28 / 46
本編
28.悪者を改心させよう!
しおりを挟む
どうして僕はこんな所にいるんだろうか?
そう言えば店長のお店に寄った帰り道から記憶がない。
知らない天井の下でぼんやりとして居ると、いかにも悪人と行った風情の男がナイフを舐めてこちらを見下ろしていた。
「へへへ、いい子にしてなお嬢ちゃん。もうすぐ新しい旦那様の元に着くからねぇ?」
新しい旦那様? もちろん心当たりはない。
もしかして誰かと間違えられてるのだろうか?
この姿で彷徨き始めたのはリビアの街でのみ。
なのに誰と間違える?
ああ、一応候補は居るな。双子の妹のアリシアだ。
言う程似てるか? と思わなくもないが、マリーの奴は信じていたし、割と似て居るのだろう。
アッシュにも間違えられたし。
しかしわからないのはどうしてアリシアを誘拐しようと思ったかと言う事だ。娘を溺愛してるうちの父さんがアリシアに手を出したらどんな報復行為に出るのか知らないのか?
きっと笑顔で賊を消し炭にするぞ?
あの人は普段ニコニコしてるけど、怒らせたらおっかないんだ。
「旦那様?」
「そうだ、リーデフィル男爵様が新しい旦那様になるんだよ」
「嫌、おうちに返して!」
ちょっと演技をしてみた。
案の定と言うか、暴れないように手は拘束されて、そのロープで体をぐるぐる巻きにされていた。
こんなのじゃすぐ逃げられちまうぞ。
いや、きっとアリシアの魔力が低いことを知っててこの程度の対処で済ませたんだ。
だが今のアリシアなら平気で抜け出してしまうな。
普段抱き抱えてるクマの人形は魔道具で動くオートマタだ。
簡単な命令なら実行してくれるし、紐を結ぶ、解くのもお手の物。出し抜かれる心配はない。
じゃあなんで僕がおとなしく捕まって居るのかと言えば、うちの妹に手を出したバカをとっちめて二度と逆らえないようにけちょんけちょんにしてやる為だ。
「おっと、魔力がないのは知ってるんだぜ? 痛い目には会いたくなかったら大人しくしてるんだ!」
月明かりでナイフを光らせながら脅してくるごろつき。
素人か? あまりにも隙だらけで頭の中でシュミレーションした結果5回は無力化できるビジョンが浮かんだぞ?
それからもごろつきは変わる変わる違う人員を配置して僕を逃さないよう見張をつけた。
それでようやく今回の首謀者の男と面会する。
その男はでっぷりと太っており、一目で病んでるなと思わせる陰キャの男。ちなみに年はアリシアより二つくらい上だろうか?
鼻息を荒くしてブヒブヒ言っていた。
「よく来たね、アリシア。今日から君は僕のお嫁さんになるんだ」
「誰?」
「……ぐっ、君もそうやって周囲の大人達の様に僕を居ない扱いするつもりかっ! どうせ言うこと聞かないなら無理矢理に手籠にするつもりだった! 僕の魔力で人形になれ!」
感情が溢れ出す。確かこの魔力は闇属性!?
そんなものを扱える貴族がまだいたのか。それともこいつが余裕ぶってる理由もそこが理由か?
煙の様に薄く伸ばされた魔力が染み込む様に僕の肌に……入っていかない。反発する様に周囲に撒き散らされ、先程まで余裕ぶってた男の表情が狼狽する。
「どうして! どうして僕の闇魔法が効かない!?」
「なんの話ですの?」
ここは敢えてわからない様にキョトン顔でお答えした。
「チッ、魔力が低い筈なのに、どうして抵抗されるんだ?」
「そんなに魔力の多さが重要なのですか?」
「当たり前だ! 僕たち貴族は魔力量の多さで優劣が決まる、僕のお嫁さんになるのはそれ程凄いことなんだぞ! 分かったら従えよ! 従って僕の従順なお嫁さんになれよぉ!」
言ってることはただのガキの我儘だ。
当然、言うことを聞いてやる義理はない。
けどそのお痛は一歩間違えれば妹に向けられていたわけで、とても許せるものではなかった。
ピシャァアン!
室内に突如雷が落ちる。
帯電した髪がふわりと宙にまった。
「なんだ、何が起きている? アリシア、説明しろ! お前は一体なんなんだ!」
「わたくしはアリシアではありませんわ」
「なにぃ? おい、どう言うことだ。僕はアリシアを捕まえてこいと言ったんだ! ヘマしてるんじゃねぇぞ! 次期レオンハート家の跡取りの僕の言う事が聞けないのか!?」
いやいやいや。男爵の分際で妹に手を出すだけじゃなく、お家乗っ取りまで考えていたと?
思わず深く笑みを刻んでしまう。
無理もない事だ。分かっていたことだ。
唯一の子が娘で、魔力の才能が無ければ侮られる。
この豚はデビュタントで鮮烈デビューした妹に目をつけて、自分の傀儡にしようとした。
はあ? 舐めているのか?
思えば妹が僕を太らせない様にしていた理由はそこにあったのかもしれない。
目の前のこいつのニチャッとした笑みを思い出すだけで身震いさせてしまったのだろう。
そう思えば合点がいった。
「ごめんあそばせ、男爵様は炙りと焼き、どちらがお好みですか?」
「あ?」
僕の手の内にバチバチと電流が集まる。
「死に方を選ばせてあげようと言うのです。わたくしからのせめてもの手向けですわ」
「ひぃいいいいいああああ!! 嫌だ、死にたくない! 僕はこんなところで死ぬ男じゃない! 助けて、たすけろ! そうだ、金か? 金が欲しいのか?」
尻餅を突いてみっともなく慌てふためく子供のオークが情けなく命乞いを始める。
生憎とオーク言語は履修してないのでなんと言ってるのか全然わからない。
「あの世で反省なさいまし!」
「ほんげぇええええええええ!!」
室内に雷が落ちた。
僕の周りから、室内に帯電していた雷が一斉に豚を丸焦げにする。しかし脂肪の多さに助けられたのか、中までこんがりとはいかなかった。やはり室内じゃ威力は抑えられてしまうか。
だったら何度でもやってやる。やった。
僕の前にはこんがり焼けたオーク肉が転がった。
しかし爵位の低い男爵家と言えど、明るみに出れば問題になる。
確かに誘拐されたとはいえ、殺しはご法度だ。過剰防衛もいい所だ。
取り巻きのごろつきはいつのまにか居なくなっていた。
闇魔法は対象の意識を誤魔化して傀儡にする禁呪の一つ。
因みに雷魔法は伝えはあるものの使い手がいなくなって久しい口伝奥義の一つに分類される。
ちなみに電気というのは身体を動かす命令する際に脳から微弱に発生させられるものである。
僕はこの生きててもなんの取り柄もない豚を蘇生させ、意識がないのを良いことに弄り倒した。
結果、
「なんだか生まれ変わった気分です」
綺麗な豚が誕生した。
今までしてきたことなんて忘れてしまったかの様な澄み切った瞳をしている。
とはいえだ、どう見繕っても豚は豚だ。
アリシアの前に出せば内面は変わったとしてもきっと恐れ慄くだろう。お姉ちゃんとしてそれは見過ごせない。
そこで取り出しまするはダイエットフレーバー。
ここまで成長したのはきっと食生活が悪かったのもあるけど、家庭環境も最悪だったのだろうと容易に想像できる。
「それはようございました。これ、よければ使ってくださいまし」
「これは?」
「今きっとお悩みであろう中性脂肪を消化してくれる魔法のお薬ですの」
「なんと! 本当にいいのかい?」
「はい。ですがわたくしと今日ここで出会った事はお忘れください」
「名前も教えてくれずに忘れろっていうの?」
「それがわたくし達にとっての幸せなのでございますわ」
綺麗な豚は濁りひとつない瞳で僕の後ろ姿を見送った。
だが途中で言葉をかけてくる。
「僕はセリオ、セリオ・リーデフィル。この名前を覚えておいてください。今はまだ何も成し遂げてないけど、きっといつか大物になって、今日の御恩をお返ししたいとおもいます!」
「名前だけ覚えておきます」
片手だけ上げて答え、そして雷と共に屋敷に帰った。
魔法陣がなくてもこんな芸当ができてしまうのが雷魔法の利点である。取り敢えず多方面に波風立たず処理出来たのでよしとしよう。妹に手を出す奴は取っちめてやる!
そんな風にはやる僕だった。
◇
その日から二年後。
セリオ・リーデフィルは過酷なダイエットを乗り越え、白豚だった当時を思わせないすっきりとした顔立ちの少年へと変貌していた。あの日トールから賜った魔法のフレーバーで大好きな脂っこい料理を食べても太らなくなったのだ。
そして今まで自分を無能と蔑んでいた人物達も、一心に打ち込むセリオの姿を見てその評価を払拭する。
持って生まれた魔法は闇属性の使役系。決して貴族として誇れるものはない。けれど考え方一つなのだ。
リーデフィル男爵家の領地は作物の育ちにくい荒れ果てた大地が延々と続く荒野地帯。唯一近隣に鉱脈があり、そこから出土する鉄鉱石が資源の一つになっていた。
セリオはその作業内容にメスを入れた。
唯一の資源だからこそ、炭鉱夫達を厚遇した。
そして休息の制度も取り、給料の値上げと税の免除を実施し炭鉱夫達のやる気を引き起こした。
今や領内でセリオの名を知らない領民は居ない。
確かにマジックキャスターとしての資質は低いが、領主として同年代よりも何歩も前を歩く姿に社交界でも注目の的になっていた。
そんなセリオもお年頃。
婚約者の一人はできていてもおかしくない実績を積んでいる。
しかし彼の脳内では二年前の出会いが忘れられず、いまだに独り身を貫いていた。
「名も知らぬ貴方は、同じ空を見ているのでしょうか?」
物憂げな瞳とこぼれそうな唇からはため息と共に熱のこもった感情が吐き出され、空気の溶けて掻き消えた。
思春期の男の子に多大なる勘違いをさせたトールはその頃、リビアの街角で美味しそうにメンチカツを頬張っていたことなどセリオは知る良しもなかった。もし知ったとしても、彼の中で美化されまくってきっと補完されるであろう事は語るまでもないが。
そう言えば店長のお店に寄った帰り道から記憶がない。
知らない天井の下でぼんやりとして居ると、いかにも悪人と行った風情の男がナイフを舐めてこちらを見下ろしていた。
「へへへ、いい子にしてなお嬢ちゃん。もうすぐ新しい旦那様の元に着くからねぇ?」
新しい旦那様? もちろん心当たりはない。
もしかして誰かと間違えられてるのだろうか?
この姿で彷徨き始めたのはリビアの街でのみ。
なのに誰と間違える?
ああ、一応候補は居るな。双子の妹のアリシアだ。
言う程似てるか? と思わなくもないが、マリーの奴は信じていたし、割と似て居るのだろう。
アッシュにも間違えられたし。
しかしわからないのはどうしてアリシアを誘拐しようと思ったかと言う事だ。娘を溺愛してるうちの父さんがアリシアに手を出したらどんな報復行為に出るのか知らないのか?
きっと笑顔で賊を消し炭にするぞ?
あの人は普段ニコニコしてるけど、怒らせたらおっかないんだ。
「旦那様?」
「そうだ、リーデフィル男爵様が新しい旦那様になるんだよ」
「嫌、おうちに返して!」
ちょっと演技をしてみた。
案の定と言うか、暴れないように手は拘束されて、そのロープで体をぐるぐる巻きにされていた。
こんなのじゃすぐ逃げられちまうぞ。
いや、きっとアリシアの魔力が低いことを知っててこの程度の対処で済ませたんだ。
だが今のアリシアなら平気で抜け出してしまうな。
普段抱き抱えてるクマの人形は魔道具で動くオートマタだ。
簡単な命令なら実行してくれるし、紐を結ぶ、解くのもお手の物。出し抜かれる心配はない。
じゃあなんで僕がおとなしく捕まって居るのかと言えば、うちの妹に手を出したバカをとっちめて二度と逆らえないようにけちょんけちょんにしてやる為だ。
「おっと、魔力がないのは知ってるんだぜ? 痛い目には会いたくなかったら大人しくしてるんだ!」
月明かりでナイフを光らせながら脅してくるごろつき。
素人か? あまりにも隙だらけで頭の中でシュミレーションした結果5回は無力化できるビジョンが浮かんだぞ?
それからもごろつきは変わる変わる違う人員を配置して僕を逃さないよう見張をつけた。
それでようやく今回の首謀者の男と面会する。
その男はでっぷりと太っており、一目で病んでるなと思わせる陰キャの男。ちなみに年はアリシアより二つくらい上だろうか?
鼻息を荒くしてブヒブヒ言っていた。
「よく来たね、アリシア。今日から君は僕のお嫁さんになるんだ」
「誰?」
「……ぐっ、君もそうやって周囲の大人達の様に僕を居ない扱いするつもりかっ! どうせ言うこと聞かないなら無理矢理に手籠にするつもりだった! 僕の魔力で人形になれ!」
感情が溢れ出す。確かこの魔力は闇属性!?
そんなものを扱える貴族がまだいたのか。それともこいつが余裕ぶってる理由もそこが理由か?
煙の様に薄く伸ばされた魔力が染み込む様に僕の肌に……入っていかない。反発する様に周囲に撒き散らされ、先程まで余裕ぶってた男の表情が狼狽する。
「どうして! どうして僕の闇魔法が効かない!?」
「なんの話ですの?」
ここは敢えてわからない様にキョトン顔でお答えした。
「チッ、魔力が低い筈なのに、どうして抵抗されるんだ?」
「そんなに魔力の多さが重要なのですか?」
「当たり前だ! 僕たち貴族は魔力量の多さで優劣が決まる、僕のお嫁さんになるのはそれ程凄いことなんだぞ! 分かったら従えよ! 従って僕の従順なお嫁さんになれよぉ!」
言ってることはただのガキの我儘だ。
当然、言うことを聞いてやる義理はない。
けどそのお痛は一歩間違えれば妹に向けられていたわけで、とても許せるものではなかった。
ピシャァアン!
室内に突如雷が落ちる。
帯電した髪がふわりと宙にまった。
「なんだ、何が起きている? アリシア、説明しろ! お前は一体なんなんだ!」
「わたくしはアリシアではありませんわ」
「なにぃ? おい、どう言うことだ。僕はアリシアを捕まえてこいと言ったんだ! ヘマしてるんじゃねぇぞ! 次期レオンハート家の跡取りの僕の言う事が聞けないのか!?」
いやいやいや。男爵の分際で妹に手を出すだけじゃなく、お家乗っ取りまで考えていたと?
思わず深く笑みを刻んでしまう。
無理もない事だ。分かっていたことだ。
唯一の子が娘で、魔力の才能が無ければ侮られる。
この豚はデビュタントで鮮烈デビューした妹に目をつけて、自分の傀儡にしようとした。
はあ? 舐めているのか?
思えば妹が僕を太らせない様にしていた理由はそこにあったのかもしれない。
目の前のこいつのニチャッとした笑みを思い出すだけで身震いさせてしまったのだろう。
そう思えば合点がいった。
「ごめんあそばせ、男爵様は炙りと焼き、どちらがお好みですか?」
「あ?」
僕の手の内にバチバチと電流が集まる。
「死に方を選ばせてあげようと言うのです。わたくしからのせめてもの手向けですわ」
「ひぃいいいいいああああ!! 嫌だ、死にたくない! 僕はこんなところで死ぬ男じゃない! 助けて、たすけろ! そうだ、金か? 金が欲しいのか?」
尻餅を突いてみっともなく慌てふためく子供のオークが情けなく命乞いを始める。
生憎とオーク言語は履修してないのでなんと言ってるのか全然わからない。
「あの世で反省なさいまし!」
「ほんげぇええええええええ!!」
室内に雷が落ちた。
僕の周りから、室内に帯電していた雷が一斉に豚を丸焦げにする。しかし脂肪の多さに助けられたのか、中までこんがりとはいかなかった。やはり室内じゃ威力は抑えられてしまうか。
だったら何度でもやってやる。やった。
僕の前にはこんがり焼けたオーク肉が転がった。
しかし爵位の低い男爵家と言えど、明るみに出れば問題になる。
確かに誘拐されたとはいえ、殺しはご法度だ。過剰防衛もいい所だ。
取り巻きのごろつきはいつのまにか居なくなっていた。
闇魔法は対象の意識を誤魔化して傀儡にする禁呪の一つ。
因みに雷魔法は伝えはあるものの使い手がいなくなって久しい口伝奥義の一つに分類される。
ちなみに電気というのは身体を動かす命令する際に脳から微弱に発生させられるものである。
僕はこの生きててもなんの取り柄もない豚を蘇生させ、意識がないのを良いことに弄り倒した。
結果、
「なんだか生まれ変わった気分です」
綺麗な豚が誕生した。
今までしてきたことなんて忘れてしまったかの様な澄み切った瞳をしている。
とはいえだ、どう見繕っても豚は豚だ。
アリシアの前に出せば内面は変わったとしてもきっと恐れ慄くだろう。お姉ちゃんとしてそれは見過ごせない。
そこで取り出しまするはダイエットフレーバー。
ここまで成長したのはきっと食生活が悪かったのもあるけど、家庭環境も最悪だったのだろうと容易に想像できる。
「それはようございました。これ、よければ使ってくださいまし」
「これは?」
「今きっとお悩みであろう中性脂肪を消化してくれる魔法のお薬ですの」
「なんと! 本当にいいのかい?」
「はい。ですがわたくしと今日ここで出会った事はお忘れください」
「名前も教えてくれずに忘れろっていうの?」
「それがわたくし達にとっての幸せなのでございますわ」
綺麗な豚は濁りひとつない瞳で僕の後ろ姿を見送った。
だが途中で言葉をかけてくる。
「僕はセリオ、セリオ・リーデフィル。この名前を覚えておいてください。今はまだ何も成し遂げてないけど、きっといつか大物になって、今日の御恩をお返ししたいとおもいます!」
「名前だけ覚えておきます」
片手だけ上げて答え、そして雷と共に屋敷に帰った。
魔法陣がなくてもこんな芸当ができてしまうのが雷魔法の利点である。取り敢えず多方面に波風立たず処理出来たのでよしとしよう。妹に手を出す奴は取っちめてやる!
そんな風にはやる僕だった。
◇
その日から二年後。
セリオ・リーデフィルは過酷なダイエットを乗り越え、白豚だった当時を思わせないすっきりとした顔立ちの少年へと変貌していた。あの日トールから賜った魔法のフレーバーで大好きな脂っこい料理を食べても太らなくなったのだ。
そして今まで自分を無能と蔑んでいた人物達も、一心に打ち込むセリオの姿を見てその評価を払拭する。
持って生まれた魔法は闇属性の使役系。決して貴族として誇れるものはない。けれど考え方一つなのだ。
リーデフィル男爵家の領地は作物の育ちにくい荒れ果てた大地が延々と続く荒野地帯。唯一近隣に鉱脈があり、そこから出土する鉄鉱石が資源の一つになっていた。
セリオはその作業内容にメスを入れた。
唯一の資源だからこそ、炭鉱夫達を厚遇した。
そして休息の制度も取り、給料の値上げと税の免除を実施し炭鉱夫達のやる気を引き起こした。
今や領内でセリオの名を知らない領民は居ない。
確かにマジックキャスターとしての資質は低いが、領主として同年代よりも何歩も前を歩く姿に社交界でも注目の的になっていた。
そんなセリオもお年頃。
婚約者の一人はできていてもおかしくない実績を積んでいる。
しかし彼の脳内では二年前の出会いが忘れられず、いまだに独り身を貫いていた。
「名も知らぬ貴方は、同じ空を見ているのでしょうか?」
物憂げな瞳とこぼれそうな唇からはため息と共に熱のこもった感情が吐き出され、空気の溶けて掻き消えた。
思春期の男の子に多大なる勘違いをさせたトールはその頃、リビアの街角で美味しそうにメンチカツを頬張っていたことなどセリオは知る良しもなかった。もし知ったとしても、彼の中で美化されまくってきっと補完されるであろう事は語るまでもないが。
0
お読みいただきありがとうございます。基本的にはほのぼのな作品を描いていきたいです。
お気に入りに追加
1,593
あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?
サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。
*この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。
**週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**
廃妃の再婚
束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの
父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。
ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。
それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。
身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。
あの時助けた青年は、国王になっていたのである。
「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは
結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。
帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。
カトルはイルサナを寵愛しはじめる。
王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。
ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。
引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。
ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。
だがユリシアスは何かを隠しているようだ。
それはカトルの抱える、真実だった──。
【完結】追放された生活錬金術師は好きなようにブランド運営します!
加藤伊織
ファンタジー
(全151話予定)世界からは魔法が消えていっており、錬金術師も賢者の石や金を作ることは不可能になっている。そんな中で、生活に必要な細々とした物を作る生活錬金術は「小さな錬金術」と呼ばれていた。
カモミールは師であるロクサーヌから勧められて「小さな錬金術」の道を歩み、ロクサーヌと共に化粧品のブランドを立ち上げて成功していた。しかし、ロクサーヌの突然の死により、その息子で兄弟子であるガストンから住み込んで働いていた家を追い出される。
落ち込みはしたが幼馴染みのヴァージルや友人のタマラに励まされ、独立して工房を持つことにしたカモミールだったが、師と共に運営してきたブランドは名義がガストンに引き継がれており、全て一から出直しという状況に。
そんな中、格安で見つけた恐ろしく古い工房を買い取ることができ、カモミールはその工房で新たなスタートを切ることにした。
器具付き・格安・ただし狭くてボロい……そんな訳あり物件だったが、更におまけが付いていた。据えられた錬金釜が1000年の時を経て精霊となり、人の姿を取ってカモミールの前に現れたのだ。
失われた栄光の過去を懐かしみ、賢者の石やホムンクルスの作成に挑ませようとする錬金釜の精霊・テオ。それに対して全く興味が無い日常指向のカモミール。
過保護な幼馴染みも隣に引っ越してきて、予想外に騒がしい日常が彼女を待っていた。
これは、ポーションも作れないし冒険もしない、ささやかな錬金術師の物語である。
彼女は化粧品や石けんを作り、「ささやかな小市民」でいたつもりなのだが、品質の良い化粧品を作る彼女を周囲が放っておく訳はなく――。
毎日15:10に1話ずつ更新です。
この作品は小説家になろう様・カクヨム様・ノベルアッププラス様にも掲載しています。
【完結】過保護な竜王による未来の魔王の育て方
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
魔族の幼子ルンは、突然両親と引き離されてしまった。掴まった先で暴行され、殺されかけたところを救われる。圧倒的な強さを持つが、見た目の恐ろしい竜王は保護した子の両親を探す。その先にある不幸な現実を受け入れ、幼子は竜王の養子となった。が、子育て経験のない竜王は混乱しまくり。日常が騒動続きで、配下を含めて大騒ぎが始まる。幼子は魔族としか分からなかったが、実は将来の魔王で?!
異種族同士の親子が紡ぐ絆の物語――ハッピーエンド確定。
#日常系、ほのぼの、ハッピーエンド
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/08/13……完結
2024/07/02……エブリスタ、ファンタジー1位
2024/07/02……アルファポリス、女性向けHOT 63位
2024/07/01……連載開始

悪役令嬢カテリーナでございます。
くみたろう
恋愛
………………まあ、私、悪役令嬢だわ……
気付いたのはワインを頭からかけられた時だった。
どうやら私、ゲームの中の悪役令嬢に生まれ変わったらしい。
40歳未婚の喪女だった私は今や立派な公爵令嬢。ただ、痩せすぎて骨ばっている体がチャームポイントなだけ。
ぶつかるだけでアタックをかます強靭な骨の持ち主、それが私。
40歳喪女を舐めてくれては困りますよ? 私は没落などしませんからね。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる