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5章 お爺ちゃんと聖魔大戦

393.お爺ちゃんのドリームランド探訪5

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【なんか、でっかい木?】
【え、これだけ?】
【もっとヤバいもんが出てくると思ったわ】


 コメント欄で感想が並ぶ様に、森の開けた場所にはマナの大木以上にどでかい木が生えていた。
 でも待って、こんなに大きいなら森に近づく前に分かるはずだよね? 遠目で見た時は全然そういう感じはなかったはずなのにね。


[ふむ、霊樹か。実際に見るのは初めてだな]

「さすがナイアルラトホテプさん、博識ですね」

[知っているとも。なにせアレらは我から身を隠すのに長けておるからな。初めて見るのもそう言うことよ。存在自体は手駒を使って知っておるが、我が探すとその姿が確認できなくて困っておったところだ]


 つまらなそうに吐き捨てるナイアルラトホテプ。
 それってつまり、聖典側の重要施設って事じゃない?


[その口ぶりだと散々煮湯を飲まされてきた様に思えるが、何か感想があるのではないか?]

[燃やし尽くしたい]

「あ、はい。利害関係は把握しました」

【これは完璧に聖典陣営の重要拠点の一つですわ】
【しっかしなんでそんな場所がこの人たちを呼び出しちゃったんかね?】

「|◉〻◉)多分このコタツがセーフゾーンになってるからじゃないですか? 副次効果で邪気を抑える効能があります」

【それだ!】
【それと武装に聖典の武器がくっついてるからでは?】

「あー、そう言えば強奪したままだったね」

【本人が忘れてるってなんなの?】
【嘘やろ? 今さっきのことやで?】
【名前が食べ物の人かわいそう】
【とろサーモンぐらい覚えてあげて】
【炙りとろサーモンて美味いよね?】
【勝手に炙るな!】
【そのコタツ、ラスボスが三人乗ってます】
【ラスボス+マスコット】
【冒涜的なコタツだな】
【空飛んでる時点で怪しさ満点なんだよなぁ】
【聖典側にとって空飛ぶくらい普通だから】
【それもそうやな】


 つまりはそう言うことだろう。
 私達は無邪気な存在として迎え入れられたのだ。
 それとも動物霊が見えてるのも起因してるのかな?
 ちょっとシェリルにも教えてやるか。


アキカゼ・ハヤテ:さっき気がついたことなんだけどね、現地動物をスクリーンショットで写して霊体が宿ってる存在を見つけたら、マナの大木よりビックサイズの霊樹と言う存在に呼び出されるらしいよ。これナイアルラトホテプ情報。

シェリル:どういうこと!? って言うか父さんこっちに居るの?

アキカゼ・ハヤテ:居るよ。


 これだけ伝えておけば良いだろう。
 って言うか通じるか不安だったけど普通に通じたね、個人チャット。聖魔大戦参加時は全く使えなかったのに。
 もしかしてクリア者にはその手の制限は解除されるのかな?

 いつでも元の次元に帰れる銀の鍵の副次効果なのかもしれないね。このアイテム、カメラ以上に謎が多いから。
 次元をつなぐ鍵としか説明なんだよなぁ。
 ちなみに私が個人チャットを閉じた瞬間、シェリルからの返事は一切来なくなった。


「|◉〻◉)ハヤテさん、今何かやってました?」

「ちょっと娘にアドバイスを。放っておくとこの人全部燃やしそうだから」


 ナイアルラトホテプに向けて指をさす。
 スズキさんが、あーと短い返答をした。
 たったそれだけなのに、ナイアルラトホテプが何やら御立腹の様子だ。


[不敬だぞ、人類!]

[落ち着けナイアルラトホテプよ。この者はとっくに人類の枠を超えておる。なんなら余と同等かそれ以上に格が上がっておるぞ?]

[そこまで認めるのか、あの暴君が]

[昔の話だ。彼に出会うまでのイキっていた自分が情けない]

「そうですよ。貴方の結界もなんだかんだ破ったんだし、そろそろ私の実力を認めても良いのでは?」

[そこが一番の謎なのよな。人類の力であの結界が破れるはずがないのだ。制限時間がかけられているタイプとは言え人類に破られるものではなかったはずだ]

[まずはその認識から捨てなければならぬな。この人物は人の皮を被ったまま余の異能を扱う。鷲掴みや領域展開、掌握領域まで意のままだ。そちらの結果も余の能力にまでは適応しておらぬだろう?]

「照れますね」

「|◉〻◉)ひゅーひゅー」

[ぐぬぬ。それほどまでの力を有しておるとは。どうりで父上が気にいるわけよ。それよりもだ!]


 ナイアルラトホテプがドン、とテーブルを叩く。
 きっと叩き割るぐらいの威力で放ったであろう一撃は、こたつの上のみかんを籠から落とすくらいの威力に抑えられ、しかも転がったみかんが何故かナイアルラトホテプの口にホールインワンした。
 その様子を見てスズキさんが肩を震わせて笑っている。
 クトゥルフさんに笑っては失礼だぞと嗜めつつも笑いを堪えられない様だ。

 私は2Pカラーの自分の間抜けな姿を見て苦笑いを浮かべるだけだ。
 このみかん、スズキさんの操作だな?
 そもそもこの世界にみかんがあるって聞いたことないんだよね。じゃあオレンジジュースはどうやって作ってるって聞かれたらそれもよくわからないとだけ。
 みかんにそっくりな味の果実があるんだろうね。

 でもここまでリアルに即したみかんがあるとはパープルや妻も知らないらしい。
 そもそもコタツを作って入るなんてわざわざゲーム内で行う人も居ないんだとか。
 そういう意味でもスズキさんは謎が多いのだが、突っ込んだところでボケ倒して有耶無耶にしてくるのが目に見えているのでこの話は一旦端に寄せておくか。


[くそ、ここまでコケにされたのは初めてだ。そこの幻影よ、クトゥルフの寵愛を受けているからと調子に乗るなよ?]

「|◉〻◉)あ、僕はハヤテさんの専属なんで。文句があるならハヤテさんに言ってください」

「えー、私にとばっちりが来るの、これ?」

[フハハ、一本取られたなナイアルラトホテプよ。ウチのルリーエは分身してコレはそのうちの一つよ。アキカゼ・ハヤテによって染められてしまった個体でな。余でも制御が不能と来た]

「私だって持て余してますよ」

[だ、そうだぞ?]

「|>〻<)あぁん、みんなしていじめるぅ」

【元凶が何か言ってるで?】
【本人に自覚ないってヤバいやろ】
【つまりリリーちゃんは複数いるってことか】
【曲解すればそうなるな】
【え、ルルイエ異本のマスターになると違ったタイプのリリーちゃんに逢える?】

「|ー〻ー)ふふふ誰が僕を一番理解できますかね?」

[こんな破天荒な性格の存在、人類では振り回されておしまいではないか?]

[言ってやるなナイアルラトホテプ。この子にとって自我とはそれだけ重要なのだ。おおよそ元の人物像からかけ離れすぎて余も同一人物と認めるのに苦労した程なのだぞ?]

【草】
【クトゥルフ様すら困惑してたんじゃねーか!】
【リリーちゃん、変わりすぎ案件?】

「|◉〻<)一皮剥けました!」

【脱皮かな?】
【魚って脱皮するっけ?】
【甲殻類はするな】
【昆虫の方はするって聞くが、魚もするの?】
【知らん】
【それより霊樹の方どうなった?】
【ナイアルラトホテプ様の人権無視パンチが発動した時点で森の前に移動したのは確認した】
【草】
【邪悪な存在だって速攻バレてるじゃねーか】
【招いた存在が想像の斜め上すぎたんやろなぁ】
【まさか邪神が二柱も揃ってるとか思わんやろ】
【罪なコタツやでぇ】
【結局何やったんやろな、あの大木】
【そりゃナイアルラトホテプをして燃やしたい事をやらかす木やろ】
【内訳を聞いてんの】
【聖典さんの答え合わせ来るまで待機やな】
【とりもちに期待、出来るか?】
【実際アキカゼさんもコタツから出たら相手されないんだし一緒じゃね?】
【それ。クトゥルフ様から邪神認定もろてたし】

「ひどい話だよね。私は趣味で写真撮影に来ているだけのただの年寄りなのに」

【本人にまるっきり自覚ないのがリリーちゃんと似てるよな】
【やはりリリーちゃんの育ての親がアキカゼさんなのでは?】
【最初からそうだって言ってんだろ】
【クトゥルフ様すら困惑させてたらしいし?】
【さすが俺たちのアキカゼさんだぜ!】


 都合のいい手のひら返しをするコメント欄をスルーし、すっかりコタツでくつろいでる邪神たちに話題を投げかける。


「そう言えば、さっきの大木。無視して良かったんですか?」

[一度見失えば外界からでは二度と観測できない異空間にあるからな]


 ナイアルラトホテプは諦めろと言わんばかりみかんの皮を剥いてから口に入れていた。さっきあれほど忌み嫌っていた食べ物だったのに、今はもうすっかりお気に入りじゃないの。
 しかし見つけ次第燃やすと執念を燃やしていたのに、そんなすぐ諦められるものなのかね?


「ちなみにその異空間、一度繋がったことがあればもう一回繋げることは可能だったり?」

[向こう側の主人に認められればな]

「なら私が一走り行ってきます」


 コタツから降りて、領域をしまって置いて今まであまり使ってなかったリフトボードを取り出す。
 ただ浮くことに特化したスキルだ。


「|◉〻◉)あ、僕も行きます。マスコット枠として」

「あ、急に乗っかるとバランスが」


 一人乗りのところにピョイと乗って私の背に捕まるスズキさん。その光景を邪神二人が生暖かく見守っている。
 コタツの中で。なんというシュールな絵面だろうか。


【アキカゼさんサーフィンお上手】

「昔これで慣らしていたからね」

【すげー】

「|◉〻◉)でも本当は?」

「画面の向こう側のゲームでだよ。って冗談はさておき、向こう側からの動きあった?」

「|◉〻◉)…………特には」

【ダメじゃねーか!】
【やっぱり聖典の武器が必要だったんじゃ】

「ああ、そう言えば」


 再び領域を広げて、ブチブチっとコタツにくっつけたとろサーモン氏の必殺コンボをスキルのリフトボードにくっつける。


「よし、これでいいだろう!」

「|◉〻◉)わー、派手なアクセサリーが付きましたね!」

【これ絶対バカにしてるだろ】
【リリーちゃんいつの間に魚の着ぐるみきたの?】
【そういやそうじゃん。早着替えかな】

「|◉〻◉)呼んだ?」

【口の中から顔を出すな】
【軽くホラーなんだよなぁ】
【そんなにビチビチさせた着ぐるみ始めてみるぞ】
【それ】
【正体明かしてからよりフリーダムになったな】

「この人最初からそうだよ? っと、食いついた」

【釣りかな?】
【あながち間違ってないんだよな】
【逃げてー、かかったのはラスボスよー】

「|◉〻◉)じゃあ僕はくっついたアクセサリーの上で踊ってますね。あ、僕のことはお構いなく。ハヤテさんは任務に集中してください」

【草】
【無理やろ】
【こんなに非常識な同行人見たことないわ】

「私と出会った時からスズキさんはこうだったよ? と、繋がったみたいだね? じゃあこの領域を掌握してっと。はい繋がった。クトゥルフさんを呼ぼうか」

【え、もう?】
【やってることが邪悪なんですがそれは】
【クトゥルフ様の後継人だしなぁ】
【そういやそうだったわ】

[ぬっ、本当にやり遂げるとは]

「まぁ結界なんて貴方の施したものと似たような者でしょ?」

[あの規模の結果と比べられるのは癪だが、扱う神格によってはチャンネルの違いくらいだしな]

[ふむ。余は結界について詳しくないがそうなのか?]

【クトゥルフ様は拠点を守る必要ないもんね】
【そりゃ領域ないの取っ替え引っ替えできれば結界張る必要ないし?】
【ニャル様みたいに表に出ないで暗躍してる人は重宝しそうだよな】

[そこの人類、不敬であるぞ?]

【ぐえーー死んだンゴーー】
【口が滑ったな、哀れな奴め】
【ログイン権失効痛いよなー】
【再ログインすればワンチャン】
【ゲーム世界の時間は加速されてるから少しのログアウトが命取りなんだよな】
【だいじょうぶ、アキカゼさんならアーカイブ化してくれるはず】
【何の大丈夫かわからんが、ログイン権は消える件】
【草】
【そして燃えとるーーwww】
【霊樹大炎上!!】

[せいせいしたわ、そしてよくぞやったぞ。褒めて遣わそう]

「取り敢えずあれって何の役割があったんですか? 犯罪の片棒担がされたんで理由くらい聞いてもいいですよね?」

【お、重大な役割が発表されるか?】

[大したものではないがな。あれが生えてると我父上の影響力が阻害されるのだ。一本消したくらいではたいして効果はないが、この調子で潰して回れば我の仕事も随分としやすくなるであろう]

【クッソ身内のネタで草】
【アザトース様の利害関係だったかー】
【でもそれって他の邪神、もとい神格にも影響あるってことじゃね?】

[そうだな。ヨグ=ソトースやクトゥルフのような神格の侵食にも大きな阻害効果を持つ。もう一つの陣営、ここでは聖典と呼ぶか。そいつらがここの土地で活動する上でなくてはならぬ拠点となる場所だな]

「それがないとどうなるんですか?」

[この歪な空間で人が住める環境を生み出すのに一役買っているのがあの木よ。空気や水といった人類が生きていく必要な元素を賄っていると言えば良いか?]

【めちゃくちゃ重要施設で草】
【これ燃やしちゃヤバい奴だったのでは?】
【人類の希望やんけ】

[我の知ったことではないがな]

【さすが邪神様ですわ。人類に何の興味も持ってない】

[本来なら我らのような邪な存在を退ける結界を築いておるのが聖獣のようなモノであったが、今回は見つからなかったな]

【聖獣……あっ】
【もしかして聖獣ってさっきとろサーモンに預けたあれか!?】
【あーあ】
【これやっちゃいましたね】

[流石だなアキカゼ・ハヤテ。我の考えを事前に汲み取って行動に起こしていたとは]

【なんかうまいことまとまった!?】
【さっきからニャル様からの好感度上がりすぎじゃね?】
【どんだけ煮湯飲まされ続けてきたんだ、この人】

[ほう、人類め。言うではないか]

【あ、死んだなあいつ】
【ふぁーーー】
【死ぬ? ワイ死ぬ?】

[だが今の我は機嫌が良い。特別に許してやっても良いぞ?]

【許された!】
【おめでとう!】
【おめでとう!】
【些細なコメントで死ぬのも大概だけどな】


 何か知らないけど許された。
 でも犯罪の片棒担ぐ理由は一切明かされなかったのだけが気がかりだ。
 ようやく踊り飽きたスズキさんが私の元にやってきて肩ポンする。


「|◉〻◉)取り敢えず元気出しましょ。終わったことは気にしても仕方ないですし」

「ま、それもそうか」


 何かのやらかしだなんて今更だしね。
 取り敢えずシェリルに近隣の霊樹は燃やしたことを報告しておいて、連絡は取り合わないことにした。
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