【完結】いいえ、違います商人です

双葉 鳴|◉〻◉)

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本編

25.ダイエットポーションを作った!

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「お母様、とうとうアレが完成しました」

僕は周囲の人が払ったのを確認しつつ、重々しく口を開いた。

「でかしたわ。それで実物は?」
「ここでは見せられないので寝室の方で」
「そうね。人目に晒して良いものではなかったわね」

僕はメリア母さんとこそこそしながら寝室に入り、テーブルに向かい合わせに座った。
取り出したのは一本のポーション瓶。僕ぐらいになると瓶を一から製造することなど造作もない。他のポーション瓶とは違い、一見してお洒落な香水の瓶にしか見えないそれをテーブルに置く。

「用途を聞きましょう?」
「そうですね。まずはここに出来合いのドーナツがありますのでそれで実験しましょう」
「トールちゃん、禁止したはずよ?」

メリア母さんの口元からよだれが垂れそうになっている。
黙ってれば美しい母さんも、ここ数日ですっかり食い意地が張って来たな。

「今日の実験のためにご用意したんです。断じてこっそり食べてなんていません」
「本当かしら?」

流石に嘘だとバレるか。
そもそもそれ以前に僕は両親に無断でアルバイトをし、そこで普通に高カロリーの食事をしてる。
今更ドーナツを2、3個追加したところで時すでに遅しなのだ。

「まずは紅茶をセットします。わざわざメイドさんを呼びつけるのもアレなので、今回は自動紅茶メーカーで作ってしまいましょう。多少お時間を頂きますが宜しいですか?」
「もう錬金術ってなんでもありね」
「お母様も興味があるのなら参加します?」
「他の領主様にうっかり口をこぼしそうになるからやめておくわ。それに働いてくれるメイドの仕事を奪いたくないもの」
「そうですね。ではこれは野外で紅茶を楽しみたい時用にとっておきます」
「そうして頂戴」

時間が経ち、蒸らしを終えた自動紅茶メーカーからランプが光って終了サインがピーとなる。
すぐ下にはデッドスペースがあり、ちょうどソーサーごとティーカップを差し込めるようになっている。
あとは横についてるハンドルを手前に引く事でポットが傾いて勝手に紅茶がカップに入る仕組みになっている。
自分の分を注ぎ終えるとメリア母さんがやりたそうな顔をしていた。

「やられますか?」
「ええ、お願いできる?」
「どうぞ。そうです、ソーサーごとここにカップを置いて固定します。そこで右についてるハンドルを軽く抑えてゆっくりと弾いてください。そうです、良い感じです。量はご自分で調整できます。それとハンドルを元の位置に戻せば保温されたままでいつでも美味しい紅茶が頂けます」
「凄いわ。わたくしでもできてしまうなんて。その、ハンドルだったかしら? 女性の力でも簡単に下ろせてしまうことにびっくりよ」
「そうでしょう。ですがそれはさておき実験と行きましょうか?」
「そうね」

緊張で息を飲み、ドーナツを一つ口に入れた。
ずっと我慢していたからだろう。メリア母さんの表情は綻び、たまらず上半身を揺らしていた。きっと足踏みをしていることだろう。

「ん~~~っ」

そんなにか、と思ってしまうがメリア母さんは特に甘味が好物で、しかし子供の前でそんな姿は見せられないとずっと節制していたのだ。
しかし僕の作ったドーナツメーカーで我慢という名のダムが決壊し、過剰に食べ過ぎてしまったという。
そのあとお気に入りのドレスが入らなくなったことにショックを受けて僕に依頼が来た。

まぁ気持ちはわかるよ。僕も店長のとこのチキンサンドとメンチカツサンド食えなくなったら発狂するし。そういう意味では同志だもんね?

「さてお母様、いよいよ実験に入ります。宜しいですか?」
「ええ、聞かせて頂戴」

先ほどまでの夢心地だった状態から帰ってきたメリア母さんは戦地に赴くような覚悟を決めた顔で向き直っていた。
キリリとした表情は美人な母に箔をつけるが、この人が今からするのはズルである。
太る食べ物を食べて、楽して痩せようという甘い考えを持っての表情だ。決して碌なもんじゃないので騙されてはいけない。

「まずはポーション瓶から紅茶に10滴ほど垂らします」
「垂らしたわ」
「それを熱いうちに飲んでください。そうですね、ドーナツを食べながら交互に飲むのが理想でしょう」
「確かにそうね。ドーナツは美味しいけど口の中が乾いてしまうもの」

メリア母さんは云々言いながら紅茶を飲んでこちらを見た。

「この茶葉、飲んだことないわ。どこの産地のもの?」

余程美味しかったのか、目をパチクリとさせていた。

「このリビアの街で仕入れたものですよ。今度どこで仕入れたか行商人に詳しく聞いてみますね」
「そうして頂戴。それにこのポーションの作用かしら? ドーナツを食べているというのにどんどんとお腹が空いてくるの」
「過信は禁物ですよ? 毎日食べるのはお引き留めしませんが、節度はわきまえてください」
「わかっているわ。ありがとう、トールちゃん」
「どういたしまして」

後日このポーションは紅茶に香りをつけるフレーバーとして主婦層の間でたちまち大ブレイクする事になるが、生産体制が整ってないので予約が1年待ちになった。

母さんも着れなくなったドレスの着れた嬉しさからつい口が軽くなったと反省の声を上げていたが、確かにこの人に魔道具の知識を与えちゃいけないなと思い知った僕だった。
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お読みいただきありがとうございます。基本的にはほのぼのな作品を描いていきたいです。
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