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本編
19.sideリード・レオンハルト伯爵
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弟からの情報をまとめて読み上げ、そばに控えていた妻に声をかける。
「やはり彼女は逸材だったようだ。君のお眼鏡に叶うだけある」
「嫌ですわ旦那様。わたくしは普通に愛でているだけでしてよ?」
あくまでも政治の場ではなく大人と子供の目線で見ていたと妻は言いたいのだろう。
しかしそんな関係はとうに過ぎていた。
「彼女の持ってきた保水パックの効果で君の肌年齢はどこまで上がった?」
「それをわたくしの口から言わせるのですか?」
「ああ、いや。撤回しよう。私が君に見惚れてた回数は確かに上がったよ。君だけじゃなくメイド達も同様に」
「彼女たちも皆喜んでおりますよ。服装で差をつけられないものですから、どうしてもお肌の乾燥が気になるもの。それに他領からの視察隊も伯爵家の女性のレベルは高いと痛く気に入っておりました」
「そんな話初めて聞いたよ?」
「旦那様がやっかむと思ってお話ししませんでしたの」
「確かに言わないでくれて正解だ。今はまだ事を荒げたくない。トール嬢の案件は内密に済ませたい。それで、アリシアとの接触は上手くいきそうか?」
妻は一瞬だけ黙り込んで口をひらいた。
こんな時はこちらに何かしら言いたい事を喉まで出しかけて止めた時か。
「あの子の方がトールちゃんに懐いていますからね。大層錬金術に興味を示しておりますよ。わたくしが教えた時とは大違い。あの子になんて言って唆したのです?」
妻の言葉がやけに重い。それが叶わぬ夢だと本人が一番理解しているか。
それとも、まだ自分が錬金術の腕だけでもらわれたと思っているのか。
どちらかは定かではないが、今はその事よりもあの子の将来のことだ。
「そうか。それが上手くいけばどこぞの貴族に嫁にやらなくとも済むな」
「本気でそれをお望みですか?」
妻の表情が怒りで染まる。
おお怖い。社交界で渡り歩く術は見つけたが、こうして愛する者から向けられる視線はいまだに身震いしてしまう。
政敵にならなんとも思わないのにな。
本当、一目惚れとは厄介だ。
「本気ではないさ。だが、魔力の低い貴族が学園や社交の場でどんな目に合うかを私はよく知っているつもりだ」
「でしたら……」
最終的にはアリシアの意志を汲むつもりだが、無能と学園で蔑まれ続けるよりもずっと良い。
「不服かね?」
「了承しかねます。錬金術で成功したとしても、貴族として認められるのは最低限ですわ」
「君ほどの腕でもか?」
最下級ポーションといえどもAランクをミスせず作れる錬金術でも保証は最低限だと訴える妻。
彼女は首を縦に振って肯定する。
「マジックキャスターとしてのランクが貴族内でのステータスなのはご存知でしょう、〝フレイムサークル〟のリード様?」
「その名を聞くのは久しいな。レオンハート家で唯一攻撃魔法を取得した私だが、得意なのは人心掌握でね? 戦いは戦場に出る前から始まっている。それで勝ち星を拾ってきた。だからこそ私は思うんだ。魔力の高さと継承した魔法はそんなに大事か?、と」
「くれぐれも社交界ではうっかり口を滑らせないでくださいよ?」
「当たり前だ。私を誰だと思っている?」
「余計な口を挟みました」
「良い。私も君を煽り過ぎた。少し夜風に当たろう」
妻を部屋に残し、一人ラウンジへ。
夜風は身を切るように寒かったが、お陰ですっかりと目が覚めた気分だった。
「トール嬢、君は一体何者なんだ?」
思わず唇から言葉が漏れる。
彼女は私と縁を繋げてチャンスといった。
だが逆に利用させて頂いたのはこちらの方だ。
日常用の疲労回復ポーションを飲んでからメイド達のやる気が上がり、他領からの評価はうなぎ登り。
そして目薬の効果で私の執務も普段の半分の時間で終わった。
極め付けに保水パックで妻と久しぶりに肌を合わせた。
妻がアレほどに生き生きとして年齢を感じさせない若々しさを感じさせたのは出会った学生の頃以来だ。
近いうちにアリシアに弟か妹が出来るだろう。
伯爵領は君のおかげで大きく羽ばたこうとしている。
もし君が望むなら、どんなことでもしてあげたいが、君はきっとそれを望まないのだろうな。
「旦那様、今日は一段と冷え込みます。肌を冷やしてしまってはお体に触りますわ」
「ああ、今行くよ」
妻からの言葉といつも以上に激しいボディタッチに少しだけ苦笑しながら私は妻と共に寝室に入った。今日もまた、熱い逢瀬が交わされることだろう。
本当、トール嬢には頭が上がらなくなってしまうな。
「夜伽の時くらいはわたくしの事だけを考えてくださいまし」
「ごめんごめん。もう君のことしか見えてないよ、リネア」
「嬉しいですわ、旦那様」
その日の妻はいつも以上に私を求めてきた。
「やはり彼女は逸材だったようだ。君のお眼鏡に叶うだけある」
「嫌ですわ旦那様。わたくしは普通に愛でているだけでしてよ?」
あくまでも政治の場ではなく大人と子供の目線で見ていたと妻は言いたいのだろう。
しかしそんな関係はとうに過ぎていた。
「彼女の持ってきた保水パックの効果で君の肌年齢はどこまで上がった?」
「それをわたくしの口から言わせるのですか?」
「ああ、いや。撤回しよう。私が君に見惚れてた回数は確かに上がったよ。君だけじゃなくメイド達も同様に」
「彼女たちも皆喜んでおりますよ。服装で差をつけられないものですから、どうしてもお肌の乾燥が気になるもの。それに他領からの視察隊も伯爵家の女性のレベルは高いと痛く気に入っておりました」
「そんな話初めて聞いたよ?」
「旦那様がやっかむと思ってお話ししませんでしたの」
「確かに言わないでくれて正解だ。今はまだ事を荒げたくない。トール嬢の案件は内密に済ませたい。それで、アリシアとの接触は上手くいきそうか?」
妻は一瞬だけ黙り込んで口をひらいた。
こんな時はこちらに何かしら言いたい事を喉まで出しかけて止めた時か。
「あの子の方がトールちゃんに懐いていますからね。大層錬金術に興味を示しておりますよ。わたくしが教えた時とは大違い。あの子になんて言って唆したのです?」
妻の言葉がやけに重い。それが叶わぬ夢だと本人が一番理解しているか。
それとも、まだ自分が錬金術の腕だけでもらわれたと思っているのか。
どちらかは定かではないが、今はその事よりもあの子の将来のことだ。
「そうか。それが上手くいけばどこぞの貴族に嫁にやらなくとも済むな」
「本気でそれをお望みですか?」
妻の表情が怒りで染まる。
おお怖い。社交界で渡り歩く術は見つけたが、こうして愛する者から向けられる視線はいまだに身震いしてしまう。
政敵にならなんとも思わないのにな。
本当、一目惚れとは厄介だ。
「本気ではないさ。だが、魔力の低い貴族が学園や社交の場でどんな目に合うかを私はよく知っているつもりだ」
「でしたら……」
最終的にはアリシアの意志を汲むつもりだが、無能と学園で蔑まれ続けるよりもずっと良い。
「不服かね?」
「了承しかねます。錬金術で成功したとしても、貴族として認められるのは最低限ですわ」
「君ほどの腕でもか?」
最下級ポーションといえどもAランクをミスせず作れる錬金術でも保証は最低限だと訴える妻。
彼女は首を縦に振って肯定する。
「マジックキャスターとしてのランクが貴族内でのステータスなのはご存知でしょう、〝フレイムサークル〟のリード様?」
「その名を聞くのは久しいな。レオンハート家で唯一攻撃魔法を取得した私だが、得意なのは人心掌握でね? 戦いは戦場に出る前から始まっている。それで勝ち星を拾ってきた。だからこそ私は思うんだ。魔力の高さと継承した魔法はそんなに大事か?、と」
「くれぐれも社交界ではうっかり口を滑らせないでくださいよ?」
「当たり前だ。私を誰だと思っている?」
「余計な口を挟みました」
「良い。私も君を煽り過ぎた。少し夜風に当たろう」
妻を部屋に残し、一人ラウンジへ。
夜風は身を切るように寒かったが、お陰ですっかりと目が覚めた気分だった。
「トール嬢、君は一体何者なんだ?」
思わず唇から言葉が漏れる。
彼女は私と縁を繋げてチャンスといった。
だが逆に利用させて頂いたのはこちらの方だ。
日常用の疲労回復ポーションを飲んでからメイド達のやる気が上がり、他領からの評価はうなぎ登り。
そして目薬の効果で私の執務も普段の半分の時間で終わった。
極め付けに保水パックで妻と久しぶりに肌を合わせた。
妻がアレほどに生き生きとして年齢を感じさせない若々しさを感じさせたのは出会った学生の頃以来だ。
近いうちにアリシアに弟か妹が出来るだろう。
伯爵領は君のおかげで大きく羽ばたこうとしている。
もし君が望むなら、どんなことでもしてあげたいが、君はきっとそれを望まないのだろうな。
「旦那様、今日は一段と冷え込みます。肌を冷やしてしまってはお体に触りますわ」
「ああ、今行くよ」
妻からの言葉といつも以上に激しいボディタッチに少しだけ苦笑しながら私は妻と共に寝室に入った。今日もまた、熱い逢瀬が交わされることだろう。
本当、トール嬢には頭が上がらなくなってしまうな。
「夜伽の時くらいはわたくしの事だけを考えてくださいまし」
「ごめんごめん。もう君のことしか見えてないよ、リネア」
「嬉しいですわ、旦那様」
その日の妻はいつも以上に私を求めてきた。
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お読みいただきありがとうございます。基本的にはほのぼのな作品を描いていきたいです。
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