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本編
7.難儀かな、見た目が見せる弊害①
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さて全ては順風満帆。宿には貸が出来たし、衣食住は整いつつある。
ポーションはあくまでも布石。錬金術はポーションだけ作っていれば良いだけではないのだ。
逆にポーション系を押しすぎるとこの領以外の貴族から目をつけられる可能性がある。そこで目をつけたのがスキンケアだ。
同業の錬金術師でこれに着手してる貴族はいない。貴族の子飼いで利益を得ているものはいるが、僕にはあずかり知らぬことだ。
けれどそれを貴族に売りつけることはないだろう。
僕はこの商品を平民に売りつけるつもりでいる。あまり伯爵様に恩を与えすぎても身を滅ぼすことになりそうだと思ったからだ。
「保水パックぅ? そんなもんに金をかける平民なんていないよ」
だが僕の謀は宿の女将さんにバッサリ切り捨てられた。
「僕が言うのもなんですが、女性はいつまでも綺麗でいたいと思うものです」
「確かに嬢ちゃんくらい若い子に言われるのは嫌味だね」
「え、ええ。でも服で着飾らずとも、顔だけを若々しく見せることでお客さんの食いつきも良くなるんじゃないかと思いまして」
「ふぅん、言葉を聞く分にはご立派だけどね。どれ、一つ寄越しな」
「試供品はまだ……」
「あんたね、あたしをなんだと思ってんだい。ちゃんと買うよ。いくらだい?」
女将さんは僕を呆れた様にみながら値段を聞いて来た。
すみません、貰えるものはなんでも貰う人だと思ってました。
「えと、銅貨10枚です」
「安いね」
「毎日洗顔後に使うものですし、効果が出るのは時間がかかりますから」
「まぁ呪いみたいなものさね。それで使用法は?」
「これは洗顔した後に顔を覆うオイルです。洗顔後に手にこれくらいの量を取って、おでこ、鼻筋、頬にある程度つけてから満遍なく広げるぐらいです」
「へぇ、オイルと言うからもっと脂っこいのかと思ったが、随分とみずみずしいね。それで、塗ったあとはどうすれば良いんだい?」
「それは顔の皮膚を保護するものなので、そのままで。ですがお風呂に入ると剥がれてしまうので朝の洗顔時に毎日適度に塗りつけてください」
「面倒だね」
確かに手間だ。でもこの程度でも全然優しい方。
本来のスキンケアを実装しないのは、単純にこの世界の人間にゆとりがそれほどないからだ。
でも現実問題、女将さんは鏡を見る度にため息をついている。実家の母も言っていたが、小皺があるだけで気分が滅入ると落ち込んでいたっけ。
僕も将来そんなことになるのか甚だ疑問だが、今のうちから用意していても良いはずだ。僕の商品はあくまでも痒い所に手が届く商品。あんまり持て囃されるのは柄じゃない。
「ええ、ですが女性にとっては小皺一つとっても親の仇の様に憎たらしいものでしょう?」
「あんたくらいの子に言われるのは癪だけどね。効果を感じたらまたクチコミすれば良いんだろう?」
「はい。流石に僕が売り子じゃ嫌味すぎますし、使った本人じゃないとわからないこともありますので」
「まかしときな。そう言うのは得意だよ。あとあたしはメリンダだ。いつまでも女将さん呼びは勘弁してくれないか、嬢ちゃん」
「じゃあ僕のことも嬢ちゃんと呼ばずにトールと呼んでくださいよ」
「だってねぇ……」
宿の女将さん、メリンダさんは僕の頭の先から足元までまじまじみて、快活に笑う。
「嬢ちゃんはどこから見たって嬢ちゃんだろう?」
「僕はこう見えて17歳です! 成人です!」
「それもお決まりの嘘かい?」
「本当だって~の! 信じてよ!」
結局メリンダさんが僕の事を名前で呼んでくれたのは、保水パックの効果が現れ始めた2週間後の事だった。
ただ名前の最後に嬢ちゃんがつくのは変わらずで、しかし一歩前進した事を良かったと思うことにする。
ポーションはあくまでも布石。錬金術はポーションだけ作っていれば良いだけではないのだ。
逆にポーション系を押しすぎるとこの領以外の貴族から目をつけられる可能性がある。そこで目をつけたのがスキンケアだ。
同業の錬金術師でこれに着手してる貴族はいない。貴族の子飼いで利益を得ているものはいるが、僕にはあずかり知らぬことだ。
けれどそれを貴族に売りつけることはないだろう。
僕はこの商品を平民に売りつけるつもりでいる。あまり伯爵様に恩を与えすぎても身を滅ぼすことになりそうだと思ったからだ。
「保水パックぅ? そんなもんに金をかける平民なんていないよ」
だが僕の謀は宿の女将さんにバッサリ切り捨てられた。
「僕が言うのもなんですが、女性はいつまでも綺麗でいたいと思うものです」
「確かに嬢ちゃんくらい若い子に言われるのは嫌味だね」
「え、ええ。でも服で着飾らずとも、顔だけを若々しく見せることでお客さんの食いつきも良くなるんじゃないかと思いまして」
「ふぅん、言葉を聞く分にはご立派だけどね。どれ、一つ寄越しな」
「試供品はまだ……」
「あんたね、あたしをなんだと思ってんだい。ちゃんと買うよ。いくらだい?」
女将さんは僕を呆れた様にみながら値段を聞いて来た。
すみません、貰えるものはなんでも貰う人だと思ってました。
「えと、銅貨10枚です」
「安いね」
「毎日洗顔後に使うものですし、効果が出るのは時間がかかりますから」
「まぁ呪いみたいなものさね。それで使用法は?」
「これは洗顔した後に顔を覆うオイルです。洗顔後に手にこれくらいの量を取って、おでこ、鼻筋、頬にある程度つけてから満遍なく広げるぐらいです」
「へぇ、オイルと言うからもっと脂っこいのかと思ったが、随分とみずみずしいね。それで、塗ったあとはどうすれば良いんだい?」
「それは顔の皮膚を保護するものなので、そのままで。ですがお風呂に入ると剥がれてしまうので朝の洗顔時に毎日適度に塗りつけてください」
「面倒だね」
確かに手間だ。でもこの程度でも全然優しい方。
本来のスキンケアを実装しないのは、単純にこの世界の人間にゆとりがそれほどないからだ。
でも現実問題、女将さんは鏡を見る度にため息をついている。実家の母も言っていたが、小皺があるだけで気分が滅入ると落ち込んでいたっけ。
僕も将来そんなことになるのか甚だ疑問だが、今のうちから用意していても良いはずだ。僕の商品はあくまでも痒い所に手が届く商品。あんまり持て囃されるのは柄じゃない。
「ええ、ですが女性にとっては小皺一つとっても親の仇の様に憎たらしいものでしょう?」
「あんたくらいの子に言われるのは癪だけどね。効果を感じたらまたクチコミすれば良いんだろう?」
「はい。流石に僕が売り子じゃ嫌味すぎますし、使った本人じゃないとわからないこともありますので」
「まかしときな。そう言うのは得意だよ。あとあたしはメリンダだ。いつまでも女将さん呼びは勘弁してくれないか、嬢ちゃん」
「じゃあ僕のことも嬢ちゃんと呼ばずにトールと呼んでくださいよ」
「だってねぇ……」
宿の女将さん、メリンダさんは僕の頭の先から足元までまじまじみて、快活に笑う。
「嬢ちゃんはどこから見たって嬢ちゃんだろう?」
「僕はこう見えて17歳です! 成人です!」
「それもお決まりの嘘かい?」
「本当だって~の! 信じてよ!」
結局メリンダさんが僕の事を名前で呼んでくれたのは、保水パックの効果が現れ始めた2週間後の事だった。
ただ名前の最後に嬢ちゃんがつくのは変わらずで、しかし一歩前進した事を良かったと思うことにする。
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