし泥に足を取られては厄介だ。
泥は乾くと固まる性質を持つからな。
「追撃が止みません! どうしますか?」
『今は何も考えずに逃げよ』
「了解」
こうして我々は逃げ帰った。
最後の最後で右手と左足に泥を浴びたが、カースヴェルトの国境を超えてまでは追ってこなかった。
★★★
一方、遊び感覚で賊を追い詰めていた子供達といえば。
「すごい、僕の泥団子で追い払う事ができたよ!」
「お手柄だな!」
「ううん、僕1人の力じゃないさ。この新兵器があったからこそだよ。
それはスリングショットと呼ばれる遠投げ用の器具だ。
力の弱い子供が、中に鋭い石を入れて重さを増して毒素の強い花と共に泥団子を飛ばす兵器だった。
作り方は単純で、番えた木を、特殊な接着剤でくっつけたもの。
アキトのお手製だった。
「俺たちみたいに肉球で抑えて爪で引っかけて投げられないもんな」
肉食系の獣人にとっては投擲もまた一種の武器だった。
しかし草食系の獣人にとってはこのスリングショットが生死の明暗を分けた。
「僕でも追い払えた。お兄ちゃんに感謝しなくちゃ」
「よし、帰るぞお前達」
「あ、ベアードおじさんどこいたの? 全く気づかなかった」
「アキトの作ってくれた泥化粧の効果が強すぎるんだ。奇襲には向くが、コミュニケーションを取る上で非常に不便だな、これは」
「泥ってすごいんだねー」
自分の娘を抱き上げながら、ベアードは頷いた。
「泥はすごいのさ。さ、勝利の凱旋だ。晩御飯は何が食いたい?」
「カレー!」
カレーとは、余所者のアキトが持ち込んだ料理である。
その芳しい香りと食感は、たちまちのうちにフレッツェンの住民を虜にするほどだった。
「カレーかぁ」
ベアードはアキトになんて言い訳をしようか考えながら帰路に着いた。
何せそのカレーは毒林檎ジュース以上の猛毒、ベニテングダケが大量に使われる食べたら死ぬと言われるほどの猛毒なのだから。
食べるにも相当細かいお作法があり、作ったからとすぐに食べられない危険物の筆頭、それがアキトの伝承したカレーだった。
敵国ゼラチナス、そして最高の餌場となっているフレッツェン。
しかしそんな快進撃はここ数日妙に空回りしている。
それと言うのも魔道兵器が謎の突然死を繰り返すからだ。
怨霊に肉体を慣らしている間に、突然死する。
魔道兵器は生きている動物、人間、獣人、有翼人、そしてモンスターが重要だ。
まだ完璧なゾンビの創造にまでは至ってない欠陥品である。
しかしそれでも成果は出ていた。
愚鈍な獣人共の村や街を何件も壊してきた。
着実に効果は出てきている。
だと言うのに、どうしてこうも失敗するのか。
「直ちに原因の特定を追求せよ」
「それが全くわからんのです。突然何かの匂いを嗅ぎ取り、穴をほじくり返してはもがき苦しみ、息絶える。こちらが術を仕込むまもなく、です」
魔道兵器には触れるだけで爆発的に周囲に怨念を撒き散らす特殊効果がある。
我々カースヴェルト兵でも呪具がなければ退けないほどの強力な呪い。
それが奴らに術式としてかけられている。
一度発動すれば、周囲一帯を呪いが拡散し、周囲をじわじわと遜色する。
ここは死んだ大地と化すはずなのに、ある日ひっそりとし死体と共に消えるのだという。
「一体何が起きていると言うのか」
「わかりません」
「ご報告いたします!」
「軍法会議中であるぞ!」
「それが、死霊兵団のオズワルド伯が戦死なされた様子で」
なぁにぃ!?
我が部隊最強のオズワルドが戦死?
「相手は誰だ!」
「それが獣人のようで」
「どこの誰だ、その獣人は!」
「それが、わからないのです」
「わからないとは?」
相手は嗅覚や聴覚がずば抜けている以外は呪いに対して何の抵抗も持たない愚物。
格好の餌。
それ以上になることはないのに。
我々がなす術もなく負けるだと?
あり得ん!
断じてあってはならぬことだ!
「周囲の魔導士たちは何をしていた! 獣人ならば独特の匂いを持つだろう? それを察知する仕掛けも用意していたはずだ!」
「それが、一斉に反応しなくなったのです。おかしいと思ったオズワルド伯が様子を調べに行ったら、突然現れた屈強な獣人に敗れたと、そう聞いております」
「誰にだ」
『ワシじゃよ』
それは一つの杖だった。
杖の先端に、核が埋め込まれており、そこにオズワルド伯の魂が込められていた。
カースヴェノムの上級魔導士は、このように肉体を入れ替えることが可能。
人間を超えた魂魄人間へと変貌しているのである。
「ご無事でありましたか、殿下」
『この状態を無事であると表するならば、貴殿の目は節穴であろうな。ぬかったわ、我が今更獣人相手に遅れをとるとはな』
今やただのフヨフヨと浮き上がる杖でしかないが、そこから発せられる威圧は生前のままだ。
新しい体に馴染むまでは時間がかかると言うもの。
しかしこの状態でもまだ戦えると言うのだから、上級魔導士は何とも恐ろしい存在だと認識している。
「相手は複数で攻めてきたので?」
『いいや、一体だけだった。普通であればデバフを撒いて、それで魔導兵器に食わせる。それで終わるはずだったのだが……あやつ、弾きおったのじゃ』
「それは殿下の呪術をですか? それともデバフ魔法をですか?」
『あり得んことだが、どちらも弾いたと見える。あんな使い手がまだおるとはの。これだから戦はやめられん! 世界とは広いものじゃ。そして、一気にこの国を攻め落とすのが難しくなった。何せあれは噂の魔法騎士ではなく、ただの雑兵であろうからな。あやつら、我にメタを張ってきおったんじゃ』
「メタとは一体なんですか?」
殿下はカースヴェノムが召喚した勇者だ。
たまにこちらのわからぬ言葉を扱う。
『対抗策のようなものよ。我々は対策されておるぞ。今までのやり方は通用せんと思っていいじゃろ』
「今までカモだと思っていた相手が、こちらと同等の戦術を練ってきたと言うことですか?」
『それはあり得ん。じゃが、勇者の存在がそこにあれば話は変わってくる』
「勇者! 勇者嫌いのフレッツェンが勇者を召喚しましょうものか? あれには贄が必要にございます。人畜無害な火の王にそれがなせるとは思えません」
『左様。なので拾い物かもしれん。ちょうど隣国に勇者を召喚しては選り好みしている国があるからの。ワシが一手で交代させられた。これは本国に持ち帰らねばもろとも全滅じゃぞ? 祖国に何の成果も得られず帰還してみよ。それこそ笑い物じゃ』
「逃げ帰る方が笑いものにされますよ」
『今は逃げよ。命令じゃ。あれは我々の天敵かもしれん。ただの獣が知恵をつけた。これほどの脅威はまずない。弁明はワシがしてやる。肉体を失うほどの損失を与えた。それだけで十分な土産になるじゃろう?』
「そこまで言われるのでしたら引き上げます。撒いたタネはどうされますか? 回収しようにも、距離があります」
『捨ておけ。次来る時までに芽吹いておらねばそれはそれで良い。次の侵略の足がかりとするか、逃走の時間稼ぎとなってくれるかどちらにせよ、今を逃せば逃げきれずに全滅じゃ。そら、追っ手がきおったぞ』
オズワルドの言葉に耳を傾けると、周囲には一切の反応がなかった。
「ぐわっ」
「ぎゃっ」
「ウグゥ」
音もなく、部下たちが倒れ伏す。
詠唱すらさせてくれない。
獣人や獣が近づいた時に知らせてくれる魔除けの汽笛も一切発動しなかった。
『これじゃ、ワシらはこれに襲われた』
目に見えない斬撃。
周囲と一体化するカモフラージュの魔法でも使っているのだろうか?
肉体を持つ身はこう言う時に辛い。
『ワシが防御魔法を張る! 貴様は逃げに徹せよ』
「かしこまりました! ウインドブースター」
周囲に防御バリアが張られたのを察してから体を持ち上げて地面を滑るスケート魔法を起動する。
「兵の回収は?」
『無理じゃ、使い物にならん』
仕方ないか。
まさかこれほどまでに気色の悪い攻撃を仕掛けてくるとは思わなかった。
追撃してくる泥団子。
命中率はとても悪い。
ただし泥に足を取られては厄介だ。
泥は乾くと固まる性質を持つからな。
「追撃が止みません! どうしますか?」
『今は何も考えずに逃げよ』
「了解」
こうして我々は逃げ帰った。
最後の最後で右手と左足に泥を浴びたが、カースヴェルトの国境を超えてまでは追ってこなかった。
★★★
一方、遊び感覚で賊を追い詰めていた子供達といえば。
「すごい、僕の泥団子で追い払う事ができたよ!」
「お手柄だな!」
「ううん、僕1人の力じゃないさ。この新兵器があったからこそだよ。
それはスリングショットと呼ばれる遠投げ用の器具だ。
力の弱い子供が、中に鋭い石を入れて重さを増して毒素の強い花と共に泥団子を飛ばす兵器だった。
作り方は単純で、番えた木を、特殊な接着剤でくっつけたもの。
アキトのお手製だった。
「俺たちみたいに肉球で抑えて爪で引っかけて投げられないもんな」
肉食系の獣人にとっては投擲もまた一種の武器だった。
しかし草食系の獣人にとってはこのスリングショットが生死の明暗を分けた。
「僕でも追い払えた。お兄ちゃんに感謝しなくちゃ」
「よし、帰るぞお前達」
「あ、ベアードおじさんどこいたの? 全く気づかなかった」
「アキトの作ってくれた泥化粧の効果が強すぎるんだ。奇襲には向くが、コミュニケーションを取る上で非常に不便だな、これは」
「泥ってすごいんだねー」
自分の娘を抱き上げながら、ベアードは頷いた。
「泥はすごいのさ。さ、勝利の凱旋だ。晩御飯は何が食いたい?」
「カレー!」
カレーとは、余所者のアキトが持ち込んだ料理である。
その芳しい香りと食感は、たちまちのうちにフレッツェンの住民を虜にするほどだった。
「カレーかぁ」
ベアードはアキトになんて言い訳をしようか考えながら帰路に着いた。
何せそのカレーは毒林檎ジュース以上の猛毒、ベニテングダケが大量に使われる食べたら死ぬと言われるほどの猛毒なのだから。
食べるにも相当細かいお作法があり、作ったからとすぐに食べられない危険物の筆頭、それがアキトの伝承したカレーだった。
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