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5章 お爺ちゃんと聖魔大戦

370.お爺ちゃんと聖魔大戦15

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 グラーキは恐るべき見た目で我々を牽制する。
 図体の大きさはさることながら、その脅威を表すのはやはり大きな口だろう。

 中には噛み砕くというよりは引き裂くような牙が無数に生え並び、吸い込まれたら生きて出られないだろう過酷さを想像させる。
 そのほかに特徴的な外見と言えばチョウチンアンコウのように突き出た突起の先にぎょろりとした目玉がある。
 手足の類は見えず、ナメクジのようにヌメついた体表から剣山のような無数の棘が生えている。
 伝承ではその棘を伸ばして特殊な分泌液を流し込むと彼の眷属になると言われている。
 それこそがゾンビのような生命体。
 明確にはゾンビとはいえないが、手足のないグラーキのために働く奉仕種族のような位置づけにされる。

 奉仕種族になった暁にはそれぞれの知性を宿しつつ、グラーキのために働く駒となる。
 今我々に課せられた使命は寝起きで混乱している彼に再び眠りにつかせるか、永遠に眠りにつかせるかの二択。

 陣営によって解決方法が異なるのは成り立ちによりものだから仕方ないとして、問題はどのように決着をつけるかだ。
 どちらにせよ怒りの原因を突き止めなければならない。

 まず彼のシルエットをよく観察しよう。
 どうみても海産物の名残が見えている。
 だがしかし彼が現れたのは地表である。
 現れたというよりは召喚されたという方が正しいか。
 ではなぜここで召喚されたについて考えよう。

 いや、答えはもう出ている。
 私は首に提げているカメラに注目した。
 原因はこのカメラにある。
 このカメラで風景を撮った時、同時にその眠りについていた存在ごと確保してしまったのではないか?
 もちろん全く的外れかも知れないが、思い当たる節が多すぎた。
 そしてプレイヤーにだけ伝わる気配。
 きっと召喚の鍵はその存在の幻影なりを目視した人数によるのだろう。

 が、起きたと同時に機嫌が悪いのは私にも全くわからないことだ。もしかしたら覗いた人数の他に、どの陣営に所属してるかでも状況が変わるのでは?
 彼、グラーキにとって人類とは忠実な僕足り得る駒である。
 我々魔導書陣営なら「分かる分かる」と仲をとりもてただろう。
 が聖典陣営ならば?
 必ずこの邪智暴虐なる悪性を許しては置けないと牙を剥くことだろう。

 うん、そうなると彼の機嫌が悪いのはこの場に五人もの嫌な人達がいるからだ。嫌と言っても天敵と言えるほどのものではない。グラーキにとっては相手をするのが面倒くさいだけである。
 ただでさえ寝起きで、手札も足りない。
 やりたいことも定まってないのに、こうも厄介ごとが降って湧けばイライラも募るだろう。


「ふむ」


 顎に手を置き考えを纏める。
 と、なれば言いくるめるにはまだピースが足りない。
 彼が求めている『何か』手がかりが掴めないことにはね。

 が、その前に。こちらと向こう側で意見が割れることは目に見えている。ここは一つ先手を打っておこうと呼びかける。


「ところでシェリル」

「なに? 今忙しいのだけど」


 全ての攻撃が通じず、イラつく娘は態度も隠しもせずに私に噛み付く。
 うん、タイミングが悪かった。


「いや、分かってるけど。そもそもあれを討伐する云々の前に、こっちの攻撃通じてないよね?」

「分かってる事をあえて言われるのは癪だわ。それでなにが言いたいのよ?」

「ああ、いや。君達の割り振りステータスの中に浄化とかあったじゃない?」

「……あるわね」


 少し間を開け、シェリルは居住まいを正す。
 あるにはある。でもそれがどうしたと言わんばかりだ。


「あれって、単純にプレイヤー同士がぶつかり合うためだけのものかな?」

「なにが言いたいの?」


 単純な話だ。
 私たちに割り振られたステータス。
 それらの用途が各陣営でいがみあう為だけのものだとはどうしても思えないのだ。

 たしかにこのゲームには当初それらしいステータスの類はなかった。
 だからこそプレイヤーはスキルに頼り切る傾向にある。
 だがここにきて、このイベントにのみ用意されたステータスがそれ一辺倒で使い回すためのものかと言われたら、きっと違うと私は思う。

 たしかに最初にもらった100ポイント。
 そして行動ごとにもらえる加算ポイント。

 果たしてそれは本当にPVPだけの為に用意されたモノか?
 なら何故、私は一切振っていない状態で侵食が伸び続けたのか説明ができない。
 このステータスはこの世界と隣り合っているどころか、この世界に直接影響を与えるものだ。
 で、あるならば殴り合う以外の持ち味だって持っていてもおかしくない。それ以外の可能性だってある筈だ。
 いや、あるに違いない。

 何せグラーキにこれと言ったLPゲージが記されていないのだから。ならばこそ、このステータスこそが重要だと分かるはずだ。
 

「私はそのステータスを用いて土地を、人を結ぶことができた。神格の召喚は私の預かり知らぬところだが、その時の協力、繋がりが多く出ていると思っている」

「……続けて」

「きっと私たちは彼、グラーキに協力を申し込むと思う」

「そうでしょうね、取り込めば大きな戦力になる。でもどうしてそれを私にいうの?」

「勘違いしないでほしいのだけどね、多分私は魔導書陣営でいる限り、こう言った怪異を仲間に引き入れることしかできないんだ」

「理由を聞いてもいいかしら」

「単純に割り振られたステータスがそっちに特化しているからだ」

「内訳を聞いても?」

「其方を明かしてくれればだけど、飲もう」

「そうね、概ねバレてるからあえて隠す意味もないわね。こっちのステータスは『聖域』『浄化』『信仰』『救済』よ」

「やはり悪に染まった人類を文字通り救済するためのステータスに特化しているね。代わりにこちらは悪そのものが揃ってる。『貫通』『侵食』『幻影』『束縛』だ」

「そう、有益な情報をどうもありがとう。で、そんな状態でもまだ協力体制を取り続けるのかしら?」

「一応名目上はね。どちらにせよ交渉のカードがない。そちらも同じで打つ手がない。そういう意味では敵対陣営でも手は借りたいでしょ?」

「父さんのそういうところ、嫌いよ」

「だろうね」


 シェリルは人間のような仕草をレムリアのボディスーツでこなす。一見人に見えるそのボディ、近づけばそうではないと分かる仕掛けだ。
 だが生粋の技術力ではアトランティスを超える。
 その姿を目視で捉えることはできず、ただ幻としてシルエットを残すのみ。
 そのシルエットはまだ人間に見えるのだからなんとも皮肉な作りである。


 交渉は決裂。いや、一時的な協力体制は取れたかな?
 後ろから刺されないが、決着がつく頃にはどっちがリソースを取り合うかで揉めるのは目に見えている。

 今回の件で向こうは拠点を潰されているので引き渡してもいいのだけど、それをみすみす許せば拠点内で袋叩きに会うのもまた道理。
 どちらにせよ私達はうまく逃げ果せる道を探したいところである。


「( ͡° ͜ʖ ͡°)向こうとはなんのやり取りしてたんだ?」

「なに、ただの親子のスキンシップだよ」

「その割には怒っていたようだが?」

「彼女は照れ屋でね。あれで機嫌がいい方なんだ」

「( ͡° ͜ʖ ͡°)歪んだ家族愛だな」

「まったく。でも素直に私の言葉に耳を傾けるようになっただけマシさ。さて我々もグラーキさんが何を気にいるか探っていこう」

「ふむ、我々は和解ルートを取るのだな?」

「( ͡° ͜ʖ ͡°)共闘と言うから一緒に討伐するのかと思ったぜ」

「それなんだけどね、多分私達は神格を仲間にすることしか選択肢がないと思うんだよ。仲違いするにしたって、どっちみち和解しか取れない」

「その心は?」

「私達の割り振られたステータスが、そう言うものだからさ。どう考えても悪の道まっしぐらでしょ? 悪を挫く気持ちがあっても、ステータスがそうさせてくれないんだ」

「( ͡° ͜ʖ ͡°)つまり、爺さんとしては一緒に戦うフリしながら隙を見てこっちの軍勢に加えるつもりだって言うのか?」

「多分うちの娘がそれをさせてくれないとは思うけどね。討伐を手伝う分には後ろから刺されたりしないよ。ただ……」

「ただ?」

「向こうの拠点になった途端、私達は袋叩きにあう。状況を見て逃げ出す準備はしておいて」

「( ͡° ͜ʖ ͡°)まぁな。行動制限がクソ掛かってる場所で仕掛けられたら俺の防御能力でも危ういか」

「向こうのステータスにはこちらのステータスの弱点をついてくるのもあるからね。尖ったステータスでも過信は禁物さ」

「概ね理解した。しかし逃げるにしたって何処に?」

「それは勿論、木を隠すなら森の中というようにゾンビ達に紛れて撤退する他ないだろう。彼を仲間にするための手がかりがそこにある筈だ。名目上は一緒に戦うふりをしながらヒントを探そう」

「( ͡° ͜ʖ ͡°)食えねぇ爺さんだ」

「だが、我々には討伐とは違う道しか標されてない以上、その思考は冷静に物事を捉えている。額縁通りに受け取ってしまうところだった。流石であるな」

「これも年の功と言うやつですよ。スズキさんも準備はいい?」

「|◉〻◉)はいはい。今相棒のトライデントを磨いてたところですよ。ふふふ、僕の華麗なトライデント捌きを見せつけてやりましょう! ふふ、ふふふふふふふふ!」


 シュッシュっと突く動作をするスズキさん。
 幻影の中で直接攻撃するのはこの中では彼女だけのようだ。

 神格憑依モードでは、幻影の立ち位置は主に補助となる。
 例えば召喚の負担を受け持ったり、術好きの祝詞の詠唱をカバーする役割などを受け持つのだが、うちのスズキさんはそんなことしてくれない。
 というのも、


[貴殿には余の能力は手足を動かすように扱えるであろう? 技も術も念じるだけで発することが出来る。故に彼女はフリーなのだ]


 クトゥルフさんからお墨付きを貰っているからだった。
 蛸のような触腕を揺らしつつ、グラーキへと向き直る。


「さて、少しお寝坊さんへモーニングコールをしてやりますか───〝領域展開・ルルイエ〟」


[ERROE:グラーキの領域に干渉する権利を持ち得ていません]

[グラーキに抵抗されました。ヘイト増大。グラーキがあなたを捕捉しました]


 さっきまで聖典陣営を開いて取っていたグラーキが、突如思い立ったかのように私に向けて身体中から棘を伸ばして突き刺さんと追い立てる。
 それをショートワープで回避……って捌き切れない!
 その量が多すぎて私を狙うようにその棘がホーミングミサイルの如く追尾してくる。
 ヘイト増大とは厄介な。
 だが、こちらにも手札はある。
 それが空で獲得した称号スキル『フェイク★』だ。

 片手間に召喚したボール/強化型にフェイク★でヘイトを押し付けて緊急離脱。哀れボール強化型は爆発四散!
 え、あれってゾンビを作り上げるための器官じゃなかったの?
 殺意高すぎでしょ。


「( ͡° ͜ʖ ͡°)完全に怒りの矛先が爺さんに向いたぞ? 何したんだよ」

「ちょっと領域展開を仕掛けただけですよ」

「( ͡° ͜ʖ ͡°)ちょっとでとんでもねーことしてるって自覚あるか? やってる事はライバル店の目の前に同じ系列の店出すような行為だぞ? 堂々と喧嘩売りに行って自覚なしとは末恐ろしいぜ」

「私でも少し気分が悪くなるな。だがグラーキの怒りようを察するに、味方を奪われるのは得策ではないのだろう。存外、甘えん坊なのかも知れぬな」


 ツァトゥグァ然とした( ͡° ͜ʖ ͡°)氏にハスターの装いをしたアンブロシウス氏。あと異色のスズキさんが遠いところから威嚇をかけている。私が死にそうにしてるそばで何やってるの、君?


「|◉〻◉)それが僕の挑発スキルが全然通用しなくてですね」

「じゃあ今度からフェイク★つけるね」

「|◉〻◉)!」

「冗談だって、そんな震えながら後退りしないでよ」


 本気にしてしまったのかいつになく表情が青い。
 まぁあんな攻撃彼女でも捌けるか怪しいもんね。
 そして捨て駒にされたボール/強化型の末路が全然笑えないものだったから冗談にもならなくて。


「( ͡° ͜ʖ ͡°)さて、向こうはこっちに考える時間もくれないらしい。爺さん、囮役は任せたぜ。俺たちは村に入って何か見つけてくらあ」

「その方が良さそうだ」


 味方二人からの援護は飛ばず、さっさとゾンビ化した住民に紛れて逃げていく。私一人を置いて。
 あと震えるスズキさんだけが私の側にいた。
 まだ顔が青いのが気にかかる。


「そんな目で見ないでよ。誰も囮になんてしないよ」

「|◉〻◉)信じていいんですか? 僕を囮にしませんか?」

「普段自分から囮役を買って出る君が珍しいじゃないの」

「|ー〻ー)自分で買って出るのと、相手からそう思われるのは違うんですー」

「そうだね、さっきは私が悪かった。冗談でも言ってはいけないことを言ったと反省しているよ」

「|◉〻◉)はい……」


 いつになく弱気なスズキさんを慰め、こちらに向かってくる棘の雨を掻い潜る次の手を探す。


「ならばこそ共に戦おう、かつての親友と共に。召喚、九尾の狐」

[召喚に応じ、馳せ参じた。主人よ、命令を]


 顔つきからして違う、頼もしい相棒を横に、幻影と共に並び立つ。


「少し彼の遊び相手になってやろうと思ってね。体はあったまっているかい?」

[何時でも可能です]

「ならば彼女の護衛も任せる」

[御意]

「|◉〻◉)ハヤテさん……分裂できる僕に護衛は必要ないですよ」

「うん、でも消滅するとき痛みは残るでしょ? 存在こそ消えずとも、辛い思いはしてきた筈だ。それを言い出してくれないから私は君をそういう存在だと思ってしまう。けど君はそれを望んでいないだろう? それがようやく今になってわかるあたり、私もまだまだだ」

「|◉〻◉)はい。本当はしたくなかったです。でも、そうでもしないと僕の存在意義がなくなっちゃうので」

「なくならないよ。君みたいな濃いキャラ、そうそう忘れられるわけないじゃない。それに、私だって人の親だ。泣くのを我慢してる子供がいれば無理をするなと抱きしめて泣かせてやる大人でありたいと思っている」

「|>〻<)はい……」


 感動のシーンで飾ろうとも、グラーキからのヘイトは取れない。躍り出る九尾君。
 しかしそんな必要はないとも。


「重力操作★+重力操作★」


 群がる棘が地面に突き刺さるように重力の力場を発生させ、その勢いで私達は飛び上がる。
 スキルの二重操作は理論上、それともう一つを掛け合わせることによって成り立つ。
 だが今回私はグラーキの棘に対して重力を100倍にし、私達の重力を-100とした。
 SPが加速度的に消費されるが、そんなものに構っている暇はない。


「召喚、山田家。状態異常の雨をお見舞いしてやれ」

[キュルルオオオオオオオン!!]


 続いてテイマー/ライダーからライダーへとシフトする。
 山田家を囮にもう一つ、ヘビーを同時に召喚。
 フィールドを縦横無尽に駆け回る古代獣を足場に、私は未だしつこく付け狙うグラーキへと狙いをつける。


「さてグラーキさん、あなたとは雑談を交えて交渉するつもりだが、その前に説教をする必要がありそうだ。うちの子を泣かせた罪は重いぞ?」


 厳密にはドン引かせた挙句泣かせたのは私だが、責任転嫁して罪を擦りつけた。その方がお互いに丸く収まるだろうからね。え、向こうはいい迷惑だって?

 あーあー聞こえなーい。
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