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本編

38.のんびりとした午後

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セーレ神教国からの贈り物を無事に着服した僕は、久しぶりにのんびりとした時間を過ごしている。
外に出なくなった理由は数え切れないほどあるが、その多くは僕を神扱いしてくる亜人種達のせいである。
あんなよくわからない連中に大好きなリビアの街を破壊されてなるものかと事態を解決したまでは良かった。

どうも僕は生まれながらに相手を誤解に陥れやすい星の元に生まれてきたのかもしれない。
全くもって不本意である。
父さんも父さんだ。妹のお願いとは言え、僕に内緒で銅像なんて作りやがって。僕が怒るって考えないのだろうか?

ベッドの上をゴロゴロしながら考え事をし、やがて起き上がった。

「暇だ、錬金術でもしようか」

魔法を封印した僕は当初、錬金術一本で食っていく予定だった。
しかし僕の予想を下回って錬金術協会は風前の灯火。
アイディア一つで巨万の富を築けてしまった。

それがそもそもの間違いだった。

僕は何をすればよかったんだろうか?
今考えれば錬金術に手を出した時点でどう転んでも失敗していた未来が見える。
しかし手持ちが金貨一枚程度で、販売ルートもなくて、ポーションぐらいしか売れそうもなかったの事実。

「ああ、これは完璧に容姿の問題だな」

それが原因で貴族に間違えられ、誘拐まがいの拉致に貴族とのパイプ……なんで僕は浅はかにも貴族とのパイプを繋いだんだろうか? 

それがそもそもの間違いじゃないか。
木を隠すなら森の中とか馬鹿か!
貴族を嫌っていたのに貴族になるとか本末転倒だぞ?

僕の人生設計は最初から狂っていたのだ。
そもそもなんで冒険者で魔法無双しちゃったんだ、僕!
周囲にマジックキャスターがいない時点で気づけよ!
完全に魔法を扱えて浮かれてた。
そうだよな、僕が物語の主人公だなんてどう転んでも無理だわ!
嫌がらせのように顔が整っているのが尚更拍車をかける。
うがーーー!
人生をやり直したい!
無理ってわかってるけどやり直したいよー!

乳鉢を放り投げながらジタバタとする。
ぴたりと動きを止めて、むくりと起き上がる。
僕の頭には悪魔的思想が降りてきていた。

「そうだよ、やり直せばいいんだ。僕は不可能を可能とする錬金術師様だぞ? この見た目だから変に騒がれるんだ。そうと決まれば……」

思い立ったら即行動。僕は過去のことをいつまでもぐちぐち言わないやつである。

僕は男装をしていた。
いまだに胸が薄いから似合う。
髪はショートカットなので違和感はないだろう。
僕は姿見の前でいろんなポージングをしながら変なところがないかチェックした。

「ヨシ、どこからどう見てもお嬢様じゃない、完璧だな!」
「あらお姉様。イメージチェンですか?」

音もなく妹が室内に現れる。
例の如く転送によるものだ。妹は僕を一眼見て姉だと見抜いた。
なん……だと?

「どうして僕がトールだと思った」
「だってお姉さまのお部屋にいますもの」

盲点だった!
確かにここは僕の部屋である。
問題があるとすれば当たり前のように不法侵入してきている妹の方か。僕が妹の部屋に行くのはそれなりに戸惑うのに。

「それにお姉様は自分の美しさの自意識が低すぎますわ。姿形を変えても、醸し出すオーラを既に神々しいまでに纏われております」

なんだって!?
そんなの知らないぞ!

「え、僕そんなキラキラしてる?」
「お姉様、貴族の目は魔力を見通す力を有しておりますわ。だからわたくしは出会った時からお姉様の魔力量の凄さを見抜いていました」

そうなの!?
僕はさっきから驚きっぱなしである。

「じゃあ僕、変装してもみんなにバレちゃうの?」
「貴族の方なら一眼で見抜かれますね」
「そっかー」

半ば諦めたようにため息を吐く。
ままならないものだ。 

「それよりもお姉様」
「なに?」
「屋敷の外にうろつく獣達は一体なんなのでしょう? お姉様の銅像に近づいてはブツブツと、見ていてとても不愉快でしたわ」

嫌悪感も隠しもせず、亜人種を見下すアリシア。
彼女もそう考えると貴族なんだなー。

「お姉様はわたくしのものですのに、汚い手でベタベタと! せっかくの傑作が台無しです!」

違った。ただ僕が好きすぎるだけだった。この妹はいつから人の話を聞かなくなったのか。
ポーションを教えていた時は素直でいい子だったのに……!

「あー……一応僕がお仕置きしたからアリシアが手を下すまでもないよ」
「あら、そうでしたのね」
「そしたら僕を急に神様扱いし出しちゃってさ。困ってる」
「そうでしたの、お姉さまの素晴らしさに感銘を受けて改心なさったのね!」

いや、曲解しないで。
僕困ってるって言ったよね?

「お姉様、あの獣達の教育はわたくしにお任せください」
「なにをする気か分からないけど、程々にね?」
「程々など生ぬるいですわ! お姉様の従順な下僕としての心構えを刻んでやりますわ!」
「わー、やめて! そんなことしなくていいから!」

ギュッと抱きついて妹の行動を阻止した。
上目遣いで涙目になりながら懇願する。

「僕はアリシアが手を汚すところは見たくないよ」
「お姉様がそうおっしゃるのなら仕方ありませんわね」
「うん……」

何故か頭を撫でられて、ちょっと眠くなってくる。
立場逆じゃね? と思ってはいけない。
アリシアはレオンハート家の令嬢で、僕はただの養子。
立場が違うのだ。
この場合の立場は姉と妹の立場である。

学園に行ってから変に大人っぽくなった妹は、僕を妹扱いするようになった。歳は僕の方が上なのに、なんだか負けた気分だ。

「お姉様、横になられます?」
「うん、少し寝ようかな」
「アリシアは帰っちゃう?」
「お姉様がお休みになるまで付き添いますよ」
「そう、ありがとう」

気がつけば僕は妹の子守唄を聞き入って眠りについていた。
アリシアはいつまでも僕の寝顔を見つめていたのだろうか?
ちょっとどころじゃなく恥ずかしいな。

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