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本編
1.やってきました帝国領
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ガタゴトと馬車が揺れる。
乗合馬車は缶詰状態。安い賃金で移動できるから文句を言いようもない。
「そろそろか」
馬車の車輪が踏み固められた土の上から凸凹とした石畳の上を走る音に変わった。街が近づいた証拠である。
周囲からはすぐに降りられるように準備を進める人が目立った。
僕も同じように肩に下げた鞄を抱き寄せる。
長旅おつかれ様です。そんな風に御者のおじさんに頭を下げてリビアの街に降り立った。
帝国領。王国領からまっすぐ南に下り、途中で大きな砂漠地帯を越える必要がある。ここでは王国のように生まれで差別されない。だから僕もここでなら自由に生きられるんじゃないかと思った。
「わぁ、賑やか」
石造りの門を潜るとすぐに客寄せの声があちこちでした。
バザーが行われているようだ。商人たちは商業ギルドで席を取り、街に持ち込んだ商品を売りにしている。
見たこともない鮮やかな果実が目についた。どんな味がするんだろうか? 好奇心につられて一つ購入してみる。
銅貨五枚か。結構高いな。仕方ない、僕のような見た目ならお金を持っていないと思って吹っかけたのだろう。
「はい、銅貨5枚」
「ボウズ、これを買うんならもう少し身なりを気にした方がいいぞ?」
「余計なお世話だよ」
「確かにな。毎度あり、また頼むぜ?」
ホクホク顔で商人が声をかけてくる。
多分だけどこれ、吹っかけられたかな?
そのまま果実を齧ると、意外と美味しい。
それとちょっとアイディアが湧いてきた。
それはそれとして街に着くまでに食費をケチったのが災いしたか、僕の足はふらふらと美味しそうな匂いに釣られて歩き出す。
「おや、いらっしゃい」
「これ、何のお肉?」
「食ってからのお楽しみでい」
恰幅の良い店主が出刃包丁を片手に得体の知れない肉を切りつけている。
上からぶら下げた肉の骨格から察するに、そこまで大きくないようだ。
兎か鳥か、そこらあたりだろう。
文句をつけて買わないのは迷惑か。
オーソドックスなのを一ついただいて感想を述べる。
「美味いね」
「だろう?」
「おまけで3つ買ってあげる。その分負けてよ」
「面の皮の厚いあんちゃんだな」
また男に間違えられた。
「もしかして嬢ちゃんだったか?」
「どっちでもいいよ。どうせ僕はぺったんこですしー?」
ぷくっとほっぺに空気が入っていくのがわかる。
もうこんな風にいじけられれてる年齢ではないのに、なかなか癖は抜けないものだ。
「悪かったって! 一個サービスしてやるよ。したって嬢ちゃん、見た目は拘った方がいいぜ?」
それくらい、言われなくてもわかってるさ。
ホコリと泥に塗れ、革鎧の上に纏ったマントも煤まみれだ。
お風呂だって三週間入ってない。
女として終わってると思われても仕方のないことだ。しかしそれも今日までだ。
「王国から来たんだ。砂漠を超えてから、こっちお風呂にありつけなかったからね。だから今日はゆっくりお湯に浸かるつもりだ」
「王国領からわざわざご苦労なこった。帝国には観光かい?」
「僕はこう見えて商人でね。ここを拠点にしようと思って」
「へぇ、そんな身なりで何を扱うってんだい?」
「内緒。それを教えて欲しかったらもう一個負けてよ」
「チャッカリしてるぜ。でもご褒美は一個までだ」
「ケチ」
「ケチで結構。こちとら商売に命をかけてるもんでね。そっちにとっちゃたかが一個でも、きっちり売らなきゃ元が取れない」
「そりゃそうだ。また明日も寄らせてもらうよ。じゃ!」
「おう、ご贔屓に」
屋台の店主は僕の見た目に苦笑しつつもあしらいはしなかった。
あからさまに嫌そうな態度をとる店主もいた中で稀有な存在だ。
ゴネ得と言って仕舞えばそれだけだが、実際に話が通じない相手はごまんといる。
そんな中でどんな相手であれ、金にしようって相手は信頼できる。
僕もこの街でそんな存在になれればいいんだけどね。
街を練り歩いて手持ちで間に合いそうな宿を取る。
受付で聞くと別料金だけどお風呂がつくと聞かされて大喜びしたものだ。
しかし僕は放浪の身。着替えもない事を告げると別料金で小間使いの制服を貸してもらった。
ここの宿の人は細やかな気配りが効くようだ。
お金の少ない僕には非常に助かる。
湯を浴びて、髪についた煤や泥を落とす。
ここでは別料金で石鹸も使わせてもらえるようだ。実にありがたい。長旅で積み重なった汚れやら何やらが綺麗に流れ落ちた気がした。上手いこと体の匂いも消えたと思う。
そしてお湯は体の奥にじんわりと沁み渡り、長旅の疲れを癒してくれた。湯から上がり、小間使いの制服を纏って受付へ。
「あら、随分と見違えたじゃないか」
「いいお湯でした」
「いいのよ、追加料金貰うんだから遠慮しないでどんどん言ってくれて」
逞しいなぁ。僕もこうありたいものだ。
乗合馬車は缶詰状態。安い賃金で移動できるから文句を言いようもない。
「そろそろか」
馬車の車輪が踏み固められた土の上から凸凹とした石畳の上を走る音に変わった。街が近づいた証拠である。
周囲からはすぐに降りられるように準備を進める人が目立った。
僕も同じように肩に下げた鞄を抱き寄せる。
長旅おつかれ様です。そんな風に御者のおじさんに頭を下げてリビアの街に降り立った。
帝国領。王国領からまっすぐ南に下り、途中で大きな砂漠地帯を越える必要がある。ここでは王国のように生まれで差別されない。だから僕もここでなら自由に生きられるんじゃないかと思った。
「わぁ、賑やか」
石造りの門を潜るとすぐに客寄せの声があちこちでした。
バザーが行われているようだ。商人たちは商業ギルドで席を取り、街に持ち込んだ商品を売りにしている。
見たこともない鮮やかな果実が目についた。どんな味がするんだろうか? 好奇心につられて一つ購入してみる。
銅貨五枚か。結構高いな。仕方ない、僕のような見た目ならお金を持っていないと思って吹っかけたのだろう。
「はい、銅貨5枚」
「ボウズ、これを買うんならもう少し身なりを気にした方がいいぞ?」
「余計なお世話だよ」
「確かにな。毎度あり、また頼むぜ?」
ホクホク顔で商人が声をかけてくる。
多分だけどこれ、吹っかけられたかな?
そのまま果実を齧ると、意外と美味しい。
それとちょっとアイディアが湧いてきた。
それはそれとして街に着くまでに食費をケチったのが災いしたか、僕の足はふらふらと美味しそうな匂いに釣られて歩き出す。
「おや、いらっしゃい」
「これ、何のお肉?」
「食ってからのお楽しみでい」
恰幅の良い店主が出刃包丁を片手に得体の知れない肉を切りつけている。
上からぶら下げた肉の骨格から察するに、そこまで大きくないようだ。
兎か鳥か、そこらあたりだろう。
文句をつけて買わないのは迷惑か。
オーソドックスなのを一ついただいて感想を述べる。
「美味いね」
「だろう?」
「おまけで3つ買ってあげる。その分負けてよ」
「面の皮の厚いあんちゃんだな」
また男に間違えられた。
「もしかして嬢ちゃんだったか?」
「どっちでもいいよ。どうせ僕はぺったんこですしー?」
ぷくっとほっぺに空気が入っていくのがわかる。
もうこんな風にいじけられれてる年齢ではないのに、なかなか癖は抜けないものだ。
「悪かったって! 一個サービスしてやるよ。したって嬢ちゃん、見た目は拘った方がいいぜ?」
それくらい、言われなくてもわかってるさ。
ホコリと泥に塗れ、革鎧の上に纏ったマントも煤まみれだ。
お風呂だって三週間入ってない。
女として終わってると思われても仕方のないことだ。しかしそれも今日までだ。
「王国から来たんだ。砂漠を超えてから、こっちお風呂にありつけなかったからね。だから今日はゆっくりお湯に浸かるつもりだ」
「王国領からわざわざご苦労なこった。帝国には観光かい?」
「僕はこう見えて商人でね。ここを拠点にしようと思って」
「へぇ、そんな身なりで何を扱うってんだい?」
「内緒。それを教えて欲しかったらもう一個負けてよ」
「チャッカリしてるぜ。でもご褒美は一個までだ」
「ケチ」
「ケチで結構。こちとら商売に命をかけてるもんでね。そっちにとっちゃたかが一個でも、きっちり売らなきゃ元が取れない」
「そりゃそうだ。また明日も寄らせてもらうよ。じゃ!」
「おう、ご贔屓に」
屋台の店主は僕の見た目に苦笑しつつもあしらいはしなかった。
あからさまに嫌そうな態度をとる店主もいた中で稀有な存在だ。
ゴネ得と言って仕舞えばそれだけだが、実際に話が通じない相手はごまんといる。
そんな中でどんな相手であれ、金にしようって相手は信頼できる。
僕もこの街でそんな存在になれればいいんだけどね。
街を練り歩いて手持ちで間に合いそうな宿を取る。
受付で聞くと別料金だけどお風呂がつくと聞かされて大喜びしたものだ。
しかし僕は放浪の身。着替えもない事を告げると別料金で小間使いの制服を貸してもらった。
ここの宿の人は細やかな気配りが効くようだ。
お金の少ない僕には非常に助かる。
湯を浴びて、髪についた煤や泥を落とす。
ここでは別料金で石鹸も使わせてもらえるようだ。実にありがたい。長旅で積み重なった汚れやら何やらが綺麗に流れ落ちた気がした。上手いこと体の匂いも消えたと思う。
そしてお湯は体の奥にじんわりと沁み渡り、長旅の疲れを癒してくれた。湯から上がり、小間使いの制服を纏って受付へ。
「あら、随分と見違えたじゃないか」
「いいお湯でした」
「いいのよ、追加料金貰うんだから遠慮しないでどんどん言ってくれて」
逞しいなぁ。僕もこうありたいものだ。
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お読みいただきありがとうございます。基本的にはほのぼのな作品を描いていきたいです。
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