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本編
5.宿屋との提携
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トントン拍子に話が進み、僕たちはようやく伯爵様から解放された。
女将さんは僕に対して少しよそよそしい。
それと言うのも今の僕の姿が貴族令嬢が着るようなドレス姿と言うのもあるのだろうけど。
「しかしお嬢ちゃんがお貴族様だったとはね」
「いや、平民だよ?」
「今は、だろ? 貴族のルールにはとんと疎いあたしだけどね、こんな風に着飾られたら恐れ多くて話しかけ辛いよ」
「じゃなくて、僕は平民生まれなの! 貴族かどうかは向こうが勝手に勘違いしただけ!」
「ん? それじゃああんた、貴族様相手に騙ったのかい?」
「僕は一切嘘をついてないよ。生まれも育ちも平民だし、この髪と瞳の色はポーションで染めてるだけなの!」
「それを詐欺っていうんだよ嬢ちゃん。しっかし向こうは相当信用してたじゃないか。領主様をだまくらかそうする輩なんてここじゃそうそういないよ? あんな出来た人を騙そうなんてよっぽどの悪人だ」
女将さんは嘆息をつきながらこれからの事を考えていた。
僕としてはどこか落ち着いた場所で店をしたいと思っている。
そこで閑古鳥のなくこの宿屋に僕の構えるポーションショップを併設させてくれないかと提案してみた。
「もしそれで客が寄り付くってんならあたしは大助かりだけどね、あんたの方はそれで良いのかい? その腕輪を使えばもっとマシな土地を使えそうなもんだけど?」
女将さんの言い分はもっともだ。
けれど今の僕には販売ルートもなければ金もない。
それにこの宿のサービスも気に入っている。
これ以上の土地はないのだ。
「いいんですよ。逆に変に高級志向の趣だと家賃の方が心配だ。それにこの場所なら安くてお風呂もつくでしょう? 僕としてはここ以上の物件はないですよ。それに伯爵家ともパイプは繋いでおきましたし、家賃も払えると思います」
「確かにね。あたしの方はそれでいいよ。むしろありがたいくらいさ。それで、どんなものを売り出すんだい?」
「女将さんだったらどう言うのが欲しいですか? 僕はそれに合わせて錬金術で薬を作ります。材料はあらかたバザーにおいてそうだし、それでもコストがかからない奴が望ましいですね」
「うーん、あの伯爵様に上げたポーション、あれが少し薄くしてもいいから安価で買えたら嬉しいね。ここいら裏町は表通りほど賑やかじゃないが、あくせく働いてる人が多いからね。あたしも立ち仕事が多いから足腰を悪くしやすくてね」
なるほどと言いながら僕は女将さんの情報をメモしていく。
こういった情報はなんでもありがたい。
「ありがとうございます。当分は伯爵家との窓口としてやっていく予定ですけど、ついでに女将さんが受付をしてくれたら嬉しいですね」
「ああ、あの店でアルバイトするんだって? 聞いたよ。なんでも早速看板娘として馬鹿な男共を釣り上げてるそうじゃないか」
「それもあるんですが、顧客獲得のためにも顔は売っておきたいので」
「あんたほんとガメツイね。そのガメツさはお貴族様じゃなかなかみないよ」
「だから僕は平民だって言ってるじゃないですか」
「そうだったね。そんな格好をしてるからついお貴族様だと思っちまうんだよ。許しておくれ」
「許すも何もないですよ」
肩を竦めて言う僕に、女将さんは釣られて笑った。
もしも僕が貴族様だったら不敬罪で処罰されてたよ?
特に王国ではそう言うの横行してるから、帝国でよかったね。
「それじゃあ今日はこれだけお願いします」
商品一つ一つに効果と値段をつけて渡しておく。
瓶に名前は入ってないから、商品説明の書かれた紙を瓶の首にかけて置くのが僕流。
女将さんもいちいち説明しなくていいし、ご近所付き合いで口コミするだけでいいから気楽だと言っていた。
僕はその間アルバイトをこなし、安い賃金でタダ飯にありついていた。いいんだよ、こんなもので。
僕の体は安上がりな燃料で動くから。
しかし事態が大きく動いたのはそれから二日後。
そう、伯爵家の馬車が裏通りの寂れた宿屋の前に横付けされた日を境に変わった。
「やぁ、トール嬢。約束通り買い付けに来たよ」
そこには清々しい笑顔を浮かべた伯爵様が居た。
娘が行方不明の時に何をやってるんだ、この馬鹿親は!
それとも家出で既に位置を特定している余裕なのか「ああ、そのことね」と投げやりな態度を見せている。
それよりもだ、と言葉を切って僕に熱視線を投げていた。
気のせいか背筋に悪寒が走ったぞ?
僕、これからどうなっちゃうんだろう?
女将さんは僕に対して少しよそよそしい。
それと言うのも今の僕の姿が貴族令嬢が着るようなドレス姿と言うのもあるのだろうけど。
「しかしお嬢ちゃんがお貴族様だったとはね」
「いや、平民だよ?」
「今は、だろ? 貴族のルールにはとんと疎いあたしだけどね、こんな風に着飾られたら恐れ多くて話しかけ辛いよ」
「じゃなくて、僕は平民生まれなの! 貴族かどうかは向こうが勝手に勘違いしただけ!」
「ん? それじゃああんた、貴族様相手に騙ったのかい?」
「僕は一切嘘をついてないよ。生まれも育ちも平民だし、この髪と瞳の色はポーションで染めてるだけなの!」
「それを詐欺っていうんだよ嬢ちゃん。しっかし向こうは相当信用してたじゃないか。領主様をだまくらかそうする輩なんてここじゃそうそういないよ? あんな出来た人を騙そうなんてよっぽどの悪人だ」
女将さんは嘆息をつきながらこれからの事を考えていた。
僕としてはどこか落ち着いた場所で店をしたいと思っている。
そこで閑古鳥のなくこの宿屋に僕の構えるポーションショップを併設させてくれないかと提案してみた。
「もしそれで客が寄り付くってんならあたしは大助かりだけどね、あんたの方はそれで良いのかい? その腕輪を使えばもっとマシな土地を使えそうなもんだけど?」
女将さんの言い分はもっともだ。
けれど今の僕には販売ルートもなければ金もない。
それにこの宿のサービスも気に入っている。
これ以上の土地はないのだ。
「いいんですよ。逆に変に高級志向の趣だと家賃の方が心配だ。それにこの場所なら安くてお風呂もつくでしょう? 僕としてはここ以上の物件はないですよ。それに伯爵家ともパイプは繋いでおきましたし、家賃も払えると思います」
「確かにね。あたしの方はそれでいいよ。むしろありがたいくらいさ。それで、どんなものを売り出すんだい?」
「女将さんだったらどう言うのが欲しいですか? 僕はそれに合わせて錬金術で薬を作ります。材料はあらかたバザーにおいてそうだし、それでもコストがかからない奴が望ましいですね」
「うーん、あの伯爵様に上げたポーション、あれが少し薄くしてもいいから安価で買えたら嬉しいね。ここいら裏町は表通りほど賑やかじゃないが、あくせく働いてる人が多いからね。あたしも立ち仕事が多いから足腰を悪くしやすくてね」
なるほどと言いながら僕は女将さんの情報をメモしていく。
こういった情報はなんでもありがたい。
「ありがとうございます。当分は伯爵家との窓口としてやっていく予定ですけど、ついでに女将さんが受付をしてくれたら嬉しいですね」
「ああ、あの店でアルバイトするんだって? 聞いたよ。なんでも早速看板娘として馬鹿な男共を釣り上げてるそうじゃないか」
「それもあるんですが、顧客獲得のためにも顔は売っておきたいので」
「あんたほんとガメツイね。そのガメツさはお貴族様じゃなかなかみないよ」
「だから僕は平民だって言ってるじゃないですか」
「そうだったね。そんな格好をしてるからついお貴族様だと思っちまうんだよ。許しておくれ」
「許すも何もないですよ」
肩を竦めて言う僕に、女将さんは釣られて笑った。
もしも僕が貴族様だったら不敬罪で処罰されてたよ?
特に王国ではそう言うの横行してるから、帝国でよかったね。
「それじゃあ今日はこれだけお願いします」
商品一つ一つに効果と値段をつけて渡しておく。
瓶に名前は入ってないから、商品説明の書かれた紙を瓶の首にかけて置くのが僕流。
女将さんもいちいち説明しなくていいし、ご近所付き合いで口コミするだけでいいから気楽だと言っていた。
僕はその間アルバイトをこなし、安い賃金でタダ飯にありついていた。いいんだよ、こんなもので。
僕の体は安上がりな燃料で動くから。
しかし事態が大きく動いたのはそれから二日後。
そう、伯爵家の馬車が裏通りの寂れた宿屋の前に横付けされた日を境に変わった。
「やぁ、トール嬢。約束通り買い付けに来たよ」
そこには清々しい笑顔を浮かべた伯爵様が居た。
娘が行方不明の時に何をやってるんだ、この馬鹿親は!
それとも家出で既に位置を特定している余裕なのか「ああ、そのことね」と投げやりな態度を見せている。
それよりもだ、と言葉を切って僕に熱視線を投げていた。
気のせいか背筋に悪寒が走ったぞ?
僕、これからどうなっちゃうんだろう?
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お読みいただきありがとうございます。基本的にはほのぼのな作品を描いていきたいです。
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