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5章 お爺ちゃんと聖魔大戦

418.お爺ちゃんのドリームランド探訪28

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 早速手に入れた水神クタァトを流し読みする。
 普通ならその冒涜的な内容に正気度が削られそうなものだけど、怪奇なる水棲生物の妙と言っても、グロさでガタノトーアさんを上回るものでもないし、狡猾さでバグ=シャースを上回ってこない限りは物怖じはしない。
 せいぜい会ったことのない遠い親戚に会う程度の難易度だ。
 正確な位置はさっぱり分からないが、聖典武器よろしく魔導書で釣りをしながら探すことにする。

 アーカムシティから少し離れた場所にあるビーチから海に入ろうとした時、私に呼びかける声があった。金狼氏である。

「爺さん、少し待っちゃくれねーか?」

「あれ、金狼氏は天空の試練はクリアしてたよね? 海はまだ苦手だったり?」

「そうじゃねぇ。このまま着いていけば俺は爺さんにおんぶに抱っこだ。活躍もないまま終わる予感がするのよ」

「わかるくま。実際今も流されてる感じするくまね」


 兄弟でわかってる感じなんですかね?
 ちょっと疎外感を感じつつ、スズキさんにも話を振る。


「そうなの?」

「|◉〻◉)男の子ですからね。ハヤテさんより目立ちたいとかそういう感じじゃないですか?」

「そんなガキみたいな理由じゃねぇ。ただ、こういった冒険は自分の手で開拓していくもんだろうが。浪漫つーかな、親父が爺さんに求めた部分を俺たち兄弟もまた感じとってるのよ。つーことで俺はこっからソロに戻るわ」

「おや寂しい。せっかく巡り合えたのにね。まぁ困ったらいつでも頼ってくれて良いから。ログインしてればね。陣営チャットもあるし、場所を教えあって他のメンツとも挨拶しといて損はないよ」

「わかった。じゃあ、くま。俺は先に進むわ」

「バイバイくまー」

「おう」


 そう言って金狼氏はアーシェ君を小脇に抱え。そのままどこかに飛んでいってしまう。


「いやぁ、若いって良いね。青春を謳歌しようって気概に溢れてる。ね、くま君?」

「くまー」

「これは同意の鳴き声かな?」

「|◉〻◉)多分曖昧な返事だと思いますよ」

【草】
【まぁ俺も金狼の気持ちわかるよ】
【確かにアキカゼさんと一緒だと全然活躍できないもんな】

「そんな事ないでしょ? もりもりハンバーグ君とか超活躍してたよ? 私は見学ぐらいしかしてないもの」

【あれと比べられるのもまた酷っつーか】
【あの人なんで今まで表に出てなかったのってくらい有能だよ】
【そりゃアキカゼさんが前にいるから目立たないだけかと】
【シェリルでさえ出番喰われるからな】

「本人は案外そんなこと思ってないかもよ? それよりくま君」

「くま?」

「水中で呼吸は大丈夫?」

「大きくなるので平気くま!」

【ムー特有のチートで草】
【どざえもんさんのあれは酷かった】
【ビームとかそういうのに耐性無いだけで大概おかしい性能してるよな、ムーって】
【数を率いるスタンピード、ソロ特化のグラップラー、物理魔法の精霊使い。そいつら揃って身体の拡大縮小が自在とかどんだけっていう】
【この世界くらいに馬鹿でかくてようやく活躍できる陣営だよ】
【陣営入ってないとこっちくるの厳しいのってそういう?】
【じゃねーかなって話】


 コメントを流し読みしつつ、アール君のナビゲートで巨大化したくま君が私の後に続く。
 歩くたびに海の中がかき回されて海中が濁って仕方ないけど、私は海中内の視界が抜群に良いので問題なく進んでいく。
 魔導書の導くままに、海底を進み。
 そして一層反応があった場所へと誘われた。


「ここかな?」


 いわくありげな祠。
 周囲には珊瑚礁が祠を守るように群生し、海の上からではなかなか見つけられないようになっている。
 近づいて調べようとゆっくり進んだのがいけなかった。
 そこはくま君の進行方向であり、私が立ち止まった理由をアール君に伝え損ねたものだからくま君の右足が祠にクリーンヒットする。
 砕け散る祠。泥と海水が入り混じり、瓦礫がキラキラと海の中を舞った。


「くまー? 何か蹴ってしまったくま?」

【無自覚か!】
【お前の足元で重要文化財が砕け散った件】
【あれって水神クタァト関連の祠なんですか?】

「一応魔導書の反応は強かったけど、調べてみるまでは分からないよね」

【ぶっ壊れてしまってますが?】

「リポップするのを待つさ。どうせ壊すハメになるんだしね?」

【壊す前提で草】
【壊したがってるのは聖典の方だからなー】
【戦わないと分からないところもあるし】

「申し訳ないくま。次からは首だけ上に伸ばす感じにするくまね」

【ろくろ首かな?】
【海流で流れない?】
【首の骨折れそう】

「平気くま! こう見えて鍛えてるクマよ」

【鍛えたところで魚に食いつかれてお陀仏になりそう】
【水中呼吸覚えようぜ?】

「|◉〻◉)青いドリンクの出番かな?」

【それが手っ取り早いかな~】

「ちょっとうちのマスターに変なの飲ませないでよ?」

「飲ませるんじゃないなら大丈夫かな?」


 以前、聖典陣営の幻影たちに施した青いドリンク+くま君+アール君を選んで合体!
 彼らに一時的に海中機能の効果がつく。


「ちょっと、了承してないわよ!」


 もちろん勝手にやったものだから怒り心頭のアール君。
 彼女の場合、事前に説明しても話の腰を折りそうな気もするのでひとまとめにやったのだけど、案の定怒ってしまった。
 しかし反面くま君は感謝を示す。


「アール、落ち着くくま。海の中での呼吸云々は今後助かるくまよ。ここはお礼を言うところくま」

「チッ、命拾いしたわね。マスターが許してるからって全てが許されるわけじゃないんだから!」

「|◉〻◉)ハヤテさん、この子銛で突いて良いですか?」

「ダメ。大事なお客さんをいじめないの」

「くまー、うちの幻影が迷惑かけるくま」

「なんのなんの。迷惑かけてると言う意味ではお互い様だよ」

【どっちもどっちだしな】
【アキカゼさんほど周囲に迷惑かけてる人なんてそうそう居ないしな】
【徘徊するラスボスだし?】

「誰がラスボスですか、まったく。さて、復活するまで暇ですね。スズキさん、コタツでも配置して少し休憩しますか?」

「|◉〻◉)はーい」

【海の中でコタツって毎回シュールだよな】
【もはや誰もツッコミを入れなくなった件】
【じゃあ何なら合うんだ?】
【まず海底で休憩しようなんて発想が出てこないから】
【そして各自お食事タイム】
【普通に汁物食べるアキカゼさん】
【いつもの風景ですね】
【海の中でお茶が飲めるんだぞ? 野暮なこと聞くなよ】

「海中で食事できるのは常識でしょ? 結構前から常識なので今更驚かれてもね?」

【その常識、俺たちの辞書にはないんで】
【この人の常識、どこの基準なんだ?】
【そりゃ神話生物っしょ】
【コンブwww】
【海藻に草生やすな】
【藻なんだよなぁ】


 そんなこんなで時間を潰せば、一時間もしないうちに祠が復活する。さて、探索パートの始まりだ。


「くま君、準備はいいかな?」

「オッケーくま」

「スズキさん、要警戒で」

「|◉〻◉)ゞアイアイサー」

「アール、なるべく怒らないようにくま」

「なんであたしだけそういう心配なのよ!」

「そういうとこくま。アキカゼさんに迷惑かけてることをもっと自覚するくまよ?」

「こればっかりは性分よ。気に入らないの、邪悪な存在が」

「|◉〻◉)ハヤテさんが邪悪とは聞き捨てなりませんね?」

「はいはい、喧嘩しないの。邪悪かどうかは行動を見てわかってもらうしかないよ。アール君もそれで良いかな?」

「ええ、そうするわ」


 このツンツンしてる感じが幼少時のシェリルを彷彿とさせるんだよね。本人は素直になるタイミングを見計らってるけど、周囲を勘違いさせたまま時間ばかりが過ぎていくんだよね。

 まぁ一般人と魔導書の幻影じゃ時間の概念すら違いそうだけど。そうなるとこの子のツンは筋金入りということになる。
 くま君がもっとリードを引けるようになれば良いんだけどね。
 そこはこれから考えれば良いか。

 祠の中は藻がびっしりと巻き付いて一見して何かが封印されてるようには思えなかった。
 偶然できた空洞に、藻が入り込んでしまった空間。
 が、魔導書がその中心に強く反応した。


「この藻の中心にお目当てのものがあるくま?」

「予感ではそうだね。問題はどうやって取り払うかだ。先ほどのような力技でいった場合、もろとも崩れ去る覚悟だけはしておいた方がいいかもね」

「細かい仕事くまね? そういうのは得意くま」


 くま君が胸をドン、と叩きながら自信満々に答える。
 そして爪を細く伸ばしながら鍵爪の様にした。


「くーまー」

 
 それをぐるぐる回しながら藻を絡め取っていく。
 体の一部を巻き芯に見立てて巻き付けていく。
 くま君にしては意外な解決策だ。
 彼の場合どうしても前の肉体を思い出すからね。
 そのイメージ像がコメント欄でも乱立した。


【お、くま汚名挽回か?】
【汚名は返上しろ】
【挽回するのは名誉な?】
【くまは汚名しかないからあながち間違ってないぞ】
【ネタにマジツッコミ恥ずかしくない?】
【くまが活躍してる現実を認めたくない勢は一定数いるからな】
【風評被害待ったなし】
【あれって勘違いだったんだろう?】
【PK?】
【それ】
【それとは別にヒールキャラとして確約されてるからなー】
【本人もそれを認めてる所あるし】


 コメントの内容は概ねそんな感じだ。
 その一方でくま君の策が見事にはまり、祠内の藻は一掃された。お陰でくま君は藻まみれになってしまったが。


「マスター、間抜けだぞ?」

「アールもこれ解くの手伝って欲しいくま」

「やれやれ、困ったマスターだの」


 そう言いつつも助けるアール君。
 なんだかんだ主従の関係は良好なんだよね、この二人。
 口調こそ激しくぶつかり合って入るけど。


「|◉〻◉)この像が水神クタァトですか?」

「蛇、もとい水龍のイメージですかね?」

「|ー〻ー)弱そうです。ハヤテさんが相手にする程のものですかね?」

「弱いかどうかは戦ってみるまで分からないさ。それに戦うだけがこの神格の全てでもない」

「|◉〻◉)グラーキの様に仲間に引き入れられると?」

「祠の中にいるんだ。その可能性も捨てきれないね。もりもりハンバーグ君の良い手土産になる」

「お待たせくま」


 くま君の準備も整った様だ。
 私はミノとトンカチを持って、祠ないをトンテンカンと削り取る作業を開始した。
 くま君は爪を尖らせてガリガリと削ってくれている。


「何よこれ?」

「|◉〻◉)おやおや、分からないんですか? かのネクロノミコンの幻影ともあろうものが?」

「うっさいわね。あたしにだって分からないことの一つや二つくらいあるわよ!」

「|ー〻ー)見てればわかります。きっとびっくりするものですよ」


 なんだかんだ幻影同士は仲良さげなんだよね。
 犬猿の仲だけど、取っ組み合いの喧嘩をするまででもないっていうか。
 スプンタ君ほどは拗らせてない。
 もっと仲良くなれたら良いよね。
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