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5章 お爺ちゃんと聖魔大戦

426.お爺ちゃんとクランメンバーズ1

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 妻と待ち合わせの約束をしていたクランルームに赴くと、そこには何故かジキンさんが居た。
 あれ、普段なら空の上で管を巻いてる時間帯の筈。
 何故ここで油を売っているのやら。


「おはようございます、ジキンさん。誰かと待ち合わせで?」

「ああ、おはようございますマスター。一応妻とデートの約束を取り付けましてね。たまには二人でのんびりとどうかと」

「それはそれは、奇遇ですね。実は私もなんですよ。夫婦水入らずでどうかって」

「へぇ、珍しいこともあるものだ。待ち合わせ時間も同じなら場所も同じと?」

「…………」

「…………」


 二人して同時に黙り込む。そして同時に口を開いた。


「ところでマスター、今日は配信の方は宜しいんですか? いつもだったらクランルームになんて寄らずにさっさと向こうへ行っちゃうのに」

「そう言うジキンさんこそアキカゼランドは? そろそろ辞めるとは聞いてたけど時期的にまだ先の筈だよね?」


 視線が切り結び、バチバチと火花を散らしたところでクランルームの入り口が開く。
 妻とランダさんが揃って入ってきた。


「あら、遅れてしまったかしら?」

「相変わらず、仲がいいのね貴方達」

「大丈夫、時間通りさ。私の方が少し早くき過ぎてしまってね」

「マスターとは偶然居合わせただけさ。それより今日はどこへ出かけるんだっけ? 僕、今日という日を楽しみにしてたんだから」


 そんな私達を見て、妻達は顔を見合わせるなりクスリと笑う。
 これはどうやら謀られたみたいだ。

 その笑みに含まれた理由を察し、再びジキンさんに視線を向ければ、何かを悟ったような顔をしていた。
 奇しくも同じ理由で誘い出されたようだ。
 男というのは、こうも妻からの誘いに弱いものか。
 普段見向きもされない分、ここで挽回しようというのが見抜かれてるようで辛い。


「それじゃ、あと一人お誘いしてるからその人拾ったら出発しましょうか?」


 あと一人? まだ一人いるんだ。


「それは誰か聞いても?」

「ワシじゃよ」


 そうやって入ってきたのはダグラスさんだ。
 随分と顔を見合わせなかったけど、随分と厳つくなってるね、この人。って言うかいつからレムリアに鞍替えしたんだろう? 全身がピカピカ輝いている。


「お久しぶりです。もう何年も会ってない気がしますね」

「実際それに近いくらい顔を合わせとらんからなぁ。相変わらずハヤテ君も忙しそうにしてるようで何よりじゃ。どこに耳を傾けてもここまで噂が聞こえてくる」

「いやぁ、私なんてまだまだ。それよりいつレムリアに鞍替えしたので?」

「ワシか? しとらんよ。これはパワードスーツというんじゃ。ハヤテ君なら聞き覚えはあるじゃろう?」

「それをアトランティス陣営でやってのけたと? 趣味の領域ですねぇ」

「もう一人の某探偵も悔しがって居たぞ? 巨大ロボットは作れても、ワシほど細かく人間サイズで作るのは骨が折れるとな」

「そもそもパーツがないでしょう? 探偵さん曰く、メカの素体は数メートル級からとのこと」

「無論、そこから作った。作れるもんの特権じゃな。そして今は売り込みに入っておる。データは取れたのでな。今日はそこのレディ達からご注文いただいてな。早速実地調査も含めて検証じゃ。まさかその検証にお誘いいただけるとまでは思わんかったがの?」


 成る程、機密性の高いアトランティス製パワードスーツなら海底でさえも苦しまずに進めると。
 しかし神格の出張ってくる領域に至るには少し心許ない。
 そこは先任の私がサポートしてやらないと。


「こうやってこのメンツで行動するのっていつぶりかしら?」

「空の試練以来?」

「そこにワシは参加出来て居らなんだが」

「じゃあきっと初めてね。クラン達成の時以来とか随分と前じゃない?」

「ワシの方の都合がつかんですまんのぅ」

「それ以外だと空の試練でご一緒したくらいだし?」

「だねぇ、途中からマスターの無茶振りに付き合わされて大きく距離を取られてしまったから。ね、マスター?」

「無茶振りだなんて身に覚えがないなぁ。確かにアキカゼランドの件では大変お世話になりました。クランイベントだとしても、期間を過ぎても撤退せず、長々と皆様のご負担をかけたこと心よりお詫びいたします」

「どこかで聞いたことのあるような謝罪文ね?」

「この人いつもこうよ?」

「なんじゃ、まだ同じ定例文で誤魔化しておったのか?」

「呆れた。もっと誠意を込めて謝らないと。僕のようにね!」

「そういうあんたはテンプレートのバリエーションが多いだけじゃないの。込めるのは誠意じゃなくて気持ちよ。男ってほんとそこんところ分かってないんだから」

「ガーン!」


 相変わらず切れ味の鋭いランダさんの返しに流石のジキンさんもグロッキー寸前だ。いつも思うけど、この人Mなのかな?

 私はここまで言われたら落ち込んでその日のご飯すら喉を通らない自信がある。なのにこの人ときたらどんな言葉ですらコミュニケーションが取れるのが嬉しいみたいな感じだもの。
 ダグラスさんに至っては私に同意してくれている。
 というか、貴方の奥様はイエスマンでしょう? ファンというか、信仰みたいなのすら感じるし。
 どこのご家庭もうちの家庭のことを言えないじゃない。


「それじゃあ、あなた。案内よろしくね?」

「うん? 先導が私なの?」

「そうよ、アキエから聞いてない?」

「一応は聞いてるよ。ベルトが巻かれたから助けて欲しいと」

「それ、私達全員なのよ」

「へぇ?」


 ジキンさんの方を見やると、毛に覆われたお腹の下に確かに薄黒いベルトが巻かれてる気がした。
 ようやくというか、いよいよというか、もしかしてベルトを巻かれるタイミングって優先順位が決まってて一番条件を満たしたプレイヤーから順に選抜された感じ?
 以降は基準が下がっていって、誰もがそのチャンスにぶつかると言うことか。

 そう考えればこのメンバーにお声がかかるのも無理はない。
 空の試練をご一緒したメンバーの他に、金属類に魅入られた幼馴染。
 最後が意味不明だけど、まぁ貰ってしまった以上仕方ないだろう。


「それじゃあ近隣の図書館から巡ろうか」

「それはもう行ったわ。ファストリアのミニゲームの先にあるところでしょ?」

「あれ? すでに回ってたの?」

「当然です。僕が居ますからね。配信見ましたよ、当時以上にめちゃくちゃな軌道で視聴者さん置いてけぼりだったそうじゃないですか」

「だって、あれ私が何もできない頃のやつでしょ? 今の派生スキルは60。5つの頃と比べられても」

「まだ60しかないのが不思議なのよね」

「なんでみんなそういうことを言うかなぁ」

「正直、アタシやアキエは100を超えてるからね?」


 うんうん、と頷く妻。え、そうなの?


「僕も80はあるよ」

「戦闘ビルドであんたは少なすぎなのよ!」

「ガーン!」

「ワシも100と少しじゃな。ほぼサポートじゃが、アトランティス陣営に入ってから数十ほど伸びたぞい。お陰で鍛治の熟練度が200を超えたわい」

「私は半分くらい生産スキルだけど、それでもパッシブ含めて100と少しよ。やはり派生が大きいのは戦闘スキルよね。魔法なんか特に種類が豊富なイメージよ。イメージって結構大事よね?」

「戦闘スキルかー、私のスキルは全部パッシブだしねぇ。写真を撮るのをメインにしたからその差かな?」


 それぞれがお互いに違う分野のスペシャリスト。
 パッシブ極の私、戦闘ビルドのジキンさん。
 バランスタイプの妻達、そしておかしなことを言い出した幼馴染。みんな違ってみんないい。それが自由度の高いMMOの遊びの本来のスタイルだ。

 サラッと聞き逃しちゃいけない事を聞いたけど、本人が語るまで無理に聞くのはやめよう。
 あの人はドヤりたいだけだろうし。
 ただ、娘のシェリルだったら何がなんでも欲しがるだろう。


「そういえばダグラスさんベルトは?」

「これじゃ」


 パワードスーツに一体化されたそのベルトは、ほんのり闇に染まって居た。うん、間違いなく魔導書関連。
 ご愁傷様シェリル。というか、全員魔導書関連だった。
 どおりで私が先導役に選ばれるわけである。


「ちなみに誰か魔導書の種類が判明してる方は?」

「それをこれから聞くために今日ここへ集まったんじゃないの」

「そうよ、あなた。結論を急かさないで」

「生憎と、何故僕に巻かれたのかさっぱりだ」

「ワシも詳しくは知らんのう」

「成る程ね。じゃあ断片集めから行こうか。ファストリアのミニゲームの方は終わったんだよね? じゃあもう一つ、どぶさらいの奥はまだだよね?」


 全員が嫌そうな顔をする。
 ジキンさんに至っては正気か? と両肩を抱いた。
 ダグラスさんはここぞとばかりに自信作を披露したがるが、手狭なのでここで起動するのはやめてくださいねー?

 ごちゃごちゃと何か言い出す前に、私はファストリアのギルドからクエストを受注した。
 パーティを組み、あっという間に終わらせる。
 領域展開からの掌握領域でゴミを選別して手中に収めたのだ。

 ズルをした事によるブーイング(主にジキンさん)が激しかったが、先に嫌がったのは誰ですか。
 いつの間にかしれっと参加して居たスズキさんを伴って、私達はミニイベントを最速でクリアしていく。

 そして図書館で全員が断片を手にし、彼らの幻影と思しき者が名乗り出た。
 そこには様々な形状の男女がおり、困惑とも畏怖ともわからぬ瞳で相対していた。

 今頃正気度ロールの時間だろうか?
 私はこたつの中でスズキさんに出された海の香りがするお茶を啜って妻達を見守った。
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