【完結】いいえ、違います商人です

双葉 鳴|◉〻◉)

文字の大きさ
上 下
24 / 46
本編

24.社交界デビューを過剰にサポートしよう!

しおりを挟む
この度妹の社交界デビューが決定した。
僕? 僕はほら、血が繋がってないから社交界にはいかないよ。
そういう約束だし。
だからといって10歳のお子ちゃまには荷が勝ちすぎる。

だから僕に依頼があった。依頼主はメリア母さん。
依頼内容はレオンハート家の珠玉の一品。錬金術の集大成で妹の身柄を守ってやれ。そんな内容だったとおもう(うろ覚え)。

そして僕が彼女に持たせたのは貴族の子供なら一度くらいは手にする魔法の杖である。
本格的な魔石の嵌め込まれたロッドとは違い、小さい杖は子供が練習用に扱うものだ。
逆にバカにされたら度肝を抜いてやれば良い。
何せこの杖は魔力の全くないアリシアのために使った半永久機関の魔法の杖だからだ。
事前にセットできる魔法術式は二つまで。
流石に三つ入れられなかったが、世の貴族は一種類しか扱えないのでこれでも破格だ。
そんな説明をしつつ、妹に完成した杖の取り扱いを説明した。

「最初はこうやって杖を左から右に回すんだ。これは僕ように作ってあるけど、魔力を流した術者にしか見えないメニューが見えるようになる。そこで魔法を選択して、決定する。今回はポピュラーに炎の矢フレイムアロー火炎槍フレイムランスを追尾型で実装した。魔法をセットしたら目標を定めて杖を勢いよくふれば後は勝手に発動する」
「あの、お姉様?」
「……なに?」
「わたくし耳がおかしくなってしまったのでしょうか?」
「どうして?」
「だって魔法の素質を持って生まれず、かつ魔力量の少ないわたくしが魔法を扱えると聞かされて驚かないはずがありません」

ふむ、言われてみればそうだ。
しかしこの程度で驚いていてはこの先錬金術でとても苦労するぞ。だから残酷だけど真実を教えてあげることにした。

「実はね、アリシア」
「はい」
「魔法は素質や魔力関係なしに放てるんだ」
「えっ?」

あ、固まった。
やっぱり知らなかったか。
魔道具にいまだに魔石使ってる時代にこんなこと言われたって誰も信じないよな。

「……本当ですか?」
「残酷なことに真実だ。ちなみに僕の作った魔道具、どうやって動いてると思う?」
「確かにそれは不思議だと思ってました。てっきりお姉様の魔法かと」
「半分あたりで半分ハズレ」
「???」

アリシアはよくわからないという顔をする。

「僕の魔力はそんなに多くない。多かったら錬金術なんてやらずに家を追い出される必要もなかった」
「確かに。そこはおかしいと思っていたんです」
「けど魔道具の術式ひとつで魔法使いはこれから先無用になると判明した」
「お姉様……」
「なに?」
「それは他言無用でお願いします」

アリシアは必死に縋り付いた。
勿論、墓場まで持っていくつもりだ。
ただでさえ戦争の火種になりかねない案件。
それで踏ん反り返って来た貴族が伯爵家を潰そうとあの手この手を使ってくることが目に見える。

「勿論だよ。でも覚えておいて? 錬金術はそんなこともできてしまう、それをアリシアに僕は教えようとしている。その覚悟を今こうして教えている」
「わたくしも魔法が扱える?」
「よく似たものがね、素質なしで放てるようになる。努力せず、術式ひとつで今後なんでもできるようになる」
「到底信じられません」
「今は僕の言葉だけを耳にしていればいい。そして知ろうとすることは罪にならない。悪用したら流石に罪になるけどね?」
「はい、こんな恐ろしい力を悪用なんて、そんな」

今はそれでいい。恐ろしいものだと覚えてもらえれば教えた甲斐がある。危機感を持たずに作り出されたらたまったものではない。ただでさえ今後の社交界での生き方が決定されてしまうからだ。

「これはあくまで護身用だ。レオンハート家の令嬢として最低限覚えて置いて。屋敷にいる時は安全だけど、外に出たらどんな危険な目に会うかわからないんだ」
「そこまで考えてのことだったのですね?」
「もちろんだよ。僕をなんだと思ってるの?」

肩を竦めて呆れたように嘆息する。

最終的に攻撃魔法はファイヤアロー一つとし、もうひとつは緊急退避型の転送を設定した。
転送先は今は自室としているが、学園に通い始めたら寮に置いてもいいかなと考えた。
勿論アリシア以外の人物が触っても発動しない術式も添えておく。僕の大事な妹の身を第一に考えるのは姉である僕の務めである。



結局アリシアは両親に連れられてパーティーの挨拶回りには参加したものの、同年代の低次元な会話に付き合いきれなくて早退。
イヤリングに事前に仕込んでいた無線の魔道具でリード父さんと連絡を取って、後は自宅で僕と錬金術授業の続きをした。

「やっぱりお姉様は凄いです。憧れです」

よせやい、照れる。

「アリシアは本当に錬金術が好きだね?」
「だって自分の手で変化を起こせるのは面白いですし、それに……お姉様がいますから」

ちょっと最後の方はゴニョゴニョ言ってて聞こえなかった。
上目遣いでイジイジしだす妹に意地の悪い顔をしながら揶揄う。

「今なんて言ったの?」
「……なんでもありません! そんな事より次を教えてくださいまし!」

拳を握ってポカポカと叩いてくるアリシア。
全然痛くないけど顔を真っ赤にして怒っているアピールは逆に微笑ましく思うほどだ。

一年も経たずに毒の抗体を見つけ出して対処するアリシアは間違いなく錬金術の未来を変える逸材だ。
僕のこれはチートだからたいして誇れないんだよね。
でも彼女の素質は生粋だ。一体どこまで吸収していくのか今から楽しみで仕方がない。

そんな彼女に教える次のステップはいよいよ魔道具製作に取り掛かる。
今や成分の抽出と配合においては僕でも舌を巻くほどの腕前で、改めて目薬や疲労回復薬を教えるのもバカらしくなった。放っておけばそのうち自力で覚えてしまうだろうと至り、少し早いけど魔道具製作に移行する事にした。

流石に今までの跳躍と違い、覚えることが多くてアリシアは途中で音を上げそうになった。
けど、最初の授業で作った全自動ドーナツ製作機で作ったドーナツの美味しさに感動していたっけ。

そんな風に魔道具のあれこれと達成感を堪能してるうちにあっという間に時間は過ぎ去り、パーティー会場に置いて来たリード父さんとメリア母さんを乗せた馬車が屋敷の前に到着した知らせが部屋に届いた。
二人して出迎えに行き、途中でいなくなったアリシアの姿を見て改めて感嘆するように伯爵様は大きく頷いた。

「〝転送〟だっけ? すごいね。あの距離をひとっ飛びなんて」
「お父様にもお付けしましょうか?」
「私や妻には人の目がある。デビュタントをしたばかりの娘ならいざ知らず、私には不要だよ。パーティーが終わるまで在籍してるのも貴族の務めだからね」

クソ真面目なのか、別の理由があるのかやんわりと拒否をされた。もしかしたら僕に気を使ってくれたのかもしれない。

「あら、美味しそうな物を食べているわね。パーティー会場にあったかしら?」

メリア母さんが僕たちのドーナツをロックオンした。
更にはちょうど二つ乗っており、僕が手を伸ばすより先に動いた妹は皿ごと両親に差し出した。

「これ、お姉様と錬金術で作ったものです。よければお一つ如何ですか?」
「本当? 錬金術でこんなことができるのね。うん、美味しいわ」

メリア母さんは美味しそうにドーナツを咀嚼する。
やはり女は甘いものが好きだよな。
僕も女になってから甘いものに目がない。
しかしリード父さんには少し不評だった。

「少し甘すぎるんじゃないか? 私はもう少し周囲のシュガーを払ってくれた方が好みだな」
「あら、この甘さが良いんじゃない」
「女性にちょうど良い菓子は父さん苦手だな。次作るときは少し甘さを控えてくれたら父さんも食べれるんだけど」
「まあ、旦那様ったら」

なんだかんだ文句を言いつつ食べる父に、僕は肩を竦める。
無理しなくても良いのに、やはり親心というのもあるのだろうか?
娘の作った料理なら無理して食べてくれそうな感じがする。
あったかい家族の姿がそこにあった。

しかし後日、ドーナツはメリア母さんから封印指定を受けることになる。
何故かって?
そりゃ甘くて脂っこいのは旨いけど太るから。
僕くらいの代謝の高い年齢なら良いが、メリア母さんくらいの年齢になると少し落とすのも相当な苦労を強いられるからだってさ。そこら辺は自業自得じゃんね?

僕は緊急依頼をされたダイエット薬の研究に着手せざるを得なかった。
しおりを挟む
お読みいただきありがとうございます。基本的にはほのぼのな作品を描いていきたいです。
感想 43

あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

愚かな者たちは国を滅ぼす【完結】

春の小径
ファンタジー
婚約破棄から始まる国の崩壊 『知らなかったから許される』なんて思わないでください。 それ自体、罪ですよ。 ⭐︎他社でも公開します

巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?

サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。 *この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。 **週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**

廃妃の再婚

束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの 父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。 ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。 それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。 身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。 あの時助けた青年は、国王になっていたのである。 「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは 結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。 帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。 カトルはイルサナを寵愛しはじめる。 王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。 ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。 引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。 ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。 だがユリシアスは何かを隠しているようだ。 それはカトルの抱える、真実だった──。

【完結】追放された生活錬金術師は好きなようにブランド運営します!

加藤伊織
ファンタジー
(全151話予定)世界からは魔法が消えていっており、錬金術師も賢者の石や金を作ることは不可能になっている。そんな中で、生活に必要な細々とした物を作る生活錬金術は「小さな錬金術」と呼ばれていた。 カモミールは師であるロクサーヌから勧められて「小さな錬金術」の道を歩み、ロクサーヌと共に化粧品のブランドを立ち上げて成功していた。しかし、ロクサーヌの突然の死により、その息子で兄弟子であるガストンから住み込んで働いていた家を追い出される。 落ち込みはしたが幼馴染みのヴァージルや友人のタマラに励まされ、独立して工房を持つことにしたカモミールだったが、師と共に運営してきたブランドは名義がガストンに引き継がれており、全て一から出直しという状況に。 そんな中、格安で見つけた恐ろしく古い工房を買い取ることができ、カモミールはその工房で新たなスタートを切ることにした。 器具付き・格安・ただし狭くてボロい……そんな訳あり物件だったが、更におまけが付いていた。据えられた錬金釜が1000年の時を経て精霊となり、人の姿を取ってカモミールの前に現れたのだ。 失われた栄光の過去を懐かしみ、賢者の石やホムンクルスの作成に挑ませようとする錬金釜の精霊・テオ。それに対して全く興味が無い日常指向のカモミール。 過保護な幼馴染みも隣に引っ越してきて、予想外に騒がしい日常が彼女を待っていた。 これは、ポーションも作れないし冒険もしない、ささやかな錬金術師の物語である。 彼女は化粧品や石けんを作り、「ささやかな小市民」でいたつもりなのだが、品質の良い化粧品を作る彼女を周囲が放っておく訳はなく――。 毎日15:10に1話ずつ更新です。 この作品は小説家になろう様・カクヨム様・ノベルアッププラス様にも掲載しています。

悪役令嬢カテリーナでございます。

くみたろう
恋愛
………………まあ、私、悪役令嬢だわ…… 気付いたのはワインを頭からかけられた時だった。 どうやら私、ゲームの中の悪役令嬢に生まれ変わったらしい。 40歳未婚の喪女だった私は今や立派な公爵令嬢。ただ、痩せすぎて骨ばっている体がチャームポイントなだけ。 ぶつかるだけでアタックをかます強靭な骨の持ち主、それが私。 40歳喪女を舐めてくれては困りますよ? 私は没落などしませんからね。

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

処理中です...