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5章 お爺ちゃんと聖魔大戦
363.お爺ちゃんと聖魔大戦8
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「取り敢えず、飲み食いした分の働き先を探そうか。丁度助手が不足していると思っていてね、どうだろう? どうせ君暇してるんでしょ?」
探偵さんはわざとらしく笑顔を向けると、それらしい演技で私に傘下に入らないかと話題を振ってくる。
勿論、専任助手のスプンタ君は聞いてないぞと御立腹だ。
「マスター、この男を引き入れるのですか?」
「ああ、気心の知れた相手だからね。勿論、君の仕事ぶりにも満足している。が、君は僕が言うことに真っ直ぐすぎる意見を出す。それじゃあこの商売は立ち行かない。人間とはもっと複雑な思考を持つものだ」
「その為には、少しの悪行をも許すと言うのですか?」
「彼の場合は、根っこが善人だからね。あいにくと所属が敵対者なだけで。ね、少年?」
「随分と私を買ってくれてる様だけど、私はただのお人好しだよ? 困ってる人を放っておかないんだ」
「人……だけじゃないでしょ、君の場合は?」
「うん、まぁ君たちが忌み嫌う闇の眷属にも救いの手を差し伸べてるね」
「懐の深さだけなら海よりも深いんだ、彼は。けどその中には僕たちの天敵も紛れている。それだけなんだ」
「そんなの! 許せるわけがありません!」
「どうどう、スプンタ。君の言い分も分かる。僕やゾロアスター教の定義では悪は罰する物だ。その為に正義の代行者である君や、やられ役のアンリが居るのだから」
「はい」
「でも彼の場合は少しばかり事情が違う。悪は倒して終わりじゃないんだ。何故悪事を働いたかまで事情を詳しく聞き、その不安を拭い去るまでお節介を焼く。それは君には出来ないことだ」
「はい……悔しいですがその通りです。悪は罰して、それで終わりです。その先は考えてません」
「でも人間はね、誰だって根っから悪人ではないんだよ。何故その様な行為に至ったか。それを考え、読み解くのが我々探偵業だ。実力行使も民衆には広義的に受け取られてはいる。実力主義な現実だからね。でもそれだけじゃ解決しない案件もあるんだ」
「その為にその男が必要なんですね?」
「そうだ。勿論君の淹れてくれる紅茶は僕の脳みそを程よく活性化させてくれる。僕に無くてはない人材だとも」
「はい。その言葉を聞けただけでも嬉しいです」
スプンタ君はまだ納得いってない顔だが、もう一つのテーブルでは決着がついた様だ。
お腹を張らしたスズキさんとアンラ君が、やりますねとアイコンタクトを取りながら名勝負を繰り広げていた。
積み重ねた皿の数、グラスの多さが飲み食いした多さを物語る。
どちらにせよ支払い担当の彼には至急稼ぎを確保する必要があった。今までなら自分たちでも平気であったが、食費がこうも嵩むのであれば背に腹は変えられない。
探偵さんはそんな顔で私へと話を振ってくれたのだ。
私はといえば、ここにマップ作成をしに来ている都合上、渡に船。表立って行動する立場を得られるのだ。断る理由はない。
早速今日の分の稼ぎを取り戻そうと、浮気調査やら飼い猫の捜索などに奔走して日が暮れた。
勿論、それだけではないけど。
何やらじっと寝巻き姿の私を食い入るスプンタ君が、少し照れながらこんな言葉を言う。
「まだ貴方の事は信用できてませんが……マスターが必要としているのであれば仕方がありませんでもくれぐれも勘違いなさらない様!」
バタン、と扉が力強く絞められた。
どこまでも力強い彼女らしい。
ベッドへと寝転がる。
ベッドはバネが効いていて寝藁よりも格段に寝やすい。
久しぶりに人の生活に紛れてみたが、どこか落ち着かなく思ってしまうのは私が異種族圏内での暮らしが長すぎた故か?
どこか落ち着きのない仕草で、いっしょのベッドで横になるスズキさんに笑われる。
「どうしたんですか、ハヤテさん。そわそわして。ベッドじゃ眠れませんか?」
「いや、そんな事はないよ? 私には少し高級すぎると思ってね。寝藁が恋しく感じていた」
「なんだかんだで、寝心地よかったですもんね、馬小屋」
「この身が人からかけ離れているからかな? 人の姿を保っていても拭えぬ違和感がつきまとう」
「でも、こうやってくっつけば、問題ないのでは?」
スズキさんが掌を私の背にくっつけた。
掌を通じて海の波動が広がってくる。
それがまた心地よくて、そう言えば海の気配から随分と遠いところに来てしまったなと思い至った。
「ふふ、当たりですね。僕もよくそんな気持ちになってました」
いつの頃の話だろうか?
彼女が一人でクトゥルフさんの目覚めを待つ時の話か?
それとも、もっと前か?
普段おちゃらけてる彼女が見せるしんみりとした空気。
ゲームの中とは言え、こうも気持ちが込み上がるものなのか?
「でもそんな時、ハヤテさんが僕に寄り添ってくれたんです。深海に誘った時、黄金神殿の成れの果ての風景を見ていたいと誘った時も、貴方は僕の提案を受け入れてくれた。その時の光景を思い出すたび、遠い記憶が思い出されるんです。あの人が、クトゥルフ様がどこかで貴方と重なって……って何をいってるんでしょうか、僕は」
「いや、多分そうなんでしょうね。私の中に芽生えた感情は、初めから私とは違う意識を持っていた。それがクトゥルフさんの自我なのかは知りませんが、スズキさんを放って置けない気持ちにさせてくれる。それがきっかけでした」
背中を向け合っていた状態から、顔を突き合わせる。
彼女の顔が恐ろしいほど近くて、その瞳に吸い込まれる様に見惚れた。私の中のクトゥルフさんが反応しているのかも知れない。
やがて目を瞑り、覚悟を決めた様な顔をして見せるが。
「あいて! もー、ここは少しムーディな流れが来ても良いところじゃないですかー」
軽くデコピンを放ってやると、顔を真っ赤にした彼女が悔しそうに抗議してきた。
残念ながら私は妻一筋でね。ゲームの中であろうとそれは変わらないよ。
そう言うのは私を通さず本人同士でやりなさい。
『クトゥルフ様はわかってくれないんですもん! ハヤテさんならって思ったのにー』
だからって人の体を使ってやったって意味ないでしょ?
クトゥルフさんはそれでもスズキさんを大切に思ってくれてるよ。私はそう思うんだけど。
『確かに大切にはされてますけど、もう少しボディタッチがあっても良いと思うんです!』
『君との体格差でやられるとひき肉にされるでしょ? どこを気にかけてるんじゃないの?』
『それでも触れ合いたいんですよー。ぶー』
なんだかんだと大切にされているんじゃないの。
夫婦の営みなんて他人を参考にしたって良い事ないからね。
◇
そんなこんなで一週間。
この世界に来て3週間目の事である。
私はすっかり探偵の助手としての顔が広まっていた。
そして鳴り響くアナウンスが意識をより覚醒させる。
<ワールドアナウンス:魔導書陣営が神格を召喚しました>
<聖典陣営が拠点を確保いたしました>
<魔導書陣営が他勢力の神格と協力関係を結びました>
同時に三つも鳴り響き、私に向けられた疑いの目が少しだけ緩和する。
他勢力の神格というのは我々魔導書陣営とは違うもう一柱の神格という事だろう。
何処で? 誰が?
ウィルバー君がやってくれたか?
それとも他の魔導書陣営がしでかしたか?
わからないことばかりだが、お互いにそうだ。
「少年、君。魔導書陣営の掲示板のネタを提供してくれたりなんかは?」
「流石にそれは仁義に反しますよ。彼らにも彼らの正義がある。探偵さんからしたら懲らしめる悪であろうとも。あと友達は売れません」
「そう言うと思ったよ。けど残り一週、僕たちにはこの世界に滞在する時間がない。動くなら今をおいて他はないと見るが?」
「そうですね。ですが私が君の元を離れる理由にはならないでしょ。それとも私を遠ざけたい理由でも?」
探偵さんはかぶりを振る。
私だからこそ促したのだ。やることがあるなら離れてもいいと、要はカマ掛けである。
しかしここで袂を別てば、探偵さんがフリーになる。
私はそれが怖くて仕方がないのだ。
彼は正義の代行者であるけれど、その反面非常にクレーバーな判断力を持つ。
それこそスプンタ君が尊敬の念を抱く光の信徒なのだ。
その本領を発揮させたら多分一番被害を受けるのが私の眷属達だろう。そんな事はさせられないな。
「あくまでシラを切り続けるか、少年。ダン・ウィッチ村、実は相当真っ黒だよね?」
「何故そう思うんです?」
「消去法さ。僕たちが執行してきた正義の裏側で、普通なら悪事は消えてなくならない。だと言うのにこの街はどんどんと悪が消えていっている。まるで誰かが手引きしているみたいに忽然と姿を消しているんだ。それ、君の仕業でしょ?」
「ハッハッハ、何を言いたいのかさっぱりわからないな。確かに悪事を働いた者でも更生の道はある。生きている限り失敗は誰にでも付き纏うものさ。私はその手助けをしているだけだよ」
「語るに落ちたね、少年。どうやら僕たちはここまでの様だ」
「話を急ぎすぎですよ探偵さん。何故私が悪いと決めつけるんです?」
どうやら彼の正義センサーは私を悪と断定してしまった様だ。
決めつけられてかかられたら、少し分が悪い。
「マスター、やはりこの男は?」
「その様だ、スプンタ。友情を利用されてここまできてしまった」
「おのれ、非道め!」
探偵さんの前に、スプンタ君が立ちはだかる。
あーあ、もっと穏便に過ごしていたかったのにね。
でもどうして、急に……
いや、彼はシステムを見ていた。
そして掲示板の話を振ってきた。
まず間違いなくシェリルからに伝言だな。
私と共に行動していることを知ってた彼女が指示出しをする。
それくらい見抜けない私が愚かなのだ。
どちらにせよ、友情はここに瓦解した。
陣営分けなんてするもんじゃないよ、本当。
「まったく。知ってて引き入れた君も悪いでしょ? 全部私が悪いみたいに言ってさ」
お互いに一歩ずつ後退するそしてある程度離れると腰に巻いたベルトが輝き出した。
「性分なんだ。君も知っているだろう?」
「勿論。いずれこうなると知っていた。ならない様に配慮していたけれど」
「生憎と、僕は疑い深くてね。君が今になって近づいてきた理由をずっと探してた。その理由が、見つかった。ただ、それだけさ」
お互いに探りあっていた訳だ。
もはや言葉は通じず、ここからは拳で語り合うのみ。
変身の様相。
互いに信念をぶつけ合うバトルが、今ここで始まろうとしていた。
────〝変身〟
両者の言葉がぶつかり合い、雷鳴がアーカムシティの裏路地に轟いた。
探偵さんはわざとらしく笑顔を向けると、それらしい演技で私に傘下に入らないかと話題を振ってくる。
勿論、専任助手のスプンタ君は聞いてないぞと御立腹だ。
「マスター、この男を引き入れるのですか?」
「ああ、気心の知れた相手だからね。勿論、君の仕事ぶりにも満足している。が、君は僕が言うことに真っ直ぐすぎる意見を出す。それじゃあこの商売は立ち行かない。人間とはもっと複雑な思考を持つものだ」
「その為には、少しの悪行をも許すと言うのですか?」
「彼の場合は、根っこが善人だからね。あいにくと所属が敵対者なだけで。ね、少年?」
「随分と私を買ってくれてる様だけど、私はただのお人好しだよ? 困ってる人を放っておかないんだ」
「人……だけじゃないでしょ、君の場合は?」
「うん、まぁ君たちが忌み嫌う闇の眷属にも救いの手を差し伸べてるね」
「懐の深さだけなら海よりも深いんだ、彼は。けどその中には僕たちの天敵も紛れている。それだけなんだ」
「そんなの! 許せるわけがありません!」
「どうどう、スプンタ。君の言い分も分かる。僕やゾロアスター教の定義では悪は罰する物だ。その為に正義の代行者である君や、やられ役のアンリが居るのだから」
「はい」
「でも彼の場合は少しばかり事情が違う。悪は倒して終わりじゃないんだ。何故悪事を働いたかまで事情を詳しく聞き、その不安を拭い去るまでお節介を焼く。それは君には出来ないことだ」
「はい……悔しいですがその通りです。悪は罰して、それで終わりです。その先は考えてません」
「でも人間はね、誰だって根っから悪人ではないんだよ。何故その様な行為に至ったか。それを考え、読み解くのが我々探偵業だ。実力行使も民衆には広義的に受け取られてはいる。実力主義な現実だからね。でもそれだけじゃ解決しない案件もあるんだ」
「その為にその男が必要なんですね?」
「そうだ。勿論君の淹れてくれる紅茶は僕の脳みそを程よく活性化させてくれる。僕に無くてはない人材だとも」
「はい。その言葉を聞けただけでも嬉しいです」
スプンタ君はまだ納得いってない顔だが、もう一つのテーブルでは決着がついた様だ。
お腹を張らしたスズキさんとアンラ君が、やりますねとアイコンタクトを取りながら名勝負を繰り広げていた。
積み重ねた皿の数、グラスの多さが飲み食いした多さを物語る。
どちらにせよ支払い担当の彼には至急稼ぎを確保する必要があった。今までなら自分たちでも平気であったが、食費がこうも嵩むのであれば背に腹は変えられない。
探偵さんはそんな顔で私へと話を振ってくれたのだ。
私はといえば、ここにマップ作成をしに来ている都合上、渡に船。表立って行動する立場を得られるのだ。断る理由はない。
早速今日の分の稼ぎを取り戻そうと、浮気調査やら飼い猫の捜索などに奔走して日が暮れた。
勿論、それだけではないけど。
何やらじっと寝巻き姿の私を食い入るスプンタ君が、少し照れながらこんな言葉を言う。
「まだ貴方の事は信用できてませんが……マスターが必要としているのであれば仕方がありませんでもくれぐれも勘違いなさらない様!」
バタン、と扉が力強く絞められた。
どこまでも力強い彼女らしい。
ベッドへと寝転がる。
ベッドはバネが効いていて寝藁よりも格段に寝やすい。
久しぶりに人の生活に紛れてみたが、どこか落ち着かなく思ってしまうのは私が異種族圏内での暮らしが長すぎた故か?
どこか落ち着きのない仕草で、いっしょのベッドで横になるスズキさんに笑われる。
「どうしたんですか、ハヤテさん。そわそわして。ベッドじゃ眠れませんか?」
「いや、そんな事はないよ? 私には少し高級すぎると思ってね。寝藁が恋しく感じていた」
「なんだかんだで、寝心地よかったですもんね、馬小屋」
「この身が人からかけ離れているからかな? 人の姿を保っていても拭えぬ違和感がつきまとう」
「でも、こうやってくっつけば、問題ないのでは?」
スズキさんが掌を私の背にくっつけた。
掌を通じて海の波動が広がってくる。
それがまた心地よくて、そう言えば海の気配から随分と遠いところに来てしまったなと思い至った。
「ふふ、当たりですね。僕もよくそんな気持ちになってました」
いつの頃の話だろうか?
彼女が一人でクトゥルフさんの目覚めを待つ時の話か?
それとも、もっと前か?
普段おちゃらけてる彼女が見せるしんみりとした空気。
ゲームの中とは言え、こうも気持ちが込み上がるものなのか?
「でもそんな時、ハヤテさんが僕に寄り添ってくれたんです。深海に誘った時、黄金神殿の成れの果ての風景を見ていたいと誘った時も、貴方は僕の提案を受け入れてくれた。その時の光景を思い出すたび、遠い記憶が思い出されるんです。あの人が、クトゥルフ様がどこかで貴方と重なって……って何をいってるんでしょうか、僕は」
「いや、多分そうなんでしょうね。私の中に芽生えた感情は、初めから私とは違う意識を持っていた。それがクトゥルフさんの自我なのかは知りませんが、スズキさんを放って置けない気持ちにさせてくれる。それがきっかけでした」
背中を向け合っていた状態から、顔を突き合わせる。
彼女の顔が恐ろしいほど近くて、その瞳に吸い込まれる様に見惚れた。私の中のクトゥルフさんが反応しているのかも知れない。
やがて目を瞑り、覚悟を決めた様な顔をして見せるが。
「あいて! もー、ここは少しムーディな流れが来ても良いところじゃないですかー」
軽くデコピンを放ってやると、顔を真っ赤にした彼女が悔しそうに抗議してきた。
残念ながら私は妻一筋でね。ゲームの中であろうとそれは変わらないよ。
そう言うのは私を通さず本人同士でやりなさい。
『クトゥルフ様はわかってくれないんですもん! ハヤテさんならって思ったのにー』
だからって人の体を使ってやったって意味ないでしょ?
クトゥルフさんはそれでもスズキさんを大切に思ってくれてるよ。私はそう思うんだけど。
『確かに大切にはされてますけど、もう少しボディタッチがあっても良いと思うんです!』
『君との体格差でやられるとひき肉にされるでしょ? どこを気にかけてるんじゃないの?』
『それでも触れ合いたいんですよー。ぶー』
なんだかんだと大切にされているんじゃないの。
夫婦の営みなんて他人を参考にしたって良い事ないからね。
◇
そんなこんなで一週間。
この世界に来て3週間目の事である。
私はすっかり探偵の助手としての顔が広まっていた。
そして鳴り響くアナウンスが意識をより覚醒させる。
<ワールドアナウンス:魔導書陣営が神格を召喚しました>
<聖典陣営が拠点を確保いたしました>
<魔導書陣営が他勢力の神格と協力関係を結びました>
同時に三つも鳴り響き、私に向けられた疑いの目が少しだけ緩和する。
他勢力の神格というのは我々魔導書陣営とは違うもう一柱の神格という事だろう。
何処で? 誰が?
ウィルバー君がやってくれたか?
それとも他の魔導書陣営がしでかしたか?
わからないことばかりだが、お互いにそうだ。
「少年、君。魔導書陣営の掲示板のネタを提供してくれたりなんかは?」
「流石にそれは仁義に反しますよ。彼らにも彼らの正義がある。探偵さんからしたら懲らしめる悪であろうとも。あと友達は売れません」
「そう言うと思ったよ。けど残り一週、僕たちにはこの世界に滞在する時間がない。動くなら今をおいて他はないと見るが?」
「そうですね。ですが私が君の元を離れる理由にはならないでしょ。それとも私を遠ざけたい理由でも?」
探偵さんはかぶりを振る。
私だからこそ促したのだ。やることがあるなら離れてもいいと、要はカマ掛けである。
しかしここで袂を別てば、探偵さんがフリーになる。
私はそれが怖くて仕方がないのだ。
彼は正義の代行者であるけれど、その反面非常にクレーバーな判断力を持つ。
それこそスプンタ君が尊敬の念を抱く光の信徒なのだ。
その本領を発揮させたら多分一番被害を受けるのが私の眷属達だろう。そんな事はさせられないな。
「あくまでシラを切り続けるか、少年。ダン・ウィッチ村、実は相当真っ黒だよね?」
「何故そう思うんです?」
「消去法さ。僕たちが執行してきた正義の裏側で、普通なら悪事は消えてなくならない。だと言うのにこの街はどんどんと悪が消えていっている。まるで誰かが手引きしているみたいに忽然と姿を消しているんだ。それ、君の仕業でしょ?」
「ハッハッハ、何を言いたいのかさっぱりわからないな。確かに悪事を働いた者でも更生の道はある。生きている限り失敗は誰にでも付き纏うものさ。私はその手助けをしているだけだよ」
「語るに落ちたね、少年。どうやら僕たちはここまでの様だ」
「話を急ぎすぎですよ探偵さん。何故私が悪いと決めつけるんです?」
どうやら彼の正義センサーは私を悪と断定してしまった様だ。
決めつけられてかかられたら、少し分が悪い。
「マスター、やはりこの男は?」
「その様だ、スプンタ。友情を利用されてここまできてしまった」
「おのれ、非道め!」
探偵さんの前に、スプンタ君が立ちはだかる。
あーあ、もっと穏便に過ごしていたかったのにね。
でもどうして、急に……
いや、彼はシステムを見ていた。
そして掲示板の話を振ってきた。
まず間違いなくシェリルからに伝言だな。
私と共に行動していることを知ってた彼女が指示出しをする。
それくらい見抜けない私が愚かなのだ。
どちらにせよ、友情はここに瓦解した。
陣営分けなんてするもんじゃないよ、本当。
「まったく。知ってて引き入れた君も悪いでしょ? 全部私が悪いみたいに言ってさ」
お互いに一歩ずつ後退するそしてある程度離れると腰に巻いたベルトが輝き出した。
「性分なんだ。君も知っているだろう?」
「勿論。いずれこうなると知っていた。ならない様に配慮していたけれど」
「生憎と、僕は疑い深くてね。君が今になって近づいてきた理由をずっと探してた。その理由が、見つかった。ただ、それだけさ」
お互いに探りあっていた訳だ。
もはや言葉は通じず、ここからは拳で語り合うのみ。
変身の様相。
互いに信念をぶつけ合うバトルが、今ここで始まろうとしていた。
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