【完結】いいえ、違います商人です

双葉 鳴|◉〻◉)

文字の大きさ
上 下
11 / 46
本編

11.アリシアの可能性

しおりを挟む
「えーと、本気? 僕の錬金術は結構特殊というか、覚えようと思って覚えられるものじゃないというか」
「そんな、ダメ、ですか?」
「ダメっていうか……」

はっきり言って不可能に近いと思う。
僕の魔法の才能は王国の宮廷魔導師を越えている。
けれどこの子にはそんなこと関係なくて、憧れだけで懇願してきている。
そう言えばリード様も言っていたな。
同年代の友達が居なくて寂しい思いをさせていると。
じゃあ別に教えて物にしなくても良いのか。
そんな事を思いながら了承する。

「取り敢えず教えることは引き受けるよ。あとはアリシアの努力次第。それで良いかな?」
「はい!」

元気よく返事された。家出を決行する子だからどんなお転婆な子かと思ったら素直な良い子じゃない。だからリード様もそこまで心配してなかったのかな? 取り敢えず僕はこの子の錬金術の教師として頑張ろうか。

そのあとは普通にポーションの知識を学んだ。
急にポーション作成をやったってどんな風になれば成功か分からない。だから僕が一つ一つポイントを教え、彼女にはそれをみてメモを取ってもらった。
形式的には特殊でも、魔道具を扱う錬金術とそう変わらない。
僕のはちょっとズルしてるけど、新しいものを覚えようとするアリシアは賢明だった。

少ししてメイドさんから夕食に誘われる。
アリシアの懐き具合から今日もお泊まりコースかな?
年上として振る舞いたいところだが、メイドさんの前で同じように処理された。うん、まあ楽で良いんだけどさ。

寝室は別に用意してくれたけど、アリシアが一緒に寝たいというので仕方なくご一緒した。やっぱり兄弟が居ないと寂しいよな。
僕の家は多すぎて常に険悪なムードだったけど、兄弟が居たから乗り越えられた辛さもあったなと思い出す。
姉や兄、弟、妹たちは今頃何をしているだろうか?

アリシアの寝顔が幼い妹に重なった。


「トール様、起きてくださいまし」
「ん、んぅ……おはようアリシア」
「おはよう御座います」

朝も早くから彼女はニコニコである。
僕は少しだけ魔力の使いすぎで体調が悪い。のんびりしてれば治るんだけど、連続で錬金術を使っていたからな。
僕があまり商売を広げたくない理由はこれが原因だ。
あのズルい錬金術は割と魔力を馬鹿食いする。
魔法陣の同時展開でお察しだろう。
音が立たずに床も汚れず匂いもつかない良いことづくめな反面、上位の攻性魔法10発相当の消費量を誇る。
僕だから調子悪い程度で済むが、ちょっと魔法が使えるマジックキャスターだったら今頃魔力欠乏症で死の淵を彷徨っていることだろう。

「実はあのあと見様見真似でお母様からお借りした魔道具でポーションを作ってみたんです。それでトール様のお知恵をお借りしたく……」

目蓋を擦る僕を引っ張るようにして部屋の一角に誘うアリシア。
あの後ってもしかして夜起き出して行動したのだろうか?
やる気が十分なのは微笑ましいけど、夜更かしは美容の敵だよ?

「うん、一応見るけどアリシアが途中で倒れたらご両親も僕も心配するから無理はしないでね?」
「あぅ、ごめんなさい」

ちょっと凹んでしまったかな。
あまり怒られ慣れてないのだろう、僕と違ってこの子は見た目通りの年齢だから配慮しないと。

「怒ってないよ。謝らなくて良い。けどね、しっかり寝ないとアリシアの可愛さが損なわれてしまう。それは世界の損失だ」
「あの、可愛いだなんて。トール様の方がわたくしよりも……」

もじもじしだす彼女の唇に人差し指を置く。
そこから先は言わないでくれる?
男に持ち上げられるのも年上から愛でられるのも慣れたけど、年下から言われるのはまだ気恥ずかしいんだ。

「ありがとう。でも僕はアリシアほど純真ではないから。内面の美しさでは負けちゃうよ」
「トール様……」

アリシアは惚けたように顔を赤くして俯いてしまった。
おかしいな。
僕の男を誘惑する呪いは年下の女の子にも発動してしまうのか?
それともあまり勘違いさせる言葉は今後しない方がいいかな?

「それじゃあ早速見せてもらおうかな」
「はい、こちらです!」

アリシアの差し出した皿の上には昨日教えた工程が一つ一つ結果として残されていた。
それを指にとって舐める。傍らではアリシアが鼓動を早くしていた。

「驚いた。たった一回教えただけでここまでできちゃうんだ?」

それは僕からみてもとんでもない成長速度だった。
飲み込みの速さで言えば僕以上かもしれない。
ただいまの状態では最下級ポーションは愚か、目薬にも至れない。

僕が驚いているのは全く別のこと。

それは味の変化にある。
ポーションというのは草を煎じた物なので、基本的には草の苦味とえぐみや土臭さが残ってしまうのだ。しかしアリシアの煎じた薬液はほのかな甘さを出していた。これは口で教えても本人が気づかないといつまで経っても抜け出せないトラップのような物だった。

頼み込まれた時は、厄介な話が転がり込んできたと思ったけど、案外広いものかもしれない。本格的に育ててやろうという気持ちが胸中に渦巻いていた。

しおりを挟む
お読みいただきありがとうございます。基本的にはほのぼのな作品を描いていきたいです。
感想 43

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

廃妃の再婚

束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの 父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。 ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。 それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。 身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。 あの時助けた青年は、国王になっていたのである。 「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは 結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。 帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。 カトルはイルサナを寵愛しはじめる。 王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。 ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。 引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。 ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。 だがユリシアスは何かを隠しているようだ。 それはカトルの抱える、真実だった──。

傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。

石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。 そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。 新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。 初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、別サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

愚かな者たちは国を滅ぼす【完結】

春の小径
ファンタジー
婚約破棄から始まる国の崩壊 『知らなかったから許される』なんて思わないでください。 それ自体、罪ですよ。 ⭐︎他社でも公開します

処理中です...