上 下
481 / 497
5章 お爺ちゃんと聖魔大戦

428.お爺ちゃんとクランメンバーズ3

しおりを挟む
 後ろからついてくる巨大なメカに、シュコーシュコーと排気のうるさい筒型のポッドがやけに気になる。どこから推進力が発生してるかわからない円形のフォルム。
 ダグラスさんは本当に面白いことを考えつくものだ。
 あれはきっと探偵さん以上に手が混んでいるに違いない。
 その後ろを犬の形をしたメカが迫ってくるものだから、まるで逃亡者の気分を味わえるというものだ。


 ジキン:マスター、今余計なこと考えてませんでした?


 フレンドチャットが明滅する。
 全く、この人の直感は侮れない。
 「気のせいですよ」と返せば「本当かなぁ?」と返してくる。
 お子さん達にもそうやって疑ってかかるからああも疑心暗鬼になってるんじゃないの?
 普段マイペースなくま君があなたの前でだけシャキッとするのもわかる気がするんだ。


 馬鹿なことをやっていると、ルリーエ達幻影が私たちの到着を待つようにその場に留まる。
 水路から海上に一度上がり、下水を通らずに全く知らない海に来た。

 ファストリアは海から遠いが、もしかしなくてもセカンドルナやサードウィルとも遺跡同士で繋がって居た?
 どちらも共に朽ち果てているので定かではないが、次のフォークロアは山に囲まれた地下トンネル。その次ファイベリオンが海の上の浮かぶ街。
 
 だからここはファイベリオン辺りだと推測するが、それにしたって暗い。私が光ることでようやくルリーエ達を見つけられるほどだ。


「ここです、ここに入口があります」


 ルリーエが足元を見つけ、ボール状のカプセルが三つ私の横につく。その直後、重苦しい音が周囲一体の砂地を吹き飛ばす。
 ジキンさんの仕業だろう。あの見上げるほどの巨体が着地して、一瞬で足場の砂が海中に巻き上がった。

 しかしそれによってルリーエの指し示した場所が地下への入り口になっているゲートだと判明する。
 魔法陣のようなものが浮かび上がるも、エネルギーの循環がうまくいってないのか、はたまた使われなくなって久しいのか周囲は寂れているように思う。


「下がっていなさい。私がこじ開けよう──掌握領域」


 クトゥルフさんの力で持って侵食し、強制アクセス。
 どうやらエネルギーの供給源が朽ちているようだ。
 私はクトゥルフさんから少し回したエネルギーで無理やりゲートを発動させると、重い順から転送させた。

 ジキンさん、パワードスーツの妻達、最後に私と幻影達。
 転送された場所は随分と使われてない寂れた遺跡で、特に目を引いたのは頭から突っ込んだようにして沈黙してるジキンさんの巨大メカだった。
 遺跡の規模に対して大き過ぎたようだ。
 大きなベルを持つ左手が後ろに下がり、本人が出てきた。
 脱出に成功して、機体を転送させようとする所で呼び止める。


「あ、機体はそのままで。それを戻されたらこの場所は崩れ落ちそうです」

「なんでスクリーンショットをしながら言うんです、それ? 絶対ブログに載せるつもりだよこの人」

「ネタの提供をありがとうございます。ではいきましょうか。ダグラスさん達はそのスーツを着たままで?」

「呼吸は可能なのか? で、あればこの拘束状態は解くが」

「ジキンさんがしてるから大丈夫でしょ」

「え、だってマスターもしてるじゃない?」

「ハヤテ君はとっくに人類を辞めとるぞ? 無の呼吸だなんてスキルを持っとる。ワシらと同じとは言えまい?」

「あ、そうでした! なんで僕忘れてたんだろう」

「てっきりスタミナゲージ撤廃を思い込みで呼吸無効と紐付けなかったからじゃろうな。と、空気はあるようじゃな。こんな遺跡の中で空気があると言うことは、空気を必要とした生命体が存在していたか? どれ、アーマーを解くかの」


 ダグラスさんの合図によって球体の殻が開き、折り畳んで人型を形成する。
 普段の妻達の手足や背中にバックパックのように背負う形でそのスーツが展開する。
 パワードスーツというよりは歩行補助スーツみたいに見える。
 もしリアル世界が発展していってたらこういうのにお世話になっていたのかもしれないねとしみじみ思う。


「なんだか以前お父さんにおぶって貰った景色と同じ高さね」

「おや、ハヤテ君はアキエ君をおぶった過去があったのかな?」

「結婚前に、旅行で足を挫いた時にですね。子供ができてからは出かけること自体稀でしたが」

「男ってすぐ女を物扱いするわよね」

「そんな! 言いがかりですよ。ねぇ、ジキンさん?」

「そうだよランダさん。なんてことを言うんだい?」

「で、アキエ。実際のところは?」

「宝物を扱うように大切にはしてくれましたけど、娘を産んでからは私よりも娘にべったりで」

「ちょっとアキエさん? 今そんな話掘り返さなくったっていいじゃないですか!」


 唐突に爆弾が投げ込まれる。
クリーンヒットしたのは私だけではなく娘を持つ親なら誰もが体験したことだろう。
 ダグラスさんからも焦りの色が見えていた。


「この慌てよう、ウチのマスターはどうにも女ってもんをわかっちゃいないね」

「本当に。まぁその分浮気の心配はしてませんでしたけど」

「そりゃウチの旦那もそうさ。アタシにゾッコンだったからね?」

「勿論さ。僕から惚れてプロポーズしたんだから」

「愛されているようで何よりね」

「それだけがこの人の唯一褒められるところだからね?」


 妻達の評価が酷い。けど奥さんに負い目があるのは事実。
 今でこそ遠回しな愚痴を言ってくる程度で治っているが、一時期は本当に離婚の危機があるほど冷え切って居たものね。
 私達は挽回のチャンスを経てここにいるのだと改めて実感させられた。


「そのお話も詳しく知りたいところですけど、今はこちらを優先しましょう、ここも長くは持ちません」


 あのルリーエがツッコミに回った、だと!?
 いつになく真面目なルリーエに急かされるように私は驚愕に目を見開く。
 妻からはバカやってないでさっさといきましょうと促され、仕方なく後に続く。
 幻影達は再び魔導書持ちのマスターに付き従うようだ。

 明らかに今の会話で格付けされてるような風潮。
 少女達より少年たちがお兄さんぶっているのが見てとれた。
 ルリーエにも兄ぶって近寄っては片手で払われる。
 勝気というか、性格がランダさんそっくりでびっくりする。

 ポナペ経典は化け物か? 
 それとも恐れ知らずなのだろうか。
 ランダさんが強い人だからなぁ、自信家なのも頷けるが。

 幻影達の格付けが私たちの格付けに沿っているだなんて初めて知ったよ。


「マスター、お手を拝借」

「どっち、こっち?」


 人間の手とクトゥルフの手。どちらか尋ねて、クトゥルフさんの手を掴む。
 それを見てさっきまで調子に乗っていたポナペ経典の幻影がビビり散らしていた。
 ルリーエめ、これを狙ったな?
 立場上の優劣を見せつける形でマウントを取るつもりか。

 そのままクトゥルフさんの手を石柱に合わせると、扉が開いた。
 その中央からは何かの意思が存在し、巨大な瞳がこちらを覗き見ている。
 私は何も感じぬが、同行者が不定の狂気に陥っている。


「ルリーエ、これは何?」

「儀典と呼ばれる物ですわ、マスター」

「儀典……偽りの書物?」

「いいえ。複数の断片によって造られし神を偽神と呼び、それとのコンタクトによって記憶を直接呼び覚ますものになります」

「つまりは?」

「荒療治ですね。顕現したての幻影に格の違いを見せつけなければなりません」

「君にとっての信仰が舐められていると感じた?」

「いいえ、マスター。舐められているのはマスターです」

「私?」


 ルリーエが頬を膨らませつつ嫉妬の仕草を取る。


「あの子達はマスターの凄さをよくわかっていないのです。私はそれが悔しい」

「君には苦労をかけるね。私に付き合わせて無理をさせていたかな?」

「いいえ、素を出せるまたとない機会を頂き感謝の限りです。セラエやサイ、ヤディスとも仲良く過ごせるようになったのはマスターのお陰でもありますから。それにあろう事か敵勢力の幻影とも……」

「君達は出会った当初から仲良かったように思えたけれど?」

「崇拝する神や幻影に詳しくたって、書物を扱うプレイヤー次第で敵にもなり得るのが私たち幻影です。その点マスターは誰とでも仲良くしようとする。それは私ども幻影からしたらなかなか望めない状況なのです」

「聖典や魔導書以前に、プレイヤー次第で仲の良い存在とも武器を向け合わなくちゃいけなくなると?」

「私達はずっとそうして生きてきました。マスターに受け取ってもらう日まで、こんな日が訪れるなんて思いもしませんでしたが」

「それはよかったね。私が担い手である限り任せてくれたらいいよ。きっと退屈させない日常をお届けできると思う」

「ええ、それはきっと悦びに満ち溢れている事でしょう!」


 ルリーエは胸の前で手を結んで感嘆に浸っている。
 前回の配信でクトゥルフさんの腕をクッチャクッチャさせてた子と同一人物とは思えないくらいの代わりようだ。
 詐欺だと訴えられそうなくらいの中身の違い。

 いいや、素を出してくれてる現状を当たり前だと思っちゃいけないか。


「はっ!? 僕たちは一体……」


 どうやらジキンさん達が正気に戻ったようだ。
 順に意識を取り戻した妻達もその身に起きた超常現象を話し出す。

 どうも私で言えばクトゥルフさんの記憶を直接見せられたような物だ。正気度の喪失が普通じゃないことは確かである。
 しかし、同時に正気が保てている。


「おかえりなさい、ジキンさん」

「マスター!? どうやら僕はツァトゥグァと面会して来たようです。あの方は、なんと努力家なのだろう、僕の力でお救いできるのだろうか? いや、助けてあげたいんだ。それは心から思う事だ。彼、僕にそっくりで損な性格をしてるんだもの。故郷で自分だけが馴染めずに身を引いた。その時に一緒にいたのがこの子、ヤークシュだった。きっと辛い旅路だったろうね」


 まるで自分の事のように感慨に耽るジキンさん。
 それからも妻、ダグラスさん、ランダさんからも見に起きた事、自分なら何ができるかを追体験を交えて教えてくれた。

 立場は違えど気持ちは同じだ。
 きっと親世代は神格の生き様に共感できるのだと思う。
 そして幻影とはまだ子供だ。
 親が手本を見せねばそれを真似してるだけの幻影は道を違えてしまうだろう。
 
 そうした時に私達は何をすることができるだろう?
 それを考えるのもまた老後の楽しみに違いない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

VRMMOで神様の使徒、始めました。

一 八重
SF
 真崎宵が高校に進学して3ヶ月が経過した頃、彼は自分がクラスメイトから避けられている事に気がついた。その原因に全く心当たりのなかった彼は幼馴染である夏間藍香に恥を忍んで相談する。 「週末に発売される"Continued in Legend"を買うのはどうかしら」  これは幼馴染からクラスメイトとの共通の話題を作るために新作ゲームを勧められたことで、再びゲームの世界へと戻ることになった元動画配信者の青年のお話。 「人間にはクリア不可能になってるって話じゃなかった?」 「彼、クリアしちゃったんですよね……」  あるいは彼に振り回される運営やプレイヤーのお話。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

Select Life Online~最後にゲームをはじめた出遅れ組

瑞多美音
SF
 福引の景品が発売分最後のパッケージであると運営が認め話題になっているVRMMOゲームをたまたま手に入れた少女は……  「はあ、農業って結構重労働なんだ……筋力が足りないからなかなか進まないよー」※ STRにポイントを振れば解決することを思いつきません、根性で頑張ります。  「なんか、はじまりの街なのに外のモンスター強すぎだよね?めっちゃ、死に戻るんだけど……わたし弱すぎ?」※ここははじまりの街ではありません。  「裁縫かぁ。布……あ、畑で綿を育てて布を作ろう!」※布を売っていることを知りません。布から用意するものと思い込んでいます。  リアルラックが高いのに自分はついてないと思っている高山由莉奈(たかやまゆりな)。ついていないなーと言いつつ、ゲームのことを知らないままのんびり楽しくマイペースに過ごしていきます。  そのうち、STRにポイントを振れば解決することや布のこと、自身がどの街にいるか知り大変驚きますが、それでもマイペースは変わらず……どこかで話題になるかも?しれないそんな少女の物語です。  出遅れ組と言っていますが主人公はまったく気にしていません。      ○*○*○*○*○*○*○*○*○*○*○  ※VRMMO物ですが、作者はゲーム物執筆初心者です。つたない文章ではありますが広いお心で読んで頂けたら幸いです。  ※1話約2000〜3000字程度です。時々長かったり短い話もあるかもしれません。

Bless for Travel ~病弱ゲーマーはVRMMOで無双する~

NotWay
SF
20xx年、世に数多くのゲームが排出され数多くの名作が見つかる。しかしどれほどの名作が出ても未だに名作VRMMOは発表されていなかった。 「父さんな、ゲーム作ってみたんだ」 完全没入型VRMMOの発表に世界中は訝、それよりも大きく期待を寄せた。専用ハードの少数販売、そして抽選式のβテストの両方が叶った幸運なプレイヤーはゲームに入り……いずれもが夜明けまでプレイをやめることはなかった。 「第二の現実だ」とまで言わしめた世界。 Bless for Travel そんな世界に降り立った開発者の息子は……病弱だった。

モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件

こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。 だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。 好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。 これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。 ※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

処理中です...