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5章 お爺ちゃんと聖魔大戦
429.お爺ちゃんとクランメンバーズ4
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「さて、では皆さん今回で色々体験したと思います」
正気に戻ったとは言え、すぐに手にした力の強大さに振りまわれてしまうのは仕方がない。
私がここで提示するのはここからどうするかと言う指標である。
「ええ、僕の内側に眠る力と、この子の秘めた能力ですね。ただしかし、それをうまく扱えるかと言われたら難しい」
「はい。私が思うに、幻影との絆が深ければ深いほど神格との繋がりも深くなると思っています。しかしただ絆を深めるといってもどのように深めるか? 皆さんそう思っている事でしょう」
「その意味深な笑みに引っかかることはありますが、つまりは何が言いたいんです?」
皆の代弁をするようにジキンさんが食ってかかる。
「はい、代案を上げるならば単純に信仰をあげるのが手っ取り早いです」
「それの方法が確立してないことによる不安が大きいと言う話じゃない?」
妻やランダさんの不安そうな声。
それを片手で制し、その不安を拭ってやる。
誰もが確信も持てない場所に一歩踏み込めないように、私は既に打ち込んだ経験を語った。
「ありますよ、うってつけのが。私が彼女、ルリーエと出会った時最初にしたのは何だと思います?」
「いつ出会ったのかも分からないのに?」
「ベルトを入手してからですね」
「では過去改変の少し前くらい?」
「ええ」
「確かその時はアイドルプロデュースをしていたんじゃなかったか? てっきり孫のマリン君と約束を取り付けてかと思ってたんじゃが、その前に先約があった?」
「ダグラスさん、正解!」
「待って、もしかしてマリン達をアイドルに持ち上げたのってそれのついでだったの?」
「そうだね、でもプロデュース自体は本気で取り組んでいたよ。ルリーエの場合は、彼女が私の前で本性を隠そうとしているのが悲しかったから」
「……今のこの子は素じゃないと言っていたわね?」
「うん、本当はスズキさんとそっくりそのままおちゃらけた子なんだよ。でもね、クトゥルフの巫女や玉座の彼女はこのように取り繕った振る舞いをするんだ。本来の彼女を知ってる私としてはね、見過ごせなかった」
「だからアイドルプロデュースを?」
「最初は嫌がられたよ」
「ダメじゃない!」
「でもね、舞台を用意して退路を塞いだら最初は嫌々だったけど、次第に味を占めてノリノリになった。ついには自分たちから演出まで考えるようになってさ。結局、彼女達も私達と変わらないんだ。神格がどうとか、幻影がどうとか。そう言う括りを取り払って考えてみて。私はね、そうやって人となりを感じて彼女と接してその神格であるクトゥルフさんとも通じ合えたんだ」
「そうなのね、確かにこの子はどこか自分の子に似ている気がするわ。懐いていると言うのもあるけど、この子のために何かしてあげたいと言う気持ちは本物よ」
妻の言葉に、私は頷く。
「では、この子達もアイドルプロデュースをしろと?」
「いいえ。手段は何でもいいんですよ。既に媒体として普及してるVRアイドルを利用させていただきました。お陰で、クトゥルフ様の眷属が増えに増えて万々歳です」
「プレイヤーの気持ちをがっちり掴んだのね?」
ルリーエを見つめながら妻が感嘆とする。
「ルリーエの努力の賜物でもあるんです。無理矢理やらせたって本人がやる気を出さない限り芽は出ません」
「じゃあ結局ダメじゃないですか」
「うん、これはあくまで提案です。その子にはその子の得意分野があるでしょう? あとはその舞台をどこまで用意してやれるかだと思うんです」
「成る程ね。理解したわ」
ニヤリとランダさんが口角を上げる。
妻も納得したように頷いた。
この世代はお金を持て余してる人が多いからね。
私もジキンさんも、ダグラスさんも、妻達も。
そこに自分の得意なジャンルを当てはめてやれば、自ずと道は開けると思っている。
「マスター、時間です」
ルリーエが淡々と崩壊時間が近づいてきていることを告げた。
「では私からのアドバイスは以上、次の場所に行きますよ~」
未だ確信を得ていないダグラスさんを牽引しつつ、転送門で例の場所まで戻ってくる。
私の他は球体が三つ。他にはおすわりしている犬型ロボットが急に立ち上がって波を起こす。
「ちょ、急になんですか?」
「ああ、ちょっと屈伸を」
「迷惑だからやめなさい!」
「何考えてんだい、あんた!」
「何か思う事があったようね」
「マスターに言われっぱなしで思う事? そんなのこの人にとっちゃ尻に火をつけられた以外ないでしょうね」
「それをわかっていながら煽るのね」
「それがうちの夫婦のルールだからね!」
ランダさんはブレないなぁ。
けどジキンさんもやる気になったようだ。
「ダグラスさんも何か見つかりました?」
「ふむ、今はどれにするか迷っておるわい」
「迷うほどの選択肢が?」
「うむ。最終的にはこの子が受け入れるかどうかじゃな」
「それは楽しみだ」
掌握領域でパーティメンバーをまとめつつ、海上と海底を取り換える。
一種の空間転移じみた作業ながらも、パーティメンバーにそこまで驚きはない。
慣れたものか、それとも私と一体化したから恐怖がどこかに消し飛んでしまったかもしれないね。
地上に着いたら領域を解き、それぞれに分解する。
「はい、到着」
「お疲れ様です、マスター」
「ルリーエも案内役ありがとうね」
「……お前のところのマスターって凄いんだな?」
「お前じゃないわ。ルリーエって名前があるから」
「オレだって名前が、イデッ」
「こら、勝手に人様に喧嘩売ってるんじゃないよ。あんたのマスターは誰だい? はい復唱」
鉄拳制裁。
拳で幻影を掌握するランダさんの健啖家ぶりには周囲もドン引きだ。喧嘩っ早いのはガタノソアの大神官イマシュー=モの化身だからでは無く、ランダさんがマスターであるからに違いない。
「ジキンさんは幻影の名前もう決めました? 愛称でも良いですが」
「ヤークシュではダメなんですか?」
「それはその子の真名です。私で言えばスズキさんみたいなミドルネームですよ」
「それ、ミドルネームじゃったんか」
「そうですよ? ね、スズキさん」
「ええ、不本意ですが」
「不本意!?」
そんな、ノリノリだったあのスズキさんはどこへ?
この状態になってから変にそっけないぞ?
「ハッハッハ、言われてますねマスター?」
「知りません」
終いにはぷい、とそっぽを向かれる始末。
私彼女に何かしたっけ?
思い当たる節が何もないんだけど!?
「そう言うジキンさんの幻影だっていつか反抗期が来ますよ。私を笑ってられるのも今のうちです!」
「僕が育てるんですよ。そんな間違いは起こしませんよ」
「あっ(察し)」
「ちょっと今変なこと考えてませんでしたか?」
「あーいや、ははは。金狼君やギン君見てれば自ずとわかりますよ。ね、ランダさん?」
話を振ろうと奥様に振り向いたら、頭にゲンコツのタワーを作って俯いてるポナペ教典の幻影がいた。
一発や二発で済まないあたりランダさんの教育は激しめだった。そんな光景を見ながら怯えるゾスの幻影を妻が優しく抱き止める。すっかり甘えん坊に育ってるようだ。
「決めた、ワシはこの子を後継人にするぞい」
「後継人と言うと?」
「無論、この子に鍛治を仕込むんじゃ。ハスターと言ったかの? 何でも多くの手足があるそうじゃないか。ワシは常々思っておった。手が二本では少ないと。じゃがこの子やハスター様のような軟体生物であるのなら、それも可能ではないかと痛感した!」
「結局そこに行き着くんですね?」
「ワシから鍛治を取ったら何も残らんからな?」
「そんなことないですよ」
「いいや、その目はそう思っとる目じゃぞ?」
即座に見抜かれるあたり、私は嘘はつけない性格のようだ。
「さて、ルリーエ。次の図書館に進もうか。どこがいいかな?」
「お言葉ですがマスター、彼らには時間が必要だと思われます」
突然、これ以上のツアーは困難であると言い放つ。
「それまたどうして?」
「今日だけで一体どれほどの正気度ロールを行いましたか? 今はまだ正気を保てて居ますが、一度に失い続けるのは得策ではありません」
「確かに。一日で回るのはきついか」
「ええ、それにこの状態も長く持ちません」
「と言うと?」
言うが早いか、ルリーエの肉体から煙がボフンと吹き上がり、煙が消え去った頃にはいつもの甘えん坊のスズキさんが居た。
「|◉〻◉)タイムオーバーです、ハヤテさん。生真面目モードはすっごくエネルギーを消耗するんですよね。まだ付き合うと言い始めた時は僕、若干キレそうでした」
「やっぱり我慢しておったか」
スズキさんはその場でぐてーと横たわりながら足を組んで寝ている。いつの間にか鯛の着ぐるみを着ている状態だ。
流石にルリーエの姿のままその行為をしないだけで多少は好感が持てるが、今の姿で取り繕って居た姿が台無しになってしまっている。
そこへ先ほどまでタコ殴りの刑に処されていたイマシュー=モの化身が食ってかかった。
元気なことだ。
「お前! やっぱりそっちが本性だな!」
「|◉〻◉)バーカ、バーカ! ベロベロベー」
顔の両サイドで指をピラピラさせて威嚇しつつ、反復横跳びするスズキさん。
幻影同士の目くそ鼻くその戦いが、今ここに開戦した。
「ちょっとあなた、止めなさいよ。この子の教育に悪いわ」
「私が言って止まる子だと思う?」
「あなたの幻影でしょう?」
「私の幻影でも、彼女の意思までは操れないよ」
「スズちゃんよりお行儀が悪いじゃないの、この子」
「だから言ったじゃない、素はスズキさんを二回りはっちゃけさせた子だって」
「予想の斜め上すぎるわよ!」
「これが彼女だよ。私は既に制御するのを諦めている」
「|◉〻◉)へっへーんだ。こーこまーでおいでー! お尻ペーンペーン!」
「やっろー! 調子こきやがって! 断罪の鉄槌食らわしちゃる!」
砂浜を全力疾走でかけてゆく幻影を眺めつつ、私達は幻影との向き合い方を本気で悩むのだった。
個性があるにも程がある。
ジキンさんやダグラスさんはきっとそう思ったに違いない。
正気に戻ったとは言え、すぐに手にした力の強大さに振りまわれてしまうのは仕方がない。
私がここで提示するのはここからどうするかと言う指標である。
「ええ、僕の内側に眠る力と、この子の秘めた能力ですね。ただしかし、それをうまく扱えるかと言われたら難しい」
「はい。私が思うに、幻影との絆が深ければ深いほど神格との繋がりも深くなると思っています。しかしただ絆を深めるといってもどのように深めるか? 皆さんそう思っている事でしょう」
「その意味深な笑みに引っかかることはありますが、つまりは何が言いたいんです?」
皆の代弁をするようにジキンさんが食ってかかる。
「はい、代案を上げるならば単純に信仰をあげるのが手っ取り早いです」
「それの方法が確立してないことによる不安が大きいと言う話じゃない?」
妻やランダさんの不安そうな声。
それを片手で制し、その不安を拭ってやる。
誰もが確信も持てない場所に一歩踏み込めないように、私は既に打ち込んだ経験を語った。
「ありますよ、うってつけのが。私が彼女、ルリーエと出会った時最初にしたのは何だと思います?」
「いつ出会ったのかも分からないのに?」
「ベルトを入手してからですね」
「では過去改変の少し前くらい?」
「ええ」
「確かその時はアイドルプロデュースをしていたんじゃなかったか? てっきり孫のマリン君と約束を取り付けてかと思ってたんじゃが、その前に先約があった?」
「ダグラスさん、正解!」
「待って、もしかしてマリン達をアイドルに持ち上げたのってそれのついでだったの?」
「そうだね、でもプロデュース自体は本気で取り組んでいたよ。ルリーエの場合は、彼女が私の前で本性を隠そうとしているのが悲しかったから」
「……今のこの子は素じゃないと言っていたわね?」
「うん、本当はスズキさんとそっくりそのままおちゃらけた子なんだよ。でもね、クトゥルフの巫女や玉座の彼女はこのように取り繕った振る舞いをするんだ。本来の彼女を知ってる私としてはね、見過ごせなかった」
「だからアイドルプロデュースを?」
「最初は嫌がられたよ」
「ダメじゃない!」
「でもね、舞台を用意して退路を塞いだら最初は嫌々だったけど、次第に味を占めてノリノリになった。ついには自分たちから演出まで考えるようになってさ。結局、彼女達も私達と変わらないんだ。神格がどうとか、幻影がどうとか。そう言う括りを取り払って考えてみて。私はね、そうやって人となりを感じて彼女と接してその神格であるクトゥルフさんとも通じ合えたんだ」
「そうなのね、確かにこの子はどこか自分の子に似ている気がするわ。懐いていると言うのもあるけど、この子のために何かしてあげたいと言う気持ちは本物よ」
妻の言葉に、私は頷く。
「では、この子達もアイドルプロデュースをしろと?」
「いいえ。手段は何でもいいんですよ。既に媒体として普及してるVRアイドルを利用させていただきました。お陰で、クトゥルフ様の眷属が増えに増えて万々歳です」
「プレイヤーの気持ちをがっちり掴んだのね?」
ルリーエを見つめながら妻が感嘆とする。
「ルリーエの努力の賜物でもあるんです。無理矢理やらせたって本人がやる気を出さない限り芽は出ません」
「じゃあ結局ダメじゃないですか」
「うん、これはあくまで提案です。その子にはその子の得意分野があるでしょう? あとはその舞台をどこまで用意してやれるかだと思うんです」
「成る程ね。理解したわ」
ニヤリとランダさんが口角を上げる。
妻も納得したように頷いた。
この世代はお金を持て余してる人が多いからね。
私もジキンさんも、ダグラスさんも、妻達も。
そこに自分の得意なジャンルを当てはめてやれば、自ずと道は開けると思っている。
「マスター、時間です」
ルリーエが淡々と崩壊時間が近づいてきていることを告げた。
「では私からのアドバイスは以上、次の場所に行きますよ~」
未だ確信を得ていないダグラスさんを牽引しつつ、転送門で例の場所まで戻ってくる。
私の他は球体が三つ。他にはおすわりしている犬型ロボットが急に立ち上がって波を起こす。
「ちょ、急になんですか?」
「ああ、ちょっと屈伸を」
「迷惑だからやめなさい!」
「何考えてんだい、あんた!」
「何か思う事があったようね」
「マスターに言われっぱなしで思う事? そんなのこの人にとっちゃ尻に火をつけられた以外ないでしょうね」
「それをわかっていながら煽るのね」
「それがうちの夫婦のルールだからね!」
ランダさんはブレないなぁ。
けどジキンさんもやる気になったようだ。
「ダグラスさんも何か見つかりました?」
「ふむ、今はどれにするか迷っておるわい」
「迷うほどの選択肢が?」
「うむ。最終的にはこの子が受け入れるかどうかじゃな」
「それは楽しみだ」
掌握領域でパーティメンバーをまとめつつ、海上と海底を取り換える。
一種の空間転移じみた作業ながらも、パーティメンバーにそこまで驚きはない。
慣れたものか、それとも私と一体化したから恐怖がどこかに消し飛んでしまったかもしれないね。
地上に着いたら領域を解き、それぞれに分解する。
「はい、到着」
「お疲れ様です、マスター」
「ルリーエも案内役ありがとうね」
「……お前のところのマスターって凄いんだな?」
「お前じゃないわ。ルリーエって名前があるから」
「オレだって名前が、イデッ」
「こら、勝手に人様に喧嘩売ってるんじゃないよ。あんたのマスターは誰だい? はい復唱」
鉄拳制裁。
拳で幻影を掌握するランダさんの健啖家ぶりには周囲もドン引きだ。喧嘩っ早いのはガタノソアの大神官イマシュー=モの化身だからでは無く、ランダさんがマスターであるからに違いない。
「ジキンさんは幻影の名前もう決めました? 愛称でも良いですが」
「ヤークシュではダメなんですか?」
「それはその子の真名です。私で言えばスズキさんみたいなミドルネームですよ」
「それ、ミドルネームじゃったんか」
「そうですよ? ね、スズキさん」
「ええ、不本意ですが」
「不本意!?」
そんな、ノリノリだったあのスズキさんはどこへ?
この状態になってから変にそっけないぞ?
「ハッハッハ、言われてますねマスター?」
「知りません」
終いにはぷい、とそっぽを向かれる始末。
私彼女に何かしたっけ?
思い当たる節が何もないんだけど!?
「そう言うジキンさんの幻影だっていつか反抗期が来ますよ。私を笑ってられるのも今のうちです!」
「僕が育てるんですよ。そんな間違いは起こしませんよ」
「あっ(察し)」
「ちょっと今変なこと考えてませんでしたか?」
「あーいや、ははは。金狼君やギン君見てれば自ずとわかりますよ。ね、ランダさん?」
話を振ろうと奥様に振り向いたら、頭にゲンコツのタワーを作って俯いてるポナペ教典の幻影がいた。
一発や二発で済まないあたりランダさんの教育は激しめだった。そんな光景を見ながら怯えるゾスの幻影を妻が優しく抱き止める。すっかり甘えん坊に育ってるようだ。
「決めた、ワシはこの子を後継人にするぞい」
「後継人と言うと?」
「無論、この子に鍛治を仕込むんじゃ。ハスターと言ったかの? 何でも多くの手足があるそうじゃないか。ワシは常々思っておった。手が二本では少ないと。じゃがこの子やハスター様のような軟体生物であるのなら、それも可能ではないかと痛感した!」
「結局そこに行き着くんですね?」
「ワシから鍛治を取ったら何も残らんからな?」
「そんなことないですよ」
「いいや、その目はそう思っとる目じゃぞ?」
即座に見抜かれるあたり、私は嘘はつけない性格のようだ。
「さて、ルリーエ。次の図書館に進もうか。どこがいいかな?」
「お言葉ですがマスター、彼らには時間が必要だと思われます」
突然、これ以上のツアーは困難であると言い放つ。
「それまたどうして?」
「今日だけで一体どれほどの正気度ロールを行いましたか? 今はまだ正気を保てて居ますが、一度に失い続けるのは得策ではありません」
「確かに。一日で回るのはきついか」
「ええ、それにこの状態も長く持ちません」
「と言うと?」
言うが早いか、ルリーエの肉体から煙がボフンと吹き上がり、煙が消え去った頃にはいつもの甘えん坊のスズキさんが居た。
「|◉〻◉)タイムオーバーです、ハヤテさん。生真面目モードはすっごくエネルギーを消耗するんですよね。まだ付き合うと言い始めた時は僕、若干キレそうでした」
「やっぱり我慢しておったか」
スズキさんはその場でぐてーと横たわりながら足を組んで寝ている。いつの間にか鯛の着ぐるみを着ている状態だ。
流石にルリーエの姿のままその行為をしないだけで多少は好感が持てるが、今の姿で取り繕って居た姿が台無しになってしまっている。
そこへ先ほどまでタコ殴りの刑に処されていたイマシュー=モの化身が食ってかかった。
元気なことだ。
「お前! やっぱりそっちが本性だな!」
「|◉〻◉)バーカ、バーカ! ベロベロベー」
顔の両サイドで指をピラピラさせて威嚇しつつ、反復横跳びするスズキさん。
幻影同士の目くそ鼻くその戦いが、今ここに開戦した。
「ちょっとあなた、止めなさいよ。この子の教育に悪いわ」
「私が言って止まる子だと思う?」
「あなたの幻影でしょう?」
「私の幻影でも、彼女の意思までは操れないよ」
「スズちゃんよりお行儀が悪いじゃないの、この子」
「だから言ったじゃない、素はスズキさんを二回りはっちゃけさせた子だって」
「予想の斜め上すぎるわよ!」
「これが彼女だよ。私は既に制御するのを諦めている」
「|◉〻◉)へっへーんだ。こーこまーでおいでー! お尻ペーンペーン!」
「やっろー! 調子こきやがって! 断罪の鉄槌食らわしちゃる!」
砂浜を全力疾走でかけてゆく幻影を眺めつつ、私達は幻影との向き合い方を本気で悩むのだった。
個性があるにも程がある。
ジキンさんやダグラスさんはきっとそう思ったに違いない。
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